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先端生物医学研究・医療のための遺伝子導入テクノロジー
ウイルスを用いない遺伝子導入法の
材料,技術,方法論の新たな展開
編集: 田畑泰彦京都大学再生医科学研究所生体材料学分野教授

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要 旨
(第2章、第3章)

第2章 遺伝子導入のためのDDS技術,方法論
1. 徐放化 ((櫛引俊宏・田畑泰彦)

現在,遺伝子治療に関する研究が世界各国で盛んに行われている。その研究の1つとして,遺伝子を生体内で安全に効率よく発現させる研究がある。ウイルスを遺伝子キャリアとして用いた場合には,免疫原性など予期せぬ副作用が現れることがある。そこで,遺伝子治療を有効な治療手段として確立するためには,非ウイルス性の遺伝子キャリアを用いたdrug delivery system(DDS)の概念を遺伝子治療に適応する研究が必要である。現在のところ,非ウイルス性の遺伝子キャリアを用いた場合,プラスミドDNAなどの導入による遺伝子発現は一過的なものしか得られていない。そこで,生体へ投与しても安全性に優れている製剤基材から遺伝子を徐々に放出することにより作用の持続化を試みるDDS技術の開発が行われている。
一方,これまでにポリ乳酸などの生体吸収性高分子を利用した薬物の徐放化技術が多く報告されているが,研究報告数に比べると臨床で使用されている薬物徐放性製剤は少ないのが現状である。この原因として,薬物と製剤基材が本来有する物理化学的性質,あるいは基材の分解メカニズムや分解速度と薬物の徐放性の関係について詳細な研究が行われていないことが挙げられる。本稿では,遺伝子発現期間を持続させるための徐放化技術だけでなく,著者らがこれまでに得られた実験結果,徐放性製剤と遺伝子との物理化学的相互作用や徐放メカニズムについて概説する。
2.

生分解性ゼラチンを用いた遺伝子・ペプチドの徐放化 (宮原義典・永谷憲歳)

われわれの施設では,重症心血管疾患の新たな治療法を開発するために,細胞移植および遺伝子治療の研究を進めている。特に,肺高血圧症に対しては,アドレノメデュリン遺伝子を封入したゼラチンを血管内皮前駆細胞に貪食させてin vitro 遺伝子導入を行う細胞-遺伝子ハイブリッド治療を考案した。これによりウイルスを用いずに高効率の遺伝子導入が可能となる。また,ゼラチンを用いた下肢虚血モデルへの in vivo アドレノメデュリン遺伝子導入,および虚血心筋内での1型インスリン様増殖因子(IGF-1)の徐放化も高い治療効果を認めた。生分解性ゼラチンを介した遺伝子導入およびペプチドの徐放化は安全性が高く,今後臨床応用が期待される治療法である。

3. 持続的遺伝子発現のためのアプローチ (西川元也・高倉喜信)

持続的な遺伝子発現は実現困難ではあるが,遺伝子治療には重要な課題である。プラスミドDNAのヌクレアーゼに対する安定性が低いこと,プロモーター活性が速やかに減弱することが発現期間を短くする原因と考えられる。本稿では,その改善の試みとして検討されているカチオン性キャリアとの複合体化,ハイドロダイナミクス法によるヌクレアーゼ活性の低い細胞質への急速デリバリー,製剤学的工夫によるコントロールドリリース,プロモーターの選択,さらには遺伝子発現を低下させる原因となる炎症性サイトカイン産生の抑制を目的としたプラスミドDNAのCpG配列の削減を取り上げ,概説する。
4.

高分子によるターゲティング (山本雅哉・田畑泰彦)

一般に薬物のターゲティングは,passive targeting(受動的に標的疾患部位に送達)とactive targeting(能動的に標的疾患部位に送達)の2つに大別することができる。こうしたターゲティング能を遺伝子キャリアへ付与するためには,①血液中の生体成分との非特異的相互作用の抑制,②遺伝子との複合体の大きさ(粒径)の制御,③適切なリガンド分子(葉酸,細胞接着ペプチド,糖鎖,トランスフェリン,細胞増殖因子,ならびに抗体など)を組み込むことで標的指向性を付与することなどが必要である。

5. リポソームによるターゲティング (清水広介・奥 直人)

遺伝子治療が広く実用化されるためには,標的細胞に遺伝子や核酸医薬を特異的に送達し,効率的に遺伝子発現をコントロールすることが重要となる。リポソームは最も代表的な非ウイルスベクターであり,簡便性,安全性,コスト面などから臨床応用が期待されている。リポソームは,ドラッグデリバリーシステム(DDS)に有効なターゲティングキャリアであることは実証されており,これまでの知見を基にリポソームの特性を活かすことにより,標的臓器への遺伝子送達が期待される。本稿では,リポソームを用いた標的化遺伝子導入の試みについて紹介する。
6. リバーストランスフェクション (三宅正人・吉川智啓)

リバーストランスフェクション法の応用範囲は遺伝子治療用デバイスや広範な遺伝子機能解析の実現へと広がってきた。リバーストランスフェクションの効率を改善するための固相表面の制御,細胞外マトリクスを用いたトランスフェクションの促進剤,新しい遺伝子デリバリー材料などの研究が世界で進められている。また,リバーストランスフェクション用マイクロアレイは付着細胞から浮遊系細胞まで応用範囲が広がりつつある。その一方で,リバーストランスフェクションのメカニズムはあまり理解されていないことが,技術展開の課題である。
7. 遺伝子発現増強のための培養方法の工夫 - バイオリアクターの利用 - (城 潤一郎・岡崎有道・田畑泰彦)

遺伝子導入効率を上げる方法として,遺伝子を修飾する材料やドラッグデリバリーシステム(DDS)の開発,物理刺激の利用も大切であるが,細胞側の視点から遺伝子導入を考えてみるのも必要である。培養液の静置した状態で培養する従来の静置培養法ではなく,培養液を流動させる培養方法,装置(バイオリアクター)が細胞の増殖,viabilityを向上させることがわかっている。本稿では,細胞と遺伝子との相互作用と細胞の培養条件とを考慮した,バイオリアクターを利用した新規の遺伝子導入法について述べる。
第3章 遺伝子導入のための物理刺激
1. エレクトロポレーション法 (猪阪善隆・今井圓裕・高原史郎)

エレクトロポレーション法は,細胞に一過性に強力なパルス電場をかけることにより,細胞周囲にある物質を細胞質に導入する方法である。近年,エレクトロポレーション法が in vivo 遺伝子導入に応用されるようになり,遺伝子導入効率が高く安全性にも優れていることから,遺伝子治療法としての臨床応用も期待されている。悪性腫瘍などを対象とした局所への遺伝子導入以外に,可溶性タンパク発現を目的とした筋肉への遺伝子導入,血流などを介した臓器全体への遺伝子導入,移植臓器に対する ex vivo 遺伝子導入など,ターゲットも幅広い。
2. 超音波を用いた遺伝子導入法の開発 (谷山義明・島村宗尚・冨田奈留也・荻原俊男・森下竜一)

ウイルスベクターを用いた遺伝子治療は臨床応用されており,その導入効率の高さから一定の治療効果が報告されているものの,死亡例や癌化例も報告されており,安全性の問題はいまだ解決されていない。一方,プラスミドDNAは,安全性は高いものの導入効率は低いのが難点であった。われわれは,このプラスミドの導入効率を改善する手法として,医療用に用いられる程度の出力の超音波と診断用のマイクロバブルを併用することにより,キャビテーション現象を増強して核酸を導入する技術を開発している。安全で導入効率のよいこの遺伝子導入法は臨床応用への可能性を秘めている。
3. レーザー光を用いた遺伝子導入 (佐藤俊一・寺川光洋・小原 實)

レーザー光を用いることにより,細胞傷害性が低く高度に選択的な遺伝子導入が実現可能である。従来,レーザー光を細胞ないし組織に直接照射する方法が主流であったが,最近著者らは,レーザー光をターゲット材に照射した際に誘起される応力波(レーザー誘起応力波)を用い,培養細胞およびラット皮膚,マウス脳への遺伝子導入に成功した。遺伝子の発現はレーザー照射部位のみに観測され,特に in vivo において高い導入効率が得られている。本稿では,これらレーザーを用いた各種遺伝子導入法の研究開発状況について紹介する。
4. 高水圧遺伝子導入法 (倭 英司・宮崎純一)

高水圧遺伝子導入法(hydrodynamics-based gene delivery)は肝臓に極めて効率よく遺伝子導入が可能であり,プラスミドを用いても十分な遺伝子発現量が得られる。そこで,未知遺伝子のコードするタンパクのハイスループットなスクリーニングや肝細胞自体に遺伝子を導入することによる疾患モデル作製や遺伝子治療モデルとしても広く用いられている。また近年,プラスミドのみならずRNAiなどの導入も報告され,さらに応用範囲が広がっている。大量のDNA溶液を急速静脈注射する必要があるため,大動物への応用は困難であると考えられてきたが,近年,血管を一過性にクランプすることによる遺伝子導入法も開発され,ヒトへの遺伝子治療法としても今後応用される可能性がある。
5. 温度による遺伝子発現効率の向上 (横山昌幸)

正荷電の脂質や高分子は,代表的な合成遺伝子キャリアである。この正荷電キャリアとDNAとのコンプレックス形成は多く研究されているが,遺伝子発現に不可欠なコンプレックスの解離についてはほとんど検討されていない。温度に応答して,その親疎水性を変化させる,ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド)を利用することで特定の温度刺激を与えた場合に遺伝子発現が増大するキャリアシステムが得られた。これは,温度刺激がコンプレックスを解離させる方向に働くことにより,転写効率を上昇させたものと考えられた。
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