第1章 メタボロミクスの基盤技術
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3.インフォマティクス |
1) |
MassBank - メタボロームマススペクトルデータベース -
(蓬莱尚幸・二瓶義人・尾嶌雄也・池田 奨・西岡孝明)
質量分析の高性能化によって,容易に分子バイオマーカー候補となる生体内物質が数多く見つかる。しかし,検出された大部分は物質同定ができないために候補から捨てられている。新規な分子バイオマーカーを見つける確率を高める1つの方法は,マススペクトルで検出された代謝物質をできるだけ数多く同定することである。……
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2) |
ガスクロマトグラフィ/質量分析(GC/MS)データからの代謝物迅速簡易同定法 (馬場健史・金谷重彦・福崎英一郎)
ガスクロマトグラフィ/質量分析(GC/MS)は,ライブラリーによるピーク同定が可能なことからメタボロミクスにおいて頻用される手法の1つである。しかし,共溶出が頻繁に起こり,また類縁体が存在するデータにおいて既存の解析ツールによる信頼性の高い代謝物同定は困難であり,実際にはマニュアルによる煩雑な作業が必要なのが現状である。そこで,われわれのグループでは,迅速簡便にGC/MSデータから代謝物同定法が可能なシステムの構築を目的として,代謝物の自動同定ソフトウエアの開発を試みた。……
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3) |
質量分析データを解析するための定量手法AB3DおよびMass++の開発 (青島 健・小田吉哉)
質量分析機器は,プロテオミクス,メタボロミクス研究分野において必要不可欠な技術として注目されつつあり,特に病態モデル細胞や動物モデル,臨床検体を用いたバイオマーカー探索は,病気の診断,薬剤に適した患者の選別,薬効判断および薬剤の標的探索などの研究に応用されている。しかし,質量分析を用いた定量解析では,特にラベルフリーといわれる簡便な方法は再現性やソフトウエアの使いやすさなどの面でまだ課題が多く存在し,信頼できる解析手法は少ない。われわれは,これらの問題を克服するために……
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4) |
人工知能によるCE-MSにおける未知代謝物質の同定法
(杉本昌弘・平山明由・曽我朋義・冨田 勝)
質量分析装置を中心とした測定技術の進展により高速に大量のデータ収集が可能となってきたが,取得したデータを最大限活用してメタボローム研究に役立てるためには,莫大なデータを効率的に処理するデータ解析技術も欠かせない。著者らは,イオン性代謝物の一斉測定を可能とするキャピラリー電気泳動・質量分析装置(CE-MS
: capillary electrophoresis-mass spectrometry)のデータ解析方法を研究・開発してきた。……
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5) |
新しい化合物IDに基づくLipidBank (有田正規)
大腸菌や酵母のようなモデル微生物では,すべての代謝が正確に理解できていると誤解されている場合が多い。しかし,脂質は糖鎖と並んで解析が難しい代謝カテゴリーである。その生合成過程や役割にも未知の部分が多い。……
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6) |
脂質同定アプリケーションLipid Searchとその活用法 (横井靖人・田口 良)
近年の質量分析技術の発展により脂質の豊富な実験データが得られるようになり,これに伴い生体内脂質の網羅的解析(リピドミクス)が注目を浴びるようになってきた。一方,生体内分子の網羅的解析,いわゆるオミクスではその大量のデータを効率的に処理する手法として,バイオインフォマティクスが必須の技術となってきている。……
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7) |
NMRメタボロミクス解析ソフトウエア (近山英輔・赤木謙一・菊池 淳)
NMRメタボロミクスでは,GC/LC/CE-MSによるそれと比べ均一な代謝物プロファイル,再現性,サンプル調整の容易性,非侵襲性などの利点がある。現在までに様々なNMRメタボロミクス解析ソフトウエアとデータベースが整備されてきており,このような解析ソフトウエアを用いて実際の医学生理学上の問題解決への適用例が今後ますます増えてゆくだろう。……
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4.局所解析 |
1) |
メタボロームの分布可視化法について
(中村 貴・早坂孝宏・井上菜穂子・仁科博史・瀬藤光利)
メタボロミクスの急速な進展により,多くの生体分子が細胞レベル・細胞内小器官レベルで局在化していることが明らかとなってきた。このような生体分子の局在を知るための包括的解析手段として,近年提唱された次世代型質量分析法である質量顕微鏡法が注目を浴びている。……
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2) |
質量分析計を用いた脂質の組織局在解析 (中西広樹・田口 良)
様々な疾患の生理機能を解明するには,よりその病態局在で起こっている分子の変動をいかに捉えるかということが重要になる。本稿では,質量分析計を基盤としたイメージングマススペクトロメトリーとレーザーマイクロダイセクションを用いた組織内の脂質局在解析方法について,その特徴と測定手順ならびに適用例について紹介したい。
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3) |
脳微小領域におけるスフィンゴ糖脂質の局在解析 (池田和貴・田口 良)
スフィンゴ糖脂質は脳神経系において豊富に含まれており,機能維持に不可欠である。これらは親水性の糖鎖部と疎水性のセラミド部から構成されるために両親媒性をもち,糖鎖部とセラミド部はそれぞれ構造多様性に富んでいる。このため,分子種レベルで定量的に一斉分析する有効な手法の報告が少なかった。そこで筆者らは,……
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4) |
1細胞ダイレクトMS法によるメタボロミクス (水野 初・津山尚宏・升島 努)
もし生体のメカニズムを担う単位である細胞の動きとその分子変化をリアルタイムに追跡することができれば,生命現象の詳細な解明のほか,その解析スピードの飛躍的な向上が期待できる。本研究では,生きている細胞1つを顕微鏡観察しながら細胞内分子の質量分析ができる1細胞ダイレクトMS法を用いて,……
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5.システム生物学への展開 |
1) |
マルチオミクス(multi-omics)解析で見えてきた大腸菌の遺伝・環境変化に対する応答機構 (中東憲治・冨田 勝)
生体は内部や外部の環境因子の変化にかかわらず,生体の状態が一定に保たれるという性質を有している。このような恒常性を保つシステムはどのようにして構築されているのであろうか。われわれは大腸菌K-12株を用い,炭素源の濃度変化による外的変化と,中心炭素代謝系の1遺伝子欠損による内的変化に際して,細胞内に存在する各種物質がどのように変化するか,同時的・網羅的な測定を行って,この解明を試みた。……
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