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内容目次 |
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序文 (池谷 真・戸口田淳也) |
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●第1章 創薬に向けた新規遺伝子改変動物 |
1. |
ヒト化肝臓をもつキメラマウスを用いた創薬研究
(石田雄二・立野知世・吉里勝利)
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われわれは,70%以上をヒト肝細胞によって置換された肝臓をもつキメラマウスを作製しており,「PXB マウス®」 として創薬応用研究に提供している。PXB マウスの肝臓は,大多数を占めるヒト肝細胞と少数のマウス肝細胞,そしてマウス由来の非実質細胞で構成されているため,その機能や構造にはいくつかの特徴がある。その一方で,PXB マウス肝臓においてヒト肝細胞自体の性質はよく維持されているため,薬物代謝試験やB 型肝炎ウイルス(HBV),C 型肝炎ウイルス(HCV)の感染実験などに利用されている。
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2. |
ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)による重症免疫不全(SCID)ラットの作製と創薬応用研究への試み
(真下知士) |
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ラットは,ヒト疾患モデルとしての利用価値が高く,薬理薬効試験,毒性試験にも多用される。近年,ジンクフィンガーヌクレアーゼ(ZFN)と呼ばれる人工ヌクレアーゼにより,これまで遺伝子改変技術がなかったラットにおいて,遺伝子改変を行うことが可能となった。本稿では,① ZFN 技術を利用して開発した重症免疫不全(SCID)ラット,② SCID ラットにヒト細胞・組織などを移植したヒト化ラットについて紹介する。今後,人工ヌクレアーゼ技術により多数の疾患モデルラットが作製されるであろう。SCID ラットは,基礎・臨床医学研究,幹細胞移植研究,創薬研究などに有用なモデルになる。
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3. |
トランスジェニックマーモセットの開発とiPS細胞治療薬前臨床モデル確立への試み
(佐々木えりか) |
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トランスジェニックマウスは,医学生物学研究に不可欠なモデルとなっている。現在,ヒト化マウスなど,よりヒトに生理学的に近いマウスを作出する試みもなされているが,やはりマウスとヒトとの系統学的・生理学的相違は完全には埋められない。そこでよりヒトに近い霊長類の実験動物が使用されてきたが,近年やっと研究ツール・遺伝子改変技術など実験動物としての基盤が整備されつつある。本稿ではトランスジェニックマーモセットの作出と今後の展開について述べる。
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●第2章 各種病態モデルと創薬研究
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1) |
ES細胞からの機能的な脳下垂体組織の形成:医学応用への展望
(須賀英隆) |
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下垂体の主要部分の1つである前葉は,腺性下垂体と呼ばれる中枢的な内分泌器官で,様々なホルモンを産生することで全身の内分泌システムをコントロールする。この 「ホルモンの管制塔」 ともいえる重要な器官の機能不全は,多岐にわたる全身性の障害を生み出す。最近,マウスES 細胞を立体的に培養することでマウス胎児での下垂体発生を試験管内で再現し,機能的なホルモン産生細胞に分化させることが可能になった。本稿では,こうした研究進展に加え,この技術の医学応用への課題を検討する。
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2) |
Demyelinationラット:脱髄の最新疾患モデル
(庫本高志) |
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脱髄は原因不明の難治性疾患で,いったん完成したミエリンに障害が起こる。われわれは,新しい脱髄モデルとしてdemyelination(dmy)ラットを開発した。このラットの解析を通して,脱髄の新たな発症要因−中枢のミトコンドリア機能不全−を見出した。今後,中枢の代謝系異常を標的にすることで,脱髄の新たな治療薬が開発されるかもしれない。
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3) |
脳虚血モデルマウスを用いた創薬応用研究
(秦 龍二・阪中雅広) |
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虚血性ペナンブラは 「脳虚血障害により,時間経過とともに細胞死(= 脳梗塞)に陥る領域」 とされ,薬物治療のターゲットとなる重要な領域と考えられている。われわれは脳虚血モデルマウスを用いて,脳虚血に関与する様々な因子を機能画像として視覚化し,虚血性ペナンブラの画像化に成功した。さらにこの手法を用いて,抗アポトーシス分子Bcl-2 が虚血性ペナンブラでの神経細胞死を強力に抑制していることを明らかとした。そしてBcl-2 ファミリーの活性化薬の開発を試み,薬用人蔘の主成分の1つとして知られているginsenoside Rb1 を発見し,新規の脳血管障害治療薬として米国特許を取得した。
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4) |
神経変性疾患におけるiPS細胞研究の現状と展望 - アルツハイマー病iPS細胞の樹立と解析
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(伊東大介) |
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2006年,Takahashi らにより発表された体細胞の初期化法は,数個の遺伝子導入により多分化能を有する人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem(iPS)細胞)を作製することを可能にした。この技術を利用して疾患特異的iPS 細胞を作製し,病態解明,薬剤スクリーニングなどに利用する試みが始まっている。本稿では,高齢発症である神経変性疾患におけるiPS 細胞研究の現状を概説し,われわれが作製した家族性アルツハイマー病iPS 細胞を中心に病態解明,創薬への可能性について論じる。
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5) |
球脊髄性筋萎縮症(SBMA)モデルマウスを用いた抗アンドロゲン療法の開発
(勝野雅央・坂野晴彦・鈴木啓介・足立弘明・田中章景・祖父江 元) |
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球脊髄性筋萎縮症(SBMA)はアンドロゲン受容体(AR)のCAG 繰り返し配列の異常延長を原因とする成人発症の運動ニューロン疾患であり,進行性の筋萎縮・筋力低下を呈する。ヒト変異AR を発現するモデルマウスにおいて,リュープロレリンによるテストステロン分泌抑制によりニューロン核内への変異AR タンパク質の集積が抑制され,運動障害が改善することが示されており,臨床試験が進められている。一方,モデルマウスなどを用いた検討により,熱ショックタンパク質,ユビキチン - プロテアソーム系およびオートファジーの活性化もSBMA の病態を抑止する可能性が示されている。
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6) |
パーキンソン病治療に向けた多能性幹細胞由来ドパミン神経細胞移植による前臨床研究
(元野 誠・高橋 淳) |
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パーキンソン病に対する細胞移植治療法は胎児中脳細胞の移植治療で一定の有効性が確認されている。一方で,中絶胎児を使用することの倫理面や安定した移植細胞の供給源とはなっていないなどの問題点もある。これらの問題点を克服すると期待されているのが多能性幹細胞である。多能性幹細胞は自己増殖するため,移植細胞の安定した供給源になり,さらにあらゆる細胞へと分化誘導が可能である。また,iPS 細胞の樹立により,ES 細胞の移植研究で問題になっていた免疫・炎症反応の制御などの課題も克服することができると期待されている。
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7) |
iPS細胞作製技術を利用した神経疾患病因機構の解明と創薬開発への取り組み
(八幡直樹・井上治久) |
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初期化遺伝子を体細胞に導入することにより,胚性幹細胞(embryonic stem cells:ES 細胞)に匹敵する多分化能を有する細胞,人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells:iPS 細胞)が誕生した。これまで生体から入手が困難であった疾患の標的細胞をiPS 細胞から作製することが可能になり,神経疾患研究においても,病態解明,創薬開発が進展すると期待されている。本稿ではiPS 細胞を利用した神経疾患の病態解明および創薬開発へ向けた取り組みの現状について述べる。
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1) |
ゼブラフィッシュを用いた視細胞死の分子メカニズムの解明および創薬応用研究
(辻川元一) |
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ゼブラフィッシュは体長5cmほどの淡水熱帯魚で,世代期間が短く多産であり,遺伝学的に優れた特徴をもつ。また体外発生で胚が透明であることから,発生の過程が観察しやすく,胚操作も容易である。ゼブラフィッシュはまずENU を使用し,塩基変異をランダムに起こさせ,変異体のコレクションを作製し,その中で興味ある表現型の遺伝子変異を同定するといった順遺伝学的手法で研究が発達した。近年ではさらに,トランスポゾンを利用した的手法や小さい個体の特徴を生かした小化合物スクリーニングも行われている。
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2) |
高眼圧モデルマウスを用いた緑内障研究と創薬応用
(相原 一) |
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緑内障の研究は,その房水動態,眼圧,眼球構造の特殊性から起きる視神経障害の点で動物実験が必須である。マウスは小動物であるため緑内障モデルへの応用が遅れていたが,この10年,眼圧測定,解剖学的類似性,視神経網膜の評価法が報告され,眼圧下降効果および神経障害を評価することが可能となった。すでに高眼圧緑内障モデルマウスの作製と遺伝子改変マウスへ応用する研究が行われており,眼圧下降治療薬のみならず神経保護薬の開発に重要なツールとなってきている。
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3) |
多能性幹細胞を用いた網膜疾患の細胞移植治療
(万代道子・高橋政代) |
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iPS 細胞,ES 細胞から,網膜の神経細胞や色素上皮細胞を分化培養することができる。色素上皮移植は生体内の色素上皮とほぼ遜色ない機能をもつと考えられ,加齢黄斑変性に対する治療の1つとして,また視細胞移植は網膜色素変性のような変性疾患の治療の1つとして,研究が進んでいる。特に色素上皮細胞の移植治療については,現在すでに臨床試験に向けて準備試験が始まろうとしている。視細胞も,立体分化培養の新たな手法が先日報告され,臨床応用に向けて大きく前進した。視細胞移植については現在,病態,病気と生着効率について研究が進行中である。
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4) |
ヒト難聴のモデルマウスから見出されたアクチン構造様式制御と創薬研究
(北尻真一郎) |
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感音難聴には根本的な治療法が確立されていない。難聴患者の内耳を生検するわけにはいかないため,組織学的な病理所見を蓄積できず,ヒト内耳でのタンパク質やmRNA 解析も非現実的である。筆者らはヒト難聴者のゲノムDNA を解析し,そのモデルマウスを作製している。それらのうちTRIOBP 分子は,音により振動する不動毛の根を形成していた。TRIOBP 欠損により不動毛の根は形成されなくなり,その根なし不動毛は音振動で変性してしまう。音による振動ストレスは内耳機能にとって本質的なものであり,これへの耐性を与える創薬は難聴に広く応用できうる。
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1) |
多能性幹細胞を用いた心臓疾患治療薬の開発
(山下 潤) |
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ES 細胞やiPS 細胞などの多能性幹細胞を用いた創薬研究には大きく,新規薬剤の探索と薬剤安全性試験への応用の2つが考えられる。新規薬剤の探索に関しては,① ES 細胞やiPS 細胞を用いて広く心筋分化再生をめざす薬剤の開発と,② 疾患特異的iPS 細胞を用いた個々の疾患を標的とした治療薬の開発の2通りの応用がある。細胞分化システムの向上とiPS 細胞の誕生といった幹細胞生物学の進展と生物活性指向型薬剤探索の再認識によって,幹細胞と創薬の関係は新しい時代に入ってきた。心臓疾患領域におけるこれらの研究の可能性を概説する。
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2) |
iPS細胞を用いた遺伝性心疾患の分子病態の解明と創薬研究
(吉田善紀) |
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ヒトや体細胞にリプログラミング因子を導入することにより多能性幹細胞(iPS 細胞)を誘導することが可能になり,疾患をもつ患者由来のiPS 細胞から心筋細胞を作製することにより,患者自身と同じ遺伝子をもつ心筋細胞を用いてin vitro の解析をすることができるようになった。これまでにQT 延長症候群,カテコールアミン誘発性多形性心室頻拍,LEOPARD 症候群において疾患iPS 細胞によるin vitro 病態再現の成功が報告されている。今後さらに遺伝性心疾患においてiPS 細胞を用いた疾患メカニズム解析や創薬研究が進むと期待される。
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3) |
iPS細胞を用いた腎疾患治療薬の開発研究
(長船健二) |
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医学的かつ医療経済的な問題となっている慢性腎臓病の解決策の1 つとして,iPS 細胞(人工多能性幹細胞)を用いた腎再生医療と腎疾患治療薬の開発が期待されている。腎臓発生の知見に基づいたマウスES 細胞(胚性幹細胞)から腎細胞を分化誘導する多くの試みもすでになされている。今後,マウスES 細胞で蓄積された知見と腎発生機構のさらなる解明に基づくヒトiPS 細胞から成体腎構成細胞への高効率分化誘導法の開発により,細胞療法に加え,疾患モデル作製,薬剤探索,薬剤毒性評価系開発などの臨床応用研究の進展が期待される。
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4) |
NF-κB活性化を中心とした脳動脈瘤形成の分子機序の解明と創薬研究
(青木友浩・成宮 周) |
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脳動脈瘤は,頻度の高い疾患であり致死的疾患であるくも膜下出血の主要な原因である。しかし,今日有効な薬物治療法は存在しない。近年のモデル動物を使用した検討から,転写因子NF-κB を中心とした脳血管壁の慢性炎症反応が脳動脈瘤形成の基盤であることが示唆された。この研究結果をもとに,抗NF-κB 作用を有するスタチン製剤の脳動脈瘤抑制作用につき検討を行い,モデル動物においてはスタチン製剤が脳動脈瘤増大抑制効果を有することを確認した。今後,スタチン製剤をはじめとした薬剤が脳動脈治療薬となることを期待したい。
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1) |
アルファアレスチンファミリー欠損マウスの解析から判明したエネルギー代謝調節機構と肥満・糖尿病の新たな治療法開発
(増谷 弘) |
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チオレドキシン結合タンパク質2(thioredoxin binding protein-2:TBP-2)/ Txnip は,アルファアレスチンファミリーに属し,多彩な機能をもつ。ノックアウトマウスを用いた解析により,TBP-2 はインスリン分泌,インスリン感受性,膵臓β細胞のアポトーシスを制御し,その欠損により糖尿病モデルマウスの高血糖が改善することを示した。TBP-2 などのアルファアレスチンファミリーの分子は,エネルギー代謝調節にとって重要であり,肥満や2型糖尿病に対する創薬にとって重要なターゲットであると考えられる。
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2) |
iPS細胞を用いた糖尿病に対する再生医療開発に向けた取り組み
(長船健二) |
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糖尿病に対する再生医療を実現するために,患者自身の体細胞から樹立可能な幹細胞であるiPS 細胞(人工多能性幹細胞)を移植療法に使用するβ細胞や膵島組織へ分化誘導する研究が盛んに行われている。そして,生体内のβ細胞と全く同等の生理機能は獲得できていないが,ヒトiPS 細胞からインスリン産生細胞は作製可能となっている。今後の臨床応用に向けて,分化誘導効率をさらに高める方法とグルコース応答能をはじめとして生体内のものと同等の生理機能を有するβ細胞に成熟させる方法の確立,そして具体的な移植法の開発が必要とされる。
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3) |
レドックス異常を回復する化合物
レドックスモジュレーターの探索 : Redoxfluorの創薬への利用
(阪井康能・寳関 淳・奥 公秀) |
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生理的レドックス状態を可視化するタンパク質プローブRedoxfluor により,重篤な遺伝病のモデル細胞であるペルオキシソーム形成不全Chinese hamster ovary(CHO)細胞では細胞質が正常細胞より還元状態になっていることが明らかとなった。疾患モデル細胞が示す異常なレドックス状態を正常に回復する新しいタイプ薬剤“レドックスモジュレーター”の概念と,Redoxfluor を用いた探索の方法論について概説する。
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1) |
グルココルチコイド筋萎縮モデルラットを用いたグルココルチコイド副作用の克服に向けた取り組み
(清水宣明・田中廣壽) |
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グルココルチコイド(GC)療法に合併する多様な副作用の克服には,GC 応答遺伝子群の標的組織特異的な発現調節の理解が必須である。本稿では,骨格筋における副作用であるGC筋萎縮の分子基盤の解明に基づく副作用予防・治療法開発について,著者らの成績を中心に概説する。骨格筋におけるGC 応答は,生理的な骨格筋量調節とエネルギー恒常性との連携,糖尿病などのエネルギー代謝疾患に合併する筋萎縮などと密接な関係をもつ。したがって本研究成果は,生理学・代謝学・臨床医学などに学際的な新展開をもたらす可能性がある。
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2) |
筋ジストロフィー犬とエクソンスキップ治療の最前線
(青木吉嗣・武田伸一) |
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筋ジストロフィーのうち,最も患者数が多く難治性のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は進行性筋疾患であり,DMD 遺伝子の変異が原因の単一遺伝子病である。いまだ筋変性・壊死を阻止する原因遺伝子産物の発現を企図した原因療法は開発されていない。DMDの病態研究や治療法の開発研究においては,DMD のモデル動物を用いた研究が極めて重要である。本稿では,Dmd 遺伝子のアウトオブフレーム変異を有する筋ジストロフィー犬(GRMD および CXMDJ )および mdx52 マウスの開発と,最近進歩の著しいエクソンスキップの非臨床研究の成果について述べる。
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3) |
縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチーに対するシアル酸補充療法
(米川貴博・野口 悟) |
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縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー(DMRV)は,シアル酸生合成経路の律速酵素をコードするGNE 遺伝子の変異によって発症する。有効な治療法が全くない。この疾患の分子病態は全く不明であったが,変異酵素および患者細胞での解析から,シアル酸の低下がこの疾患を引き起こすことが考えられた。そこで,われわれはモデルマウス(DMRV マウス)を開発して,シアル酸またはその前駆体の投与により発症予防に成功した。DMRV マウスの研究を通して,本症の発症にはシアル酸の低下が重要であることが科学的に証明され,根本的治療の実現に向けた可能性が示された。
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1) |
軟骨無形成症モデルマウスを用いたCNP投与療法の開発
(八十田明宏・中尾一和) |
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ナトリウム利尿ペプチドファミリーはこれまで循環器系における重要性が示されてきたが,最近,そのうちのC 型ナトリウム利尿ペプチド(CNP)が強力な骨伸長促進作用をもつことが明らかとなった。この作用を,骨伸長障害をきたす疾患に臨床応用するために,軟骨無形成症のモデルマウスを用いた前臨床研究が行われた。モデルマウスに対して,まずトランスジェニックアプローチによるCNP 過剰発現の有効性が確認され,さらに持続投与によるCNP の治療効果が確認された。これらの成果を受けて今後,軟骨無形成症をはじめとする骨系統疾患に対するCNP 療法の臨床応用が期待される。
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2) |
難治性骨軟骨疾患罹患者由来iPS細胞を用いた病態再現と治療薬開発の試み
(松本佳久・池谷 真・戸口田淳也) |
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近年,骨系統疾患の原因遺伝子が徐々に同定されてきているが,多くの疾患においてその分子病態は不明確であり,有効な治療法は確立されていない。われわれはこのような難治性の骨系統疾患の病態解明そして創薬をめざして,iPS 細胞を用いた研究を行っている。本稿では,現在研究を進めている疾患の1つである進行性骨化性線維異形成症(fibrodysplasia ossificans progressiva:FOP)に関して,罹患者からのiPS 細胞の樹立,in vitro 培養系での病態再現,そして創薬に向けたアプローチについて概説する。
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3) |
大腿骨頭壊死動物モデルを用いた細胞増殖因子治療の取り組みと臨床応用研究
(黒田 隆) |
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大腿骨頭壊死症(ONFH)は阻血性無腐性壊死により骨頭が圧潰する難病で,最終的に人工関節となる場合が多い。関節温存を目的とした骨頭圧潰前の早期治療が研究ターゲットであり,自家骨髄移植などの再生医療的アプローチが試みられている。生体吸収性ゼラチン水和ゲルを足場材料とした徐放性塩基性線維芽細胞増殖因子(FGF-2)をONFH 家兎モデルに単回注入すると壊死骨頭内での骨再生がみられ,骨頭圧潰やONFH 進行が抑制された。徐放性FGF-2注入療法がONFH の有用な早期治療法となる可能性がある。
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1) |
アトピー性皮膚炎に見出されたフィラグリン遺伝子の変異を有する flaky tailマウスを用いた新規アトピー性皮膚炎モデル - 創薬応用研究の可能性 -
(椛島健治) |
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近年,皮膚バリア機能を司るフィラグリンの遺伝子異常が一部のアトピー性皮膚炎患者に認められた。またフィラグリン異常によりフィラグリンタンパク量が低下すると,皮膚バリアの破壊のみならず,pH 上昇,プロテアーゼの活性化などに関与している可能性がある。バリア破壊とそれに伴う皮膚環境の変化は,アトピー性皮膚炎をより助長する方向に免疫学的に変調させる。flaky tail マウスはヒトと同様にフィラグリン遺伝子に変異を有し,アトピー性皮膚炎と同様の所見を呈する。本モデルは,今後アトピー性皮膚炎の創薬開発において有用なツールとなることが期待される。
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2) |
生体内骨髄間葉系幹/前駆細胞動員因子を利用した体内再生誘導医薬開発の展望
(玉井克人・金田安史) |
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間葉系幹細胞を利用した再生医療が進められている中で,生体内における骨髄間葉系幹細胞の役割については不明な点が多い。われわれは,組織損傷時に骨髄間葉系幹/前駆細胞が血流を介して損傷部位に集積し組織再生に寄与していること,損傷組織が血中に放出するHMGB1が骨髄内間葉系幹/前駆細胞を刺激して血中動員し損傷組織特異的集積を促進していることを見出した。これらの新たな知見を基にして,間葉系幹/前駆細胞を生体内で損傷部位に集積させて組織再生を促進する新たな体内再生誘導医薬の開発が可能になるかもしれない。
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3) |
AP-1B欠損マウスの解析から判明した炎症性腸疾患の新たなメカニズムと創薬応用研究
(長谷耕二・高橋大輔・大野博司) |
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腸管粘膜の最前線に位置する腸上皮細胞は,栄養素などの吸収だけでなく,外来異物に対するバリア機能をも担っているが,その詳しい仕組みについては不明であった。われわれは,AP-1B 複合体を介した膜タンパク質の極性輸送が腸上皮細胞のバリア機能の形成に必須な役割を果たしており,AP-1B 欠損による上皮バリア機能の低下は慢性大腸炎の発症原因となることを明らかにした。さらに,炎症性腸疾患の1つであるクローン病患者の腸上皮細胞ではAP-1B サブユニットの発現量が減少していることがわかった。今回の研究から,AP-1B 欠損マウスは,いまだ発症原因に不明な点の多いクローン病を理解するうえで,新たな研究モデルとして役立つことが期待される。
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1) |
血友病モデル犬を用いた創薬/臨床応用研究
(松井英人) |
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ヒトと同様の遺伝子変異が同定されている血友病犬は,前臨床試験における血液凝固因子製剤の薬理学的評価に加えて,ウイルスベクターなどを用いた遺伝子治療/細胞療法の研究分野でも有効な中型実験動物モデルとして利用されている。この血友病犬モデルは,ノックアウトマウスモデルでは不可能な頻回の血液サンプルの採取や5年以上にわたる長期間の観察も可能である。本稿では,われわれが独自に行っている血友病A
犬モデルを用いた研究内容を解説する。
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2) |
ヒト疾患化マウスを用いた白血病創薬応用研究
(加藤 格・平松英文・中畑龍俊) |
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ヒト化マウスは,高度な免疫不全状態のため,ヒトの正常造血・免疫系のみならず,ヒト患者由来の組織や腫瘍をもマウス体内に再現するモデルである。近年,白血病幹細胞と微小環境の研究はこうした高度な免疫不全マウスを利用して飛躍的に進んでいる。本稿ではヒト疾患化マウスを用いた白血病創薬応用研究について,われわれの成果を中心に概説する。
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3) |
臨床応用に向けたヒト多能性幹細胞由来血小板造血研究
(高山直也・瀬尾英哉・江藤浩之) |
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献血医療は多くの疾病の治療を支えており,その有用性については疑いがないが,先進国の多くで問題となっている少子高齢化,ウイルス感染者の増加により,将来的なドナーの安定確保に疑問が生じてきている。ヒト多能性幹細胞由来の血小板は生体内での血栓形成能を有しており,安定した産生系が確立されれば,上記の問題点への解決策を提示できる。また疾患iPS細胞を用いて,血液疾患の原因究明,創薬開発も期待できる。本稿では疾患研究・再生医療研究の両面において,ヒト多能性幹細胞を用いた血小板誘導系の有用性,再生医療実現化へ向けた課題について概説したい。
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1) |
胃がん発生の分子機序解明と創薬研究を目的としたマウスモデルの開発
(大島正伸) |
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がん遺伝子やがん抑制遺伝子の変異の蓄積が,がんの発生や悪性化進展の原因となる。一方で,感染に起因した慢性炎症などの生体反応により形成される微小環境は,がん細胞の増殖に重要に関与している。胃粘膜でWnt シグナル活性化とCOX-2/PGE2 経路依存的な炎症反応を同時に誘導させたGan マウスでは,胃がんが自然発生する。すなわち,Gan マウスはヒト胃がん発生過程と同様に,「上皮細胞の腫瘍化」と「生体反応の誘導」の相互作用により胃がんを発生するモデルであり,胃がん発生の分子機序解明や創薬を目的とした研究に有用なマウスモデルである。
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2) |
ホルモン療法耐性前立腺がんモデルマウスを用いた前立腺がんの増殖亢進の分子メカニズムの解明および創薬応用研究
(松本高広・加藤茂明) |
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前立腺がんの多くは男性ホルモン感受性がんであり,抗アンドロゲン剤などによる男性ホルモン遮断療法が有効である。しかしながら,こうしたホルモン療法は初期の段階では有効であるが,ほとんどの患者でアンドロゲン依存性の消失にやがて至る例が大多数を占める。われわれは,抗アンドロゲン剤耐性前立腺がんにおいて高頻度で見出されるAR 点変異(T877A)を前立腺のみに導入した遺伝子改変マウスを作出し,AR 点変異体が抗アンドロゲン剤や他種ステロイドホルモンへの応答能を獲得した結果,前立腺がんの増殖が促されることを実証した。また,この前立腺がんモデル動物を用いたスクリーニングにより,Wnt-5a ががん増悪因子としてのホルモン療法抵抗性前立腺がんへの進展に寄与している可能性が示唆された。
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3) |
前立腺がんおよび乳がんの骨浸潤モデル:
骨微小環境における腫瘍間質相互作用の分子メカニズムの解明と骨転移治療薬の開発への応用
(二口 充) |
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前立腺がんおよび乳がんの骨転移に対する治療標的分子を同定する目的で,われわれは骨微小環境において,腫瘍細胞と間質の破骨/ 骨芽細胞の相互作用を解析できる動物モデルを開発した。このモデルを用いて,プロテアーゼによりreceptor activator of NF-κB ligand(RANKL)が骨微小環境で切断され溶骨性変化を促進すること,また骨微小環境に放出されたTGFβ は骨微小環境における前立腺がん/ 乳がんの細胞増殖を促進することを明らかにした。さらに,骨転移治療薬としてのシード創出とPOC の獲得および薬効評価も可能であり,近い将来,難治性である骨転移巣に対する治療薬が開発されると確信している。
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4) |
がん幹細胞に着目した悪性脳腫瘍形成の分子機構解明 - よりよい創薬標的を求めて
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(北中千史) |
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グリオブラストーマはヒトの最難治がんの1つとして知られる脳腫瘍であるが,近年この悪性脳腫瘍にもがん幹細胞の存在が明らかになりつつあり,そのin vitroでの継代培養法が確立されてきた。このようなグリオブラストーマ幹細胞株はその由来する腫瘍の性質をよく保持していることから,幹細胞研究はもとより,グリオブラストーマ研究全般においてclinicallyrelevantなモデルとして重宝されるようになっている。今回われわれは,このような幹細胞株を用いてグリオブラストーマ幹細胞維持機構を解明し,グリオブラストーマ幹細胞を標的とする新たな創薬ターゲットを見出した。
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5) |
PICT1による核小体ストレス経路を介したp53と腫瘍進展制御 - 腫瘍予後マーカーや今後の創薬応用に向けて
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(河原康一・西尾美希・佐々木雅人・前濱朝彦・佐々木雄彦
古後龍之介・三森功士・森 正樹・鈴木 聡) |
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p53 は,DNA ストレス,発がんストレスのほかに核小体ストレスによっても活性化されることが近年わかってきた。核小体ストレス刺激後には,RPL11 などの一部のリボソームタンパク質が核小体から核質に局在変化し,核質にいるMDM2 と結合してその機能を抑制し,p53 が蓄積される。われわれは核小体にありRPL11 の局在を制御するPICT1 を見出し,この分子がp53 を制御し,がんの良い予後マーカーとなることを見出した。今後PICT1 の発現制御やPICT1 とRPL11 との結合様式の研究により,新規抗腫瘍薬が生まれることが期待される。
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●索引 |