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シリーズ:最新遺伝医学研究と遺伝カウンセリング
シリーズ2
最新精神・神経遺伝医学研究
遺伝カウンセリング

編集: 戸田達史 (神戸大学大学院医学研究科 神経内科学分野/分子脳科学分野 教授)

本書籍をご購入の場合は ……………… 1冊 6,804円 (税込)

要 旨

(第2章)

2章 精神・神経疾患の遺伝医学研究・診療各論
 1. 脳血管障害における遺伝医学研究の進歩と現況
  (宮脇 哲・斉藤延人)


近年の遺伝子解析技術の進歩により脳血管障害の分野においても様々な疾患の原因遺伝子や感受性遺伝子,疾患発症と関連する一塩基多型や染色体座などが明らかとなってきている。脳血管障害における遺伝的要因の探索の意義は,特定の分子カスケードをターゲットとした新規の治療法の開発に直接寄与するだけでなく,遺伝子診断の鑑別診断への貢献,適切なリスク評価や発症予測を可能性にし,さらには新たな診断基準や疾患概念の確立につながる可能性がある点にある。脳血管障害における遺伝医学研究の進歩と現況について概説する。
 2. アルツハイマー病
  (東海林幹夫)


家族性アルツハイマー病(AD)の原因遺伝子にはAPPPSEN1PSEN2 があり,危険因子としてApoE4遺伝子型が明らかにされている。APP では90家系32遺伝子変異,PSEN1では411家系185の遺伝子変異,PSEN2 では34家系13遺伝子変異ほどが報告され,PSEN1 の頻度が最も多い。表現型は早期発症ADの経過を示すが,発症年齢,罹病期間,症状は同一遺伝子変異例でも多彩である。家族性AD家系のバイオマーカーを用いた観察研究によって,ADの脳病理は発症20年前から徐々に進行することが明らかにされた。遺伝子解析やバイオマーカーの検査結果の開示などカウンセリング体制の整備が急がれている。
 3. パーキンソン病の遺伝子研究
  (大垣光太郎・西岡健弥・服部信孝


パーキンソン病の発症メカニズムはいまだ完全には解明されておらず,根治療法は開発されていない。家族性パーキンソン病で同定された遺伝子は孤発性パーキンソン病においても影響があり,病態解明に貢献することが示されている。近年のトピックとして,PINK1/parkin 遺伝子産物がミトコンドリアの品質管理を行い,さらにはミトコンドリアに局在するタンパクをコードするCHCHD2 遺伝子が新たに家族性パーキンソン病から同定され,ミトコンドリア研究に再び注目が集まっている。
 4. 多系統萎縮症
  (三井 純)


多系統萎縮症は,αシヌクレインを構成成分とするオリゴデンドログリア細胞質内封入体を疾患特異的な病理所見とする原因不明の神経変性疾患である。原則として孤発性の発症であるが,集団により臨床亜型(小脳性失調症状が主体の病型とパーキンソン症状が主体の病型)の頻度が異なる点,患者の血縁者にパーキンソン病の頻度が高い点などから,発症に遺伝因子が関与することが推測されていた。近年,家族性多系統萎縮症の原因遺伝子や疾患感受性遺伝子が新たに報告され,遺伝因子の一端が明らかになりつつある。本稿では,最近の遺伝学的研究の知見について概説する。
 5. 脊髄小脳変性症
  (石川欽也・吉田雅幸)


脊髄小脳変性症は,小脳とそれと連絡をとる神経系統の変性を来す疾患であり,遺伝性,非遺伝性の疾患の総称である。脊髄小脳変性症には多数の疾患が含まれており,また症状は類似しているが異なる脊髄小脳変性症以外の疾患もあるため,遺伝カウンセリングにおいては,正確な診断がなされていることがまず重要なステップである。次に脊髄小脳変性症の遺伝形式や疾患の経過などを十分考慮して,神経内科医,臨床遺伝専門医,看護師,遺伝カウンセラーなどと連携してのカウンセリングが提供されることが望ましい。
 6. 多発性硬化症
  (松下拓也)


多発性硬化症(MS)は,時間的・空間的に多発する中枢神経系の脱髄を特徴とする自己免疫性慢性炎症性疾患である。患者親族の相対的発症リスクは上昇しており,その傾向は一卵性双生児で最も高い。家系内の患者集積は主に遺伝的要因で説明され,その形式は多遺伝子性であると考えられている。発症の遺伝的要因としては古くからヒト白血球抗原(human leukocyte antigen:HLA)との関連が知られており,ヨーロッパ系人種ではリスクアレルとしてHLA-DRB115:01,疾患抵抗性アレルとしてHLA-A*02:01が確認されている。HLA以外の遺伝要因の探索のため大規模な全ゲノム関連解析(genome-wide association study:GWAS)が行われており,ヨーロッパ系人種においては100を超える多型との関連が確定している。これらの関連遺伝領域は機能的にはTリンパ球の活性化に関わっているものが多い。関連遺伝領域に含まれるいくつかの遺伝子については,関連多型がその発現に影響を及ぼすことが示されている。臨床的特徴と関連する遺伝領域はHLAを除き,まだ明らかになっていない。今後は関連遺伝領域から原因遺伝子がもたらす生物学的な影響を明らかにし,治療への応用が期待される。また臨床経過との遺伝的関連解析により,MSにおける神経障害の慢性的進行についての理解と,その対応への展開が望まれる。
 7. 筋萎縮性側索硬化症
  (青木正志)


筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は神経疾患の中で最も過酷な疾患とされ,有効な治療薬や治療法がほとんどないため,早期に病因の解明と有効な治療法の確立が求められている。ALS発症者の約5%は家族内で発症がみられ家族性ALSと呼ばれるが,1993年にその一部の原因遺伝子がCu/Zn superoxide dismutase(SOD1 )であることが報告された。その後,多くの原因遺伝子が報告されたが,わが国では家族性ALSの中ではSOD1 が最も頻度が高く,次いでfused in sarcoma/translated in liposarcoma(FUS /TLS )遺伝子がこれに続く。その一方で,欧米で多数報告されているC9ORF72 遺伝子による症例は少ないとされている。
 8. 末梢神経疾患
  (橋口昭大・髙嶋 博)

Charcot-Marie-Tooth病に代表される遺伝性末梢神経障害は,その原因遺伝子は70を超えており,臨床像も非常に多岐にわたっている。同じ遺伝子変異でも臨床像が異なることも少なくない。そのため,ある程度の臨床分類はできても臨床像から原因遺伝子を特定することは困難である。次世代シークエンサーの普及により遺伝子解析は格段に進歩した。遺伝子診断をすることは今後の遺伝性末梢神経障害の治療研究の基礎となるだろう。
 9. 筋疾患の遺伝医学研究
  (濵中耕平・西野一三)

遺伝性筋疾患を取り巻く状況は大きく変わりつつある。従来,遺伝性筋疾患に治療法はなく,診断の意義は必ずしも大きくなかった。昨今,遺伝性筋疾患に対する多くの治療法が考案されはじめた。そういった治療法の多くは,原因遺伝子特異的,時には原因遺伝子変異特異的なものである。それ故,遺伝子変異の同定が重要となりつつある。こういった遺伝子診断の重要性が増していることを踏まえ,最新の遺伝医学研究におけるトピックスを総覧したい。
10. ミトコンドリア病
  (後藤雄一)

ミトコンドリア病の特徴は多様性である。病因の多様性として,核DNA上には200近くの原因遺伝子が同定されているし,細胞内にマルチコピーで存在しているミトコンドリアDNAの量的・質的変化が病因になることが知られている。病態の多様性としては,元来ミトコンドリアのもつ機能であるエネルギー産生に加えて,活性酸素産生,オートファジー,母系遺伝などが関係している。これら病因・病態の複雑な関係が,「いかなる臓器症状」,「いかなる発症年齢」,「いかなる臨床経過」,そして「いかなる遺伝形式」という臨床の多様性として表現される。
11. てんかん
  (石井敦士・廣瀬伸一)

てんかんは,外傷・脳卒中・腫瘍や一部の代謝性疾患を除いては,遺伝子の異常による。頻度は人口の0.4〜0.9%と脳神経疾患の中で高い頻度の疾患である。てんかんの遺伝子研究は次世代シークエンサー(NGS)により革新的に進歩した。特に,病因遺伝子の同定が困難だった孤発発症のてんかんで著しい成果を生み出している。それでも,約30〜50%の同定率であり,依然多くの課題を抱えている。一方,NGSにより同定された遺伝子から,その分子病態がチャネル異常から神経細胞ネットワークの異常へと進展し,新たな研究戦略が試みられている。
12. 双極性障害の遺伝学
  (加藤忠史)

近年のシーケンス技術の進歩により,全ゲノムあるいはエクソーム解析がうつ病,双極性障害などの気分障害や,統合失調症などの精神病性障害にも応用されている。双極性障害における全ゲノム/エクソーム解析では,家系解析と症例対照研究が行われており,これまでの研究で示唆されてきたカルシウムシグナリングなどのパスウェイの役割が示されている。また,双極性障害を伴うメンデル遺伝病の稀な変異は,双極性障害の原因解明に有用な可能性がある。近い将来,双極性障害の遺伝的構造が明らかになると期待され,新技術による原因遺伝子変異の同定は,双極性障害の神経生物学的研究を促進すると期待される。
13. パニック症の遺伝研究
  (音羽健司・杉本美穂子・佐々木 司)

本稿ではパニック症(panic disorder:PD)の症状,これまでの遺伝研究について述べる。PDの家族研究,双生児研究からは遺伝要因が明らかにされている。分子遺伝学研究では,従来の候補遺伝子アプローチに代わり,全ゲノム関連解析(genome-wide association study:GWAS)が行われるようになり,そのメタ解析も実施されている。PDの発症には環境要因も重要である。遺伝子発現に影響を与えるエピジェネティクスは環境要因によって変化することが報告され,精神疾患との関連も注目されている。以上述べたような遺伝研究から得られた知見がPDの遺伝メカニズム解明の端緒となることを期待したい。
14. 統合失調症
  (橋本亮太)

統合失調症は,主に思春期・青年期に発症し,幻覚・妄想などの陽性症状,意欲低下・感情鈍麻などの陰性症状,認知機能障害などが認められ,多くは慢性・再発性の経過をたどり,社会的機能の低下を生じる精神障害である。統合失調症は家族集積性が高く,その遺伝要因に着目したゲノム研究がなされ,大規模サンプルによるGWASによって108ものリスク座位の同定に成功し,これらの遺伝子に基づいた創薬が期待されている。統合失調症の遺伝カウンセリングにおいては,遺伝そのものだけでなく妊娠とくすりの関係についても説明を求められることが多く,偏見の問題も含めて一般の遺伝カウンセリングとは異なる配慮が求められる。
15. 自閉症スペクトラム障害
  (安田由華)

自閉症スペクトラム障害(ASD:autism spectrum disorders)は,幼児期早期から発症する神経発達障害であり,①社会的相互作用とコミュニケーションの困難さ,②限定された反復的で常同的な行動・興味・活動を中核症状とする。遺伝カウンセリングにおいては,正確な診断を行うこと,遺伝子検査の診断率やその価値について話し合うこと,患者中心の医療を行うこと,継続的に報告された知見を取り入れること,そして個別の臨床的特徴や経過に基づいて最適な評価計画を行うことが重要である。
16. 神経内科疾患のファーマコゲノミクス
  (莚田泰誠)

薬物応答性とゲノム情報との関連を調べることを目的としたファーマコゲノミクス研究の進展により,薬物治療開始前に薬効や副作用のリスクを予測可能な一塩基多型(SNP)などのゲノムバイオマーカーが報告されつつある。これらのゲノムバイオマーカーが,その臨床的有用性が実証されたうえで臨床に導入されれば,事前の遺伝子検査の結果に基づいて,治療薬を選択したり投与量を調節したりすることにより,維持用量への速やかな到達や集団全体における副作用の発現頻度の低下などが可能となる。
17. 心理的形質と双生児研究
  (安藤寿康)

あらゆる心理的形質には遺伝の影響があり,家族を類似させる共有環境の影響は少なく,環境要因としては一人一人に固有の非共有環境が大きいことが,双生児法を用いた行動遺伝学研究から明らかにされている。一般に,併存する形質の間は遺伝によって媒介されており,それは分子遺伝学的研究からも支持されるようになってきた。環境の選択や形質の発達的な変化にも遺伝要因が関わる。不一致一卵性のエピジェネティクスの差異は,遺伝子発現のダイナミズムを知る最新の方法として注目されている。
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