| 第1章 総論 |
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神経遺伝医学研究の歴史的背景と今後の課題 (辻 省次・三井 純・石浦浩之)
遺伝性神経疾患の研究は先天代謝異常症の解析から始まり,連鎖解析とポジショナルクローニング法の確立,次世代シーケンサーの登場により大きく発展した。孤発性神経疾患の研究はゲノムワイド関連解析に基づく疾患感受性遺伝子の研究が精力的に行われてきている。疾患発症に対する影響度の大きい遺伝的要因の解明は困難を極めており,missing
heritabilityとして研究上の大きな課題となっているが,common disease-multiple
rare variant仮説に基づいた遺伝子探索が行われ,成果が得られはじめている。臨床遺伝学の観点からは,孤発性疾患であっても家族集積性が観察される疾患は数多く知られており,遺伝学の観点を重視した研究パラダイムが重要である。
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精神疾患研究の現状と展望 (久島 周・尾崎紀夫)
近年のゲノム解析技術の進展を背景に,精神疾患の発症に関与する遺伝要因が多数同定されつつある。その結果,①精神疾患の遺伝的異質性が高いことに加え,②精神疾患関連ゲノム変異が不完全浸透と多面発現的効果を示すこと,③進化的に新しい稀な変異の重要性,④ニューロンにおける体細胞変異の関与が明らかになりつつある。症候学に基づいて定義される精神疾患をゲノム変異の観点から捉え直すことで臨床・基礎研究も影響を受けつつある。ゲノムコホート研究,モデル動物研究,人工多能性幹細胞を用いた研究を例として述べる。
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精神神経疾患診療における臨床遺伝学,遺伝学的検査
(後藤 順)
一般診療は患者を対象とするが,臨床遺伝学は患者の血縁者やこれから生まれてくる者をも対象としている。診療は疾患ごとに異なり,①単一遺伝子疾患か多因子疾患か,②病因遺伝子の同定の有無,③有効な治療法・予防法の有無により類別される。診療において重要な遺伝学的検査は,単一遺伝子疾患において臨床的有用性,妥当性が認められる。次世代シークエンサーなどの出現により,喫緊の課題となっている,遺伝子診断のパラダイムシフト,診療と研究との関係,倫理的法的社会的問題などについても注意を払う必要がある。
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孤発性疾患のリスク遺伝子の発見−ゲノムワイド関連解析の現状,進化と今後−
(佐竹 渉・戸田達史)
ゲノムワイド関連解析(GWAS)は,数十〜数百万種のSNP型をアレイなどにより判定しSNP型の頻度の違いを患者対照間で検定することにより,多遺伝性疾患の疾患リスク遺伝子座を発見する手法であり,これまで多くのリスク遺伝子座を発見してきた。また,実験的には遺伝子型判定されていないSNPの遺伝子型を推測する“imputation法”やimputation法をベースに複数のGWASを合算解析する“メタGWAS”,複数人種のデータをメタ解析する“trans-ethnic
GWAS”などが行われており,今後の全ゲノム参照パネルの大規模化によって,より低頻度のリスクvariantまで発見できるように,GWASは進化を続けている。さらに,private
mutationも含めた超低頻度のvariantに関しては,数千検体のエクソームデータによる遺伝子単位の関連解析が,筆者らをはじめ世界の複数施設で行われている。
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次世代シーケンサー,次々世代シーケンサーとクリニカルシーケンシング
(石浦浩之)
次世代シーケンサーの登場により全例のない規模でのシーケンシングが可能になり,エクソーム解析,全ゲノム配列解析も実用化の段階となっている。今後,いかに医療に応用していくかが課題となっている。次々世代シーケンサーと呼ばれる新規の手法も複数出現しており,今後の発展が期待される。これらの技術によりゲノム研究・ゲノム医療が発展していくことは間違いないが,それに伴った特有の問題も浮上しており,広く議論していくことが肝要である。
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個人ゲノム解析のためのゲノムインフォマティクス
(森下真一)
個人ゲノムの変異はどの程度検出できるようになってきているか? 変異の有害性はどの程度判断できるようになってきているか? 個人ゲノム解析では重要なポイントであり,ゲノムインフォマティクスの果たしている役割は大きい。2007年頃から20〜300塩基程度の短鎖DNA断片を解読する第2世代DNAシーケンサー(次世代シーケンサーとも呼ばれる)が普及した。その結果,個人ゲノム解読が大きく前進し,1塩基変異などの短い変異を検出できるようになり,これまでに数千人規模の個人ゲノム解読結果も報告されている。一方,2011年から市場化された第3世代DNAシーケンサー(1分子実時間シーケンサー)は,塩基長が2000〜50000塩基の長鎖DNAを解読でき,これまで観測が困難であった構造変異を調べることを可能にしている。このような分析をする際に,どのようなゲノムインフォマティクスが必要になるかについて本稿では解説する。
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遺伝子治療とゲノム編集 −最近の進歩− (金田安史)
現在までの遺伝子治療の臨床試験は,そのほとんどが体細胞を標的とした遺伝子による機能補充療法である。しかし,従来より開発されてきた変異遺伝子の修復技術が,この数年は急速な進歩を遂げ,ゲノムを改変するゲノム編集の革新的技術を用いた遺伝子修復による治療が現実味を帯びはじめている。実際にzinc
finger
nuclease(ZFN)を利用してHIV耐性のリンパ球を構築してAIDS抵抗性を高める臨床試験が進んでいる。一方,技術的には非標的部位の切断(off-target
effect)が起こる可能性が高いこと,遺伝子変異の修復についてはさらなる改善が必要であるなど,解決すべき課題は多い。しかし,この技術をヒトの生殖細胞に応用する動きがあり,大きな倫理的問題を世界中に投げかけつつある。
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iPS細胞を用いた神経・精神疾患解析と創薬研究 (村上永尚・和泉唯信・梶 龍兒・井上治久)
2007年にヒトiPS細胞が誕生して以来,神経・精神疾患特異的iPS細胞を用いた研究は,疾患の病態研究・創薬研究に応用され,報告数は爆発的に増加している。疾患の病態研究においては,遺伝子変異部位の修復を施した対照群を用いた研究も近年多数報告されている。本稿では,iPS細胞を用いた神経・精神疾患解析と創薬研究のこれまでの結果について概説し,それぞれの疾患における代表的な報告について述べる。
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光遺伝学 (橋本唯史・岩坪 威)
光遺伝学は光刺激により特定の神経細胞を時空間特異的に,高精度で制御可能な新技術である。近年,光遺伝学を利用することにより,自閉症や不安障害といった精神疾患,パーキンソン病やアルツハイマー病などの神経変性疾患,など様々な脳神経疾患の病態解明や治療法開発が可能となってきた。本稿では,そのような光遺伝学の応用例を紹介し,光遺伝学の有用性について考察する。
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認知症診断ツールとしてのPETイメージング (佐原成彦)
超高齢者社会の到来とともに認知症患者数は増加し続けている。現在,認知症の中で最も頻度の高いアルツハイマー病の克服をめざして数多くの基礎研究が進められている。しかし,残念ながら永続的に効果をもたらす治療薬や予防薬の開発には至っていない。一方で,生体脳の病理像を評価しうるPETイメージング技術が進歩しつつあり,アミロイドPETイメージングやタウPETイメージングを活用することによって,近い将来,早期診断や治療効果の判定が可能となり,薬剤開発が促進されることが期待される。
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エピジェネティクス −環境情報を包含した遺伝情報の生物学的基盤− (久保田健夫)
次世代シーケンサーの恩恵を受けて,遺伝子検査に基づいた遺伝カウンセリングが広く実施されるようになった。また近年,親から受け継いだ感受性遺伝子多型を含む個人ゲノム情報を基盤にした多因子遺伝病に対する遺伝カウンセリングが検討されはじめた。さらに最近,missing
heritabilityといわれるゲノム配列では説明できない遺伝様式の存在が議論され,環境情報を包含する遺伝情報であるエピジェネティクスがその一翼を担っていると考えられるようになってきた。これを踏まえ,エピジェネティックな遺伝情報に根ざした遺伝カウンセリングの実現が期待されている。
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革新脳とマーモセット (佐々木えりか)
ヒトの脳の全容を解明するという大きな研究プロジェクトが,米国では「Brain Research
through Advancing Innovative
Neurotechnologies(BRAIN)initiative」,欧州ではHuman
Brain
projectとして2年前から開始した。わが国では小型の霊長類であるコモンマーモセットをモデルにヒトの脳の構造と機能の解明に挑む「革新的技術による霊長類の神経回路機能全容解明プロジェクト」が昨年開始した。このプロジェクトの概要と,なぜコモンマーモセットを用いて脳の構造・機能を解明するのか,コモンマーモセットのモデルとしての有用性について解説する。
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神経変性疾患のレジストリと遺伝子リソースバンク (熱田直樹・祖父江 元)
高齢化社会をむかえ,患者数増加が想定される神経変性疾患の克服は喫緊の課題である。その治療法開発にあたっては,基礎的研究で得られた治療シーズを臨床試験につなげ,治療法開発を推進する体制整備が必要である。そのために大規模な疾患レジストリを構築する必要性が認識されている。疾患レジストリにゲノム遺伝子などのバイオリソースを組み合わせることで,疾患関連遺伝子・分子の探索固定,病態抑止効果を検出するための臨床試験デザインの策定,適切で迅速な臨床試験への患者リクルートなどに資することができる。筋萎縮性側索硬化症についての取り組みを例として,神経変性疾患の患者レジストリについて論じる。
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新規治療法の開発とその関連制度 (鈴木麻衣子・中村治雅・武田伸一)
新規治療法,とりわけ新しい医薬品の開発を行う場合は,基礎研究から非臨床試験,臨床試験の実施を通じてその有効性や安全性を証明する必要があり,またそれを日常診療で一般的に使用するためには医薬品の承認を得ることや保険適用となることも重要である。本稿では,新たな医薬品実用化の道筋として,治験や先進医療といった関連制度,近年整備されてきた国による開発支援策について,その概要を説明するとともに,開発の具体例として,国立精神・神経医療研究センターで行ったデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬開発の実際を紹介する。
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