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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−消化器内科編 4 |
| シリーズ企画 |
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巻頭言:non-coding RNAの機能と疾患
(福田 篤・斉藤典子) |
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| 1. |
乳がんに関わるノンコーディングRNA
(吉田奈央・大畑裕聖・斉藤典子) |
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ノンコーディングRNAの多くは発生・分化や細胞の種類特異的に発現し,細胞の機能制御に関わる。したがって,その発現異常はがんを含む疾患につながる。本稿では,女性で最も罹患率が高い乳がんにおいて,遺伝子の転写,pre-mRNAスプライシング,核内構造体形成やエピジェネティクス制御に関わる長鎖ノンコーディングRNAについて,分子機序の例などを紹介する。がん特異的に発現するノンコーディングRNAは診断バイオマーカーや治療標的候補としての可能性をもつ。塩基配列の特異性を生かして標的RNAを特異的に阻害する核酸医薬の開発など,個別化医療確立への応用についても触れたい。
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| 2. |
ヒト初期胚の発生に関与するlncRNA XACT
(泉 顕治・福田 篤) |
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不育症および不妊症の一定割合は依然として原因不明であり,有効な検査法や治療法が確立されていない。背景には,ヒト特異的な初期胚関連遺伝子の機能解析が進展していないことがある。近年,われわれはヒト初期胚および多能性幹細胞に特異的に発現する長鎖ノンコーディングRNA(lncRNA)XACT に着目し,胚モデリングを用いた機能解析を行った。XACT の過剰発現により,ヒトiPS細胞の多能性維持や分化能に影響することが明らかとなってきた。本稿では,XACT に関する最新の知見を紹介しつつ,原因不明の不育症・不妊症の病態解明に向けた新たなアプローチとして,ヒト特異的遺伝子を標的とした解析戦略を提案する。
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| 3. |
RNA-クロマチン相互作用網羅的解析RADICL-seq法
(加藤雅紀・Piero Carninci) |
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RADICL-seqは,核内におけるRNA−クロマチン相互作用を網羅的かつ高解像度で解析できる革新的手法である。従来法では困難だったノンコーディングRNA(ncRNA)の結合領域同定を可能にし,長鎖ncRNAやエンハンサーRNAのみならず,イントロン由来RNAの機能解析にも有効である。われわれはFANTOM6プロジェクトにおいて,ヒト神経系細胞でtrans-contacting intronic RNAs(TIRs)を同定し,これらが転写活性領域や協調遺伝子群と選択的に相互作用することを示した。本稿ではRADICL-seqの原理,他手法との比較,ncRNA研究への応用例を紹介し,疾患研究や転写制御機構解明における今後の展望を述べる。
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| 4. |
マイクロRNA経路の調節機構と病的意義の新側面
(清田真由・尾上耕一・鈴木 洋) |
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microRNA(miRNA)は,mRNAの3'非翻訳領域に結合して翻訳抑制やmiRNAの不安定化を誘導し,遺伝子発現を転写後レベルで制御する20塩基程度のノンコーディングRNAである。1993年にAmbrosと Ruvkunによって線虫のmiRNAと標的制御機構が発見され,2024年にはノーベル医学・生理学賞が授与された。本稿では,miRNAの生合成・標的認識・スーパーエンハンサーによる制御などの観点からその精緻な制御機構を紹介し,Argonaute症候群などの近年明らかになった疾患との関係を概説する。
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| 5. |
ReNU症候群をはじめとした非コードRNA病
(黒田友紀子) |
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非コードRNAはこれまでエクソーム解析の対象外であったが,最近RNU4-2 を原因とするReNU症候群が明らかになった。ReNU症候群は,知的発達症(知的障害),発達遅滞,てんかん,成長障害を特徴とし,発達遅滞の原因の0.4〜0.5%を占める頻度の高い疾患である。RNU4-2 以外にも,RNU2-2,RNU5A-1,RNU5B-1 といった他の非コードRNAも神経発達症の原因となることが明らかになっている。このような「非コードRNA病」は新たな疾患群として確立されつつある。
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| 6. |
XIST/Xist RNAがもたらすX染色体不活性化とエピジェネティックダイナミクス
(草野耀永・岡本郁弘) |
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XIST/Xist (X-inactive specific transcript)遺伝子はX染色体上にあり,その転写産物はタンパク質に翻訳されない長鎖ノンコーディングRNAである。XIST/Xist RNAは,哺乳類のX染色体不活性化(X chromosome inactivation:XCI)において重要な役割を担う機能性RNAである。本稿では,マウスやヒトの初期発生におけるXIST/Xist RNAとX染色体不活性化に関するこれまでの知見や,霊長類モデル動物であるカニクイザルを用いた最新の成果と今後の展開について解説するとともに,XIST RNAの発現異常によってもたらされる疾患を紹介する。
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| 7. |
脳腫瘍におけるノンコーディングRNAの機能と核酸医薬の開発
(鈴木美穂・近藤 豊) |
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膠芽腫は進行が速く再発しやすい脳腫瘍であり,現行の標準治療では十分な効果が得られにくいため,新たな治療法の開発が強く求められている。著者らのグループは,長鎖非翻訳RNA,TUG1が,R-loopの解消を介して複製ストレスを緩和し,腫瘍細胞の増殖を促進することを明らかにした。TUG1の機能を阻害するアンチセンス核酸医薬(antiTUG1製剤)は,膠芽腫マウスモデルで抗腫瘍効果を示し,現在,医師主導治験が進行中である。本稿では,TUG1によるR-loop制御機構と,核酸医薬としての臨床応用の展望について概説する。
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| 8. |
小分子RNAによるクロマチン制御
(村野健作・岩崎由香) |
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小分子RNAのうち特にpiRNAは,一部が標的遺伝子のクロマチン状態をダイナミックに変化させることで転写を制御する。piRNAはPIWIタンパク質と複合体を形成し,生殖組織においてトランスポゾンを標的とする。piRNAによるクロマチン制御の研究はショウジョウバエで先行して進展しており,近年ではヒトにおいてもpiRNA生合成因子の変異が不妊の原因となることが報告され,注目を集めている。本稿では,ショウジョウバエをモデルとして明らかになったpiRNAによる転写制御機構と,哺乳類で明らかになった最新の知見を併せて紹介する。
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| 9. |
核内構造体パラスペックルの足場として働くNEAT1 arcRNA
(梅崎創太・山崎智弘・廣瀬哲郎) |
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長鎖ノンコーディングRNAであるNEAT1は,特定のRNA結合タンパク質を選択的に集積し,それらの多価相互作用を介して「ミセル化」と呼ばれる相分離機構により,秩序あるコア−シェル構造をもつ非膜性オルガネラ「パラスペックル」を形成する。この構造体は,遺伝子発現の制御を通じてストレス応答や組織形成に関与し,特にがん細胞の生存や増殖を多面的に支えている。NEAT1はがんの促進と抑制の両面に機能することから,がん種ごとの作用機序の解明を通じて,革新的ながん治療の標的として注目されている。
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| 10. |
トランスクリプトームを守る4.5SH RNA
(野村郁子・中川真一) |
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4.5SH RNAは,小型齧歯類に特異的な90塩基のノンコーディングRNAであり,マウスゲノムに含まれるレトロトランスポゾン由来の有害な異常エクソンをスキップさせることで,トランスクリプトームの健全性を維持している。4.5SHの標的認識配列を改変した4.5SHキメラRNAはヒト培養細胞においても任意のエクソンのスキップが可能であり,プログラム可能なスプライシング制御ツールとして新たな治療モダリティへの応用が期待される。
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ポリジェニックリスクスコア
(難波真一・岡田随象) |
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ポリジェニックリスクスコアはヒト疾患形質を予測可能であり,個別化医療への応用が期待されている。人種集団間の予測精度格差や環境因子による精度低下を克服するための研究が進展している一方,胚選択に応用したサービスがすでに提供されており,技術的・倫理的課題が懸念される。ポリジェニックリスクスコアは生物学的知見を得るための研究ツールとしても有用であり,疾患病態の研究のみならず,集団遺伝学的研究にも応用されている。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病),
難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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骨形成不全症
(岡田慶太) |
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骨形成不全症(OI)は骨脆弱性を主徴とする代表的な骨系統疾患である。主因はⅠ型コラーゲン遺伝子の変異が約85%を占めるが,翻訳後修飾や骨芽細胞分化関連遺伝子の異常なども報告されている。診断は骨折歴や画像所見でつくことが多いが,最近は遺伝子検査も積極的に行われている。治療はビスホスホネート製剤を中心に,他の骨粗鬆症治療薬の効果も検証されている。合併症への対応や遺伝カウンセリングも重要であり,小児から成人までの長期的かつ包括的診療体制の整備が求められる。
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新たなコンパニオン診断〜抗アミロイドβ抗体薬とAPOE 遺伝学的検査
(柴田有花) |
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アルツハイマー病に対する抗アミロイドβ抗体薬の開発と臨床導入が進む中,抗アミロイドβ抗体薬に特徴的な有害事象であるARIAの発生リスクを予測する目的で,APOE 遺伝学的検査がコンパニオン診断として注目されている。一方,APOE 遺伝子はアルツハイマー病や脂質代謝異常の発症リスク予測とも関連する。そのため,検査結果が本人のみならず血縁者に影響を及ぼす可能性について,検査前後に十分な説明と理解の促進を行うことが求められることから,APOE 遺伝学的検査の臨床実装にあたっては,遺伝カウンセリングを含む検査実施体制の整備が必須となる。
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ハプロタイプフェーズドT2Tゲノムアセンブリ
(高山 順) |
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ゲノムアセンブリの標準が,染色体を端から端まで完全に解読するT2T(telomere-to-telomere)へと移行し,医学研究の基盤が大きく変革されつつある。本稿では,このT2Tと,父親・母親由来の染色体セットを分離するハプロタイプフェーズドアセンブリを両立させる情報解析技術を概説する。特に,高精度なHiFiリードとウルトラロングリードを統合的に扱うアルゴリズムを中心に,次世代のゲノム解析基盤がどのように構築され,医学に貢献するのかを解説する。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ遺伝カウンセリングのコツ〉 |
| シリーズ執筆 |
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選択のその先へ 遺伝性腫瘍診療における遺伝カウンセリング
(高磯伸枝・井本逸勢) |
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遺伝性腫瘍領域における遺伝カウンセリングは,表現型であるがん発症の不確実性や予防介入の多様性,血縁者への影響,社会的・倫理的課題など,他の領域とは異なる特徴と対峙する。このため,遺伝カウンセリング担当者には,患者あるいはクライエントの「答えの出ない状況に耐える力(ネガティブ・ケイパビリティ)」を涵養しつつ,遺伝的リスクを含めた医学的情報の提供に加えて当事者の価値観や家族関係に深く向き合う姿勢での意思決定支援が求められる。本稿では,答えのない選択の先に寄り添う遺伝カウンセリングとその臨床的意義について,実践的視点から考察する。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
| リレー執筆 |
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遺伝カウンセリングは“その人の物語”を聴くこと
(谷口真紀) |
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● Ties 絆
〈当事者会、支援団体の紹介〉21 |
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FOXG1症候群患者家族会(FOXG1 JAPAN)
(池田真紀子) |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に関連する研究〉 |
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酵母をモデルとしたエピジェネティクス研究
(中山潤一) |
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酵母とは,単細胞での増殖形態を独立に獲得した菌類の系統群と考えられている。出芽酵母と分裂酵母は,いずれも真核生物のモデルとして広く研究に用いられ,特にエピジェネティクス分野では大きな貢献をしてきた。分裂酵母のヘテロクロマチンの研究から,ヒストンH3K9メチル化とHP1との関係や,RNAiの経路とのつながりが明らかにされた。興味深いことに,分裂酵母と出芽酵?ではヘテロクロマチン形成の分子機構が大きく異なっている。進化的な関係から,分裂酵母からヒトまで保存されたH3K9メチル化のシステムが,出芽酵母を含む系統で変化したことが推測される。
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| ● 編集後記 |
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