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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−消化器内科編 3 |
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| 特集: |
出生前遺伝学的検査の最前線と遺伝カウンセリング |
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巻頭言:日本の現在と今後の出生前遺伝学的検査を考える
(佐村 修) |
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| 1. |
出生前遺伝学的検査の歴史と妊産婦,医療者の現在の状況
(白土なほ子) |
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出生前遺伝学的検査は,技術の進化とともに検出可能な疾患の範囲が拡大し続けており,数十年で劇的に変化し,妊産婦や医療者は新たな選択肢と倫理的・法的・社会的課題に直面している。出生前検査の受検や結果に基づく意思決定には,遺伝カウンセリングの個別化も必要となり,複雑さを増し,妊娠管理における情報提供の重要性が高まっている。今後も,妊産婦の出生前検査に対するニーズにあった対応のための適切な情報提供と,妊産婦の心のケアはもとより医療者の心のケアも含めた政策の整備が求められる。
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| 2. |
出生前遺伝学的検査に関する学会のガイドラインや見解
(向中野実央・山田崇弘) |
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出生前遺伝学的検査は医学的・倫理的・社会的に留意すべき課題が多く,また妊婦および家族に与える影響も大きいことから,慎重な配慮が求められる。日本医学会および日本産科婦人科学会が示すガイドラインや見解・指針に則ることが求められるが,これらは医療・技術革新や社会情勢の変化に応じて更新されるため,常に最新の情報に基づいた対応が不可欠である。本稿では,出生前遺伝学的検査に関連する最新のガイドラインや見解等について概説する。
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| 3. |
出生前遺伝学的検査における遺伝カウセリングの基本的な態度
(佐々木元子) |
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出生前遺伝学的検査の普及に伴い,遺伝カウンセリングの重要性が増している。特に非指示的態度,情報の中立性,心理的支援,共感的理解など,遺伝カウンセリングにおける基本的な態度は,妊婦および家族の意思決定を支える基盤となる。本稿では,これらの基本的態度の構成要素を整理し,事例を交えてその実践的意義を考察する。遺伝情報の高度化と多様な価値観が交錯する現代において,遺伝カウンセリングは単なる情報提供にとどまらず,共感と倫理的配慮を伴う対話の営みであることを再確認する。
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| 4. |
NIPTの原理およびその応用
(小安智博・浜之上はるか) |
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non-invasive prenatal genetic testing(NIPT)は,本邦では2013年から臨床研究として開始され,現在では一般診療として実施されている。母体血漿中に含まれる胎盤由来のcell-free DNA(cfDNA)を解析する技術に基づいており,本邦における検査対象疾患は13,18,21トリソミーに限られる。本稿では,NIPTの検査原理や双胎妊娠におけるNIPT,国内外の検査対象疾患などについて概説する。
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| 5. |
日本におけるNIPTの現状と課題
(伊藤由紀) |
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日本においては2013年に臨床研究として21,18,13トリソミーに対するnon-invasive prenatal genetic testing(NIPT)が開始され,その基礎データは現在の診療・遺伝カウンセリングに活かされている。その後,臨床研究を終了し,2021年に出生前検査認証制度等運営委員会が発足し,基幹施設と連携施設の2段階の体制構築により地域に根ざした医療ネットワークが整備されつつある。本稿では,NIPT臨床研究,国内におけるNIPTの臨床導入,現在置かれている課題について解説する。
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| 6. |
世界におけるNIPTの現状
(鈴森伸宏) |
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非侵襲的出生前検査(noninvasive prenatal testing:NIPT)は,2011年から欧米や中国で開始され,妊娠初期にトリソミーの早期発見の契機を得ることができる点で,世界中で高く評価されている。一方,ゲノムワイドNIPTを実施する国々が増えており,三つのトリソミー以外の疾患,性染色体疾患や染色体微細欠失症候群などについて対象となっている。近年の遺伝子解析技術の進歩を知る臨床遺伝を専門とする医師や遺伝カウンセラーの役割は大きく,本稿ではNIPTの海外の状況について述べる。
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| 7. |
NIPTの認証制度について
(上出泰山) |
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NIPT等の出生前検査に関する専門委員会の報告書に基づき,日本医学会においてNIPTの認証制度が行われている。認証制度が開始され3年が経過し,認証制度としてのデータも公開されてきている。改めてNIPTのこれまでの経緯や認証制度に触れながら,取り組みや運用状況などを述べる。
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| 8. |
出生前遺伝学的検査の進歩と問題点〜マイクロアレイを中心に〜
(江川真希子) |
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本稿では,出生前領域におけるマイクロアレイ染色体検査(CMA)およびエクソーム解析(WES)について述べる。胎児形態異常例や死産例において,CMAでは従来の核型検査に比較して10%弱の,WESでは核型検査・CMAに加えて約10%の診断率上昇が見込まれる。しかし,この診断率上昇は胎児形態異常の種類によっても異なり,また検査にはそれぞれ限界もあるため,検査の特徴を把握したうえで適切な症例を選択する必要がある。また結果の解釈が困難な症例もあり,遺伝カウンセリングを含めた実施体制を整えておく必要がある。
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| 9. |
遺伝子解析 胎児期疾患に対するGenetic autopsyや海外の状況
(佐々木愛子) |
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周産期における原因不明の胎児疾患や胎児・新生児死亡に対して,ゲノム解析(WES/WGS)を用いたgenetic autopsyが注目されている。特に乾燥臍帯を用いた検査は,日本独自の文化的背景を活かした有用な手法である。非免疫性胎児水腫や胎児・新生児死亡において,約1/3〜半数で遺伝学的診断が得られたと報告されており,次子妊娠に向けた遺伝カウンセリングやインターコンセプションケアの実践に貢献すると期待される。
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がんの全ゲノム解析実行計画の現状
(藤井博之・角南久仁子・河野隆志) |
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ヒト全ゲノムを網羅的に解析する全ゲノム解析(WGS)は,エクソン領域だけでなく非翻訳領域や大規模な構造異常まで検出できる点が特徴で,がんや難病領域での医療実装の準備が進められている。一方,従来のがんゲノムプロファイリング検査(CGP)と比較して,浅いdepthによる偽陰性リスクや新鮮凍結検体の確保の問題など弱点が存在するのも事実である。海外では英国やオランダなどで国家レベルの大規模プロジェクトが進んでおり,すでに保険診療下でのWGS導入例もある。本邦でも厚生労働省主導の全ゲノム解析実行計画が進められており,検体調達や解析標準化,倫理的課題など多方面の問題を解決しながら,将来的に個別化医療を飛躍的に発展させる技術として期待が高まっている。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病),
難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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多発性内分泌腫瘍症2型:RET 遺伝子コドン部位別にみた遺伝子型と表現型の関連
(内野眞也・村上亜希子・渡邊陽子) |
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多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)は,甲状腺髄様がん,褐色細胞腫,原発性副甲状腺機能亢進症(副甲状腺過形成あるいは腺腫)を主徴とする常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性疾患である。MEN2は臨床的にMEN2A,MEN2Bおよび家族性甲状腺髄様がんの三つの病型に分類される。これらすべての病型において,甲状腺髄様がんを発症するリスクは極めて高く,MEN2AとMEN2Bでは褐色細胞腫発症のリスクも高い。MEN2Aでは,原発性副甲状腺機能亢進症が発症するリスクを有する。MEN2Bでは,舌・口唇の粘膜神経腫,巨大結腸症,マルファン様体形などの身体的特徴を伴う。MEN2の原因遺伝子は染色体10q11.21に位置するRET がん遺伝子であり,それぞれの病型において,その病的バリアントはいくつかの特定のコドン部位に集中している。本邦では,RET 遺伝学的検査は甲状腺髄様がんに対して保険適用となっている。ゲノム医療時代を迎えた現在,遺伝子パネル検査の結果でRET 病的バリアントが偶発的所見として発見されることがある。今後は既知の高頻度に検出されるコドン部位だけではなく,稀な部位の病的バリアントにも遭遇する機会が増えてくることも予想される。本稿では過去に報告された論文を基に,RET 遺伝子病的バリアントのコドン部位別に,その頻度や遺伝子型と表現型の関連について解説する。
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わが国における保険適用の遺伝子関連検査の現状(Update)
(松下一之) |
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本稿では,わが国における保険適用の遺伝子関連検査の現状について概説した。スコープは「遺伝子関連検査」のⅠ.分類と定義,Ⅱ.保険適用の範囲,Ⅲ.検査精度,Ⅳ.ELSI(遺伝学的検査),およびⅤ.Next generation DNA sequencer(NGS)を用いた検査の特徴,課題と今後,である。Ⅰ.では公益社団法人日本臨床検査標準協議会「遺伝子関連検査標準化専門委員会」の3分類を示した。Ⅱ.3分類と医科点数表で保険収載されている分類の違い,特に難病法の指定を受けた遺伝学的検査(D006-4)では薬事承認されていない検査法が保険収載されている点,Ⅲ.国内における外部精度管理調査の課題,Ⅳ.ELSIの考え方の変遷,Ⅴ.NGSを用いた検査の医療実装のための課題にフォーカスした。
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精神・神経疾患への空間トランスクリプトーム解析の適用
(宮下 聡・大輪智雄・田部直央・星野幹雄) |
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空間トランスクリプトームは,近年広く使われはじめた新しいオミクス解析手法の一つである。特に,imaging-based spatial transcriptomics(iST)はその解像度の高さによって,従来のオミクス手法では解析が困難であった組織などへの適用が期待されている。本稿では,様々な空間トランスクリプトーム手法を紹介し単一細胞RNAseq解析と比較するとともに,それぞれの手法の長所や短所を論じる。また,iSTのもつ解像度の高さを活用した精神・神経疾患研究への応用に関する最新の研究事例などを紹介する。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ遺伝カウンセリングのコツ〉 |
| シリーズ執筆 |
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精神疾患領域の遺伝カウンセリング
(堀内泰江・石黒浩毅・糸川昌成) |
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精神疾患の発症に遺伝的要因が関与していることが広く知られるようになった一方で,精神科領域における「遺伝カウンセリング」はまだ発展途上の段階にある。精神疾患には多因子遺伝ならではの特性やリスクの不確実性,社会的スティグマといった課題が存在し,他領域とは異なる繊細な対応が求められる。本稿では,精神疾患領域における遺伝カウンセリングについて,最近の知見と著者らの経験を含めて紹介する。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
| リレー執筆 |
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いろいろな方々の支えがあってこその今
(森田瑠香) |
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HNRNP疾患患者家族会/HNRNP JAPAN
(鈴木歌織) |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に関連する研究〉 |
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昆虫の内分泌制御をフタホシコオロギでアプローチ
(永田晋治) |
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地球上の生物種の7割以上を占める昆虫は,進化の過程で植食性を獲得し,種の多様化とともに摂食行動も多様化した。私たちは雑食性のコオロギを用い,「何を食べるか」というself-selectionのメカニズムの解明を目指している。摂食や代謝はAKHやNPFなどのペプチド性ホルモンによって制御される。これらは脊椎動物のペプチド性因子と構造的に類似するが,機能には種ごとの差異がみられる。本稿では,その概要とコオロギの魅力を簡単に紹介する。
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Sry 機能を消失した哺乳類の新しい性決定の仕組み
(小川湧也・黒岩麻里) |
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未分化な生殖腺を精巣あるいは卵巣に分化させる性決定は,世代をつなぐために重要なイベントである。哺乳類は安定したXX/XY型の性染色体をもち,Y染色体によるオス決定の仕組みは,ほとんどすべての種で高度に保存されている。しかしながら,日本固有のトゲネズミ属3種はこの様式を逸脱している。アマミトゲネズミはY染色体をもたず雌雄ともにXO型である。さらに,性決定遺伝子Sry を完全に消失しながらも性決定を維持している。本稿では,これまでの研究により明らかとなったアマミトゲネズミの性決定機構を最新の研究動向とともに紹介する。
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| ● 編集後記 |
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