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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−消化器内科編 1 |
シリーズ企画 |
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Cowden症候群/PTEN過誤腫症候群
(岩泉守哉) |
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特集: |
拡大新生児マススクリーニング(eNBS)の現状と今後の展望 |
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巻頭言:
拡大新生児マススクリーニング
〜それは赤ちゃんの将来へ向けたお守り〜
(酒井規夫・濱﨑考史) |
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1. |
新生児マススクリーニングの現状と課題,eNBSへの取り組み
(大浦敏博) |
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新生児マススクリーニング(NBS)は国策による公衆衛生事業である。わが国では1977年に国庫補助事業として,公費負担で開始された。2001年には一般財源化され,事業主体は国から自治体へ移行した。現在,公費NBSは20疾患を対象として実施されているが,法令上実施根拠がないという問題がある。検査・治療法の進歩により,各地で重症免疫不全症や脊髄性筋萎縮症,ライソゾーム病,副腎白質ジストロフィーなどの新規疾患を対象とした拡大NBSが保護者負担で実施されはじめている。将来の公費化に向けて,拡大NBSの課題の収集,陽性患児の予後調査を行い,その有効性を明らかにする必要がある。令和5(2023)年度より開始された実証事業の成果が期待される。
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2. |
拡大新生児スクリーニングへの世界と日本の軌跡
(大石公彦) |
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新生児マススクリーニング(NBS)は,1960年代に米国でPKUを対象に開始され,先進諸国の公衆衛生の重要な取り組みとして発展してきた。米国ではRUSPの導入により,SCID,SMA,ライソゾーム病などが追加され,日本でも1977年に公費負担で開始されて以降,技術進歩や海外事例を参考に対象疾患が拡大された。一方で,地域間格差や財政的課題が残されている。本稿では,NBSの歴史や技術の進展,米国と日本の取り組みを比較し,日本で進められる拡大新生児スクリーニング(eNBS)の軌跡を振り返る。
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3. |
eNBS実施状況に関する全国調査の結果
(田鹿牧子・小貫孝則・杉山洋平・村山 圭) |
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ライソゾーム病(LSD)や副腎白質ジストロフィー(ALD)を含む拡大新生児スクリーニング(eNBS)の重要性が言われ,日本でも多くの地域に広がりつつある。そこでeNBSの有用性や問題点を明らかにするため,eNBSを1年以上実施している地域を対象に実施状況を調査し報告しているものを取り上げる。73万人超の新生児が検査され,101人〔ファブリー病75人,ムコ多糖症(MPS)Ⅱ型10人,ポンペ病8人,ゴーシェ病5人,MPSⅠ型2人,ALD
1人〕が確定診断された。従来の推定有病率よりも多くの症例が診断された一方で,検査精度の低さや臨床的意義不明なバリアント(VUS)の検出症例の多さなど,検査法や精密検査のあり方,今後のフォロー体制などが課題として挙げられた。
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4. |
対象疾患の選択について
(但馬 剛) |
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わが国の新生児マススクリーニング(NBS)は1977年度から開始され,当初はガスリー法などによる6疾患が対象であった。2013年度からはタンデムマス法が導入され,現在は20疾患が対象となっている。その後さらに新規対象候補疾患が増えているが,公的事業化に関する明確な仕組みはなく,各自治体で有料検査としてスクリーニングする動きが拡大している。NBSは母子保健事業として全国民に公平に提供されるべきものであり,公的事業化のための対象疾患選定基準策定や実施体制構築に関する行政研究が進められている。
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1)
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熊本県におけるeNBS実施状況
(澤田貴彰) |
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3)
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大阪地区におけるeNBSの状況
(濱﨑考史) |
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5)
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CReARID・アンジェス社の対応
(大星 航・奥山虎之) |
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6. |
免疫不全症新生児スクリーニングについて
(今井耕輔) |
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原発性免疫不全症の中で最も重症な病型は,T細胞欠損による重症複合免疫不全症(SCID)およびB細胞欠損(BCD)による無ガンマグロブリン血症である。TRECとKRECを定量PCRすることにより,SCID,BCDの新生児スクリーニングが可能になった。また,治療可能になった脊髄性筋萎縮症の原因遺伝子SMN1の有無についても,定量PCRでスクリーニングすることが可能となった。当初,2017年から任意検査で行われてきたが,2023年度から実証事業という形で予算がつき,現在は27都府県が公費で行い,20道府県が任意検査という形で,SCID+BCD+SMAスクリーニングを行っている。
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7. |
実証事業としてのSMA
(木水友一) |
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脊髄性筋萎縮症(spinal muscular atrophy:SMA)は進行性の神経筋疾患である。近年,有効な治療薬が上市され,その早期治療の重要性から新生児スクリーニング(newborn screening:NBS)の実施が国内外で広がっている。本邦でもSMA-NBSの有効性と実践性が認められ,こども家庭庁主導の新生児マススクリーニング検査に関する実証事業が計画され全国的な公費化に向けて前進している。SMA-NBSには解決すべき課題が残されてはいるが,それらは公費化を妨げるものではない。各自治体が十分なSMA-NBS検査診療体制を構築したうえで実証事業に参加し,その結果を示すことが公費化の実現に最も必要な事項となる。
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1)
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ファブリー病新生児スクリーニングの課題
(井上貴仁) |
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4)
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副腎白質ジストロフィー(ALD)新生児マススクリーニングの課題と対策
(下澤伸行) |
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9. |
検査施設から;eNBSの精度管理
(石毛信之) |
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わが国では従来の新生児マススクリーニング(NBS)に加えて,いくつかの治療可能な疾患を対象とした「拡大新生児マススクリーニング(eNBS)」の導入が進んでいる。eNBSでは定量PCR法が導入され,その精度管理が重要となっている。米国CDCは世界規模の外部精度管理(EQC)プログラムを実施しているが,対象疾患が異なるなど日本とは実施状況が異なるため,国内実情に合致したEQCの実施が求められる。そこで日本マススクリーニング学会は,eNBSのEQC体制を構築し,技能試験を実施して検査の適正性を評価する定量PCR法の体制を構築した。
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10. |
新生児マススクリーニングにおける遺伝カウンセリング
(酒井恵利・山田崇弘・濱﨑考史・瀬戸俊之) |
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新生児マススクリーニングをきっかけに診断された児の両親は想定外の出来事が起こり混乱状態に陥りやすい。近年の拡大新生児マススクリーニングの対象疾患では常染色体潜性遺伝(劣性遺伝)だけでなくX連鎖性遺伝も多く含まれる。そのため,遺伝医学的な情報提供と心理社会的支援の両者を行う遺伝カウンセリングで配慮すべき点も多く,多面的な視点で支援する多職種連携が重要である。
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1)
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ムコ多糖症の新生児マススクリーニングと早期診断と早期治療の重要性
(秋山武之) |
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2)
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患者(家族)会の立場から拡大NBSを考える
(岩前紳一) |
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重症複合免疫不全症に対する診断と治療
(若松 学・村松秀城) |
重症複合免疫不全症(SCID)は生後早期に重症感染症を発症し,生後1年以内に致死的となる。T細胞やB細胞新生能の指標であるT-cell receptor excision circle(TREC)やKappa-deleting recombination excision circles(KREC)を用いた新生児マススクリーニング検査が早期診断に有用であり,本邦でもSCIDに対する新生児マススクリーニング検査が拡大している。本邦では根治的治療として造血幹細胞移植が実施されているが,将来的には遺伝子治療の進展により治療の選択肢が広がることが期待される。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病),
難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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エマヌエル症候群
(倉橋浩樹) |
エマヌエル症候群は,特異顔貌,口蓋裂,小顎症,先天性心疾患,精神運動発達遅滞を呈する先天性奇形症候群である。t(11;22)転座由来の22番過剰派生染色体によるコピー数異常疾患であり,末梢血のG分染法やマイクロアレイ染色体検査にて診断される。親の一方がt(11;22)の均衡型転座保因者であり,夫婦は不妊や習慣流産を呈するが,第1減数分裂の3:1分離によってエマヌエル症候群の児が生じる。t(11;22)転座は核型正常の一般男性の精子で数万分の1の頻度で繰り返し発生し,新生転座発生メカニズムのモデルとなる。
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がんゲノムプロファイリング検査提出時の検体の取り扱いと検出まで
(畑中佳奈子) |
本邦でがんゲノムプロファイリング(CGP)検査が開始し5年が経過した。次世代シークエンサー(NGS)を解析に用いる現在のCGP検査では日常診療で作製される病理ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)検体から抽出した核酸が用いられる。CGPの検査結果をきちんと得るため,病理FFPE検体の品質を高め,提出検体から得られる核酸量を確保し,一定割合以上の腫瘍細胞含有割合を確保することが重要となる。本稿では,日常診療における検体の取り扱いを含め,CGP検査における検体の取り扱いのポイントを述べる。
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インプリンティング疾患症例診断のための臨床検査と研究解析の実際
(松原圭子) |
インプリンティング疾患(IDs)は,親由来特異的に発現するインプリンティング遺伝子の機能や発現異常により発症する先天希少疾患群であり,成長や発達に関連する症状が多い。IDsの遺伝学的診断には,コピー数解析,メチル化解析,遺伝子変異解析を適切に組み合わせて実施する必要がある。近年では,コピー数とメチル化状態を同時に解析できるMS-MLPA法がIDs診断のfirst line testとして有用であることが国内外のガイドラインで示されている。本邦では,一部の疾患に対して保険収載検査としてMS-MLPA法が実施されている。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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発症前診断・出生前診断の事例から:遺伝カウンセリングにおける親子間・夫婦間の調整
(渡辺基子・新井正美) |
遺伝カウンセリングでは,発症前診断や出生前診断など現在症状がない人に対する検査が行われる場合がある。本稿は,最近経験した遺伝カウンセリングから,親子間,夫婦間の調整を要した三つの事例について誌上ロールプレイを提示した。一つ目は神経疾患の発症前診断で家系内罹患者の疾患名を知らなかった事例,二つ目は神経疾患の子どもへの情報伝達に関する相談事例であり,三つ目には高年妊娠の出生前検査で夫婦間での意見の相違があった事例を取り上げる。遺伝カウンセリングにおける家族内コミュニケーションに対するサポートは,クライエントの心理的負担の軽減や意思決定の促進につながると考えられる。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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女性のがん当事者会(乳がん・卵巣がん・子宮がん,HBOC)「つばなの会」
(西田久美子) |
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繊毛虫の大規模ゲノム再編
(片岡研介) |
生物のゲノムに潜む「動く遺伝子」と呼ばれるトランスポゾンは,種の多様性を生んできた。一方でトランスポゾンの転移は,ホストゲノムの恒常性維持にとって重大な脅威となるため,真核生物はトランスポゾンをヘテロクロマチンという凝集したクロマチン構造に閉じ込めて抑制するシステムを発達させている。単細胞性の真核生物である繊毛虫は,このヘテロクロマチンのシステムをさらに発展させ,トランスポゾンをゲノムから排除するという驚異的なトランスポゾン抑制の仕組みを発達させてきた。本稿では,繊毛虫がもつゲノム再編の制御機構とその進化を概説する。
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〔原著〕地域での医療従事者の遺伝・ゲノムリテラシー向上を目的とした研修会における多職種連携教育の検討−遺伝性乳癌卵巣癌教育セミナー受講者評価から−
(有田美和・佐々木元子・志鎌あゆみ・坂東裕子・佐藤豊実・野口恵美子・三宅秀彦) |
本稿では,地域における遺伝性乳癌卵巣癌教育セミナー受講者の反応から,多職種が同時に受講した研修内容を評価し,意義を探索した。「分かりやすさ」,「臨床への活用」,「関心・興味」において医師は看護職等より高評価であったが,満足度は違いを認めなかった。自由記載から,【地域で共有するHBOC診療の課題】や【多職種連携教育の有用性】などが概念として抽出された。職種間コミュニケーションにもとづく多職種連携教育の視点を考慮した研修内容が,医療従事者の遺伝・ゲノムリテラシー向上に寄与すると考えた。
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● 編集後記 |
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