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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−神経内科編 6 |
シリーズ企画 |
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筋ジストロフィー(筋強直性ジストロフィー,ジストロフィン異常症)
(松島理明・矢部一郎) |
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巻頭言:「ELSI・PPI最前線」に寄せて
(武藤香織・長神風二・吉田雅幸) |
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1. |
ELSI・PPI最前線
(加藤寿寿華・吉田雅幸) |
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昨今のゲノム医療や研究の発展は人々のQOLの向上に貢献することが期待される一方で,社会実装する際には様々な倫理的・法的・社会的課題(ELSI)を考慮することが重要である。本稿では,1990年代以降のヒトゲノム計画により発展したELSIの社会的背景を述べ,ゲノム研究・医療におけるELSIの動向を紹介する。また,研究者や医療従事者らが患者・一般市民らと協働する重要性を述べ,双方向で実施する患者・市民参画(PPI)のあり方とゲノム研究・医療において研究者らが患者・一般市民と参画する際に認識すべき点についてレビューする。
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1. |
ゲノム医療・研究の情報発信〜プレスリリースを中心に〜
(荒川美咲・長神風二) |
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ゲノム医療・研究が急速に発展し,その成果等を巡る広報やそれを受けた報道が増加している。ゲノム医療・研究は報道を受けて社会に及ぼす影響が直接的かつ大きいことから,筆者らは研究機関がメディアに向けて発信するプレスリリースに対して,ガイドを作成することが必要と考え制作中である。本稿では,その制作に向けて重ねている患者・市民参画の仕組みを活用した議論の経過を紹介するとともに,国内外の先行事例や具体的なガイドの項目案についても取り上げる。
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2. |
ゲノム医療・研究ニュースがテレビで放送されるまで
(水野雄太) |
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いまは多くの人にとってゲノム医療が急速に身近なものになっていく,その真っ最中だ。共通理解を進め,差別や不利益取り扱いなどゲノム医療がもたらす負の影響を限りなく少なくしていくためには,日々発表されるゲノム医療に関する研究成果が報じられ,社会に染みわたっていく過程が必要だと考えている。本稿では,主にテレビメディアの視点から,科学・医療に関するニュースがどのような取材・制作作業を通じて報じられていくのか紹介するとともに,研究者とメディアとの信頼関係に基づいたコミュニケーションの重要性について論じる。
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3. |
ゲノム医療・研究を報じる通信社記者の立場から
(岩村賢人) |
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ゲノムを解析する技術の進展は著しく,ゲノム研究・医療に関する研究成果は報道機関にも日々多数届いている。疾患診断や治療法開発への期待が高まる一方で,「ゲノム」,「遺伝」という言葉は偏見や差別に結びつくリスクを孕む。社会で遺伝情報を適切に扱っていくためにはどうしたらよいか。一人一人が考えるためには前提となる情報が必要である。基本的な知識だけでなく,ゲノム研究・医療の現状と展望,そして課題をできる限り多くの人にどうわかりやすく伝えるか。多くの報道機関に記事を配信する通信社の記者として,取材の流れや意識している点をまとめる。
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1. |
RUDY JAPANにおける患者・市民参画
(古結敦士・磯野萌子・加藤和人) |
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近年,医学研究のプロセスに患者・市民が参画することが広まりつつある。われわれは,2014年より複数の希少疾患を対象とする医学研究プロジェクト「RUDY JAPAN」を開始した。その中で,患者と研究者がプロジェクトの運営について話し合う「運営ミーティング」の開催や,各疾患領域における個別の調査研究について患者と研究者が一緒に検討を行うなど,複数の手法を用いて継続的に患者・市民参画を実践してきた。本稿では,その具体的な方法に加え,実践から得られた患者・市民参画の効果や課題について紹介する。今後,日本でも患者・市民参画を実践する研究プロジェクトが増えることを期待する。
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2. |
大規模コホート/バイオバンクにおける社会とのコミュニケーション
(長神風二) |
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大規模なバイオバンク/ゲノムコホートの構築・運営では,必然的に多くの一般住民の方々とコンタクトをもつ。15万人以上の一般住民の参加を受けて進められる東北メディカル・メガバンク計画において,筆者が進めてきた一般住民のcitizenとしての側面と,publicとしての側面の両面を考慮した,多様な市民参画の取組について紹介する。それらの成果として,東北メディカル・メガバンク計画は参加者と地元から一定の支持を得ることができ継続されている。
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3. |
患者と共に創る未来のがんゲノム医療:SCRUM-Japan MONSTAR-SCREENとFairy'sが生み出す共創の価値
(小村 悠) |
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本稿では,がんゲノム医療における患者・市民参画(PPI)の重要性と,国立がん研究センター東病院が進める産学連携ゲノムスクリーニングプロジェクト「SCRUM-Japan MONSTAR-SCREEN」におけるPPIの取り組み,そして本年(2024年)7月に設立された全国がん患者・市民参画プラットフォーム「Fairy's」について紹介する。Fairy'sは患者・市民と研究者が対話し,共に学び,共に創り上げていくためのプラットフォームである。「コミュニケーションの場」,「学びの場」,「研究参画の場」の三つの場を柱とし,患者・市民一人ひとりの声に耳を傾け,その想いを未来へとつないでいくFairy'sの実践について紹介する。
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4. |
ゲノム・遺伝に関する差別をめぐるがん・難病当事者の経験から
(武藤香織・森 幸子・天野慎介) |
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ゲノム医療推進法では,「当該ゲノム情報による不当な差別」があってはならないとしているが,患者や家族にとって十分な対応と言えるのだろうか。本稿では,2024年7月に収集した,がんと難病の当事者等が差別と感じた事例の調査結果を紹介する。がん・難病ともに,医療従事者や家族などからの言動に傷ついた経験や保険加入の拒否,匿名での誹謗中傷などが挙げられていた。諸外国で規制政策が進む民間保険や雇用での詳細な事例を収集できる体制整備,医療従事者への教育・啓発,家族・親族を含めた一般の人々に向けた啓発,インターネット上の誹謗中傷への対応が課題である。
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1. |
ヒトゲノム研究におけるベネフィットシェアリング再考
(楠瀬まゆみ・武藤香織) |
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ベネフィットシェアリングとは,研究参加者や研究参加コミュニティとの研究利益の公正・公平な配分を要請する概念である。本稿では,研究倫理における「ベネフィットシェアリング」の歴史的経緯や近年の議論を概説するとともに,日本の状況にも言及し,倫理的なベネフィットシェアリングのあり方や,研究参加者やそのコミュニティと共有されるべき利益について考えるための話題提供を行いたい。
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2. |
データの多様性確保をめぐる国際的な議論の動向
(佐藤桃子・武藤香織) |
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大規模なゲノム解析が可能になったことで,従来のゲノム解析の対象者が国際的に大きく偏ってきたことが問題視されるようになった。ここには,多様な人のゲノムを読むことが人類全体の恩恵となる知識生産につながるという観点と,ゲノム医療を公正に社会に実装するためには基礎研究の時点から多様なデータが必要であるという観点が影響している。しかし,これまで研究対象となってこなかった集団は社会的に周縁化されたコミュニティであることも多い。本稿は,そうしたコミュニティをゲノム研究に包摂し,彼らの意見を研究に反映させることで多様なゲノム研究データを確保するという取り組みを,国際的な文書・指針,米国のAll of Us Research Programの取り組み,カナダのSilent Genomesの倫理的方針という三つの側面から概観する。その上で,現在も海外で議論が続いている課題について,データのカテゴリー化に伴う問題と,先住民族をはじめとしたマイノリティのデータ保護という観点から紹介する。最後に,データの多様性確保という国際的潮流について,日本の文脈で捉えなおし,規制の状況などを確認したうえで,現在対応が必要な課題について考察を行う。
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3. |
ゲノム医療の適切な発展に資するAIの活用のあり方をめぐって
(三成寿作) |
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近年,人工知能(artificial intelligence:AI)に関する研究やその実用化が進展している。AIの実社会への応用は,著作物やアート作品の価値や成果物としての社会的な位置づけのみならず,医学研究や医療における学術的知見や診療のあり方といった点でも議論を提起している。本誌の主題であるゲノム研究やゲノム医療といった文脈においても,AIとの向き合い方が問われる状況に直面している。本稿では,最近,注目を集める欧州のAI法を,リスクベースド アプローチを中心に概説し,ゲノム研究やゲノム医療におけるAIの活用を通じて生じ得る可能性と課題を提示しつつ,最後にゲノム情報とAIおよび社会との関係性について規範的側面から考察する。
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原因不明の重症新生児に対する迅速な遺伝子診断
(武内俊樹) |
次世代シーケンサーを用いた網羅的遺伝子解析では,微量の血液から抽出されたDNAを解析することにより,数千の疾患を診断することが可能である。近年,この解析技術の飛躍的な進歩により,解析コストが低下するとともに,解析に要する時間が大幅に短縮されてきた。これにより,迅速な診断を求められる集中治療の現場において網羅的遺伝子解析が欠かせない診断ツールになってきている。また,遺伝専門部署や臨床遺伝の専門医の不在の医療機関においても,遠隔遺伝カウンセリングを活用することにより,診断を届けることが可能になってきている。
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NIPTを取り巻く最近の海外の動向 -対象疾患の現状と検査提供体制-
(柴田有花・山田崇弘・関沢明彦・山田重人・西垣昌和・三宅秀彦) |
胎児に対する非確定的検査の一つである非侵襲性出生前遺伝学的検査(NIPT)は,不必要な侵襲的検査を回避するために実施される。諸外国におけるNIPTの実施体制は様々であり,検査の対象者や対象疾患を各国の法規制や指針・ガイドラインを引いて紹介する。加えて,13,18,21トリソミー以外を対象とした場合の検査精度について,主な先行研究をレビューする。諸外国の動向を知ることは,本邦における出生前検査体制を検討する際に極めて重要であり,エビデンスの集積を継続することが求められる。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病),
難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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タナトフォリック骨異形成症
(堤 誠司) |
タナトフォリック骨異形成症は,周産期に診断される重症の先天性骨系統疾患では最も頻度の高い疾患の一つである。約20,000出生に1人の頻度で,巨大頭蓋,胸郭低形成,長管骨の短縮を示し,第二三半期の超音波断層法にて本疾患が疑われることが多い。線維芽細胞成長因子受容体3遺伝子の点突然変異により生じ,遺伝子解析による確定診断が可能である。死産や生後まもなく呼吸不全により死亡する例が多いが,人工呼吸器管理により長期生存も可能な例も報告されている。根本的な治療はなく,重度の呼吸・発達障害を伴うことから緩和的な療育が中心となる。
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近年のPGT-Mの検査法について
(真里谷 奨) |
PGT-M(preimplantation genetic testing for monogenic/single-gene defects)に用いる胚の生検検体は5?10細胞とごくわずかであり,全ゲノム増幅を経る必要があるため特有の検査上のピットフォールが存在する。そのため,個々の単一遺伝子疾患の確実な検査系の構築はテーラーメイドかつ複雑であるが,ロングリードシーケンサー等の新たなツールの活用により,複雑な構造異常を伴うバリアントやde novo の発端者など,多様な症例にも対応可能となっている。
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エピシグナチャー解析
(河合智子) |
特徴的顔貌・発育異常・知的障害を伴う先天異常疾患の中には,エピジェネテッィク制御に関与する遺伝子に病的多型を有する症候群が多数存在する。当該症候群の診断の手段として,「次世代シーケンサー」を用いた遺伝子配列解析が効を奏した例がある一方で,新規の病的意義不明の多型が検出され診断の確定に難渋する例もある。疾患責任遺伝子の機能異常による特有のDNAメチル化異常に注目したエピシグナチャー解析は,新規に検出された多型が病的であるか否かの判断に有用である結果が多くの症例で報告されている。本稿では,このエピシグナチャー解析の手法を紹介する。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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遺伝カウンセリングの潜在的クライエントを紹介に導くための取組み
(森屋宏美・竹下 啓) |
本稿では,Pelizaeus-Merzbacher disease(PMD)の裁判を例に,遺伝カウンセリングの潜在的クライエントが,遺伝カウンセリングを紹介されなかったことに伴い被った不利益について述べる。これに続く「実践的遺伝カウンセリングのコツ」では,遺伝カウンセリングを導入し定着するまでの過程を図示し,遺伝カウンセリング紹介率の向上のための取組みについて,われわれの所属施設での経験を踏まえ解説する。最後に,読者が自施設における潜在的クライエントを減らすための取組みを自己点検できるよう,チェック項目を示す。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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始まりは13歳のハローワーク〜着床前検査の今までと今後を考える〜
(庵前美智子) |
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CMT友の会〜医療・福祉で解決できないことをピアサポートのチカラで〜
(山田隆司) |
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● 編集後記 |
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