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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−神経内科編 5 |
シリーズ企画 |
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球脊髄性筋萎縮症
(松島理明・白井慎一・矢部一郎) |
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巻頭言 精神疾患のゲノム医療実現に向けて:病態解明と病態に基づく根本的治療薬開発
(尾崎紀夫) |
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1. |
当事者・家族が想う精神疾患の遺伝−ゲノム解析への期待を込めて
(夏苅郁子) |
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筆者は精神疾患の当事者・家族として,医療者が慣用する「遺伝負因」という専門用語に長く苦しんできた。科学的に正確ではないこのような用語を専門家が用いることは,精神疾患への偏見を助長する。一方で近年のゲノム解析の進歩は,当事者・家族の悲願である病態解明・個別化医療の実現に希望を与えている。ゲノム解析がさらに進歩するためには,当事者・家族,医療者,研究者が互いの理解を深めることが必要である。当事者・家族が精神疾患の遺伝をどのように捉えゲノム解析に何を期待しているのか,課題は何かを,旧優生保護法の歴史を踏まえ筆者の個人的な経験を通して専門家へ伝えたい。
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2. |
自閉スペクトラム症のゲノム解析−レアバリアントを中心に
(三宅紀子) |
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自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)は,主に社会的なコミュニケーションの困難さや空間・人・特定の行動に対する強いこだわりがあるなど,多種多様な障害特性のみられる発達障害の一つである。その発症には遺伝要因と環境要因の両方が寄与しており,大規模コホートや次世代シークエンサーを用いた網羅的ゲノム解析により,数多くの遺伝要因が同定されてきた。本稿では,遺伝要因の中でも単一遺伝子疾患としてのASDの要因となりうるレアバリアントについて述べる。
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3. |
統合失調症のゲノム解析−レアバリアントを中心に
(久島 周) |
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統合失調症のゲノム解析から,頻度が稀で発症に強い影響をもつレアバリアントが同定されている。22q11.2欠失などのゲノムコピー数バリアント(CNV)は発症リスクを数十倍に上げ,近年保険適用になったアレイCGHにより検査が可能となった。加えて大規模なエクソーム解析によるde novo バリアントの同定から,新規リスク遺伝子が見つかりつつある。さらにゲノム解析の知見に基づいた病態研究では,患者iPS細胞,死後脳,モデルマウスを用いた解析も進められている。本稿では,筆者らが進めている22q11.2欠失の解析を中心に紹介する。
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4. |
双極性障害のゲノム解析−レアバリアントを中心に
(浅井竜朗・西岡将基・加藤忠史) |
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双極性障害などの精神疾患の遺伝要因は長らく明らかにされてこなかった。しかし近年のゲノム解析技術の発展によりゲノム構造などの遺伝情報を網羅的に読み取り解析を行うことが可能となり,精神疾患に影響する変異や遺伝子が徐々にわかってきた。われわれはレアバリアントの中でも特に稀な変異であるデノボ変異・体細胞変異に着目し,孤発トリオを中心に354家系から双極性障害に関連する変異・遺伝子を探索した。本稿では,双極性障害デノボ変異・体細胞変異研究を中心に,その背景と今後の展望を述べたい。
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5. |
精神疾患のゲノム解析におけるポリジェニックリスクスコアの活用
(大井一高) |
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統合失調症,双極症,うつ病,および不安症は,臨床的および遺伝的に異種性をもつ精神疾患である。これらの疾患の異種性を軽減するためには,認知機能や性格傾向などの中間表現型が重要である。大規模全ゲノム関連解析(GWAS)によって,多くの関連ゲノム座位が同定されたが,個々のSNPの影響は微弱である。しかし,ポリジェニックリスクスコア(PRS)解析により,多数のSNPの相加効果を算出し,精神疾患や中間表現型に関わる遺伝構造をより高い割合で説明できることが示されている。本稿では,PRSを用いた精神疾患ゲノム解析研究結果について紹介する。
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6. |
向精神薬の治療反応性予測におけるPolygenic Risk Scoreの有用性の検討
(齋藤竹生・水谷周吾・青木 玲・岩田仲生) |
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向精神薬の治療反応性に関連する遺伝因子の同定は,大規模なサンプルを用いた研究が行われているが困難を極め,関連する遺伝子多型の効果の一つ一つは小さいことが予想される。一方で,近年では向精神薬の治療反応性の形質と精神疾患の形質の遺伝的重複をPRSで検討し,精神疾患の形質が治療反応性に関連する知見が示されてきている。本稿では,精神疾患のPRSと向精神薬(抗精神病薬,気分安定薬,抗うつ薬)の治療反応性について論じられた研究をレビューするとともに,向精神薬の治療反応性を予測する方法の一つとして精神疾患のPRSがどの程度の意味をもつのかについて論じる。
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7. |
精神疾患のImaging genetics
(大井一高・小池進介) |
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精神疾患はcommon diseaseであり,多因子遺伝が想定されている。脳画像研究により精神疾患の脳病態が理解され,精神疾患そのものを表現型とした遺伝子解析だけでなく,MRIで観察される皮質構造との関連を見るimaging geneticsも広く行われてきた。これまでのところ,大規模サンプルの解析による精神疾患,皮質構造双方の遺伝学的要因の共通性については一定の見解が得られ,今後はライフコースにわたる皮質構造の変化を加味した検討に移行しつつある。皮質構造が変化する要因はライフコースによって異なるため,ライフコースごとに遺伝学的要因を検討し,そのうえで精神疾患の遺伝学的要因と比較検討していく必要がある。
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8. |
リスクバリアントを有する精神疾患患者由来iPS細胞を用いた病態解析
(中澤敬信) |
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iPS細胞技術は,患者の遺伝情報をそのまま保持するヒト神経系細胞を作製することを可能にすることから,分子遺伝学研究により同定された精神疾患のリスクバリアントに関する分子細胞レベルの病態研究に有用である。近年,リスクバリアントを有する精神疾患患者のiPS細胞由来の分化神経細胞を用いた病態研究が精力的に推進されており,疾患と関連することが期待される神経機能の異常が見出されている。本稿では,ゲノムコピー数変異やde novo 変異といった,頻度が稀なリスクバリアントを有する精神疾患患者由来のiPS細胞を用いた病態研究を紹介する。
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9. |
リスクバリアントに基づく精神疾患モデルマウスを用いた病態解明と創薬
(田中里奈子・溝口博之・山田清文) |
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統合失調症は難治性の精神疾患である。既存の治療薬であるドーパミンやセロトニンなどの受容体阻害薬は,効果が限定的であること,および重篤な副作用が出現することが大きな問題である。したがって,既存薬の作用機序にとらわれない全く新しい新規治療法の開発が喫緊の課題である。そこで,われわれはゲノム解析を基盤とした新規治療標的の同定を行った。本稿では,日本人統合失調症患者のゲノム解析による統合失調症の発症に強く関連するARHGAP10 遺伝子コピー数バリアントの発見から,患者の遺伝子バリアントを模倣したモデルマウスの病態解明による新規治療標的Rhoキナーゼの同定について紹介する。
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10. |
精神疾患の解明に資する空間解析
(水野裕介・関 真秀・鈴木 穣) |
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次世代シークエンス時代の大量ゲノム解析の成果として,精神疾患に関連すると思われる遺伝子が遺伝学的手法により数多く同定されている。しかし,これらが生体のどこで,どのように機能しているかは依然不明である。これを明らかにするためにシングルセル解析など様々なオミクス解析が試みられてきた。
本稿では,組織学的な空間情報と遺伝子発現情報を統合する最新の空間トランスクリプトーム解析技術について詳解する。空間解析はここ数年のうちに解像度が1細胞を超え,個別の神経細胞・グリア細胞の遺伝子発現やその相互関係を解析可能な域に達しつつある。これらの解析技術は精神疾患関連遺伝子に組織学的情報を補完するものとして大きな期待が集まっている。
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がんにおける適切な個別化医療への現状と取り組み
(笹川 甫・桃沢幸秀) |
ここ15年あまりの間に,次世代シークエンサーの実用化によってゲノム研究は急速な進歩を遂げ,疾患の原因遺伝子が次々に同定されてきている。しかし,原因遺伝子の同定がすべて個別化医療につながっているわけではない。それぞれの疾患において適切な個別化医療につなげていくためには,多くの取り組みが必要である。本稿では,その中でも,各遺伝子における系統的なエビデンスに基づく評価や,疾患における集団・地域の差異を考慮した解析を中心に,がんにおける適切な個別化医療への現状と取り組みについて述べる。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病),
難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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Cowden症候群/PTEN過誤腫症候群
(川口智之・岡本耕一・高山哲治) |
Cowden症候群/PTEN過誤腫症候群は,PTEN 遺伝子の生殖細胞系列の病的バリアントにより生じる常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性疾患である。皮膚,粘膜消化管,乳腺,甲状腺,泌尿生殖器などに過誤腫性病変を多発する。また,乳がんや甲状腺がん,大腸がん,子宮内膜がん,腎がんなどの悪性腫瘍を合併するリスクが高い。がんの治療方針は,原則として散発性のがんに準じるが,同時性や異時性の発がんも少なくないことを考慮する必要がある。これらのがんは予後を規定する可能性が高いことから,本症候群を正確に診断し,適切にがんのサーベイランスを行うことが重要である。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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クライエントのニーズに合った遺伝カウンセリングを行うために −事前の情報収集の重要性とポイント−
(津幡真理・井泉瑠美子・新堀哲也・青木洋子) |
事前に当該疾患や遺伝医学情報・家系情報など患者背景とクライエントの相談内容をできるだけ正確につかむことは,ニーズに合った遺伝カウンセリングを提供するにあたり重要である。遺伝カウンセリングが必要とされる状況は様々であり,同一疾患に関する相談であっても発端者とクライエントとの関係や心配している対象,クライエントの状況によって遺伝カウンセリングで求められる情報提供の内容や支援は異なる。インテーク(予診)では単なる医学的な情報収集だけではなく,クライエント自身が抱える問題を安心して話せるよう配慮することが重要である。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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いのちの旅路を紡ぐ−我々はどこへ向かうのか−
(鈴木美慧) |
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“私の人生はいったい何だったのでしょうか”−ファブリー病は人生そのもの−
(原田久生) |
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〔原著〕軟骨無形成症児の保護者/家族が抱える問題とその支援に関する検討:質的研究の統合
(佐々木佑菜・柴田有花・向中野実央・松島理明・矢部一郎・山田崇弘) |
本研究では,質的研究から得られた知見を統合し,軟骨無形成症(ACH)児の保護者/家族が日常的に抱えている問題を明らかにした。テーマ分析を組み合わせたメタエスノグラフィックアプローチを用いることで,社会的障壁,家庭生活の変化,複雑な心理適応,医療資源への不満という四つの主要なテーマを特定した。保護者/家族は患児の生涯を通じた合併症の管理に対する不安と負担を抱えているほか,低身長に対する社会的イメージから苦痛を感じていることが明らかとなった。一方で,ACHの治療に対する考えは患児と異なることもあり,双方への対応が重要であると考えられた。
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● 編集後記 |
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