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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−神経内科編 4 |
シリーズ企画 |
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トリプレットリピート病(ハンチントン病,歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)
(松島理明・矢部一郎) |
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巻頭言:遺伝性腫瘍の新たな視点
(西垣昌和) |
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1. |
遺伝性腫瘍診療に関わるエビデンス蓄積に必要な考え方−疫学者の視点
(松尾恵太郎) |
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日本からも遺伝性腫瘍関連遺伝子の変異のがんリスクへの影響の大きさに関する大規模なゲノム疫学研究が報告されるようになった。本稿では,筆者もその解析・解釈に関わった二つの論文(Momozawa et al : JAMA Oncol 2022,Usui et al : N Engl J Med 2023)を実例として挙げ,その結果の解釈に関わる疫学的に重要な点を指摘した。また,同様のゲノム疫学研究を含む,観察研究全般の結果解釈において想定するべき誤差として,偶然誤差,系統誤差(選択バイアス,情報バイアス,交絡,交互作用)を挙げ,その一般的な吟味の仕方に関しての概説を行った。最後にゲノム疫学研究で検討しているのは罹患リスクに過ぎず,予後や死亡リスクを見ているわけではないことを挙げ,変異が存在した際にいかなる介入が必要かに関しては,臨床倫理も含めた判断が必要であると同時に,根拠のないものに関しては根拠を作る努力を伴うべきであることに触れた。
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2. |
マルチジーンパネル検査(MGPT)の社会実装に向けた方略−多施設共同臨床試験での経験から
(桑田 健・四十谷美樹) |
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SCRUM-Japanは,臓器横断的固形がん患者を対象とした産学連携全国がんゲノムスクリーニングプロジェクトで,4万例を超えるがんゲノム解析を実施してきた。現在実施中のMONSTAR-SCREEN-2およびBRANCH研究では生殖細胞系列プロファイリングとしてマルチジーンパネル検査(MGPT)などを用いて遺伝性腫瘍の同定を行っている。本稿では,主にBRANCH研究での経験をもとに,本邦のMGPTの社会実装に必要な体制とその課題を含め紹介する。
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3. |
遺伝性腫瘍症候群の着床前遺伝学的検査−海外の現状や潮流と日本での課題
(田辺記子) |
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遺伝性腫瘍症候群に対する着床前遺伝学的検査(PGT-M)が日本国内で実施されたという報告はない(2024年2月現在)。海外では各国で規制・指針や仕組みが検討され,遺伝性腫瘍症候群の着床前遺伝学的検査が実施されている。本稿では,海外における遺伝性腫瘍症候群のPGT-M実施状況について概観するとともに,日本での今後の状況について考える。
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4. |
遺伝性腫瘍診療の日米比較から日本の課題を抽出する
(田村智英子) |
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米国の遺伝性腫瘍診療は,遺伝子情報をがんの治療や予防に最大限活かすという目標の下,柔軟に診療モデルを変更しながら急速な勢いで進歩してきた。日本においても,この目標を意識して,遺伝性腫瘍の最新知見に基づく診断や治療の迅速な臨床応用を目指し,遺伝学的状況に基づく個別化されたがん予防策を推進するための仕組みづくりが急務である。同時に,遺伝子配列バリアントの病的意義の解釈の標準化と検査機関や施設を超えた解釈データの共有,PGT-Mという選択肢の提示,遺伝学的検査の適切な選択のためのノウハウ共有なども今後の課題である。
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5. |
遺伝に関する差別とゲノム医療推進法
(河田純一・武藤香織) |
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2023年6月に成立した「ゲノム医療推進法」では,日本の政策で初めて遺伝に関する差別について言及された。しかし,同法における遺伝に関する差別は,ゲノム解析データに基づく不当な差別に限定されており,国際的な定義のように,遺伝に関する「推測」までを含めた対策には及んでいない。がん患者は「がん」特有のスティグマに悩まされており,遺伝性腫瘍を,さらなるスティグマの源にしないことが重要になる。また,遺伝性腫瘍の発症頻度が高い小児・AYA世代では,人生設計にも大きな影響が考えられ,心理社会的な支援を含むサポート体制が求められる。
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6. |
ゲノム医療推進法の成立後の遺伝性腫瘍診療に期待するもの−市民の目線から
(天野慎介) |
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2019年にがん遺伝子パネル検査が保険適用,また全ゲノム解析等実行計画も策定され,2020年にはHBOC診療の一部が保険診療として認められた。がんゲノム医療においては治療到達率が低い点や,遺伝子パネル検査が初回治療から使えない点などが課題としてあり,遺伝性腫瘍診療について,各地のがん診療連携拠点病院において,遺伝カウンセリングやリスク低減手術を自施設ですべてフォローすることができていないため,体制整備が求められている。2023年に成立したゲノム医療推進法に基づき,保険や就労分野を中心に不当な差別への対応が求められている。
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【座談会】 ゲノム医療推進法成立後に見えてくる新たな視点と課題
(モデレーター:西垣昌和)
(ディスカッサー:武藤香織・天野慎介・井本逸勢) |
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オミックス情報とAIを用いたがんの予後予測
(笹川翔太) |
がんの中でも食道扁平上皮がんは,その治療と予後の難しさから注目されている。この研究では,オミックス技術と説明可能なAI,ランダムフォレストという機械学習法を組み合わせて,食道扁平上皮がん患者の化学療法反応性を予測した。臨床データとゲノム,免疫情報の統合により,術前化学療法の個別化が可能となり,新しい治療アプローチとして免疫細胞の動きを深く理解することが示された。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病),
難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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軟骨無形成症を胎児期から診る
(上妻友隆) |
軟骨無形成症(achondroplasia:ACH)は予後が比較的良好な骨系統疾患の中でも特に頻度が高い疾患である。線維芽細胞増殖因子受容体3(fibroblast growth factor receptor:FGFR3)遺伝子の変異によって骨の軟骨内骨化が妨げられ,主に長管骨の長軸方向の伸びが障害される。日本における妊婦健診では,ほぼ必ず経腹超音波断層法(いわゆる胎児エコーによる胎児推定体重計測)が行われるため,胎児期から軟骨無形成症が疑われる例が少なくない。ところが骨系統疾患には多くの鑑別疾患があるため,臨床の現場で胎児診断は容易ではない。2022年から本疾患に対する新治療薬ボソリチドが日本でも発売され,その効果が期待されている。
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マイクロサテライト不安定性(microsatellite instability:MSI)とTumor Mutation Burden(TMB)
(奥川喜永・橋詰令太郎・今井 裕・西川香奈子・望木郁代・中谷 中) |
第四のがん治療として免疫チェックポイント阻害剤の効果が明らかとなり,その有効性が期待できるバイオマーカーの同定が,特に作用機序の観点から進んできた。特にすでに保険診療として提供可能なマイクロサテライト不安定性(microsatellite instability:MSI)とtumor mutation burden(TMB)は重要となるが,その測定方法には種々の方法が存在し,検査技術の進捗も影響するため,検査方法の長所と短所を理解しておく必要がある。また日進月歩で薬事承認状況も進捗を遂げている。本稿では,免疫チェックポイント阻害剤の適応可否の判定に行われているMSIとTMBについて詳述する。
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VUSに対する機能解析によるPathogenicityの推定法
(高阪真路) |
がんゲノムプロファイリング検査では広範囲のゲノム情報を探索するために意義づけ不明の変異(variant of uncertain significance:VUS)が多く発見される。各遺伝子バリアントの遺伝子型(genotype)が,どのような表現型(phenotype)を付与するかを評価することは,がんの発症リスク評価,診断,治療効果予測などに重要である。大規模なVUSの機能データベースを構築することは,個々の患者への最適な治療法の提供につながると同時に,がんの生物学の理解を深めることで新たな治療法の開発につながる。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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光合成能喪失によるゲノム進化:従属栄養性珪藻を例に
(神川龍馬・坂本美佳・中村保一) |
光合成を進化的に喪失した"元"光合成生物は数多く存在する。そのような生物は,他生物から栄養を奪いさらにその生物に害を与える寄生性,他生物を捕食する捕食性,水中に溶存する栄養を吸収する吸収栄養性により増殖する。では光合成能喪失に伴ってゲノムはどのような進化を遂げるのだろう。光合成能を喪失した吸収栄養性生物のゲノムが,学術変革領域「学術研究支援基盤形成」先進ゲノム支援(先進ゲノム解析研究推進プラットフォーム)の援助のもと解読され,その進化の一端が明らかになったのでここに紹介する。
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● 編集後記 |
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