|
内容目次 |
|
● 目で見てわかる遺伝病
−神経内科編 1 |
シリーズ企画 |
|
ミトコンドリア病
(松島理明・水島慶一・矢部一郎) |
|
|
|
|
|
|
巻頭言:
「統合オミックス解析」の最前線
(熊坂夏彦) |
|
|
|
|
|
|
総論:疾患の病態解明に向けた統合オミックス解析
(永江玄太) |
|
次世代シークエンサーの高並列化・低コスト化は様々な網羅的分子プロファイリングを可能にし,国際コンソーシアムを中心とした大規模なデータベース化を加速した。こうした多層オミックス情報を活用し横断的に解析することで,多次元の分子生物学的特徴からヒトの疾患病態を理解する時代にわれわれは直面している。ヒトゲノム多様性のカタログと近年発達している高解像度生物学をうまく活用することで,疾患病態のより精密な理解が進み,新たな診断や治療などにつながっていくことを期待する。
|
|
|
1. |
ロングリードシークエンス技術を用いたヒト遺伝的多様性の解析
(藤本明洋) |
|
多型や変異の検出と,それらの機能的意義の解明は,人類遺伝学にとって最も重要な問題である。ロングリードシークエンス技術は,次世代シークエンサー(ショートリード)が見逃している遺伝的多様性や変異の検出などに大きく貢献することが期待されている。しかし,エラー率の高さなどの問題から,解析は必ずしも容易ではない。本稿では,ロングリードシークエンスを活用したゲノム解析の三つの例(ショートリードの解析法の開発のための正解データとしての利用,全ゲノムシークエンス,de novo アセンブル)を挙げ,ロングリードシークエンスの有用性について紹介する。
|
|
2. |
Molecular quantitative trait locus(molQTL)の統計的fine-mappingとcolocalization解析
(金井仁弘) |
|
ヒトゲノム配列解読技術の著しい発達により,ゲノムワイド関連解析(GWAS)を通じた疾患感受性遺伝子座の網羅的同定が可能となった。こうした疾患感受性遺伝子座の多くはゲノムの非コード領域に存在し,その機能の理解は重要な課題となっている。本稿では特に,molecular quantitative trait loci(molQTL)と呼ばれる領域に着目し,その統計的fine-mappingや疾患GWASとのcolocalization解析について概説する。molQTLを上手く活用することで,疾患感受性遺伝子座と共通の原因変異の同定や,生物学的メカニズムの解明が進むと考えられる。また最終的には,原因変異の絞り込みをもとに,疾患の発症・進行に関与する重要な標的分子の同定や,治療薬の開発や疾患の早期診断などの医療応用につながることが期待される。
|
|
3. |
深層生成モデルから読み解く細胞間コミュニケーション
(島村徹平・小嶋泰弘) |
|
空間トランスクリプトーム計測技術の発展により,組織内での遺伝子発現の空間的分布を計測することが可能となった。しかし,この技術は空間解像度や遺伝子発現の計測範囲などに課題を抱えている。本稿では,これらの問題を解決するため,シングルセルシークエンスデータと空間トランスクリプトームの情報を統合し,細胞の空間的な分布を詳細に理解するために開発した手法であるDeepCOLORについて紹介する。この手法を用いることで,各細胞の遺伝子発現プロファイルとその空間的な分布を高解像度で解析し,微小環境における細胞間コミュニケーションを詳細に探索することが可能となる。
|
|
4. |
ロングリードシークエンス技術によるシングルセル・空間トランスクリプトーム解析
(藤井元人・善光純子・鈴木 穣・関 真秀・鈴木絢子) |
|
本稿では,シングルセルおよび空間トランスクリプトームデータを取得する際に,ロングリードシークエンサーによって解析する手法とその応用について紹介する。シングルセルRNA-seqおよび空間トランスクリプトーム解析にて得られる細胞および空間情報が付随した全長cDNAを,ロングリードシークエンサーで解読することにより,各細胞・スポットのスプライシングパターンやcDNA上の多型・変異ステータスを計測する。これにより,遺伝子発現量だけにとどまらない様々な転写産物ステータスを1細胞および空間レベルで明らかにすることができる。
|
|
|
1. |
ヒト心臓のマルチオミクス解析
(金丸和正) |
|
細胞の機能は,その内在性因子と細胞が局在する組織微小環境によって定義される。ヒトの心臓は,形態学的および機能的に異なる左右の心室心房と,伝導系・血管系・弁装置などで構成される動的臓器であり,数十億の細胞が同期して機能している。われわれはシングルセルオミクスおよび空間的トランスクリプトミクスを用いて,ヒト心臓の各領域において細胞群が形成する細胞微小環境と細胞間相互作用を解析した。また心筋症患者の細胞プロファイルをシングルセルトランスクリプトーム解析により示した。本稿では,その解析手法と結果,および今後の課題,展望について議論する。
|
|
2. |
COVID-19の重症度に関連した末梢血単核細胞のシングルセル解析
(白井雄也・枝廣龍哉・熊ノ郷 淳・岡田随象) |
|
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を対象としたゲノムワイド関連解析(GWAS)では,重症化に関わる遺伝子多型が報告されているが,遺伝的多型がどのように病態につながるかは不明である。日本人集団を対象とした末梢血単核細胞シングルセル解析を行うことで,COVID-19重症例では単球を中心とした自然免疫応答が低下していることを見出し,GWASで同定された宿主因子が自然免疫系の賦活化に関連していることを示した。シングルセルデータと宿主ゲノム情報の統合解析は,病態解明への強力なツールであり,遺伝子多型に基づく個別化医療に貢献する可能性がある。
|
|
3. |
T細胞受容体レパトアの個人差で説明される自己免疫疾患の発症リスク
(石垣和慶) |
|
自己免疫疾患の本質的な病態は,HLA とT細胞受容体によって制御される自己組織に対する抗原特異的な免疫応答である。そして,HLA 遺伝子のアミノ酸配列の個人差(アミノ酸多型)は自己免疫疾患の最大のリスク因子である。そこでわれわれは独自の解析手法を考案し,HLA のアミノ酸多型とT細胞受容体との網羅的な関連解析を実施して,発症リスクの高い個人では自己反応性T細胞の頻度が増加していることを示した。本稿では,この研究で得られたリスク多型の免疫学的機能に関する新しい知見を中心に紹介する。
|
|
4. |
腫瘍微小環境の空間トランスクリプトーム解析
(河村大輔・石川俊平) |
|
腫瘍微小環境はがん細胞の増殖や進展,転移などあらゆるプロセスにおいて重要である。近年,空間トランスクリプトーム解析技術の登場により,空間情報を保持したまま遺伝子発現プロファイルを得ることが可能となった。これにより,腫瘍微小環境における細胞間の相互作用や空間的構造の詳細が明らかになることが期待される。本稿では,腫瘍微小環境の研究における空間トランスクリプトーム解析の重要性とその応用について,最新の研究事例を交えて紹介する。また,現状の課題と今後の研究の展望についても考察する。
|
|
5. |
小児白血病のマルチオミクス解析
(磯部知弥・滝田順子) |
|
小児白血病は,成人を含むあらゆる悪性腫瘍の中で最も劇的に生命予後が改善してきた腫瘍の一つである。その背景には,時代ごとに最先端の技術を駆使して病態解明を試みる生物学的研究が存在した。オミクス研究は,2000年代以降の小児白血病研究の主役であり,臨床での意思決定を変える発見を数多く生み出した。最新のシングルセル解析技術も含め統合的なマルチオミクス解析は,過去にない解像度でさらなる疾患分類と病態解明をもたらすことが期待される。本稿はランドマークとなる研究に触れながら,現在までとこれからの小児白血病のオミクス研究を展望する。
|
|
|
● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
|
脊髄小脳失調症(SCA)
(松島理明・矢部一郎) |
脊髄小脳変性症は,小脳性運動失調を主症状とし,常染色体顕性遺伝(優性遺伝)である脊髄小脳失調症(SCA)が遺伝性の多くを占める。病型により症状は多彩であり,表現促進現象を呈するものもある。二次性運動失調症を除外し遺伝学的検査にて診断が確定する。SCAの治療は現時点では対症療法であるが,新規治療方法開発は進行中である。SCAの発症前診断の遺伝カウンセリングは現時点では慎重に検討する必要があるものの,疾患修飾療法が実用化すれば,その在り方も変わってくることが予想される。
|
|
|
|
生殖細胞系列遺伝性腫瘍多遺伝子パネル検査
(吉田玲子・櫻井晃洋) |
従来の遺伝性腫瘍症候群に対するアセスメントは,標的臓器のがん発症歴・がんの臨床病理学的特徴や家族歴などの"表現型"に基づいて行われてきたが,NGSによるハイスループットな解析が可能となり,遺伝型から表現型に介入する"genomic first"のアセスメントの機会が増加している。欧米ではすでに主流となっている多遺伝子パネル検査(MGPT)は,感度が高く効率の良い手法であり,本邦でも本格的な臨床実装が期待される。
|
|
|
|
新たなゲノム編集機能を介した女性ES/iPS細胞における不可逆的なエピゲノム異常のレスキュー法の開発と分化能力の改善
(福田 篤) |
ヒト多能性幹細胞(ES/iPS細胞)は,ヒト細胞研究における中心的な役割を担っている。特に疾患iPS細胞の活用は,ヒトの疾患をgenotype-phenotypeベースに解析が可能であり,創薬開発において今後ますますの発展が期待されている。しかし女性ES/iPS細胞では,通常の培養によって不可逆的なエピゲノム異常(X染色体不活化の部分的破綻)が必発する。本稿では,ゲノム編集の新たな側面を活用した女性ES/iPS細胞における不可逆的なX染色体不活化のレスキュー法について概説する。
|
|
|
● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
|
Germline Findingsに対する遺伝カウンセリング−がん遺伝子パネル検査を中心に−
(二川摩周) |
本邦では,がん遺伝子パネル検査が保険収載されたことで,治療や薬剤選択を目的としたがんゲノム医療が急速に普及した。それに伴い,生殖細胞系列病的バリアントの所見(germline findings)を認める機会も増加している。がん遺伝子パネル検査の受検者や血縁者が遺伝情報を主体的に利活用するためには,個々の医療者がgermline findingsの意義を適切に理解したうえで,多種職診療科横断的なフォローを継続することが重要である。
|
|
|
● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
|
|
|
|
Cowden症候群当事者会「ほっこり」立ち上げに際しまして
(井上奈緒美・井上浩幸) |
|
|
|
|
〔原著〕
がん遺伝子パネル検査についての受検患者の意識調査−患者背景の影響
(鈴木紀子・村瀬紗姫・仲間美奈・二村 学・森重健一郎) |
岐阜大学医学部附属病院において,2019年8月から2022年3月に保険診療でがん遺伝子パネル検査受検を希望した患者223例に対し意識調査を行った。アンケートを回収できた41例の分析では,「ゲノム」などの用語の認知度は低いが,検査の理解度は高かった。自費治療,治験参加,遠方での治療に対しては,高収入,若年,高学歴群で積極的な姿勢がみられた。二次的所見は76%の患者が「知りたい」と回答したが,結果が自分や血縁者の健康管理に役立つと認識している患者は約半数であった。調査結果を検査前後の説明に反映させることで,患者のよりよい意思決定支援につなげたい。
|
|
|
|
〔症例報告〕
先天性筋強直性ジストロフィー1型の患児の確定診断をめぐり両親への対応に苦慮した事例−根治的治療法がない疾患の発症前診断につながる可能性への配慮−
(横浜祐子・蒔田芳男・長屋 建・澤田 潤・加藤育民) |
先天性筋強直性ジストロフィー(congenital myotonic dystrophy:CDM)は筋強直性ジストロフィー1型の最重症型であり,CDMの児の両親のどちらかが病的バリアントをもつ。他覚的には発症しているが,自覚症状のない例に対する遺伝学的検査は発症前診断に相当すると考えられ,予防法・治療法のない疾患では心理・社会的問題が大きく,検査前に遺伝医療部門での専門的な遺伝カウンセリングが必須である。今回遺伝学的に確定診断されたCDMの児の両親に対して遺伝医療の専門家による遺伝カウンセリングが行われないまま遺伝学的診断を行い,どのように告知するかが問題となった事例を経験した。結果告知前に遺伝カウンセリングを行ったことで告知を受容できた例を報告する。
|
|
|
|
|
● 編集後記 |
|
|
|