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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−整形外科編 5 |
シリーズ企画 |
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先天性多発性関節拘縮症,神経線維腫症1型
(高畑雅彦・小野寺智洋・高橋大介・岩崎倫政) |
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巻頭言:
遺伝医療における遺伝学的検査の最前線
(難波栄二) |
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1. |
遺伝学的検査の品質・精度の確保と難病領域に対する指針
(難波栄二) |
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病領域の遺伝学的検査は,従来研究室での実施が中心であった。しかしゲノム医療推進のため,遺伝学的検査の品質・精度の向上を目的として,検体検査に関する医療法等が2018年に改正された。これ以降,研究室での検査実施が困難となり,この対応のために「難病領域における検体検査の精度管理体制の整備に資する研究班」(難波班)が発足した。難波班では難病領域の検査体制の充実を図り,遺伝学的検査の具体的対応と今後の方向性を示す「難病領域の診療における遺伝学的検査の指針」を策定した。
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2. |
遺伝学的検査の保険収載
(黒澤健司) |
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遺伝学的検査は,平成18(2006)年の進行性筋ジストロフィー症のDNA診断に始まり,令和4(2022)年度診療報酬改定までに191疾患で適用となり,遺伝カウンセリング加算も加わっている。この適用拡大で重視されることとして,分析的妥当性,臨床的妥当性,臨床的有用性が確立していることが挙げられる。これまでの拡大により指定難病に含まれる遺伝性疾患の約8割で遺伝学的検査が保険収載された。今後は,①診断基準における遺伝学的検査の位置づけの再考,②指定難病を兼ねない小児慢性特定疾病での遺伝学的検査の保険適用,③網羅的な遺伝学的検査の導入,などが課題として挙がる。
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3. |
難病領域の遺伝学的検査の実際
(細川淳一・小原 收) |
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遺伝性難病に対する遺伝学的検査は,確定診断に重要であり,治療方針や予後にも多大な影響を与えうる検査である。かずさDNA研究所の遺伝学的検査室は2017年に衛生検査所登録をし,以降,保険収載された遺伝学的検査を含めた広いニーズに応えられるように生殖系列の遺伝学的検査を拡充してきた。臨床の現場に求められるものは,結果の正確性,迅速性,採算性,ならびに専門家によるサポート体制であると考える。本稿においては,当検査室の遺伝学的検査の実際についてまとめた。
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4. |
難病領域における遺伝学的検査の情報提供
(足立香織・佐藤万仁) |
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平成18(2006)年に初めて遺伝学的検査が保険収載され,平成27(2015)年に難病法が施行された影響もあり,近年,保険診療で実施できる遺伝学的検査は大幅に増加した。海外では遺伝学的検査の実施項目や実施施設のデータベース化がなされており,オンラインでの検索が可能となっている。一方,日本ではそのような横断的な取り組みはこれまで行われていなかった。著者らが参画した研究班にて,「保険収載された難病領域の遺伝学的検査(D006-4 遺伝学的検査,D006-26 染色体構造変異解析)」がどこで実施されているのか,ワンストップで検索できるポータルサイトを構築したので紹介する。
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5. |
未診断疾患イニシアチブ(IRUD)の現状と今後
−研究と診療のつながり
(要 匡) |
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診断が困難な希少疾患は,網羅的ゲノム解析が有効で,海外でも注目され,様々な大型プロジェクトが進行している。わが国では,2015年より全国の診断困難な患者に対する希少・未診断疾患イニシアチブ(IRUD)が開始され,約7年半が経過した。現在までに全エクソーム解析等により,診断困難患者の43.8%で診断が判明し,新規疾患も明らかとなるなど,希少・難病研究に大きく貢献している。本研究プロジェクトは,わが国の難病ゲノム医療体制構築のための基礎となりえるなど,最も費用対効果,波及効果が高い。一方,希少・難病患者へより良い医療を届けるため,研究と医療とを明確に区別し,連携させるスキームの構築が重要な課題となっている。
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6. |
遺伝学的検査における遺伝カウンセリングの実際
(岡崎哲也) |
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遺伝カウンセリングは疾患の遺伝的要因がもたらす様々な影響に対し,それを理解し適応することを支援するプロセスである。遺伝学的検査における遺伝カウンセリングでは,クライエントが遺伝学的検査を適切に活用できるよう,まず最新の正しい情報を収集,解釈し,わかりやすく情報提供を行う必要がある。そのうえで遺伝情報の特徴を踏まえたうえでの自律的な意思決定,適応に関し心理的・社会的支援を行う。遺伝学的検査の診療の場での重要性が近年急速に増しており,専門や職種によらず,すべての医療者は遺伝カウンセリングの基本的な態度・技術に関する知識を有する必要がある。
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7. |
保険収載されたマイクロアレイ染色体検査
(原田直樹) |
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体外診断薬GenetiSure Dx Postnatal Assay「アジレント」を用いた出生後マイクロアレイ染色体検査の健康保険適用が2021年10月に実現した。本検査結果報告書には,検出バリアントの物理位置などを記載した図表とISCN表記が記載されるのみで,患者の診断に資するバリアントの病原性評価は医療側に委ねられることとなった。バリアント評価では,各種データベースを参照して病原性の有無を確認し,患者の臨床所見との相関を詳しく分析する専門的な技量が要求される。本稿では,診断薬製品の仕様と特性,検査の有用性と留意点,そして医療者に要求される結果解釈の具体的手順について述べる。
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8. |
難聴の遺伝学的検査
(宇佐美真一) |
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日本人の難聴患者1万名における遺伝的疫学データでは,約40%の患者に難聴の原因となる様々な遺伝子のバリアント(変異)が見出され,難聴の原因として遺伝子が重要であることが明らかとなっている。2022年には保険収載された難聴の遺伝学的検査の解析対象が50遺伝子1135変異に大幅に増加し,多くの症例で原因遺伝子が同定可能になった。現在,全国の施設で難聴の遺伝子診断は患者の経過観察,治療法の選択,遺伝カウンセリングに活用されている。
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9. |
遺伝性腫瘍の遺伝学的検査
(吉田玲子) |
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がんのゲノム情報には,腫瘍組織のゲノムの変化だけではなく,遺伝性腫瘍の体質の情報も含まれ,治療やリスク管理の予防医療を考えるうえでパラメータの一つとなっている。本邦でも一部の遺伝性腫瘍の遺伝学的検査は保険適応となったが,海外では多遺伝子パネル検査が主流となっている。遺伝性腫瘍の多くが症候群を呈し,臓器横断的・診療科横断的なアセスメントとマネジメントが可能な診療体制の構築が必要である。
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10. |
がんゲノム医療におけるGermline findingsの基本的知識と課題
(井本逸勢・高磯伸枝・市川眞琴) |
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本邦では,2019年から,がん遺伝子パネル検査による包括的がんゲノムプロファイリングの結果に基づき治療の提案を行うがんゲノム医療が開始された。この検査では,治療標的やマーカーとなる腫瘍特異的な体細胞バリアントに加え,本来の目的ではない二次的所見として,主に遺伝性腫瘍の原因遺伝子に生殖細胞系列の病的バリアントが検出されうる。受検者や血縁者の医学管理に有用な情報ととらえて二次的所見を遺伝性腫瘍診療につなげるためには,各検査の特性や限界を理解して用いることが重要である。
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先天性甲状腺機能低下症の遺伝学
(鳴海覚志) |
先天性甲状腺機能低下症とは,甲状腺の先天異常により甲状腺ホルモンの合成量が低下する病態の総称である。先天性甲状腺機能低下症のうち,甲状腺腫を伴う症例において従来からメンデル遺伝の寄与が想定されてきたが,このコンセプトの正しさはヒト遺伝学にDNA配列解読技術が導入された1990年代に次々と明らかにされた。一方で甲状腺腫を伴わない症例では,メンデル遺伝を病因とする症例は稀であり,その病態の解明が待たれている。本稿では先天性甲状腺機能低下症の遺伝学研究のこれまでの流れに加え,最新知見と現状の課題を紹介する。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
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筋疾患
(斎藤良彦・西野一三) |
近年,希少疾患の遺伝学的診断を目的とした全エクソーム解析/全ゲノム解析が施行されることが多くなってきているが,Duchenne型(DMD)/Becker型筋ジストロフィー(BMD)の一部,顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー(FSHD),眼咽頭型筋ジストロフィー(OPMD)や眼咽頭遠位型ミオパチー(OPDM)は,通常のショートリードシークエンスでは遺伝学的診断を確定することができない。本稿では,DMD/BMD,FSHD,OPMD/OPDMの遺伝学的診断について,新しい解析手法も含め概説する。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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特発性血栓症
(根木玲子・宮田敏行) |
特発性血栓症(遺伝性血栓性素因によるものに限る。)(指定難病327)は,血液凝固制御因子のアンチトロンビン,プロテインC,プロテインSの先天的欠乏により病的血栓傾向となり,若年性(40歳以下)に重篤な血栓症を発症する疾患群である。新生児・乳児期には脳出血・脳梗塞や電撃性紫斑病などを引き起こし,小児期・成人では時に致死性となる静脈血栓塞栓症の若年発症や繰り返す再発の原因となる。遺伝性血栓性素因には,日本人に集中してみられる病的バリアントも含まれる。凝固制御因子の活性値からの診断も可能であるが,その場合は診断方法・診断時期に注意が必要である。
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がん遺伝子パネル検査におけるliquid biopsy使用の利点とピットフォール
(牛山心平・中村能章) |
腫瘍細胞から血液や体液に滲出した血液循環腫瘍DNA(circulating tumor DNA:ctDNA)を検査するliquid biopsyは,検体採取の容易さ,リアルタイムで腫瘍全体のがんゲノム異常を評価できる点から,治療法選択,耐性モニタリングをはじめとする有用な検査ツールとして臨床現場で利用されはじめている。一方,ctDNAの滲出量が少ない症例では遺伝子異常の評価が困難である点や,クローン造血の区別が難しいといった短所もある。ctDNA検査の特徴をよく理解し,腫瘍組織とctDNAの遺伝子パネル検査をいかに使い分けるかが,今後のがんゲノム医療において重要である。
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診断のためのグライコミクス解析
(和田芳直) |
糖鎖が関わる遺伝子病は糖鎖合成異常症(先天性グリコシル化異常症,congenital disorders of glycosylation:CDG)と糖鎖分解異常症に分類される。診断目的で糖鎖構造解析が行われるのはN型とO型糖鎖の合成障害で,それぞれトランスフェリンとアポリポタンパクCⅢを分析する。糖鎖分解異常症のうち代謝物としての糖鎖断片が血液中や尿中に出現する疾患では,それらを定量する。いずれも汎用型の質量分析計により実施可能で,遺伝子解析結果を補完する表現型解析を容易にしている。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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小児領域における遺伝カウンセリング
(金子実基子) |
子どもに何らかの遺伝性疾患があるとわかることは,親にとって衝撃となる。小児領域における遺伝カウンセリングで遺伝専門職は,様々な職種と協働し,疾患に関連する最新情報を定期的にアップデートしながら,疾患とともに生きる本人やその家族が,疾患とうまく付き合いながら日々の生活を快適に過ごせるように,継続的に対応していく。疾患とうまく付き合うためには,本人や家族がその体質を知り理解することが重要となるため,定期的な関わりの中で,理解に合わせた情報提供・支援を行っていくことが大切である。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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beingな遺伝カウンセリングを目指して
(井上(山下)沙聡) |
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北海道小鳩会(ダウン症児・者親の会)
(三好明子) |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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日本マウスクリニック
(山田郁子・古瀬民生・田村 勝) |
日本マウスクリニックでは,研究コミュニティに対して遺伝子変異マウスの網羅的表現型解析支援事業を実施している。マウスの全身を網羅的に検査して身体的な表現型の検出を行うパイプライン1と,様々な場面におけるマウスの行動を観察し多角的にマウスの認知的・心理的状態を評価するパイプライン2を整備し,これらを用いて様々な表現型を見出してきた。われわれは,質の高い詳細な表現型解析を行うことで,新たな疾患モデルの開発やマウスリソースの付加価値向上に貢献することを目指している。
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〔原著〕
ドイツの妊娠葛藤法を参考にした,
日本における出生前遺伝学的検査の支援体制
(森本佳奈,山田崇弘,池袋 真,坂本美和,廣瀬達子,
関沢明彦,小杉眞司,白土なほ子) |
NIPTの厚労省専門委員会報告書に基づき,行政機関から包括的支援の一環として出生前検査に関連する支援が開始される。行政機関の支援体制を検討するために,ドイツの出生前検査に関連する公的支援について調査を行った。日本とは法的状況や社会的背景が異なり,矛盾をはらむ面はあるものの,医療機関とは独立して「妊娠相談」や「妊娠葛藤相談」を扱うドイツの「相談所」の担当者は,中立的な立場から相談者の自律を尊重しており,日本の行政機関担当者に求められる態度と共通していた。
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● 編集後記 |
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