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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−整形外科編 3 |
シリーズ企画 |
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点状軟骨異形成症,大理石病
(高畑雅彦・小野寺智洋・高橋大介・岩崎倫政) |
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巻頭言:環境の影響とその遺伝・DOHaD
(秦 健一郎) |
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1. |
DOHaD学説と臨床疫学研究から見た本邦の現状
(森崎菜穂) |
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1980年代に出生体重と成人病の関連の報告から始まったDOHaD研究は,いまや代謝内分泌学,栄養学,公衆衛生学,精神科学,分子生物学,微生物学など数多くの分野にまたがって行われている。日本では低出生体重児の増加の長期的な影響への懸念から社会的な関心も高まり,DOHaD研究の重要性が再認識されている。また,環境が与える影響が遺伝的背景により大きく異なることがあることも明らかになりつつある。幼少期環境を最適化するエビデンスを算出するためには,今後,遺伝要因と環境要因の複合効果に注目した研究の活性化が望まれる。
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2. |
ヒト周産期異常症例で実際に観察される環境依存的エピゲノム変化とその遺残
(鹿嶋晃平・河合智子) |
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妊娠前あるいは子宮内での不適切な環境が児の将来の成人後疾病(noncommunicable diseases:NCDs)の発症に関わるとするDOHaD学説が広く知られてきている。DOHaDの本態として,DNAメチル化をはじめとしたエピジェネティック制御の長期遺残が考えられている。近年DNAメチル化に注目した分子疫学所見が蓄積されつつあり,DOHaDモデル動物を用いたエピゲノム解析の結果もヒトへ還元されつつある。糖代謝・早産・妊娠中栄養摂取によるエピゲノム変化はDOHaD研究の中でも特にめざましく研究されている分野である。本稿では,その中の最新の所見や自験例の所見を概説する。
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3. |
胎児期から乳幼児期におけるT細胞応答
(篠藤祐也・本田吉孝・上野英樹) |
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従来,乳幼児期のT細胞は,成人期のT細胞へ成長する過程の機能的に未熟な集団と考えられていた。しかし,近年の報告で獲得免疫だけでなく自然免疫様の機能も有すること,免疫抑制機能に長けていることなどが明らかとなった。さらに,乳幼児期はリンパ組織や粘膜組織に含まれるT細胞の構成も成人と異なることが報告されている。胎児期から乳幼児期のT細胞は母体由来成分への免疫寛容,共生菌の定着,病原微生物の排除といった独特の免疫学的要求に応えるためにユニークな機能を備えた細胞集団で構成されていると考えられ,様々な臓器,微小環境で免疫応答と免疫寛容のバランスをとっている。
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4. |
環境の影響が次世代に伝播するメカニズム−父親の食事が子に与える影響を中心として−
(森田純代・堀居拓郎・畑田出穂) |
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近年,栄養状態をはじめとした様々な環境の違いが,次世代の表現型に影響を与えると報告されている。また,その影響が孫の世代に及ぶことや父方を通して伝わることから,遺伝子の修飾,すなわちエピゲノム(エピジェネティック修飾)の変化がその原因の一つであろうと考えられている。ここでは哺乳類において親の栄養状態が子孫の代謝表現型に影響を及ぼすメカニズムについて,最近の知見を紹介する。
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5. |
環境の影響とその遺伝・精子による獲得性の形質遺伝と生活習慣病
(酒井寿郎) |
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肥満や2型糖尿病などの生活習慣病のなりやすさが,親の世代,すなわち受精前の父親の生活環境などで規定され,世代を超えて伝達されるという理論が近年注目を集めている。動物は配偶子を介してDNAだけでなく,RNA,タンパク質,代謝物など他の分子も子孫に伝える。これらの分子が世代間でどの程度情報を伝達しているのか,またその情報が生理状態や環境によって変化しているのかについては,現在のところ詳細は不明である。本稿では,後天的遺伝情報(エピジェネティック)が異なる時間スケールで世代間に伝達される分子機構と,この情報が発生や生理にとって重要であることに関する最近の知見を概説する。
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6. |
環境が神経幹細胞および脳発達に与える影響と精神疾患との関連
(金 宥利・川口大地) |
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環境は胎生期や生後早期の脳発達に影響し,その後の精神疾患の発症リスク要因となりうる。母体や生後早期の感染/炎症,葉酸などの栄養欠乏,ニコチンなどの化学物質への曝露,心理的ストレスといった環境要因はいずれも子の精神疾患リスクと関連していることが報告されている。胎生期は神経幹細胞の増殖や分化が盛んに行われる時期であり,この時期の環境要因が神経幹細胞の運命やニューロン新生に与える影響について齧歯類やヒト脳オルガノイドを用いた研究が行われている。また,成体においても特定の領域でニューロン新生が行われており,特に成体海馬のニューロン新生は胎生期および生後早期の感染やストレスなどによって影響され,これが行動の変容につながる可能性が報告されている。
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7. |
ショウジョウバエで明らかとなった発生期環境と寿命の関係
(藤田有香・小幡史明) |
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モデル生物を利用した研究から,発生期の環境が個体寿命に影響しうることが明らかとなってきた。ライフサイクルが短く,遺伝学的操作が容易なショウジョウバエや線虫を用いた研究により,分子レベルでの機構解明が進んでいる。例えば,発生期に一過的に起こる食組成の変化,ミトコンドリアストレス応答,酸化ストレスや免疫活性化などが寿命を伸縮させることが報告されている。その一部は腸内細菌叢の不可逆的な変化によるものであった。本稿では,主にショウジョウバエをモデルとした研究から明らかとなった複数のDOHaD作用機序を紹介し,その多様なメカニズムについて議論したい。
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8. |
母体腸内細菌による胎仔疾患感受性の制御
(宮本潤基・木村郁夫) |
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近年の腸内細菌研究の発展に伴い,成人期における腸内細菌や腸内細菌代謝物の変化が,代謝性疾患,免疫系疾患や神経系疾患などの様々な疾患の発症や増悪と密接に関与することが科学的根拠に基づいて明らかにされている。今日では,成人期のみならず妊娠中の母体や乳幼児期における栄養変化や環境因子を介した腸内細菌の変化が子どもの成長に伴う生体恒常性維持に影響を及ぼす可能性が注目を集めている。今後,様々な疾患に対する新たな予防戦略として,妊娠期や乳幼児期における腸内細菌を標的とした食事療法や栄養管理が,子どもの健康的な成長を促す新規治療法の確立・応用につながることが期待される。
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古代ゲノム研究の最先端③
(太田博樹) |
交雑により現生人類のゲノムに挿入されたネアンデルタール人由来セグメントの多くは,純化淘汰により排除されたと考えられる。にもかかわらず,アフリカ大陸以外に住む現代人のゲノムにはネアンデルタール人のゲノムが1〜4%存在する。残っているネアンデルタール人由来の変異は,現生人類が移住した先の環境に適応するのに一役買った可能性が指摘されている。特に病原体に対する防御機構は,その鍵となったと考えられる。私たちの研究グループは縄文人の全ゲノムドラフト配列決定を達成し,現代日本人ゲノムの中に縄文人ゲノムが10〜20%存在することを示した。縄文人由来セグメントは,私たちのゲノムにどのような影響を与えるか?
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
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家族性高コレステロール血症
(斯波真理子) |
家族性高コレステロール血症(familial hypercholesterolemia:FH)は,高LDL-C血症,皮膚および腱黄色腫,若年性動脈硬化症による冠動脈疾患を特徴とする遺伝病で,LDL受容体経路に関わる遺伝子の変異を原因とする。FHヘテロ接合体は,LDL-C値が180mg/dL以上,皮膚および腱黄色腫の存在,および家族歴にて診断される。FHホモ接合体は,さらに高いLDL-C値を示す。FHホモ接合体,FHヘテロ接合体ともに,生涯にわたるLDL-C値の厳格なコントロールが必要である。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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ヤング・シンプソン症候群
(黒澤健司) |
ヤング・シンプソン(Young-Simpson)症候群は,Say-Barber-Biesecker-Young-Simpson症候群(SBBYSS)および外性器・膝蓋骨症候群(GPS)を総称している。原因は,histone acetyltransferaseであるKAT6B(lysine acetyltransferase 6B)のハプロ不全である。主要症状は,①特徴的な顔貌,②精神遅滞,③眼瞼裂狭小,弱視・鼻涙管閉塞,④骨格異常,⑤甲状腺機能低下症,⑥外性器異常などが挙げられる。今後,長期的予後の解明や新しい治療法の開発が期待されている。
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薬理遺伝学検査の現状
(莚田泰誠) |
薬理遺伝学検査は,薬物応答に関して生殖細胞系列の遺伝情報を扱う検査と定義され,特定の患者における薬効,副作用リスクや薬物動態などの薬物応答性を予測することにより,患者に恩恵をもたらしている。診療における有用性が示されつつある薬理遺伝学検査の対象として,薬物代謝酵素および薬物トランスポーター遺伝子,HLA遺伝子について解説し,これらの検査を社会実装するための国内外での取り組みを紹介する。
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GASPACHO−自然免疫応答の遺伝子発現レベルにおける遺伝的多様性を単一細胞分解能で解析するための新たな統計手法
(熊坂夏彦) |
感染症や関節リウマチなどの免疫に関連する疾患のゲノムワイド関連解析によって同定された感受性遺伝子座の一部は,細胞の免疫応答の遺伝的多様性に関連していることが示唆されている。本研究では細胞の異なる環境下における遺伝子発現の遺伝的多様性を解析するGASPACHO(GAuSsian Processes for Association mapping leveraging Cell HeterOgeneity)という新たな統計手法を提案し,自然免疫応答下にある2万以上の線維芽細胞の遺伝子発現を解析した結果について報告する。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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不育症における遺伝カウンセリング
(佐々木元子・佐原知子・三宅秀彦) |
染色体異常は不育症の原因の4〜5%を占める。不育症の遺伝カウンセリングでも,クライエントの心理社会的な課題に対応するため,十分な情報提供と支援が求められる。また,着床前染色体構造異常診断(PGT-SR)については,クライエントが過度な期待を抱くことがないよう説明する必要がある。医学的な背景だけでなく社会的な背景にも配慮しつつ,「なぜ子どもが欲しいのか」など改めてカップルで考える機会となることもあり,情報提供に偏ることなく,第三者がいる遺伝カウンセリングが話し合う場となることも大きな意味があるだろう。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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SBMAの会(球脊髄性筋萎縮症患者会)
(田幸康宏) |
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● Statistical Genetics
〈遺伝統計学の基礎〉 (13) |
シリーズ企画 |
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連鎖不平衡スコア回帰とその拡張手法
(澤田知伸・小井土 大・鎌谷洋一郎) |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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カニクイザルを用いた生命科学研究の最新動向
(岡村永一・依馬正次) |
カニクイザルはヒトに最も近縁な実験動物として,主にワクチン国家検定や製薬企業における非臨床試験に用いられてきた。一方,生命科学研究における動物実験の主役はマウスやラットであり,カニクイザルを含む非ヒト霊長類はマイナーな実験動物と思われるかもしれない。しかし,ヒトの生物学を理解するうえで,進化的に離れた齧歯類の知見が必ずしも当てはまるとは限らない。近年,非ヒト霊長類を用いた画期的な研究成果が相次いで報告されている。本稿ではカニクイザルの研究動向を,遺伝子改変技術の現状と発生学研究にスポットを当てて紹介し,その魅力をお伝えしたい。
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● 編集後記 |
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