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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−耳鼻科編 5 |
シリーズ企画 |
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特集: |
ゲノム編集医療−技術開発・治療応用戦略を中心に |
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巻頭言:ゲノム編集医療の黎明
(真下知士) |
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1. |
国産ゲノム編集技術CRISPR-Cas3の開発
(吉見一人) |
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ゲノム編集技術は遺伝子治療をはじめとした医学分野に幅広く応用できることから,2012年に登場したCRISPR-Cas9以降も,高精度で高効率な新しいゲノム編集ツール開発が世界中で進められている。私たちはクラス1に属するCRISPR-Cas3がヒト細胞でゲノム編集できることを見出した。CRISPR-Cas3はゲノム上の標的部位に大きな欠失変異を誘導でき,確実に遺伝子破壊を誘導できる。またiPS細胞でのゲノム編集もできるため,ex vivo やin vivo での遺伝子治療応用が期待されている。本稿では,新規ゲノム編集技術の開発状況とCRISPR-Cas3を用いたゲノム編集について紹介する。
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2. |
塩基編集ツールの開発と応用
(光延仁志・西田敬二) |
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CRISPR-Casシステムを利用した多様なゲノム編集技術が開発される中で,DNAを切らないゲノム改変技術である塩基編集技術(base editing)が開発された。塩基編集技術は細胞への毒性を低減しながら,ゲノム上に精密かつ高効率に点変異の導入が可能な技術として遺伝子治療を含めた幅広い分野での利用が始まっている。本稿では,①従来のゲノム編集技術の課題,②塩基編集技術の開発とメカニズム,③塩基編集の特徴と課題,④医療分野における応用展開について順に解説する。
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3. |
エピゲノム編集と医療応用
(森田純代・堀居拓郎・畑田出穂) |
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エピジェネティクスとはDNAの塩基配列変化によらず遺伝子発現を制御・伝達する機構であり,その実体はDNAメチル化やヒストン修飾といった遺伝子の修飾である。それをエピゲノムという。ゲノム編集技術の登場により,その技術を応用することで特定のゲノム領域のエピゲノムを操作し,遺伝子の発現制御を自在に行うことが可能となった。エピゲノムを自在に操作できるということは,基礎研究に与える影響はもとより,医療応用において極めて大きな役割をもつと考えられる。
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4. |
医療・創薬に向けたCRISPRスクリーニング
(遊佐宏介) |
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着目する表現型に関わる遺伝子を網羅的に同定する順遺伝学的アプローチは,CRISPR-Cas9システムの登場により,哺乳類培養細胞においても幅広く応用することができるようになった。われわれのグループではCRISPR-knockout(KO)スクリーニングをいち早く開発し,さらに改良を加えて,正負の両選択において最適のgRNAライブラリーを作製した。われわれはこの手法を用いてがん細胞株の増殖必須遺伝子を解析し,複数の有望な分子標的薬ターゲットを見出すことに成功している。ここでは,CRISPR-KOスクリーニングの医療・創薬に向けた応用について解説する。
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5. |
安全性の観点からの遺伝子修正法の開発状況
(中田慎一郎) |
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CRISPR/Casシステムを利用して,変異遺伝子を野生型に修正することが可能となった。ゲノム編集を臨床で用いる際には,意図しない変異の発生を可能な限り抑制することが求められる。しかし,Cas9を用いる原法には,オンターゲットとオフターゲットにヌクレオチド挿入・欠失が発生しやすい,exogenous DNAがランダムインテグレーションを起こすなど,変異発生のリスクがある。最近,ニッカーゼを利用する手法,base editor,prime editorなど様々な手法・ツールが開発され,これらの問題を解決しつつある。
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6. |
iPS細胞とゲノム編集による疾患モデル作製と病態解明
(北畠康司) |
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複雑なゲノム構成を正確に再現し心筋・血液・神経系などのあらゆる分化系列へ誘導することのできるヒトiPS細胞と,近年めざましい勢いで開発の進むゲノム編集とを組み合わせることにより,疾患研究は大きな飛躍を遂げようとしている。本稿では,小児難治性疾患の代表として広く知られているにもかかわらず,これまでほとんど研究が進んでいなかったダウン症候群に注目し,遺伝子欠失,領域欠失,染色体除去,染色体不活化などの多様なゲノム改変を行うことでisogenicなiPS細胞パネルとして揃えた疾患モデルとその応用について紹介する。
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7. |
遺伝子治療に向けた生体内ゲノム編集
(鈴木啓一郎) |
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先天的な遺伝子変異により発症する遺伝病に対する根治療法として,欠損遺伝子を標的組織内で発現させる「遺伝子治療法」が,これまで多くの遺伝性疾患に対して試みられてきた。当該治療法は,欠損遺伝子の働きを生体外からの遺伝子導入により補完するコンセプトであり,優性遺伝子変異のような病因変異を取り除く必要がある場合への適用は困難である。一方で,近年登場した「ゲノム編集技術」を用いて生体内にて直接遺伝子操作を行うことで,病気の原因変異を根本から取り除く新しい治療コンセプトが考案され,検証が進められてきた。本稿では,その基盤技術となる生体内ゲノム編集について概説する。
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8. |
遺伝子改変T 細胞療法へのゲノム編集技術の応用
(小澤敬也) |
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CAR-T細胞療法やTCR-T細胞療法といった遺伝子改変T細胞療法開発の新しい方向性として,ゲノム編集技術の応用が注目されている。一つは,GVHDを防ぐためにTCR遺伝子を破壊し,同種T細胞を用いることを可能にしたユニバーサルCAR-T細胞療法の開発である。また,CAR-T細胞療法の長期成績を改善するには,CAR-T細胞の体内での存続能を高める必要があり,CAR遺伝子をT細胞のTRAC領域に挿入する方法が検討されている。その他,遺伝子改変T細胞のPD-1遺伝子をゲノム編集技術で破壊し,T細胞の働きを強化する方法も試みられている。
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9. |
AAVベクターとゲノム編集による遺伝子治療
(冨樫朋貴・大森 司) |
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アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターは,安全性や遺伝子導入効率の高さから,難治性疾患に対する遺伝子治療用ベクターとして最も汎用されている。AAVベクターを用いた肝臓や中枢神経を標的とした遺伝子治療研究は激化の一途を辿り,現在,多くの臨床試験が施行されている。ゲノム編集ツールをin vivo で送達するためにAAVベクターを用いたゲノム編集技術が登場し,実際に血友病B,ムコ多糖症や先天性の眼疾患で臨床試験が開始されている。さらに,エピソームに存在する性質を利用して,AAVベクターをゲノム編集のテンプレートとして利用することもできる。以上より,AAVベクターを用いたゲノム編集治療は疾患の治癒をめざせる次世代の治療戦略として期待されている。
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ミトコンドリアを標的とする遺伝子治療用RNAナノカプセルの創製
(山田勇磨・原島秀吉) |
多彩な機能を有するミトコンドリアの機能破綻は様々な疾患を誘発する。これらの疾患の一部は,ミトコンドリアDNA(mtDNA)の変異・欠失が原因であることが報告されている。そのため,ミトコンドリアを標的とした遺伝子治療研究は,革新的医薬品の創製につながると期待されている。本稿では,われわれが創製したミトコンドリア標的型drug delivery system(DDS)"MITO-Porter"を基盤とした「ミトコンドリアを標的とする遺伝子治療用RNAナノカプセル」に関する研究を中心に紹介する。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
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先天性大脳白質形成不全症
(小坂 仁・井上 健) |
大脳白質形成不全症とは,遺伝的な髄鞘形成不全であり,10万人あたり1名程度の発症率である。乳幼児期には低緊張を呈し,後年痙性が現れる。その他,知的障害,小脳障害,基底核障害,てんかんなどを合併する。本邦において最も多い疾患はペリツェウス・メルツバッハ病であり,X連鎖劣性遺伝形式をとる。その他,常染色体優性遺伝,常染色体劣性遺伝をとる疾患もあり,遺伝カウンセリングにおいては,発端者の正確な診断が必要になる。遺伝子治療,細胞治療をはじめとする治療開発が進んでいる。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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ファブリー病
(澤田貴彰・中村公俊) |
ファブリー病は,X染色体上に存在するGLA 遺伝子の変異により,ライソゾーム酵素であるα-galactosidase Aの活性低下や欠損によって発症するX連鎖性遺伝形式の先天代謝異常症である。世界各国で新生児スクリーニングやハイリスクスクリーニングが行われ,以前考えられていたよりも高頻度で患者が存在することがわかってきた。現在,酵素補充療法とシャペロン療法が承認されているが,遺伝子治療を含む新しい治療法の研究も進められている。今後,それぞれの患者に対して,これらの新しい治療法の中からどの治療法を選択し,いつから治療開始するかが課題となると考えられる。
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Actionable gene
(渡邉達夫・古庄知己) |
actionable genesとは,網羅的遺伝子解析において,疾患の重症度や浸透率,特異的治療の有無などから,病的バリアントが見つかった場合に開示すべき遺伝子群である。これらの遺伝子群の病的バリアントにより起こりうる疾患は,遺伝性腫瘍症候群,遺伝性循環器疾患,代謝異常症,遺伝性結合組織疾患(筋骨格疾患)に分類される。それぞれの疾患についてのactionable genesの意義と,今後の課題について概説する。
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● Lecture
〈臨床遺伝学・人類遺伝学誌上講義〉 |
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出生前診断
(佐村 修) |
出生前診断の対象は,①前児がある遺伝性の重篤な疾患であり,その再発を心配しているような特定の遺伝性疾患を対象とするものと,②妊婦の不安に対する,加齢に伴って頻度が高くなる染色体疾患を主な対象とするものがあるが,ほとんどの場合②である。出生前診断の各種手技について,原理,意義,結果の解釈について習熟しておくことが必要である。出生前診断についての遺伝カウンセリングによって,クライエントは自分たちの妊娠における遺伝的リスクについて理解し,支持的で非指示的な雰囲気の中で,自分たちの妊娠についてどのような選択を行っていくかの意思決定(informed decision making)を行うことが可能となる。
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生殖補助医療
(竹下直樹) |
世界初の体外受精児誕生から40年が経過し,生殖補助医療(ART)は様々な新技術が開発され目覚ましい発展を遂げた。その結果,多くの挙児希望のカップルに福音をもたらしている。わが国は世界的にもART大国であり,年間出生数の6%がこの医療技術を介して生まれるに至っている。一方,ARTを取り巻く問題として,倫理的・遺伝学的なものも報告されるようになっている。ARTはいまだ新しい医療技術であり,妊娠経過や児の予後を観察していくことは不可欠である。また治療を受けるカップルに対し,正確な情報を提供し,不安に対峙する遺伝カウンセリングは重要となっている。
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Burden Test
(大橋 順) |
ゲノムワイド関連解析により多数の疾患関連多型が同定されてきたが,まれな変異の大部分はSNPチップには搭載されておらず,まれな変異と疾患との関連をゲノムワイドに評価することは困難であった。超並列DNAシーケンサーが実用化されたことで,まれな変異であっても精度よく検出することが可能となり,新たな疾患関連遺伝子が次々と報告されている。本稿では,まれな変異と疾患との関連を調べる統計学的検定法の一つであるBurden Testについて解説するとともに,まれな変異を扱う関連研究の課題について論じる。
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Cell free DNA
−妊娠母体血中cell-free DNAを用いた
出生前遺伝学的検査法開発の経緯と動向−
(中林一彦) |
次世代シーケンサーの普及を背景に,妊婦母体血中cell-free DNAを用いて非侵襲的に胎児染色体異数性を検出する出生前遺伝学的検査としてNIPTが短期間で世界中に普及した。単一遺伝性疾患の責任遺伝子変異が胎児に継承されたかを検査するためのNIPT技術の開発も進んでおり,それらの最近の動向を含めて紹介する。
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RNA-seq
(鈴木絢子・鹿島幸恵・関 真秀・鈴木 穣) |
シークエンス技術の発展により,細胞のRNAを網羅的に解析するRNA-seqが様々な研究分野で広く実施されている。遺伝子発現量の定量を行い,細胞におけるトランスクリプトームの全体像を把握することは,細胞系譜,刺激に対する応答具合など,その細胞の置かれている状態を理解することにつながり,がんをはじめとした様々な医学・生物学研究において重要な情報であると言える。また,各転写産物のエキソン-イントロン構造の解析,融合遺伝子などの検出にも活用することができ,疾患の原因となりうる異常な転写産物を同定することができる。本稿では,RNA-seqや最近広く活用されているシングルセルRNA-seq,さらには空間トランスクリプトーム解析技術について紹介したい。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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遺伝カウンセリングの実施時期やクライエントの立場に配慮した対応
(勝元さえこ・茶野徳宏・丸尾良浩) |
先天性代謝異常症の2事例で,時期や立場に応じた遺伝カウンセリングを検討した。事例1のプロピオン酸血症の家族では,児の確定診断後,両親に対して疾患理解を深めるとともに,その不安に寄り添う遺伝カウンセリングを行った。事例2の女性ファブリー病の家族では,母親,娘2人の3人に対し,立場の違いを考慮して,個別に保因者診断に関する遺伝カウンセリングを行った。事例1では児の成長に伴い生じる課題,事例2では相談者各人の立場による課題が上がっているが,今後も関係診療科で統一した対応がとれるように情報共有した。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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● Statistical Genetics
〈遺伝統計学の基礎〉 (9) |
シリーズ企画 |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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ヒトとイヌの共進化とそれに関わる遺伝子の探索
(菊水健史) |
イヌの家畜化の歴史はまだ謎が多いものの,3万年から5万年前に始まったとされ,他の家畜が約1万年前だとすれば,ヒトとの共生の歴史は他の家畜と一線を画す。この間,イヌは多様な遺伝的変化を遂げ,ヒトと類似したコミュニケーション能力を獲得し,それはヒトの遺伝的近縁種であるチンパンジーをも上回る。さらに,ヒトと異種間であるにもかかわらず,オキシトシンを介した絆形成までも可能とした。オオカミと共通祖先種から分岐したイヌ,そのイヌをイヌたらしめる遺伝子の探索に,多様な犬種の中でも古来の遺伝子を保有する日本犬が重要な役割を担う。今回,イヌの行動遺伝学の面白さを紹介する。
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● 編集後記 |
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