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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−眼科編 4 |
シリーズ企画 |
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巻頭言
IRUD:希少難病・未診断疾患という名の
医療過疎領域を救うために
(小崎健次郎) |
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1. |
IRUD全国ネットワークの整備:現況と展望
(髙橋祐二・水澤英洋) |
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未診断疾患イニシアチブ(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases:IRUD)は,希少・未診断疾患の診断確定をめざす社会還元型研究開発プロジェクトである。包括的診断体制の全国整備・次世代シーケンサーを含めた革新的検査の利活用・国際連携可能な臨床情報データベースの確立を達成している。IRUDはコーディネーティングセンター・診断連携・解析センター・データセンター・リソースセンターから構成される。拠点病院を中心とした地域連携と,臨床専門分科会による分野連携を統合したIRUD診断連携が診断の中核を担う。IRUDでは2018年7月時点で9524検体・3356家系のエントリーを達成し,2756家系の解析を完了し,1027家系で診断を確定し,36.9%の診断率を達成した。379家系において指定難病の診断を確定し,755家系においてオーファネット登録疾患の診断を確定した。IRUDの成果発展を目的とした新たな研究分野として,IRUD
Beyondが推進されている。
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2. |
IRUD解析センターの診断率の向上への取り組み
(才田 謙・松本直通) |
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未診断症例に対する次世代シークエンサー(NGS)を用いた網羅的遺伝子解析として,国内では未診断疾患イニシアチブ(IRUD)が開始されている。当研究室は,2015年よりIRUD解析センターの一つとして,全エクソーム解析(WES)を中心としたゲノム解析を行っている。一般的に,ショートリード型のNGSを用いて未診断症例の約3〜4割の原因が同定されるが,依然6割以上の症例で原因不明である。本稿においては,WES解析の現状と課題,当解析センターにおける診断率向上をめざした取り組み(戦略)について解説する。
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3. |
IRUDが医療にもたらした変革:IRUD拠点病院取りまとめ機関として
(小杉眞司) |
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IRUD第2期において,拠点病院取りまとめ機関の指定を受けた。37拠点病院間の課題や情報の集約を積極的に行っていきたいと考えている。IRUD拠点病院の組織のあり方,コンサルシートの工夫から診断委員会のあり方,採血の工夫,IRUD Exchangeへの全例登録,臨床専門分科会などの情報共有は重要と考える。
今回,医療法の改正を受けて,IRUD研究のあり方,わが国におけるゲノム研究と遺伝学的検査の問題点などを改めて認識するよい機会となった。研究結果の返却は,臨床検査結果開示とは異なることを常に意識しておく必要がある。
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4. |
IRUDが医療にもたらした変革:小児医療の現場から
(吉橋博史) |
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小児医療において先天異常症候群は臨床上の重点項目の一つである。従来の遺伝学的検査で診断に至らない児では,根拠が乏しい中,診療が工夫されてきた。2015年,IRUDにより小児医療の現場に網羅的ゲノム解析の選択肢が提示され,全国規模での診断連携の仕組みづくりが進められている。同時に,検査前遺伝カウンセリングにおける全エクソーム解析の小児医療特有の留意点に関する情報共有や,診断の有無にかかわらず解析後も児・家族と医療者がつながりを維持することの重要性が認識された。小児医療の現場では,診断確定を機に出生前遺伝学的検査に関わる情報提供を含め,遺伝医療が担う役割が拡大している。
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5. |
患者家族の立場から見たIRUDのインパクト
(水野誠司) |
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次世代シーケンス技術による網羅的遺伝子解析によって,先天多発異常および知的発達障害を伴う多数の疾患の遺伝学的原因が明らかになった。それらの疾患の遺伝学的原因が確定することによる患者家族への直接のメリットとして,「疾患の自然歴がわかる」,「正確な次子再罹患率がわかる」,「生涯にわたる合併症の早期発見と健康管理が可能となる」,「患者間の情報共有や相互支援が可能となる」,などが従来挙げられていた。加えて網羅的解析では,患者家族がバリアントの意味を理解することによって先天異常や知的障害をゲノムの多様性の一つとして捉えられるようになり,自ら研究参加への意欲をもつ人も多くなった。一部の希少疾患はその病態の解明から根本的な治療法が開発されつつある。未診断疾患イニシアチブ(IRUD)は患者家族の立場からも医療の転換点となる事業であると言える。
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6. |
CDC42 遺伝子異常症(武内・小崎症候群)
(武内俊樹) |
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武内・小崎症候群〔Takenouchi-Kosaki Syndrome(OMIM #616737)〕は,知的障害と巨大血小板性血小板減少症を特徴とし,CDC42 遺伝子の特定の新生突然変異に起因する稀な先天異常症候群である。本疾患は,日本医療研究開発機構(AMED)によって2015年から行われている「未診断疾患イニシアチブ(IRUD)」を通じて,似た症状を呈する複数の患者の研究協力により,新規ヒト疾患として発見・確立された。本疾患は,巨大血小板性血小板減少症,知的障害に加えて,脳構造異常,特徴的顔貌,感音性難聴,屈指,免疫不全による反復感染症,甲状腺機能低下症などの多彩な症状を呈することが特徴である。本疾患の病態については,まだ未解明な点が多く,今後の研究による病態解明が待たれるところである。血小板減少を伴う知的障害患者では,本疾患を鑑別に入れ,末梢血塗抹標本検査で,巨大血小板の有無を確認することが重要である。
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7. |
IRUDを通じたデータ共有と国際連携の発展
(鈴木寿人・上原朋子) |
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IRUDに参加後も診断が得られない患者の中には,疾患の原因と推定される遺伝子を特定しているが,ヒトの疾患と関連する報告がないために確定診断に至らない「N-of-1」の状態であることが多くある。新規疾患・症候群を確立するには,類似した症状をもち,同一の遺伝子に変異を有する複数名の患者の存在が必要である。この問題を解決するために国内はもとより,海外のプロジェクトと連携し,患者の症状データ・候補遺伝子などのデータ共有をすることが求められている。
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8. |
IRDiRC がつなぐ世界の希少・未診断疾患患者への取り組み
(足立剛也) |
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IRUDを含む希少・未診断疾患に対するプロジェクトにおいては,患者の臨床的・遺伝学的情報などの国内外での共有が絶大な効果を発揮し,確定診断などの形で大きく貢献してきた。しかし,自身の専門分野を超えて海外の情報を収集するのは困難で,安心してデータシェアを進めるには世界的動向の把握が必須となる。今回,希少疾患,未診断疾患,データシェアに関する様々なレベルでの国際的な取り組みのより良い理解につなげるため,AMEDなど世界の研究助成機関が参画する国際希少疾患研究コンソーシアムIRDiRCを切り口としてご紹介する。
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9. |
IRUDが紡ぐ臨床医と基礎研究者の新たな連携
(秦 千比呂・木村哲晃・井ノ上逸朗) |
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次世代シーケンサーの登場により,家系情報にさほど頼ることなく疾患遺伝子同定がなされるようになった。しかし,それでも希少遺伝性疾患の30〜40%程度しか原因遺伝子同定はなされていない。n-of-oneといった患者が1人しかいない超希少疾患では,原因遺伝子確定はさらに困難である。この問題に対する一つの解決策がモデル生物を用いた統合的な解析である。Beyond genotypingとして開始されたモデル生物プロジェクトはJ-RDMMとして海外との情報共有への取り組みやモデル生物研究者を募り,疾患メカニズム解明を進めている。
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10. |
IRUD:希少遺伝性疾患の研究への展望
(岸本洋子・要 匡・松原洋一) |
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2015年に始まったIRUDでは,希少・未診断疾患患者の情報共有と診断確定,さらに治療を見据えた病態解明と治療開発などのシーズ創出を目的としている。近年の技術革新により,原因不明であった希少遺伝性疾患の原因遺伝子やその病態が次々と明らかになってきた。希少遺伝性疾患の病態が詳細に解明されることが契機となり,他の疾患の治療へと応用された事例も多い。本稿では,これまでの希少遺伝性疾患研究について解説するとともに,現在までのIRUDの成果とこれからの研究の展望について紹介する。
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オートファジーと疾患
(川端 剛・吉森 保) |
オートファジーは細胞質の一部をオートファゴソームで包んでまとめて分解するバルク分解系である。近年,オートファジーは細胞と組織の恒常性を維持して様々な疾患を予防するために欠かせない現象であることが明らかになり,そのメカニズムを理解し応用する研究が培養細胞やマウスなどのモデル実験系を用いて急ピッチで進められている。一方,オートファジー関連遺伝子を原因遺伝子とするヒトの遺伝性疾患が立て続けに報告されている。本稿では,これら遺伝性疾患の症状をモデル実験系の知見と照らし合わせ,ヒトのオートファジーの生理学的意義と今後の研究の展開の見通しを考察したい。
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ヒトにおけるX染色体不活性化
(佐渡 敬) |
哺乳類のメスは,胚発生初期に2本あるX染色体のうち一方を不活性にすることでオスとの間にあるX連鎖遺伝子量の差を補償している。このX染色体不活性化は,すべての哺乳類のメスの胚発生に不可欠なもので,種間で保存されたX連鎖長鎖非コードRNAであるXISTが中心的な役割を果たすと考えられる。その分子機構はXISTの発見以降,モデル動物であるマウスを中心に理解が進んできたが,胚におけるX染色体不活性化の開始時期やその制御機構はマウスとヒトで様子が異なることがわかってきた。本稿では,ヒトX染色体不活性化研究の最近の動向について紹介する。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
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2型コラーゲン異常症関連疾患
(澤井英明) |
2型コラーゲン異常症関連疾患とは,基本的には2型コラーゲン遺伝子変異により発症する,X線的に共通した所見がある多彩な臨床表現型を示す一連の疾患群である。胎児期や出生直後に周産期死亡を起こす重症例から小児期以降に診断される比較的軽症例まで幅広い症状を呈する。常染色体優性遺伝または新生突然変異で発症する。椎体や長管骨の異常や顔面正中部の低形成(平坦な顔貌),小顎症を特徴とする骨系統疾患である。全身骨X線上,脊椎・骨端異形成を特徴とし,合併症としてしばしば進行性近視・難聴・U字型の口蓋裂を伴う。平成29(2017)年度から小児慢性特定疾病の対象とされたが,指定難病の対象にはなっていない。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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非ケトーシス型高グリシン血症
(呉 繁夫) |
非ケトーシス型高グリシン血症(指定難病321)は先天性グリシン酸代謝異常症で,グリシン異化の主経路であるグリシン開裂系の遺伝的欠損により体内に大量のグリシンが蓄積する。新生児期の意識障害やけいれんが特徴で,わが国では約50万出生に1例の発生がある。グリシン開裂系は四つの構成酵素からなり,それぞれGLDC,AMT,GCSH,GCSL にコードされ,症例の80%でGLDC 変異を,20%でAMT 変異を認める。最近,BOLA3,LISA,GLRX5 の両アレル性変異で非典型高グリシン血症が生じることが報告されている。
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COSMIC がん関連体細胞遺伝子バリアント情報探索について
(雨宮健司) |
次世代シーケンサー(NGS)の登場とコンピュータ性能の飛躍的な向上に伴い,膨大なゲノム情報を短時間で取得することが可能となった。以前は高額であったヒトゲノム解析コストも10万円を切り,医療分野で臨床実装が展開されつつある。2018年2月には国内でがんゲノム中核拠点病院が指定され,がん組織中の多数の遺伝子をNGSで網羅的に解析し,その情報を診断,個別化医療,予後予測に生かそうという「がんゲノム医療」が開始された。しかしその実践には,NGSから出た膨大な情報の中から必要な情報を正しく取捨選択する必要がある。ここでは得られたゲノム情報,特に体細胞遺伝子バリアント情報を臨床に展開するために必要な基本的なwebツールの一つであるCOMIC(Catalogue of Somatic Mutation in Cancer)の紹介をする。
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● Lecture
〈臨床遺伝学・人類遺伝学誌上講義〉 |
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メンデル遺伝
(山田崇弘) |
生物学と遺伝学の基本的な枠組みであるメンデルの法則を取り上げる。中学・高校で学んだメンデルの三法則の仕組みを復習し,常染色体優性遺伝,常染色体劣性遺伝,X連鎖遺伝の各遺伝形式の代表疾患を紹介し,各遺伝形式に慣れ,臨床遺伝を学んでゆくための基本を身につけるための講義である。
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未来のゲノムデータベースから理解するディープラーニング
(岡村浩司) |
未来のゲノムデータベース,10年後でさえどのようなものか想像するのは困難であるが,人工知能が利用されていることに疑いの余地はない。様々な分野で活用されはじめている人工知能とは何をしてくれるのか。その中でも特に注目されているディープラーニングという機械学習法を覗いてみると,行列という形をとった掛け算や足し算が延々と行われ,なんらかの分類結果を出力する意外と単純なものであることがわかる。データベースの自動構築という具体例を通し,何を用意すれば何が得られるのかを一瞥し,今後の生命科学研究の一手法としてディープラーニングの理解を試みたい。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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周産期医療における遺伝カウンセリング
(西山深雪・長谷川冬雪・佐々木愛子・和田誠司・左合治彦) |
周産期医療における遺伝医療は,胎児・出生児の先天異常や染色体疾患・遺伝性疾患が主なテーマである。なかでも近年,妊娠・出産する女性の年齢上昇に伴い,21トリソミーをはじめとする染色体疾患の出生前遺伝学的検査への関心が高まり,検査前後の遺伝カウンセリングの重要性が改めて認識されつつある。クライアントの多くは高年妊娠を理由に出生前遺伝学的検査を希望するが,各クライアントの背景にあるストーリー(ナラティブ)は異なっている。したがって遺伝カウンセラーは,クライアントが夫婦としての納得のいく選択ができるように,クライアントの話に関心を示しながら共感的に接する態度が大切である。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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認定遺伝カウンセラー®日誌 〜12年を振り返り,今後を考える
(田辺記子) |
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● Statistical Genetics
〈遺伝統計学の基礎〉 (4) |
シリーズ企画 |
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ゲノム医学・医療の進展に向けた法的課題
(米村滋人) |
ゲノム医療の規制は一般的な医療規制のほかには存在しないが,ゲノム研究についてはゲノム研究指針をはじめとする行政指針が詳細なルールを定めている。他方で,近時は個人情報保護法等の情報規制が適用されており,情報の保有主体ごとに根拠法・規制内容の異なる複雑な規制が存在している。具体的には取得規制・利用目的規制・第三者提供規制などがあり,ゲノム情報の第三者提供に関しては,一部の例外事由がある場合を除き本人の同意が必要とされている。その結果,現在はゲノム情報の利活用が円滑に進まない状況であり,最終的には法制度改正を含む法的対応が必要と考えられる。
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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魚類の特性を活かした遺伝子研究
(荻野由紀子・宮川信一) |
現生の硬骨魚類の大部分を占め,多種多様な環境に適応放散した真骨魚類は,われわれヒトを含む四肢動物が経験したよりも少なくとも1回多くのゲノム重複を経験している。魚類の系統での全ゲノム重複が,その後の進化にどのようなインパクトを与えたのか,ゲノム進化学,発生学,生理学,生態学,内分泌学など様々な角度から研究が進められている。本稿では,真骨魚類ならではの特性を活かした研究として,ステロイドホルモン受容体の分子進化研究とその応用について紹介する。
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● 編集後記 |
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