第6章 動物疾患モデル |
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翻訳後修飾プロテオミクス−リバースジェネティクスとの融合− (松本雅記・中山敬一)
タンパク質の翻訳後修飾は,タンパク質の機能制御において重要な役割を担っている。これら翻訳後修飾の多くは,特定の酵素による選択的な生化学反応によって生じる。遺伝子の配列情報の充実によって,酵素活性部位の相同性などから酵素分子が数多く同定されたが,その中で生理的基質分子が同定されていない酵素も多い。われわれは,最近急速に発展したプロテオミクス技術とノックアウトマウスに代表されるリバースジェネティクスを組み合わせることで,従来の研究法では困難であった酵素-基質間の対応づけを可能にすることをめざしている。本稿では,筆者らが最近確立したユビキチン化やチロシンリン酸化タンパク質の網羅的解析法を紹介し,遺伝子改変マウス(あるいは細胞)解析への適用の可能性を議論したい。 |
2. |
遺伝病原因遺伝子改変マウスによるゲノミクスとプロテオミクス (三池浩一郎・山村研一)
遺伝病はひとたび発症すると,多くの場合,重度の病状を伴い,時として死に至らしめる。それゆえ,その早急なる疾患発症機構の解明,そしてそれに基づく新規創薬の開発は,長年の間,関心を集めるトピックの1つとなっている。マウスはモデル生物としてヒトに近く,疾患発症機構を解明するための研究に大きく貢献している。本稿では,遺伝病原因遺伝子改変マウスのゲノミクスおよびプロテオミクス解析が,遺伝子疾患発症メカニズムの解明,そしてその治療にどのようにつながっていくのかを展望してみたい。
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3. |
ヒト21番染色体導入によるダウン症候群モデルマウスのプロテオミクス解析
(西垣竜一・香月康宏・井上敏昭・押村光雄)
ダウン症候群は21番染色体の過剰により生ずる疾患であり,精神遅延や心奇形など多様な表現型を示す。本症候群では複数遺伝子の発現量の複雑な変化および大きな個体差を伴うため臨床検体を用いた遺伝的な解析には限界があり,その分子機構解析のためには症候群に近い遺伝子および表現型をもつ疾患モデル系が求められていた。本稿では,われわれの染色体改変技術で作出したヒト21番染色体を保持する新しいダウン症候群モデルマウス,さらにこの系において21番染色体が及ぼす影響をプロテオームによりタンパク質レベルから解析した結果を紹介する。 |
4. |
疾患モデル動物によるプロテオミクスの有用性
(大石正道・小寺義男・前田忠計・古舘専一)
ヒトプロテオーム解析においては,血液や尿,バイオプシーによる検体などヒト由来の試料が出発材料になるが,ヒト試料を扱う以上は様々な制約が伴うため,疾患プロテオーム解析に支障をきたす場合がある。本稿では,①ヒト試料を用いた場合に生じる様々な問題点を列挙し,②疾患モデル動物を用いたプロテオーム解析がこれらの欠点を補うことができる点を強調するとともに,③疾患モデル動物を用いて実際にプロテオーム解析を行った,われわれの研究の具体例を挙げて解説する。
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第7章 疾患プロテオミクス研究と創薬 |
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病態プロテオミクス研究と創薬の可能性 (西村俊秀)
プロテオミクスは,ヒト疾患メカニズムや臨床研究に十分に適用できるレベルに到達しようとしている。病態プロテオミクスにおける大規模解析を含めた最先端技術やアーリーディテクションなどに重要となるプラズマ・プロテオミクスを概観する。いかに病態プロテオミクスが創薬に貢献できるか,高い効率と生産性を持つ創薬を実現するために病態プロテオミクスと化学プロテオミクスと統合するポスト・ゲノム時代の新戦略について述べる。 |
2. |
創薬とプロテオミクス (齋藤はる奈・片山博之・小田吉哉)
これからのプロテオミクスは,新薬の研究開発に欠かせない重要な知見をもたらすであろう。例えば,薬剤を投与した際に特異的に発現が変動するタンパク質は,その薬剤の効果あるいは副作用を客観的に判断する指標となる。また多くの場合,薬剤の直接の標的分子はタンパク質であるから,プロテオーム技術を駆使して真の標的分子を特定することは,その薬剤の作用メカニズムを解明するために重要である。さらに,化合物に結合するタンパク質を網羅的に解析することでリード化合物と標的分子のセットで新たな創薬プロジェクトにつながるであろう。 |