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疾患プロテオミクスの最前線
-プロテオミクスで病気を治せるか-
編集: 戸田年総(東京都老人総合研究所プロテオーム共同研究グループリーダー)
荒木令江(熊本大学大学院医学薬学研究部腫瘍医学分野)

本書籍をご購入の場合は ……………… 1冊 本体 5,714円+税

要 旨

(第5章)

第5章 最新プロテオミクス疾患病態解析
1. 疾患プロテオミクスと臨床検査 (野村文夫)

疾患プロテオミクスはその解析技術の急速な進歩と相まって,臨床タンパク質検査に導入されつつある。血清検体を対象としたプロテオーム解析の手法として,surface enhanced laser desorption ionizationと飛行時間型質量分析計を組み合わせたプロテインチップシステム(SELDI-TOF MS)は,臨床的にも有用と考えられ,新規腫瘍マーカーあるいは癌特異的血清タンパクフィンガープリンティングに関する報告が相次いでいる。筆者らも本システムを用いて,最近新たな飲酒関連マーカーの検出・同定を行った。
2.

大腸初期発癌の発現プロテオーム解析 (山田哲司・近藤 格・廣橋説雄)

約3万あると考えられるヒトの遺伝子からスプライシングや翻訳後修飾によって,多種多様に変化したプロテオームを網羅的に解析する手段は,cDNAマイクロアレイ技術にて画期的に進歩した遺伝子発現解析に比べれば,かなり不十分である。特に多数の遺伝子の変異が蓄積し,複雑なゲノム異常をきたした進行癌のプロテオーム解析は非常に困難であることが予測される。われわれはプロテオームの複雑性を減少させるため,テトラサイクリン誘導性プロモーターを用いた大腸初期発癌モデルを作製し,フォーカスを絞った研究を行っている。

3. 肺癌発症・進展のタンパク発現プロファイリングによる分子機構の解明
 (柳澤 聖・高橋 隆)

複雑な腫瘍の臨床病態は,現在のところいかなる方法を用いても正確に予測することは難しく,今後の治療戦略の基盤を築くためには,基礎的研究により,その発症・進展の機構に関する知見を集積し,その成果を臨床へ還元していく道程をさらに強化していくことが必須である。プロテオミクス解析は,ゲノム情報が解読された現在,最も大きな成果が期待される研究分野の1つである。腫瘍におけるタンパク質発現プロファイルをプロテオミクス技術により取得し,バイオインフォマティクス解析を行うことにより,臨床病態を正確に予測しうる可能性が示唆されてきており,今後さらなる技術革新が期待されている。
4.

肝疾患のプロテオミクス (藏滿保宏・中村和行)

C型肝炎ウイルス(HCV)感染に関連して発症した肝細胞癌(HCC)の病因に関与するマーカーを同定する目的で,HCC組織におけるタンパクの発現を二次元電気泳動(2DE)とMALDI-TOF MSによってプロファイルした。ATP synthetase β chain,α-tubulin,glutamine synthetase,GRP75,GRP78,HSC71,HSP60,HSP70.1,phosphoglycerate mutase 1,triosephosphate isomeraseの10種類のタンパクの発現が増強しており,aldolase,arginase 1,enoyl-CoA hydratase,ferritin light chain,ketohexokinase,serum albumin,smoothelin,tropomyosin β chainの8種類のタンパクの発現が減弱していた。

5. 脳疾患の病態プロテオミクス (青木雅史・荒木令江)

脳腫瘍や原因不明の脳疾患に対して,各患者に最も適した治療標的や臨床マーカーなどを明らかにし,合理的な治療薬や予防法を開発することを目的として,HBPP(Human Brain Proteome Project)を中心としたニューロプロテオミクスが世界中で展開されている。得られたデータは各脳組織・細胞・髄液・血液・疾患別にデータベース化して整理され,患者の臨床症状や病理学的所見,遺伝的バックグラウンド,薬物治療への反応性などの情報や,各疾患におけるタンパク質レベルの詳細な分子情報や病理画像などを含めて1つの大きなアトラス的情報源として構築することが計画され,大きく期待されている。その目標に向かって,様々なproteomic differential displayのような方法論が脳疾患を対象にして模索されている。脳疾患の病態プロテオミクスの現状を紹介する。
6. 骨疾患のプロテオミクス (津留美智代・永田見生)

骨疾患の中で,厚生労働省特定疾患に指定されている脊柱靭帯骨化症は,後縦靭帯骨化症(ossification of posterior longitudinal ligament:OPLL),黄色靱帯骨化症(OYL)や前縦靱帯骨化症(OALL)の総称で,脊柱を縦走する後縦靭帯,黄色靭帯,前縦靭帯が骨化し,脊柱管が狭くなり,脊髄と脊髄から分枝する神経根が圧迫され知覚障害や運動障害などの神経障害を引き起こす日本人に多い疾患で,難病の疾患の1つである。いまだ疾病の原因・発症機序はわかっていない。われわれは,脊柱靭帯骨化症のプロテオーム解析から特異的タンパク質を探し,後縦靭帯骨化症の患者には高血糖の合併がみられることから,糖鎖の検出を行った。骨は,体を支える組織であるだけでなく,カルシウムやリンなどのミネラルの調節や,血液を作る骨髄を保持するなどの大切な働きを持っており,骨にかかる外力やホルモンなどに常に反応をし,絶えず骨を溶かす破骨細胞と骨を作る骨芽細胞が密接に連係して骨吸収と骨形成を繰り返し,リモデリングを行っている。後縦靭帯骨化症の発現タンパク質の遺伝子をクローニングし,発生レベルでの発現を調べ,疾患の特異性を観察した。
7. 眼疾患のプロテオミクス (山根 健・皆本 敦・三嶋 弘・山下英俊)

プロテオミクスの手法により,眼疾患に伴う種々のタンパク質の発現や正常なタンパク質の発現パターンの消失を網羅的に解析することができ,複雑な病態を総合的に把握することができる。われわれはヒト硝子体液でのプロテオミクスを行ってきた。糖尿病網膜症患者の硝子体サンプルでは多くのスポットからタンパク質を同定できたが,糖尿病網膜症に関する血管増殖因子,血管抑制因子については多くの因子を検出することはできていない。今後,眼内液を用いて各疾患の病態を把握するためには,プロテオミクスの技術感度の向上が最大の課題であり,検査法,病態研究法として実用化するためには感度を向上させることが必要である。
8. 腎疾患のプロテオミクス (吉田 豊・山本 格)

腎臓病のうち,特にその治療法の開発が望まれている末期慢性腎不全へと進行する疾患は慢性糸球体腎炎(症候群)と糖尿病性腎症に代表される。それらの疾患は腎糸球体に第一義的な病変が起こる病気である。慢性糸球体腎炎はIgA腎症をはじめとするいくつかの疾患に細分されるが,それらの疾患の病因や進行機序はほとんどわかっていない。糖尿病性腎症も,糖尿病が原疾患であるが,糸球体障害機序は不明な点が多い。そのため,これらの疾患に対する根治的治療法はまだなく,その打開の糸口としてヒト腎糸球体の網羅的タンパク質の解析の意義を概説した。
9. 生活習慣病とプロテオミクス (高田哲秀・藤田芳邦・大石正道・小寺義男・前田忠計)

生活習慣病とは,「食習慣,運動習慣,休養,喫煙,飲酒などの生活習慣がその発症・進行に関与する症候群」であり,高血圧,高脂血症,高尿酸血症,糖尿病などが含まれる。
生活習慣病の発症には,各種の遺伝因子や環境因子が関わっているとされている。しかしながら,これらの疾患は症例や集団により発症因子が異なる多因子疾患であると考えられており,詳細はいまだ不明である。本稿では,糖尿病を中心に生活習慣病の遺伝子解析,プロテオミクス解析の現状,および当研究室でのプロテオミクス解析の実際について述べる。
10.

免疫疾患のプロテオーム解析 −免疫不全症を例として− (河野雅之・斉藤 隆・小原 收)

免疫系は様々な生体機能を維持するのに極めて重要であり,その破綻は様々な疾患となって現れてくる。そのため,これら免疫系の関与する疾患は極めて多様であり,それらのプロテオーム解析を単純にひとつにまとめられるものではない。そこで本稿では,免疫疾患の代表として免疫不全症を取り上げ,免疫不全症の解析にプロテオミクス的なアプローチがどのように寄与しうるか,現在の問題点はどこにあるか,そして今後期待される免疫不全症の疾患プロテオミクスの展開方向について述べた。

11. リウマチ性疾患におけるプロテオミクス (加藤智啓)

プロテオーム解析は,最終機能産物であるタンパク質を直接解析できる点や,翻訳後修飾や抗原性など遺伝子発現解析では解析できない因子も解析されうる。この利点を活かしてリウマチ性疾患にも応用されている。1つにはリウマチ性疾患は自己免疫疾患としての側面があることから,自己免疫の検出法の1つとして自己抗体・自己抗原の網羅的検索に威力を発揮している。他方,早期診断や臨床経過あるいは薬剤反応性の予測などには,現在末梢血の免疫担当細胞のプロテオーム解析が試みられようとしており,その結果が期待されているところである。
12. 質量分析を用いた異常ヘモグロビン解析 −変異タンパク質の一次構造解析法−
 (宮崎彩子)

質量分析(MS)を用いた異常ヘモグロビン分析では,アミノ酸置換によって生じた質量の変化を検出することにより,変異成分の検出・同定を行う。変異成分の解析には,まずエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI/MS)でグロビン全分子の質量の測定を行う。変異部位とアミノ酸置換は,酵素消化したペプチドを試料として,on-line HPLC ESI/MSおよびMS/MS分析により決定する。MSを用いた分析では,従来のタンパク質解析では検出感度以下であった微量成分の検出が可能である。また,DNA解析ではわからない翻訳後修飾の検出も可能である。
13. 細胞核プロテオミクス解析 (斉藤典子・上田泰明・中尾光善)

細胞核では遺伝子の転写,複製,修復など,重要な反応が行われており,数々の機能ドメインに相当する核内構造体が存在する。近年,核内構造体のプロテオミクス解析が行われ,多くのタンパク質がそれぞれの構造体にマッピングされ,核内構造体の機能が示唆されるとともに,関連する疾患が指摘された。特に,核膜とジストロフィーの関連が明らかとなった。古くより臨床病理学において,疾患細胞で顕著な細胞核の形態変化が観察されてきたが,細胞核プロテオミクス解析はそれらがどのような機序によるものかという疑問を解明する緒を築くと期待される。
14. HIV-1粒子のプロテオーム研究 (三隅将吾・高宗暢暁・庄司省三)

ウイルスゲノム情報のみでは,ウイルスの感染性を左右する粒子中に取り込まれる宿主性タンパク質やタンパク質の翻訳後修飾などの解析・同定を行うことは極めて困難である。エイズの原因ウイルスであるHIV-1粒子を対象としたプロテオーム解析を行うことによって,ゲノム情報では推定しえなかったHIV-1粒子像が明らかになり,新しい複製機構解明および抗HIV戦略の提案につながると期待される。
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