第3章 基礎編
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1.
糖鎖機能の解明と糖鎖関連バイオマーカーの開発 |
1) |
糖鎖を標的にした新しい癌および消化器疾患の血清診断法の開発 (三善英知・谷口直之)
糖鎖は第三の生命鎖と言われて久しいが,最近の微量解析技術の進歩によって,ようやく産業/医療への応用の道が見えてきたと言える。一般的に,糖鎖を標的にしたバイオマーカーとしては,(1)糖転移酵素の量を測定する,(2)特定のタンパク質の糖鎖を解析する,(3)全体の糖鎖のパターンを解析するという3つの方法が想定される。……
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2) |
担癌状態におけるムチンの生物学的機能 (中田 博)
上皮性癌細胞の産生するムチンが正常なムチンと異なる点は,その生体内分布および糖鎖構造にある。癌組織全体あるいは血流中に流出したムチンは,癌化に伴う単なる結果ではなく,免疫系細胞などとの相互作用を介して癌細胞の増殖に有利な環境を作り出していることが明らかになりつつある。……
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3) |
ヒト腫瘍におけるムチンの発現と腫瘍の悪性度 (米澤 傑・東 美智代・山田宗茂・野元三治・後藤正道)
ヒトの様々な腫瘍におけるムチンの発現様式を検索し,生命予後を含む様々な臨床病理学的因子との関連性について検討することにより,各ムチンの発現と腫瘍の悪性度との関連性についての解析を行った結果,MUC1(汎膜結合ムチン)は予後不良因子,MUC2(腸型分泌ムチン)は予後良好因子ということが明らかとなってきた。……
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4) |
血小板凝集因子ポドプラニン(Podoplanin)の分子生物学的解析 (加藤幸成・金子(加藤)美華・成松 久)
マウス高転移性細胞株より同定されたポドプラニン(Podoplanin,別名Aggrus)は,血小板凝集能/転移促進活性をもつⅠ型膜貫通型糖タンパクである。機能部位解析により,ポドプラニンの活性部位(PLAG domain : platelet aggregation-stimulating domain)が種を越えて保存されていることがわかった。……
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5) |
バイオマーカーとしてのグリコサミノグリカン糖鎖を認識する抗体 (赤津ちづる・山田修平・菅原一幸)
グリコサミノグリカンは生体内の環境・状況に応じてその構造が変化し,機能発現に対応している。特に,癌などの疾病に伴う微細構造の変化が報告されている。これまでに,その構造変化を疾病に対するバイオマーカーとして使用されてきた例は少ないが,抗コンドロイチン硫酸(CS)抗体WF6のエピトープは卵巣癌における非常に有用なバイオマーカーに,……
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6) |
プロテオグリカンと疾患 (渡辺秀人)
プロテオグリカンやグリコサミノグリカン(GAG)が関与する疾患・病態は,合成異常,分解の障害,その他に分けることができる。合成異常を呈するヒト疾患の多くは本来軟骨に多量に存在するプロテオグリカン,GAGの低下による軟骨異形成症である。GAGが細胞内に蓄積するムコ多糖症はスルファターゼ,グリコシダーゼなどGAG鎖の分解をつかさどる酵素……
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7) |
アルツハイマー病βセクレターゼによる糖転移酵素のプロセシングによる糖鎖発現の調節 (橋本康弘・北爪しのぶ)
βセクレターゼはアルツハイマー病の「原因酵素」であると考えられている。われわれはβセクレターゼが糖転移酵素の1つであるα2,6-シアル酸転移酵素を生理的な基質として切断することを見出した。また,この切断により可溶性糖タンパク質のα2,6-シアル酸化が亢進することをモデル実験系で示した。……
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8) |
ノロウイルスと血液型抗原との結合 (白土東子・武田直和・石井孝司)
ノロウイルスは世界各地で発生しているウイルス性下痢症の主たる原因ウイルスである。近年,ノロウイルスが血液型抗原に吸着することが明らかになった。血液型抗原とは抗原構造をもった糖鎖の総称であり,ヒトの赤血球表面だけでなく,ノロウイルスが標的とするであろう腸管上皮細胞にも発現されている。ノロウイルスのGⅡ/4遺伝子型株は……
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2.糖鎖遺伝子ノックアウトマウスの解析
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1) |
糖脂質合成酵素遺伝子欠損マウスによる糖鎖の機能解明と癌関連糖鎖の探索への応用
(古川鋼一・安藤玲子・徳田典代・近藤裕史・土田明子・古川圭子)
新規の癌関連糖鎖の同定をめざして,糖鎖変異ノックアウトマウスを免疫に用いたモノクローナル抗体の作製を行っている。変異マウスで欠損する糖鎖構造の系列を多く発現するヒトの癌細胞抽出物を,そのノックアウトマウスに接種して,非自己としての認識と,強い免疫応答を期待することができる。……
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2) |
N-型糖鎖合成異常による2型糖尿病発症メカニズム (大坪和明)
2型糖尿病発症時には膵臓β細胞表面におけるグルコーストランスポーターの発現が低下し,その結果,グルコースセンサー機能が不全となり血中グルコース濃度に応じた適切なインスリンの分泌が行えなくなる。N-アセチルグルコサミン転移酵素-4a(GnT-4a)は膵臓β細胞内においてグルコーストランスポーターを糖鎖修飾する。……
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3) |
ポリラクトサミン糖鎖の免疫系での役割 (栂谷内 晶・小園裕子・佐藤 隆・池原 譲・成松 久)
ポリラクトサミンは糖鎖の基幹的構造であるとともに,その構造上に多くの機能性糖鎖抗原を形成している。ポリラクトサミン合成酵素β3GnT2遺伝子のノックアウトマウスを作製し,解析を行った。本マウスでは糖タンパク質のN-結合型糖鎖上のポリラクトサミン構造が有意に減少していることが明らかとなった。……
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4) |
神経損傷とケラタン硫酸 (門松健治)
一度損傷を負った神経の再生は不可能ではないことが近年わかってきたが,実際の再生は極めて難しい。神経軸索の再生に関しては,損傷に際してセマフォリンやコンドロイチン硫酸などの抑制分子が誘導され,反応性アストロサイトなどの集積によるグリア性瘢痕とあいまって再生が阻害される。残念ながら,これらの阻害機構の解明は十分でなく,……
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