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内容目次 |
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●巻頭言 : |
ICH国際合意が切り拓く臨床開発の新時代
(杉山雄一・山下伸二・栗原千絵子) |
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●overview : |
トランスレーショナルリサーチの加速化と実用化への展望
(澤田育久) |
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経済産業省/新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は,基礎的な研究成果を臨床に応用する研究,いわゆるトランスレーショナルリサーチ(TR)を,文部科学省,厚生労働省との連携の下で実施している。ヒト探索的臨床研究体制の構築などのインフラ整備を含め,「基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発」 として企業ニーズの高い,波及性のある画期的な医薬・医療技術の実証を,探索的臨床研究を介して実施することを目的としている。本プロジェクトにより,新たな医薬・医療技術の創出を加速し,それらが次世代の医療産業の基盤となることを期待している。NEDO-TRで実施しているプロジェクトのいくつかを紹介し,それらの成果を踏まえた今後の展開を考察した。
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●第1章 マイクロドーズ臨床試験による予測技術の構築 |
1. |
マイクロドーズ臨床試験を活用した革新的創薬技術の開発:NEDOプロジェクトの現況と展望
(杉山雄一・栗原千絵子・山下伸二) |
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NEDOプロジェクト 「基礎研究から臨床研究への橋渡し促進技術開発 : マイクロドーズ臨床試験を活用した革新的創薬技術の開発」 では,マイクロドーズ(MD)臨床試験で得られる情報から臨床用量における被験化合物の薬効および副作用の発現を推定するための方法論として,以下のようなストラテジーを考案し,その妥当性を実証する。① 薬物の体内動態に関する速度論的な解析技術を駆使することによって,MD臨床試験での結果から臨床投与量での被験化合物の体内動態を定量的に予測する手法を構築する。② MD臨床試験では,PETなどの分子イメージング技術の利用により被験化合物の組織移行を測定することが可能である。しかし,そこで得られる情報は,あくまでもMDレベルでの組織分布であるため,有効性や安全性を直接検証することはできない。そこで,①で構築した体内動態の定量的予測法を用いて,マイクロドーズでのPET試験の結果から,臨床投与量での各組織への移行量・移行速度を定量的に予測する。③ ②で予測した臨床用量での標的組織への移行量と,各化合物のもつ薬効ポテンシャル(標的組織内濃度と薬効の関係)に関する情報を統合的に解析し,被験化合物の臨床投与量での薬効発現レベルおよびその時間推移を予測することによって,臨床用量および個人間変動を推定する。本プロジェクトの現状と展望について記載する。
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2. |
マイクロドーズ臨床試験における投与量の設定方法:薬効発現量の予測
(加藤基浩) |
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マイクロドーズ臨床試験は,従来の臨床第1相試験の前に,ヒトで薬効を示さないごく微量の薬物を投与し,血漿中濃度推移などを調べる試験である。マイクロドーズ臨床試験は,日米欧の3極において現在可能になっている。マイクロドーズ臨床試験での投与量は100μg以下でかつ薬効を発現する用量の1/100以下と規定されているが,薬効発現用量の算出法については具体的に記載されていない。本稿では,薬効発現用量を算出するための考え方について紹介したい。
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3. |
良好な経口吸収性をもつ候補化合物の効率的な選択法の開発
(山下伸二) |
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複数の新規医薬品候補化合物の中から,経口剤として高い吸収性(バイオアベイラビリティ,BA)をもった化合物を効率よく選択するための新しい方法論として,カセット投与法を用いたマイクロドーズ(MD)臨床試験の有用性と問題点について概説した。特に経口投与では,吸収過程における初回通過代謝やトランスポーターの飽和によって,MD臨床試験結果と臨床用量投与後のBAの間に乖離が認められる可能性がある。今後,in vitro での代謝安定性や膜透過性などに関する情報に基づき,MD臨床試験の結果から臨床用量でのBAを精度よく予測する方法論の構築が必要と考えられる。
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4. |
薬物動態関連遺伝子多型による薬物動態の変動予測法の開発
(楠原洋之・前田和哉・杉山雄一) |
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トランスポーターは医薬品の体内動態支配要因であり,SNPなど遺伝子多型により誘発される輸送機能の変動は体内動態さらに薬剤応答性の個人間変動を生じる。トランスポーターの遺伝子多型が薬物動態に与える影響は,その発現部位やトランスポーターの動態特性に応じて,血中動態で評価可能なものと標的組織中濃度の定量に必要なものに分類される。前者であればマイクロドーズ試験により,後者であればマイクロドーズPET試験により,医薬品開発の早期において,遺伝子多型により生じる個人間変動が小さい薬物を選別することが可能である。
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5. |
薬物間相互作用による薬物動態の変動予測法の開発
(前田和哉) |
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代謝酵素のみならずトランスポーターも薬物相互作用の標的として考慮すべき臨床事例の報告が相次いでおり,相互作用のパターンも多様化が進んでいる。in vitro 実験を用いた予測法も着実に進歩しているが,最終的にヒトで相互作用を実証的に検討するのは,安全性の面から極めて困難である。われわれは,マイクロドーズの導入により,創薬初期の段階からヒトで相互作用の実証が可能となると考えている。さらに,ヒトでは測定不能だった臓器内濃度の変動においても,イメージング技術の導入により実測が可能となり,さらに精密な薬効・副作用予測が進むことが期待される。本稿では,マイクロドーズ試験を利用した相互作用の検討法について提案も含めて紹介したい。
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●第2章 AMS分析法:開発ツールとしての期待と可能性 |
1. |
ヒト特異的代謝物とマイクロドージング
(山崎浩史) |
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アメリカFDAが2008年に発表した 「Safety Testing of Drug Metabolites」 と,マイクロドージングを融合させた研究展開について調査した。加速器質量分析計(AMS)を活用したマイクロドージングの進展から,ヒトの最適モデルはヒトであるとの考え方が提示されうる。この新しい2 つの概念の融合と創薬への活用は,現在の科学水準から十分に期待される。しかし,現時点でAMSを活用してヒト特異的代謝物を検出した実例は,残念ながら公開情報には見当たらない。ここではヒト特異的代謝物とマイクロドージングの最近の話題を紹介する。
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2. |
代謝物検索への期待とマスバランス試験への展望
(濱邉好美・山田麻里佳) |
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加速器質量分析計(AMS)分析の測定感度は非常に高く,定量限界は約0.001 dpm/gであり,比放射能200nCi/100μgの14C標識化合物であれば,0.2pg/gまで定量可能である。すでに欧米では高い感度を備えたAMS分析法が活用されており,マイクロドーズ臨床試験における有効性に関して多数の報告がなされている。そこで,ここではAMS分析法を用いた代謝物検索の手法およびマスバランス試験への展望に関して考察する。
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翻訳 :
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EUMAPPの諸成果 - マイクロドーズおよび薬理学的投与量における薬物動態の比較研究
(馬屋原 宏) |
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ヨーロッパ マイクロドージングAMS共同プログラム(The European Microdosing AMS Partnership Programme:EUMAPP)は,ヨーロッパ連合(EU)からの資金援助を受けた,産業界とアカデミアの共同研究を含む主要な多国間・多極共同研究である。EUMAPPの目的は,次の2つであった。
● 伝統的な薬物動態学的予測モデル(例えば in vitro および動物種による)では問題があった場合を代表する7種の薬物について,マイクロドーズと治療用量との間に薬物動態学的線形性があるかどうかを確認すること
● マイクロドージングによる薬物動態学的予測の精度と,生理学に基づく薬物動態学的(PB-PK)コンピュータモデルによる予測の精度を比較すること
EUMAPPが試験したすべての薬物において,静脈内マイクロドーズ投与後のデータは,半減期(t1/2),クリアランス(CL)および分布容積(V)を非常によく予測した。経口投与データの予測性は静脈内投与の場合ほど良くなかったが,得られたデータは概して候補化合物を次の開発段階に上げるための選択に有用と思われるもの(あるいは開発パイプラインから脱落させたであろうもの)であった。経口マイクロドーズデータの予測性がそれほど良くない場合でも,それらの理由はすべて当該薬物の既知の代謝的あるいは化学的諸性質から推測可能であり,したがってマイクロドージングの有用性に関するわれわれの理解に貢献した。EUMAPPはわれわれのマイクロドージングに関する知識に貢献し,また薬物選択のどの局面にこの技術が最もよく応用できるかについてのわれわれの理解に寄与した。
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●第3章 LC/MS/MS分析法:新たな可能性へのチャレンジ |
1. |
LC/MS/MS分析法による薬物動態予測の新展開
(戸塚善三郎) |
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MD臨床試験の濃度測定に使われるLC/MS/MSシステムの最前線を紹介し,多剤同時投与のカセットドーズで多剤の未変化体および代謝物同時測定のできるLC/MS/MS法によるMD臨床試験の重要性,PK予測・薬物相互作用・薬物動態関連タンパク遺伝子のSNIPs・MISTを考慮したLC/MS/MS法によるMD臨床試験の重要性,抗体医薬品・核酸医薬品・バイオマーカーを評価するLC/MS/MS法による臨床試験の重要性について記載した。
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2. |
First in human 試験の革新:3つのマイクロドーズ試験の経験から
(熊谷雄治) |
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マイクロドーズ臨床試験は,いわゆる臨床第Ⅰ相試験の開始に先だって,薬物動態などの探索を行う試験であり,薬物の吸収・分布・消失に関して有用な情報が得られる可能性がある。投与量は最大で100μg以下と極めて微量であるが,first in human試験であること,投与量が微量であるがゆえの測定感度の問題,薬物動態の線型性に関する懸念などの問題点が挙げられている。これまでわれわれが行った非標識体をLC/MS/MS法で測定した検討では,測定感度は十分であり,薬物動態の非線形性は予測可能であることが示されている。マイクロドーズ臨床試験は薬物の開発において有用性が期待される。
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●第4章 PET分子イメージング:マイクロドーズからバイオマーカー開発へ |
総説 : |
PET分子イメージングの環境整備と創薬開発への貢献
(渡辺恭良) |
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PET(ポジトロンエミッショントモグラフィ)などの生体分子イメージングの手法を用いて,マイクロドーズ臨床試験における病態の分子医学的把握とその情報を有効に用いた薬効評価,また従来の血中動態に加え標的臓器・細胞・分子への薬物動態を捉え,合理的な薬物送達システム(DDS)の評価を行うことができる。「ヒトに対しての創薬」 を行っていくために欠くことのできない方法である。5年前から,文部科学省委託費 「社会のニーズを踏まえたライフサイエンス分野の研究開発 『分子イメージング研究プログラム』」 を受けて,理化学研究所分子イメージング科学研究センターはわが国の研究拠点として,放射線医学総合研究所とともに,大学など研究機関とネットワークを形成し環境整備と実際の創薬への貢献に向けて研究開発を展開している。
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1) |
中枢性医薬品開発におけるPET活用
(高野晴成・須原哲也) |
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positron emission tomography(PET)は脳内の神経受容体,トランスポーター,アミロイドなどの様々な分子を画像化することが可能であり,リガンドの特性に応じた様々な脳機能を評価することができる。また,PETは直接的ないしは間接的な薬物の評価にも用いられ,向精神薬の占有率測定やアミロイドイメージングは臨床試験におけるイメージングバイオマーカーとして利用されはじめている。PETでは小動物から人間まで,非侵襲的に in vivo で様々な機能を計測することができるので,PETは医薬品の開発早期の段階から臨床に至るまでのあらゆる段階で用いられている。
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2) |
脳アミロイドイメージングとアルツハイマー病の早期診断
(岩坪 威) |
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脳アミロイドイメージングは,アルツハイマー病(AD)の主要な病理学的変化である脳アミロイド蓄積を,PETにより非侵襲的に画像化する画期的な技術である。ADにおいては確定診断に,軽度認知障害(MCI)では背景病理の推定とADへのconversionの予知にも有用である。さらに,抗Aβ薬などのdisease modifying therapyの治験においては被験者選択にも重要な情報を提供する。しかし,アミロイドイメージングは健常高齢者の20〜50%でも陽性を示すことから,これらの人々が高率にADを発症するのか,アミロイド陽性者におけるAD発症の促進・抑制因子が何かを同定することが今後の課題である。
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3) |
循環器領域の分子イメージング
(玉木長良・吉永恵一郎・久下裕司) |
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PETを主体とした循環器領域の分子イメージングとして,心筋代謝,神経機能のイメージング法を紹介する。心筋代謝の中でもブドウ糖代謝を映像化するFDG-PETは心筋生存能を判定できるだけでなく,動脈硬化病変の活動性も同定できる。また,心不全では著明にβ受容体密度が低下しており,低下の程度が著明なほどβ遮断薬治療により大きな心機能回復が期待できた。循環器領域のPETを中心とした分子イメージングは,これから求められる患者ごとの最適かつ有効な医療を選択する個別化医療に向けて,有効な情報を提供できる。患者個々の情報を提供できる点で今後もPETを中心とした分子イメージングの発展とその臨床応用に注目したい。
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4) |
バイオ医薬品開発への応用:マイクロドーズ臨床試験に向けたバイオ医薬品のPETプローブ化技術開発
(長谷川功紀・渡辺恭良) |
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医薬品開発の成功確率を上げるためにマイクロドーズ臨床試験が検討されている。バイオ医薬品にマイクロドーズ臨床試験を行うためには,そのPETプローブ化技術が必須である。マイクロドーズ臨床試験のためのPETプローブ化技術で重要となるのはポジトロン標識前・後でのバイオ医薬品の同等性・同質性の担保である。そのためには活性・動態に影響のない部位への特異的標識が重要となってくる。ここでは,そのことを念頭に置き,ペプチド製剤,タンパク製剤,抗体医薬などのバイオ医薬品への標識技術について紹介する。
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5) |
受容体占有率時間推移の予測:e-INDへの連結
(金光佳世子・楠原洋之・杉山雄一) |
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マイクロドーズ臨床試験は本来動態特性の評価を主目的として実施する試験であるが,薬効標的分子が既知である場合には,薬物との相互作用に関連したパラメータと組み合わせることで,薬剤応答性(薬効や有害作用)に関する予測を行うことができる。マイクロドーズPET試験を利用することで,さらに血液中から薬効標的組織への移行・消失に関するパラメータも測定できるため,標的分子が細胞内に存在する場合であっても,より正確に薬剤応答性を予測することが可能となる。このような予測法と併用し,有効性が高く副作用の少ない化合物を選別することで,医薬品開発における成功確率を高めることができると期待される。ここでは医薬品の肝臓中・脳内濃度や,脳内における受容体占有率およびその推移に関して,予測のためのストラテジーを紹介する。
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6) |
ヒスタミンH1受容体占拠率による脳内移行性評価
(谷内一彦・田代 学・古本祥三・吉川達朗・岡村信行) |
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PETは疾患の臨床診断のみならず,創薬・育薬に関連した分子イメージング研究に活発に利用されている。抗ヒスタミン薬はアレルギー症状緩和のために主に使用されるが,脳内移行性が高い場合には強力な鎮静作用を引き起こす。脳移行性が低い第二世代抗ヒスタミン薬が開発されているが,その鎮静作用の差異を主観的眠気や認知機能試験のみで比較するのは困難である。われわれはヒスタミンH1受容体の分子イメージング法を開発して,脳内H1受容体占拠率を鎮静作用の客観的な指標として活用することを提案している。
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1) |
PET臨床試験における撮像施設の認定とPETデータのQC
(千田道雄) |
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PETを用いる臨床試験には,薬物動態試験,治験薬の薬理作用の評価,抗癌剤の薬効評価,PET診断薬の開発など,様々なパターンがあるので,その目的を踏まえて適切な計画を立て,ふさわしいPET施設を選定しなければならない。またPET画像データは用いるカメラの機種や撮像方法の詳細によってデータの質と結果が変わるので,実施方法と撮像条件を細部にわたって決めたうえで,施設訪問とファントム実験によって施設認定を行い,さらに実施にあたっては得られたデータを逐一チェックするという品質管理が必要である。近年,PETの専門家を擁するイメージングCROが出現し,そのような業務を請け負うようになった。
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2) |
PET薬剤製造技術移転の可能性とオールジャパン体制への展望
(藤林靖久) |
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日本国内に120あまりのサイクロトロンを有するPET施設が稼働しているといわれている。PET分子イメージングの普及と発展には,社会的に認知された安全性と信頼性を担保する体制作りを実現したうえで,各PET施設の規模と能力に応じて技術展開と運用体制を提案していく 「オールジャパン体制」 を構築する必要があると考えられる。大規模PET研究施設が率先して,小規模PET施設にも展開可能なPET製剤製造技術の開発とその普及に努め,臨床診断意義を明らかにするための大規模共同研究を推進することが,最も実現可能な 「PET分子イメージングにおけるオールジャパン体制」 ではないだろうか。
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3) |
分子イメージング国際共同研究の個人的経験から
(塚田秀夫) |
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分子イメージング研究,特にPETを活用した前臨床から臨床段階における研究は,単に正常な生体機能の解明や疾患の病態把握のみならず,創薬研究においても候補化合物の分布・動態,治療効果判定,さらには副作用の予測まで,有効な手段となりうると期待されている。高性能PETスキャナの開発,新規標識合成法の開発,脳神経疾患を中心とした臨床研究への活用など,個々のレベルでは決して諸外国に見劣りすることはないのに,ゴール地点では諸外国に後れを取ってしまうように感じられて仕方がない。その原因を,私の 「国際共同研究」 の経験談を通じて,探っていただければ幸いである。
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4) |
FDAイメージングバイオマーカー・ガイダンスの国内導入に向けて
(矢野恒夫) |
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バイオマーカーをPETやSPECTによって画像化する放射性イメージング薬を治験として開発し薬事法に基づき承認申請するためのガイダンス草案を作成した。生化学的・生理学的・分子生物学的な機能をPETやSPECTの画像診断によって測定する機能診断という新しい概念に基づいた機能診断用薬や患者選択用薬を提案して,従来の疾患診断用薬やこれらの複合的イメージング薬からなる,4 つの類型のイメージング薬によって構成している。放射性イメージング薬によって疾患の機能異常を定量的に判定できるので,原因療法の薬剤開発へつながり,患者に最適な薬剤を選択する個別化医療への展開も期待される。
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5) |
日本核医学会における指針作成と創薬へのPET活用
(井上登美夫) |
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日本核医学会は,放射性同位元素を用いる医学の発展を目的とする臨床系の医学会である。分子イメージングの1つであるPETは,本学会の重要な研究対象であり,わが国でのPET検査を実施するにあたり中心的に活動をしてきた学会である。「放射性イメージング薬ガイダンスの草案」 が提案されたことに対し,日本核医学会内での議論をさらに進め,対応するガイドライン作成などを通じてPETが創薬開発のツールとしても利用されることを支援し,さらにその活動が将来の保険診療の中での個別化医療につながるための体制作りを学会として検討すべき時期にきている。
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6) |
PET分子イメージング臨床研究における被験者保護
(福島芳子・栗原千絵子) |
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2008年にMD試験のガイダンスが治験の枠組みでの実施を前提に通知され,日本の治験においても14Cやポジトロン核種で標識された薬剤の人体への使用が可能とされたが,被験者の被ばくのリスク・ベネフィット評価の論点に関しては,明確に示されていない。今後のPET分子イメージング技術を用いた臨床研究実施においては,使用するPET薬剤の信頼性保証の標準化や国際基準での被ばく線量評価の考え方の導入により,倫理審査基準の明確化および適切な被験者保護の枠組みを構築したうえでの実施が期待される。また,放射線に対する被験者の過度な不安の低減に努めるようなインフォームドコンセント取得のプロセスを実施すべきである。
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7) |
マイクロドーズ・PET分子イメージングに関する政策・規制の世界的動向
(栗原千絵子) |
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マイクロドーズ臨床試験 (MD試験),PET分子イメージングが医薬品臨床開発の新たな手法として注目される。欧米諸国ではこれらを活用した研究推進の政策立案と規制整備が進められ,日本もこれを追いかける形である。2008年6月にはICH (日米EU医薬品規制調和国際会議) でMD試験を含む探索的臨床試験の定義が日米EU三極で合意され,第Ⅰ相から第Ⅲ相,承認までの各段階に必要な非臨床試験の規制調和が行われた。本稿では,日米EU三極における,MD試験とPET分子イメージングの規制・政策の動向を概観する。
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●第5章 製薬産業,分析・臨床CROからの期待 |
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わが国における創薬システムの変革とマイクロドーズ臨床試験への期待
(山田一磨呂) |
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医薬品開発は,探索研究,前臨床研究,臨床開発,製造販売後臨床の4 つのプロセスから成り立っている。医薬品候補化合物を選択する最も重要なプロセスは探索研究であり,化合物を医薬品へと成長させるプロセスは臨床開発である。この2 つのプロセスが有機的に融合すれば,医薬品の成功確率は飛躍的に向上する。しかしながら,今までの医薬品開発プロセスでは,研究は in vitro や動物試験,開発は臨床試験とそれぞれの専門性が重視されてきた。2008年6月3日,「マイクロドーズ臨床試験の実施に関するガイダンス」 が通知され,医薬品候補化合物を選択する際の新たな選択肢が提供された。創薬システムの未来像とマイクロドーズ臨床試験への期待について,個人的な見解を中心に記述する。
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2) |
MD試験の海外実施経験と今後の国内実施への期待
(金 淳二) |
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バイオアベイラビリティが0.3%から16%と大きな種差がある化合物A を健常人に14Cラベル体を含む100μgのマイクロドージングで経口および静脈内投与した結果,ヒトのバイオアベイラビリティは約10%であり,コストに見合う臨床有効投与量と個体間変動および代謝物に問題は少ないことが予測され,開発研究を継続する価値があると判断した。今後の国内実施に向けて,臨床試験環境整備だけでなく,創薬研究と橋架けする専門部署と人材および合成と品質を含めたマイクロドージング臨床試験の申請を指導運営できる受託会社が強く望まれる。
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3) |
ICH M3(R2)ガイドラインの最終化と早期探索的臨床試験への期待
(三浦慎一) |
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新薬開発の効率化と開発に必要な資源の節約を目的とした 「早期探索的臨床試験」 が注目される中,各国の規制当局からその実施基準が発表されている。2009年6月に,これらの実施基準の調和ともいえる内容を含むICH M3(R2)ガイドラインが最終化された。本ガイドライン中には,実施予定の臨床試験での曝露の程度により分類された5つの早期探索的臨床試験を例に,その実施のための非臨床安全性試験基準が示されている。今後,各地域で実施される早期探索的臨床試験が,革新的新薬の開発に役立つことが期待される。
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4) |
Ex-INDの活用事例とPET活用の有用性
(上村尚人) |
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探索的INDは,通常の第Ⅰ相試験よりも早い段階で開発化合物の成功確率を評価する新しい開発パラダイムである。臨床開発における薬物動態の評価では,血中薬物濃度測定が有用であることは言うまでもないが,一方で,血中薬物濃度は必ずしも薬物の標的での濃度を反映していない。薬物が薬効を発揮するには,薬物が十分な濃度で標的組織に移行し,かつ十分な程度で標的を捕捉する必要がある。開発のより早い段階で,それらを確認することは非常に重要であり,陽電子放出断層法(PET)を用いたEx-IND試験の有用性が期待されている。
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5) |
PETを活用した新薬研究開発
(西村伸太郎) |
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PETは医療現場で癌や脳機能などの診断に使われている先端画像診断技術である。動物でも測定可能なことから非臨床と臨床データをブリッジできるトランスレーショナル研究の有力なツールとして注目されている。創薬への利用としては薬物動態試験,受容体占有率試験によるターゲット臓器への薬物到達の確認や有効投与量の推定,有効性試験によるPOCの確認,開発候補品の比較・差別化などに利用可能である。弊社ではPETの要素技術開発や人材育成に取り組み,国内製薬会社初の自社研究施設と組織を構築して研究・開発を推進中である。
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6) |
MD・PET先進国イギリスからの報告 - グラクソ・スミスクライン社における取り組み
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(岩崎 甫) |
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ヨーロッパでは以前よりマイクロドーズ(MD)試験の医薬品開発における有用性を探っており,最近ではマイクロドーズに加えてPETやMRIを利用したイメージングを活用した医薬品の早期の探索が活発である。GlaxoSmithKline社ではイメージング専用の施設であるClinical Imaging Centerをアカデミアとの協力のもとで設立して中枢神経系や循環器系,またオンコロジーなど様々な領域で研究を始めている。画像を加えたマイクロドーズ試験は探索的な段階で開発候補品の臨床的な可能性を探るためには有用であり,効率的な医薬品開発に向けてさらなる発展が期待される。
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1) |
マイクロドーズ試験の国内導入が測定CROにもたらすインパクト
(仙田 哲) |
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国内の測定CROは前臨床試験の各試験(薬理,安全性,薬物動態,PK,TK濃度測定)を主に受託している。今後マイクロドーズ試験(MD試験)が製薬企業の開発スケジュールに組み込まれるようになってくると前臨床段階の試験の役割も内容も縮小していき,臨床段階での試験の重要性が高まってくる。測定CROは更なる成長のためにMD試験導入によって変わってくる製薬企業の開発プロセスに対応するとともに,MD試験実施に必要となる新技術を積極的に取り入れていかねばならない。
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2) |
MD・ExINDの国内導入と臨床試験受託機関の役割
(千代田健志・小林知子・生島一平・加治良一・入江 伸) |
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法令上,放射性同位元素とみなされない放射能量の14C標識化合物を経口投与し,加速器質量分析法を活用することでマスバランス試験が実施できることを検証した。この試験において,試験の計画立案から実施に至るまでの準備期間は通常の臨床試験と同程度であった。内部被曝に関して,治験審査委員会では外部の放射線被曝評価を用い審議を行い,被験者への説明と同意については被験者が日常経験する内容との比較説明を行うことで同意取得を行った。今後,治験として実施する場合でも,治験薬の希釈を含めた調製の課題もあるが,通常の臨床試験と同様に実施できると考える。
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●索引 |