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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−神経内科編 3 |
シリーズ企画 |
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遺伝性トランスサイレチン型アミロイドーシス
(松島理明・矢部一郎) |
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特集: |
ゲノム医療におけるバイオバンクの役割とその利活用 |
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巻頭言:
「ゲノム医療におけるバイオバンクの役割と
その利活用」に向けて
(山本雅之) |
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1. |
わが国のバイオバンクの現状とバイオバンク・ネットワークによる利活用システムの構築
(荻島創一・黒木陽子) |
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バイオバンクは,患者・住民から信頼のもとで試料・情報の寄託を受け,将来実施される医学研究に供する研究基盤であり,ゲノム医療・遺伝子医学の研究開発が進展するにつれ,バイオバンクはますますその重要性を増し,先端的な医学研究,広くは医療産業を支える重要な社会基盤となっている。わが国のバイオバンクの現状として,疾患バイオバンクとしてバイオバンク・ジャパン(BBJ),ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク(NCBN)および大学病院に併設されたバイオバンク,一般住民バイオバンクとして東北メディカル・メガバンク計画などについて述べる。また,ゲノム医療の研究開発の基盤となるバイオバンクの利活用促進のため,AMEDゲノム研究プラットフォーム利活用システムにより,国内の主要なバイオバンクのネットワークとその利活用システムの構築が進展しており,その取り組みについて述べる。
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2. |
バイオバンク・ジャパン
(松田浩一) |
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日本人における疾患リスクや薬剤応答性に関する遺伝因子を明らかとし,個別化医療を実現する目的で2003年にスタートしたバイオバンク・ジャパンでは,51疾患,約26.7万人の患者のDNA,血清および付随する臨床情報が収集されている。現在,これらの検体を用いたオミクス解析が進められており,全例のSNPアレイ解析や約14,000人の全ゲノムシークエンス,約6.5万人のメタボローム,約3000人のプロテオーム解析が完了し,今後も症例数が増加する見込みである。これらの解析データの大部分は公開され研究利活用されるとともに,多くの疾患関連遺伝子の同定につながっている。今後は,さらなるオミクス解析を推進するとともに,精密医療の実践やゲノム創薬など,これらの研究成果の社会実装が望まれる。
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3. |
東北メディカル・メガバンク計画の一般住民ゲノムコホート・複合バイオバンク
(泉 陽子) |
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東北メディカル・メガバンク計画は,一般住民を対象とするゲノムコホート・バイオバンクであり,総数15.7万人の参加者について,継続的に充実した健康調査を行うとともに,提供された試料の高度な解析によりゲノム・オミックス情報を蓄積し,これらの情報を試料とともに複合バイオバンクに格納し,産学の研究者に提供している。
一般住民ゲノムコホートは,疾患研究のリファレンスを提供するとともに,新たな創薬研究や,遺伝要因と環境要因の相互作用の解明と発症リスク予測など,個別化ヘルスケア実現の重要な研究資源である。
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4. |
ナショナルセンター・バイオバンクネットワーク(NCBN)
(後藤雄一) |
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ヒトの主要な疾患の基礎研究・臨床研究を行っている六つのナショナルセンター(NC)は,その研究基盤として疾患特異的なバイオリソースを収集してきた。各NCは担当する疾患の専門性を活かしながら,中央バンクをハブとして連邦型のネットワークを組織し,カタログデータベースをウェブ公開している。多様な患者由来生体試料は高品質で豊富な医療情報を有しており,ゲノム医学研究・創薬開発ばかりでなく,ライフサイエンス研究全般に利用可能な汎用性を有している。共同研究での提供に加えて,分譲での提供にもほとんどのNCが対応している。
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5. |
ニーズドリブン型バイオリソースセンターの取り組み:
実績と課題,ならびに発展型の考察
(松岡 広) |
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社会の様々な領域で,リアルワールドデータが利活用される時代となっている。医学・医療の分野でも,これまでのモデルとは異なり,実際の患者や健常人の検体や医療・健康情報を利活用することで,実臨床に有用な方法を樹立しようとする動きが盛んとなっている。この際,将来必要な検体を保存しておくバンク本来としての目的と,未来,実際に使われる率,利活用率との両立が課題となる。本稿では,この課題に対する一定の解決策として,「ニーズドリブン型バイオリソースセンター」の取り組みを紹介し,さらに,その課題と発展の方向について考察を加える。
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6. |
バイオバンクの利活用促進ハンドブックと倫理支援
(吉田雅幸) |
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最先端の医学研究に必要な試料・情報のアーカイブである「バイオバンク」について,その利活用を促進するためのハンドブックを2021年に作成した(AMEDゲノムプラットフォーム利活用事業)。しかし,その後の倫理指針改正や各バイオバンクの事業内容の変化などを鑑み,現在ハンドブックの改訂作業が始まろうとしている。この総説では,現在の利活用ハンドブックの内容を紹介するとともにバイオバンク所蔵の試料・情報を用いた研究倫理審査についてもまとめたい。
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7. |
バイオバンクの産学連携による利活用促進
(大根田絹子・野口憲一) |
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バイオバンクは,民間企業が単独で収集することが困難な試料・情報を有するリソースを保有しており,その利活用促進は個別化ヘルスケア・個別化医療・創薬などの加速化につながる。一方,産業界によるバイオバンクの利活用促進には,大学や公的研究機関による研究利用とは異なる視点からの体制整備や配慮が必要である。本稿では,東北メディカル・メガバンク(TMM)計画バイオバンクの三つの利用形態(オープンリソース,試料・情報分譲,共同研究)の産業界による利用実績と利活用促進に向けた取り組みと課題について紹介する。
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1)
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難病研究とバイオバンク
(松原洋一) |
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難病の多くは希少疾患であり,その研究を目的として新たに多くの症例を収集することは容易ではない。希少疾患を含むバイオバンクや疾患レジストリーの利活用が重要である。
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2) |
がんのバイオバンク
(谷田部 恭) |
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ゲノム医療の社会実装に際しては,まずは研究としての検討が必要となるほか,薬事承認申請においては,ゲノム医療に用いられるパネル遺伝子検査に対して数々の分析性能解析結果を提出する必要がある。その際の研究試料のよりどころとなるのがバイオバンクに保存された検体である。現在,本邦で承認されている二つのパネル遺伝子検査である「OncoGuide NCCオンコパネル システム」および「GeneMineTopがんゲノムプロファイリングシステム」のいずれもNCCバイオバンクに保存された検体を用いて検討がなされている。また,全ゲノム解析の臨床導入が検討されているが,そこでもNCCバイオバンクからの3000以上もの凍結組織が用いられる。そこで,がんのバイオバンクとしてのNCCバイオバンクの現状を紹介し,がん患者検体を用いた研究に際しての問題点を議論したい。
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ゲノム診療からみた拡大新生児マススクリーニングと多職種連携の役割
(瀬戸俊之) |
様々な遺伝性疾患の遺伝学的レベルの病態解明が進むにつれ,新規治療が保険収載されている。その効果の多くは治療開始時期に大きく依存するが,早期診断の行きつく先は新生児マススクリーニングであろう。従来のスクリーニング対象疾患に含まれておらず,早期治療の効果が大きく期待される疾患は拡大新生児マススクリーニングとして検査対象項目に加えられつつある。なかでも脊髄性筋萎縮症や重症複合免疫不全症は新生児期あるいは乳児期に確定診断を行い,できるだけ早期に治療を開始することで大きな予後改善が期待できる。このような拡大新生児マススクリーニングの候補疾患は各種ライソゾーム病など他にも多数ある。一方で,「医療における遺伝学的検査・診断に関するガイドライン」では新生児マススクリーニングでの遺伝カウンセリングの必要性が明記された。疾患イメージを全くもたない両親にとって,生まれてきた児が有するかもしれない疾患の予後と治療の必要性を速やかに理解し,納得して治療を開始するのは容易なことではない。医療者も進化する診断と治療を理解し,多様な疾患と様々な価値観の家族に対してよりよい判断ができるサポートを行うためにも,多職種で連携して対応するチーム医療の体制を整える必要性が高まっている。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病),
難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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もやもや病感受性遺伝子RNF213
(呉 繁夫) |
もやもや病(指定難病22)は,内頸動脈終末部に慢性進行性の狭窄・閉塞を生じるとともに,側副血行路として多数の毛細血管新生を認める脳血管障害で,2011年に感受性遺伝子RNF213 が同定された。東アジアでは創始者変異が存在し,もやもや病の発症頻度が高い。その後の研究で,RNF213 は頭蓋内主幹動脈狭窄症,脳梗塞,末梢性肺高血圧症などの他の多くの血管障害への関連が次々に明らかになっている。RNF213 の機能やRNF213 変異により脳血管障害が生じる発症機序は未解明のままで,今後の研究が待たれる。
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American College of Medical Genetics and Genomics(ACMG)の二次的所見の報告に関するリスト;2023年改訂版(v3.2)の解説
(岡崎哲也) |
American College of Medical Genetics and Genomics(ACMG)の二次的所見(SF)の報告に関する遺伝子リストの2023年改訂版(v3.2)では,新たに三つの遺伝子が追加された。追加されたのは,QT延長症候群(LQTS)とカテコラミン誘発性多形性心室頻拍の原因遺伝子であるCALM1,CALM2,およびCALM3 遺伝子である。2013年の初版から,心血管表現型に関連する遺伝子は報告が推奨されるSFリストに掲載されてきた。今回の改訂で追加された三つの遺伝子は,これまでのリストにすでに含まれている他の遺伝子と比較して,罹患率と死亡率のリスクが同等かそれ以上であることが示されている。
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MOVA:AlphaFold2によるミスセンスバリアントの効果予測
(畠野雄也・石原智彦・小野寺 理) |
われわれはミスセンス変異病原性予測アルゴリズムMOVAを開発した。遺伝子変異の病原性予測には,その遺伝子由来のタンパク質立体構造および,変異による構造変化も重要である。近年,人工知能を用いてタンパク質立体構造を高精度に予測するAlphaFold2が開発された。MOVAはAlphaFold2で得た正常タンパク質立体構造上の多型の位置情報をパラメータとし,既報の変異の病原性情報を機械学習することにより,変異の病原性予測精度を向上させた。本稿では,MOVAを中心にAlphaFold2のミスセンスバリアントの効果予測の研究について概説する。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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X連鎖性疾患女性への遺伝カウンセリング−女性も発症しうるファブリー病症例の経験−
(馬場遥香・堀田純子・瀬戸俊之) |
X連鎖性疾患では男女間で疾患発症に差があり,男女ともに発症する疾患においては男性のほうがより重度の症状を呈することが多い。ファブリー病はX連鎖性疾患の一つであり,重症度の差があるが,女性ヘテロ型であってもほとんどが加齢とともに心疾患など特有の症状を発症する。現在,治療法としては,2週間に一度点滴を行う酵素補充療法と内服治療である薬理学的シャペロン療法がある。ファブリー病の女性は自分が子どもに遺伝する原因であることなどX連鎖性疾患であるがゆえの苦悩に加え,自身も発症しうるため症状出現や定期的な治療が必要になる可能性に不安や困惑を感じうる。今回,ファブリー病の女性にどのような遺伝カウンセリングでの支援ができるのか考えたい。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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遺伝カウンセラーを目指した10年前の私へ
(小島朋美) |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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円口類ヤツメウナギの遺伝子から探る脊椎動物の進化
(日下部りえ) |
ヒトの初期発生や成長,疾患のメカニズムを知るために,マウスをはじめニワトリやカエルなど様々な脊椎動物が用いられてきた。これらの脊椎動物モデルは発生中の胚の観察が容易で,実験に適した特徴をもちつつ,臓器や細胞のバラエティはヒトと基本的に変わらない。一方で,脊椎動物門は広い動物界のほんの片隅を占める小さなグループであり,生命の長大な歴史のうえではごく最近現れたものである。初期の脊椎動物はどんな姿をしていたのだろうか? また,その発生を支える遺伝子はどのような変遷をとげてきたのだろうか? この疑問への重要なヒントを与えてくれる動物がヤツメウナギである。
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● 編集後記 |
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