|
内容目次 |
|
● 目で見てわかる遺伝病
−整形外科編 1 |
シリーズ企画 |
|
軟骨無形成症
(高畑雅彦・小野寺智洋・高橋大介・岩崎倫政) |
|
|
|
特集: |
IRUD-Beyond:小型モデル生物および患者iPS細胞を用いた希少・未診断疾患へのアプローチ |
|
|
|
巻頭言 (井ノ上逸朗) |
|
 |
|
|
|
1. |
J-RDMMの概要
(川本祥子・井ノ上逸朗) |
|
IRUD未診断疾患イニシアチブを発展させるプロジェクトJ-RDMM(Japanese Rare Disease Models & Mechanisms Network)は,症例数が少なく疾患の原因であると結論づけることのできない病因遺伝子変異候補バリアントを,モデル生物による検証により解明するプロジェクトである。ショウジョウバエやゼブラフィッシュ,線虫などの研究者が協力しゲノム編集などの遺伝学的技術を駆使して迅速な解析を目指している。このプロジェクトの中心となるのが,国内初のモデル生物研究者と臨床研究者の研究マッチングシステムである。J-RDMMの概要とこれまでの成果について解説する。
|
|
2. |
ゼブラフィッシュを用いた神経科学研究とヒト疾患研究への応用
(川上浩一・浅川和秀・田辺英幸) |
|
モデル脊椎動物ゼブラフィッシュ(Danio rerio )の脳は,仔魚期において約10万,成魚期において約1000万の神経細胞からなり(ヒト成人脳は約860億個),非常にコンパクトでありながらヒト脳と共通な基本的構造(終脳,間脳,中脳,小脳)を有している。最近のトランスジェニックフィッシュ作製技術,イメージング技術,行動遺伝学の発展により,脳機能においても共通性が明らかになってきた。本稿で,てんかん,睡眠,学習,ALSに関する研究について紹介する。
2015年から始まった「未診断疾患イニシアチブ(IRUD)」により,希少疾患・未診断疾患の原因候補遺伝子が次世代シークエンサーによって明らかにされてきた。2017年に,そのような遺伝子をモデル動物を用いて解析するためのプロジェクト「モデル生物コーディネーティングネットワークによる希少・未診断疾患メカニズム解析(J-RDMM)」が開始された。希少疾患・未診断疾患の中には,てんかん,知的障害,自閉症など高次の脳機能に関わると考えられる症状がしばしば見られる。そのような疾患の解析にゼブラフィッシュはどれくらい有用であろうか? 本稿では,その可能性も紹介する。
|
|
3. |
小型魚類ゼブラフィッシュの特性を活かしてヒト疾患の発症メカニズムに迫る
(石谷 太) |
|
小型魚類ゼブラフィッシュは,胚体が透明でイメージングに適しており,かつ多産で多検体解析に適しているなどのモデル動物としての有用性が注目され,20世紀終盤からの分子発生生物学の発展に大きく貢献してきた。近年は,ヒトとの外挿性などから医歯薬研究者や産業界からも注目されており,疾患モデル,創薬ツールとしても盛んに使用されるようになってきた。本稿では,モデル動物ゼブラフィッシュの概論とともに,私の研究室で行っているヒト希少疾患研究,ならびに生体防御機構研究を紹介することで,その研究ツールとしての威力,魅力を皆様にお伝えしたい。
|
|
4. |
ショウジョウバエを用いた希少未診断疾患遺伝子の機能解析
(高野敏行) |
|
J-RDMMで解析する疾患候補バリアントはde novo 変異が多く,まずは顕性(優性)の有害効果が疑われる。ショウジョウバエを使った機能獲得型効果の検証法を,機能喪失型効果のアッセイ法と合わせ紹介する。一方で1コピーの遺伝子の機能破壊によるハプロ不全(haplo-insufficiency)と推論されるバリアントも少なくない。これをヒト以外の生物種で検証するのが現在,最も困難な課題となっている。その理由とともにモデル生物でできることを考察する。最後に,診断確定をさらに増大させスピードアップするために,1遺伝子−1研究者の枠組みだけでなく,スクリーニングコアを含めた段階的な解析システムの導入を提案する。
|
|
5. |
ショウジョウバエ神経システムを利用した神経変性疾患のリバーストランスレーショナルリサーチ
(杉江 淳) |
|
ショウジョウバエは,疾患病態のモディファイアー遺伝子の探索で神経変性疾患研究に貢献している。近年では,ショウジョウバエを利用したリバーストランスレーショナルリサーチが報告されるようになってきた。このように,ショウジョウバエを用いた神経変性疾患の土台となるのは,種を越えた遺伝子の保存性に加え,コンパクトながら脳をもち,迅速な遺伝学的解析ができることが挙げられる。さらに倫理的な制約がない点も重要である。この総説では,以上のメリットをもつシンプルなモデル生物ショウジョウバエを用いた神経変性疾患研究例を紹介する。
|
|
6. |
線虫を用いたJ-RDMM研究
(戸井基道) |
|
線虫(C. elegans )は,ゲノム編集による迅速な疾患モデル動物作製が可能であり,またその表現型解析から,変異により生じる細胞機能異常を容易に類推することも可能である。このような利点を活かし,乳児期から運動発達遅延やてんかんなどを発症していた希少患者のOTUD7A遺伝子上で発見された変異について,その相同変異を導入した疾患モデル線虫を作製し,その変異の意義を解析した。その結果,患者に見られたOTUD7Aのナンセンス変異は,シナプス伝達効率に影響を与え線虫の前進運動を異常にすることがわかった。本研究から,OTUD7Aは病態発症の責任遺伝子であることが示唆された。
|
|
7. |
iPS細胞を用いた希少疾患遺伝子機能解析
(齋藤 潤) |
|
希少疾患とは,罹患患者数が通常の疾患より少ない疾患であり,その多くが遺伝性疾患である。希少疾患では症例の少なさから,診断・治療法開発を目的とした大規模な研究が困難である。一方,希少疾患患者からiPS細胞を樹立すると,このiPS細胞は患者の遺伝子変異をもち,様々な細胞に分化が可能なため,表現型解析に非常に有用である。今後は,iPS細胞技術を用いた希少疾患の病態解析,治療法開発研究が進展することが期待される。
|
|
8. |
IRUD解析拠点から見たJ-RDMM
(上原朋子・鈴木寿人・小崎健次郎) |
|
IRUD(Initiative on Rare and Undiagnosed Diseases)では,未診断/希少疾患患者に対して,次世代シーケンサーを中心とした網羅的遺伝子解析を行っており,これまでに多くの疾患の診断に寄与してきている。一方で,変異遺伝子と患者の症状との関連性を証明することが困難で,診断保留となる症例も少なからず存在し,課題となっていた。2017年より開始されたJ-RDMM(Japanese Rare Disease Models & Mechanisms Network)によって,このような症例に対しての問題解決の筋道が与えられた。本稿では,IRUD拠点病院として,J-RDMMを介して基礎研究室の先生方と共同研究を行って得られた複数の成果のうち,三つの遺伝子変異性疾患について述べる。
|
|
|
|
古代ゲノム研究の最先端①
(太田博樹) |
次世代シークエンサー(next generation sequencer:NGS)の普及に伴い,全ゲノム配列決定に基づくヒト多様性研究が進展した。これと並行して,NGS技術はネアンデルタール人やデニソワ人などの研究に応用され,従来考えられてきた人類史のストーリーを大きく塗り替えた。現在,古代型人類の全ゲノムが解読されたことは一般にも広く知られるところとなっているが,そうした研究がプロテオーム解析,メタゲノム解析,メチローム解析,iPS細胞にまで拡がっていることはあまり知られていない。本連載では,そんな古代ゲノム学の最先端を3回シリーズで紹介する。
|
|
|
● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
|
QT延長症候群
(相庭武司) |
QT延長症候群(LQTS)は,心電図上QT延長に加えて症状や家族歴などから診断される。LQTS患者の約7割に原因遺伝子が同定され,その多くが心筋のイオンチャネル機能に関連するため「イオンチャネル病」とも言われる。LQTS患者で同定される遺伝子変異のほとんどがKCNQ1 (LQT1),KCNH2 (LQT2),SCN5A (LQT3)であり,各遺伝子型に即した生活指導や薬物療法などを選択可能である。本稿ではLQTSに対する遺伝学的検査の意義,治療,カウンセリングのポイントなどを解説する。
|
|
|
● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
|
GPI欠損症
(村上良子) |
GPIアンカーという共通の糖脂質で,細胞膜につなぎ止められているタンパク質をGPIアンカー型タンパク質という。その合成と修飾に関わる遺伝子が27個同定されている。そのうち最初のステップに関わる遺伝子PIGA の体細胞突然変異を原因とする血液疾患,発作性夜間ヘモグロビン尿症は,その発症機序について古くから研究されてきた。補体学の発展とともに様々なブレイクスルーとなる成果が報告されたが,いまだ完全には解明されていない。一方,先天性GPI欠損症は2006年に最初の症例PIGM欠損症が報告され,その後,次世代シークエンサーの普及で次々と各生合成遺伝子の欠損症が見つかっている。
|
|
|
|
病原体遺伝子検査とその臨床応用
(宮入 烈) |
感染症領域における微生物の遺伝子検査は,診断におけるパラダイムシフトをもたらした。特定の病原体遺伝子を臨床検体から検出することを目的としたリアルタイムPCR検査は広く実用化され,ウイルスや培養困難な微生物の同定に不可欠となっている。次世代シーケンサーの導入は,従来の様々な手法による微生物同定,分子疫学,相同性の検討を一度の解析によって網羅する可能性があり,臨床応用が急速に進みつつある。本稿では臨床的な観点から微生物の遺伝子検査の意義や注意点について概説する。
|
|
|
|
疎水性メタボロミクス(リピドミクス)解析
(齊藤公亮) |
セントラルドグマの流れは,DNA,RNA,タンパク質,代謝物の順であり,代謝物は本誌読者の専門領域であるDNAとは少し離れているように捉えがちであるが,遺伝性疾患である先天性代謝異常は代謝物を対象に検査しており,代謝物は変異など遺伝子の異常による影響を質的・量的に反映している。一方,代謝物を網羅的に測定・解析するメタボロミクス手法は,機器性能などの飛躍的な向上に伴って発展し続けており,遺伝子研究に新たな発見・知見をもたらすツールとなることが期待できる。そこで本稿では,メタボロミクス解析,特に脂質など疎水性が高い分子に特化したリピドミクス解析について紹介する。
|
|
|
|
クロマチン高次構造解析
(新保敬史) |
ゲノムDNAは高度に折りたたまれて核内に存在する。その折りたたまれ方,クロマチン高次構造が遺伝子発現制御と密接に関係していることは広く知られている。近年,次世代シークエンサーを活用したクロマチン高次構造解析法が開発され,多くの新たな知見を生み出している。本稿では,代表的なクロマチン高次構造解析法について概説する。また,われわれが開発した比較的簡便なクロマチン高次構造解析法であるCut-Cについても触れる。
|
|
|
● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
|
意義不明バリアント(VUS)の遺伝カウンセリングを考える
(荒木尚美・高田史男) |
参照ゲノム配列と異なる塩基配列をバリアントというが,そのバリアントが今までに報告されていない,もしくは報告があったとしても病的/病的でないと評価が混在し矛盾しているとき,そのバリアントは病的意義不明とされる。遺伝カウンセリング担当者は遺伝学的検査実施前にこのような結果が得られる可能性を想定し,クライエントにシミュレーションの機会を提供することが重要である。また意義不明バリアント(variant of uncertain significant:VUS)という結果を得たことで,クライエントは様々な思いを抱くが,不確かさを受け入れ適応していくためには,遺伝医療の専門家を含めた医療者による継続した支援が必要と考えられる。
|
|
|
● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
|
|
|
|
RB(網膜芽細胞腫)ピアサポートの会
(木瀬真紀) |
|
|
|
● Statistical Genetics
〈遺伝統計学の基礎〉 (12) |
シリーズ企画 |
|
全ゲノム回帰モデルを用いた量的形質と質的形質に対する全ゲノム関連解析
(賀 云野・小井土 大・鎌谷洋一郎) |
|
|
|
|
|
● 編集後記 |
|
 |
|