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内容目次 |
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●序文:物質の動きをコントロールするナノマテリアル (田畑泰彦) |
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●はじめに:物質の動きをコントロールするナノオーダー材料の世界 (田畑泰彦) |
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● 第1章 高分子
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合成高分子
合成高分子
(赤木隆美・明石 満) |
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1970年代に高分子医薬の設計論が提唱されて以来,様々なDDS技術が開発されてきた。水溶性高分子に薬物と標的のためのリガンドを結合させることで,特定の細胞,組織,臓器に薬物が能動・受動的に運搬され,薬効増大,副作用の軽減が可能となる。また,生理活性タンパク質を合成高分子で修飾し生体内安定性を高める方法は,タンパク質製剤のDDSとして利用されている。高分子ナノテクノロジーの発展に伴い,高分子鎖の精密な分子設計による多機能性高分子材料の構築が可能となってきており,今後,高分子を薬物キャリアとして利用した製剤が数多く実用化されると期待される。
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2) |
合成ポリペプチド
合成ポリペプチド,ポリデプシペプチド
(大矢裕一) |
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α-アミノ酸が結合したポリマーがポリペプチドであり,タンパク質は天然のポリペプチドである。決まった配列を有するポリペプチドは,比較的短いものについては逐次縮合による合成が可能であり,一種類あるいは少数種類のアミノ酸からなる高分子量ポリペプチドは重合法により合成される。α-アミノ酸とα-ヒドロキシ酸を構成成分とするポリ(エステル-アミド)共重合体はポリデプシペプチドと呼ばれ,ラクトンと同様の開環重合により合成される。本稿では,これらの合成方法とDDSなどバイオマテリアルとしての応用について概説する。
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3) |
天然高分子 タンパク質
タンパク質を用いたナノDDS
(上田寛樹) |
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タンパク質は生体内で多様な働きをする高分子であり,酵素反応,輸送,運動,防御,貯蔵,構造維持などの様々な生体機能を担っている。それらの機能を直接薬として利用しているのみならず,タンパク質は薬と組み合わされ,薬の安定性の向上,吸収促進,およびターゲティングなどのDDS用材料としても使用されている。本稿では,タンパク質のナノDDSへの応用例をその生物機能の点から分類して紹介する。
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4) |
天然高分子 多糖
天然高分子 多糖
(城 潤一郎・田畑泰彦) |
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多糖は,タンパク質,核酸に続く,第三の生命鎖 「糖鎖」 の1つとして注目されている。古くから天然素材として,医薬品添加物,医用材料,食品,衣料品,紙など,広い分野で利用されている。本稿では,それぞれの代表的な多糖の性質を概説するとともに,治療薬,予防薬,診断薬,化粧品,あるいは生物医学研究のための材料としての応用,特にナノオーダーサイズの利用法に関する研究を,実例を示しながら紹介する。
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5) |
天然高分子 核酸
エネルギーデータに基づく核酸医薬の設計
(杉本直己・甲元一也) |
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核酸医薬は,遺伝子に由来した疾患に対して近未来の治療薬と期待されている。その核酸医薬の配列設計において,熱力学的パラメータを用いたデータベース戦略が重要な役割を果たしている。しかし,in vivo と異なって〜400g/Lにも達する細胞内の分子クラウディング環境が,核酸医薬の細胞内での安定性や構造予測を困難にしている。本稿では,細胞内における核酸の構造安定性を解明する分子クラウディングに関する研究を紹介し,それがもたらす新たなエネルギーデータベースの構築の可能性やDDSへの応用について,最新の研究を交えながら解説する。
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1) |
生体吸収性高分子
生体分解性高分子ナノスフェアを利用した,DDS,高機能性化粧品,ナノメディシンの構築
(田原耕平・山本浩充・辻本広行・原 香織・川島嘉明) |
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生分解性ポリマーは,組織工学,再生医療,遺伝子治療,DDS,インプラントなど様々な分野において必要な素材である。本稿では,現在研究開発が進み,臨床へ応用されつつある生分解性ポリマーを紹介する。そのなかでもFDAで認可され,徐放性製剤のDDS基剤として工業化され,また手術用縫合糸など長年の人体への使用実績もあるポリ乳酸・グリコール酸(PLGA)に焦点を当てる。PLGAを基剤としたナノスフェアの医薬品,化粧品,医療技術分野への応用例に関して解説する。
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2) |
生体非吸収性高分子
生体非吸収性高分子からなる微粒子の作製と特徴
(藤本啓二) |
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本稿では,分解しがたい高分子からなる粒子の作製方法の概観を述べる。低分子の単量体から重合反応によって微粒子を形成する方法について述べ,物質を封入した例を紹介する。次に合成したポリマーを用いて粒子化する方法について述べる。さらに中空粒子を作製する方法を述べ,その中から交互吸着によるナノカプセル化技術について紹介する。
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1) |
ブロック共重合体
ブロック共重合体
(石井武彦・片岡一則) |
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生体適合性に優れるPEGとポリアミノ酸からなるブロック共重合体は,アミノ酸側鎖の構造により様々な駆動力で自己会合体を形成し,ある組成で100nm以下の高分子ミセルを形成する。われわれはそのミセル内部に薬物や遺伝子を内包させることにより,生体の自己防衛機構を巧みに回避しながら目的の疾患部位へ内包物を送り届け,さらに効果的に内包物を放出しうる 「超高機能高分子ミセル」 の開発を行っている。本稿では,低侵襲性医療実現に向けた筆者らの取り組みを中心に,その成果や将来展望について述べる。
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2) |
グラフト共重合体
グラフト型両親媒性高分子
(小澤弥生・秋吉一成) |
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疎水化高分子は,ハイドロゲル構造を有するナノ微粒子(ナノゲル)を形成する。この自己組織化ナノゲルは,疎水性薬物を取り込む疎水性領域とタンパク質を内包しうるナノマトリクス構造を有している。疎水化多糖ナノゲルは,特にタンパク質を内包する機能に優れており,癌免疫療法における抗原タンパク質のキャリアとして有用であることが明らかになり臨床応用が進んでいる。重合性ナノゲルによるナノゲル架橋ゲルは,再生医療における足場材料としても有用である。種々の会合性高分子を設計することで,機能性ナノゲルが得られ,その応用が期待されている。
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4. |
ロタキサン高分子
細胞内分解性ポリロタキサン
(由井伸彦) |
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ポリロタキサンは多数の環状分子と線状高分子とによるネックレス状の超分子骨格を有しており,環状分子は線状高分子鎖に沿って自由に運動できる。さらに,高分子末端に位置する結合の細胞内分解によって解離するようにできる。こうした超分子的特徴を活かして,遺伝子を細胞核内へ送達する機能を設計することができる。
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温度応答性高分子
温度応答性高分子を用いた温度応答性ナノキャリア
(河野健司・児島千恵) |
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温度(熱)刺激は容易に適用することができるため,DDSの機能を制御するためのシグナルとして魅力的である。実際,これまでに多くの温度(熱)応答性をもつDDSが設計されている。温度応答性高分子は,温度(熱)応答機能をもつDDSを構築するための最も効果的なマテリアルである。本稿では,温度応答性高分子を利用したDDSの設計について,リポソームやデンドリマーを用いた温度応答性ナノ微粒子の研究を中心に解説する。
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2) |
光応答性高分子
DDSのための光応答性マテリアル
(長崎 健) |
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ドラッグデリバリーシステム(DDS)における最大の目的はドラッグの効果を四次元的に制御することである。そのためには,キャリアはドラッグとの会合と解離という相反する2つの挙動が要求される。この問題を解決するために刺激応答性が多く利用されている。温度のほか,光・磁気・超音波・pH・レドックス・金属イオンなどの物理的シグナル(刺激)や,生体内在性の酵素などの生理活性物質応答性システムが活発に研究されている。本稿では,その中でも最も操作性に優れた光応答性システムについてマテリアルに焦点を絞り紹介する。
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●第2章 低分子
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1) |
リポソーム(一般)
リポソーム
(丸山一雄・鈴木 亮) |
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リポソームは,生体膜構成成分であるリン脂質から形成される脂質二重膜の人工の閉鎖小胞である。脂溶性薬物を膜内の疎水性部分に,水溶性薬物を内水相に包含できるためにDDSキャリアとして有用である。AmBisome® はアムホテリシンBのリポソーム製剤で,深在性真菌症の治療に有効である。DOXILはドキソルビシンを内封したステルスリポソーム製剤で,AIDS患者に生じるカポジ肉腫の治療に有効である。いずれも重篤な副作用を軽減し,優れた治療効果を発揮する。
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2) |
MEND
ミトコンドリアを標的とする多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND)の開発
(山田勇磨・原島秀吉) |
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薬物送達を成功させるためには,効率的な薬物封入,疾患細胞内への導入,そして細胞内動態制御に基づいた標的オルガネラヘの選択的送達を可能とする薬物キャリアが必要不可欠である。これらの要求を満たすためには,様々な機能素子を搭載させ,しかも必要な機能素子すべてが効率よく機能するような薬物キャリアを設計しなければならない。われわれは,『Programmed Packaging』という独自の設計理念を提唱し,このコンセプトに基づいたナノデバイス,多機能性エンベロープ型ナノ構造体(multifunctional envelope-type nano device:MEND)の構築に成功している。
MENDの封入薬物種,標的臓器,標的オルガネラは,その設計図を書き換えることで容易に変更可能である。現在までに,プラスミドDNA,オリゴ核酸,タンパク質の効率的な封入,また細胞核,細胞質への効率的な薬物送達に成功している。本稿では,非常に多彩な機能をもつオルガネラ,ミトコンドリアにスポットライトをあて,本オルガネラヘの薬物送達の現状とMENDを用いた新規送達戦略に関して紹介したい。
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3) |
リピッドスフェア
リピッドマイクロスフェア,リピッドナノスフェア,ソリッドリピッドナノパーティクル
(五十嵐理慧) |
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臨床において栄養補給剤として用いられてきたリピッドマイクロスフェア (lipid
microsphere:LM) は大豆油,卵黄レシチン,水からなる oil in water(O/W)型エマルションである。LMに薬物を封入したターゲットDDS製剤はリポ剤と呼ばれ,すでにリポPGE1,リポデキサメタゾンパルミテート,リポフルルビプロフェンアキセチルの3製剤が臨床応用されている。LMそのものが臨床ですでに投与されていたもので,安定性・安全性・工業生産性が確保されていたことが,リポ剤の臨床実用化を短期間に実現した。さらにLMの欠点を補う工夫を加え,LMの進化形に位置づけられるものがリピッドナノスフェア,ソリッドリピッドナノパーティクルである。
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4) |
肺サーファクタント
経肺デリバリー素材としての肺サーファクタント利用と経肺デリバリー技術
(山下親正・豊福秀一) |
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現在,多くのタンパク質やペプチド性医薬品が主に注射剤として開発されているが,注射剤は,利便性,安全性,痛みや注射恐怖症などの面で種々の問題点が指摘されている。一方,2006年には,インスリン吸入剤 (Exubera) が全身適用の吸入剤として初めて欧州および米国で承認されたことから,注射の代替製剤としての全身適用を目的としたタンパク質やペプチドの吸入剤の研究開発がより活発化してきた。吸入剤開発の成功の鍵を握っているのは,タンパク質やペプチドを製剤化する技術と吸入デバイスの技術であり,これらがお互いに融合した吸入システムを構築することが重要である。本稿では,医薬品としても認可されている肺サーファクタントやその一部の成分の経肺デリバリーの素材としての可能性と,それらの経肺デリバリーシステムとしてのODPI (Otsuka Dry Powder lnhalation) 技術を紹介する。
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2. |
糖
糖とターゲティング
(青山安宏) |
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ターゲティングはDDSの重要な要素である。標的部位での特異的な受容体-リガンド相互作用に基づく直接的なターゲティングに加え,最近では標的箇所の特異的な環境に応答するスイッチ機能型ターゲティングに注目が集まっている。本稿では,前半でシクロデキストリンの 「破壊力」 や 「生分解性」 を利用した環境応答型リリース系の例を紹介し,後半ではリガンドとして糖鎖を利用する際に重要な指針となる構進-活性相関の研究成果について述べる。
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3. |
超分子ハイドロゲル
機能性ナノバイオマテリアルとしての超分子ハイドロゲル
(小松晴信・濱地 格) |
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「非共有結合性の弱い分子間相互作用」 を集積して形成される 『超分子ハイドロゲル』
は,その物性や機能に関してはまだまだ開拓の余地は多いが,最近ではその 「柔軟さ」
を特徴とするユニークな機能の一端が垣間見えてきた。その形成メカニズムや大まかな分子設計指針がようやく理解されつつあり,最近ではそれらを基に
「機能化」 と実際に 「生体内への適用」 をめざした研究が積極的に行われている。そのユニークな機能は従来の高分子ハイドロゲルの枠にとどまらず,DDSを含めた幅広い医療・診断の分野において機能性バイオマテリアルとして期待される。
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4. |
ナノチューブ
カーボンナノホーンとカーボンナノチューブ
(湯田坂雅子・飯島澄男) |
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単層カーボンナノホーン(SWNH)をドラッグキャリアとして用いたDDS構築の可能性を検討し,単層カーボンナノチューブ(SWNT)を用いた場合と比較した。SWNHもSWNTもグラファイトシート1枚からなるナノメータースケールの直径をもつ円筒状物質であるが,SWNHの直径は 2〜5nm であるため薬剤分子が容易に内包され,かつ徐放される。SWNTは直径が細く 1〜2nm であるため内包されるものが限られ,内包されたものを放出するのは容易ではない。このようなあるいはこれ以外の両者の差異がDDS応用の際にどのような利点をもたらすかを紹介する。
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5. |
フラーレン
フラーレン - 診断と治療への応用 -
(山田正敏) |
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薬物治療おいて理想的な投与方法は,患部に必要な量を必要な期間送り込むこと,つまりドラッグデリバリーシステム(DDS)である。薬物治療以外では,光,熱,放射線,超音波,電磁波といった外部刺激が治療だけでなく診断にも広く利用されている。そこで,DDS技術と外部刺激をうまく組み合わせることで,必要な部位に必要な量を必要な期間だけ薬剤を送り込むことに加えて,薬剤の放出タイミングも制御可能な方法が確立できるかを検討している。本稿では,外部刺激とDDSの組み合わせによる癌治療方法の一例を,光や超音波で抗癌活性を発揮するフラーレンを用いて紹介する。
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6. |
ペプチド
細胞内薬物導入キャリアとしての細胞内移行ペプチドの応用技術
(向 洋平・堤 康央・中川晋作) |
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細胞内移行ペプチド (protein transduction domain:PTD) は,タンパク質や核酸,ナノ粒子といった高分子医薬を効率的に細胞内へと導入可能であることから,細胞内への物質導入技術として注目を集めている。本稿では,実際に筆者らが行ったPTDの特性評価から得られた知見を紹介したうえで,現在世界で試みられているPTDの応用例を概説する。また後半部では,PTDの応用範囲をさらに拡大するための技術として,PTDと
fusogenic peptide を併用した際の細胞質内への物質導入の高効率化,ならびに細胞内導入活性に優れた新規PTDの創製研究に関して述べる。
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●第3章 金属 |
1. |
フェライト
フェライトを利用したナノ磁性粒子のDDSへの応用
(坂本 聡・畠山 士・西尾広介・半田 宏) |
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本稿では磁性を利用したDDS研究について,これまで展開されてきた研究を数例紹介し,われわれのグループで独自に開発された機能性ナノ磁性ビーズ(FGビーズ)について,DDSキャリアとしての可能性を含めて述べていきたい。FGビーズはフェライトと高分子からなるハイブリッド粒子であり,生理活性物質に対する標的タンバク質を高選択的に単離・固定できるアフィニティ精製用担体として極めて優れた性能を示す。FGビーズを開発する経緯で見出した様々な知見とFGビーズの優れた機能を活用することで,実用的な新規DDSキャリアの開発につながることが期待される。
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2. |
量子ドット
量子ドットの医療分野への応用の可能性
(大庭英樹) |
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量子ドットはナノサイズの微小な空間内に電子を閉じ込めるために人工的に作製された導電性のナノ結晶で,今後,様々な分野での応用が期待されている材料の1つである。特に,これまでの蛍光材料にはない優れた蛍光特性をもつために,量子ドットは各種のイメージングやセンシングヘの応用が可能な次世代の材料として非常に注目されている。
ここでは量子ドットについて概説し,量子ドットのバイオイメージングと医療分野への応用の可能性について,いくつかの実例を挙げて紹介する。
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3. |
金属コロイド
金属ナノ粒子
(新留琢郎・新留康郎) |
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金属ナノ粒子のバイオマテリアルとしての利用はまだまだ始まったばかりであるが,新しい技術が次々に生まれつつある。金属ナノ粒子はその調製が容易で,粒子表面修飾も自由に行える。また光吸収をはじめ,光散乱,二光子励起発光,フォトサーマル効果,そして何より有機分子でしばしば問題になる退色が起こらないという特徴は大きな利点となっている。このような特徴を活かして,バイオイメージングやフォトサーマル治療に関する研究が盛んに行われている。また,光に応答するドラッグリリースシステムも開発され,これから金属ナノ粒子がバイオマテリアルとしていろいろな形で利用されるようになるだろう。
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●第4章 セラミックス |
1. |
炭酸カルシウム複合体
無機塩を用いたDDSのためのナノテクノロジー - ナノエッグ® -
(五十嵐理慧・山口葉子) |
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オールトランスレチノイン酸 (all trans retinoic acid:ATRA) は水溶液中においてセルフミセルを形成する。非イオン界面活性剤を添加し混合ミセルとし,さらに末端のカルボキシル基に炭酸カルシウム(CaCO3)を吸着させ,炭酸カルシウムによってカプセル化されたナノカプセル化ATRAを作製した。そのサイズは直径約15nmで両親媒性を示した。黄色いATRAの周りを白い炭酸カルシウムでカプセル化されている形状から,われわれはナノエッグ®と名づけた。ナノエッグ®は新しい物理化学的性質を有し,高い熱・光安定性を獲得した。NANOEGG®外用剤として評価したところ,著明な皮膚再生薬理効果を示した。本技術は,水溶液でセルフミセルを形成し,末端にカルボキシル基を有するATRA類似の化合物のカプセル化にも応用可能な技術である。
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2. |
炭酸アパタイト
生理活性分子の導入キャリアとしての炭酸アパタイトナノ粒子
(多田誠一・E.H.Chowdhury・沓沢好一・赤池敏宏) |
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リン酸カルシウムの一種である水酸アパタイトは生体適合性が高く,また結晶表面に核酸やタンパク質を吸着する性質を有しているため,微粒子化して生体分子を細胞内に導入するキャリアとして利用する研究が進められている。著者らは水酸アパタイトの結晶中に炭酸イオンを含有させ,結晶性を低下させた物質である炭酸アパタイト微粒子を遺伝子導入キャリアとして用いることで,非常に高い遺伝子発現が得られることを確認した。アパタイト微粒子は高分子による微粒子キャリアとは異なる性質を有するキャリアとして,幅広い応用が期待される材料といえる。
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●第5章 ウイルス
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1. |
HIV-E
Tissue-targeting HVJ-Eベクターの開発
(河地正子・金田安史) |
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HVJは,ウイルス表面のHNタンパクで細胞表面のシアル酸を認識し,Fタンパク質の膜融合活性により細胞内ヘウイルスゲノムを導入する。HVJのウイルスゲノムを不活化・除去し,その外被(エンベロープ)のみを利用して遺伝子やタンパク質などを封入し,様々な細胞や組織へ導入することが可能なHVJ-Eベクターがすでに開発されている。ウイルスのゲノムRNAは完全に不活化されているため安全性が高く,非ウイルス性の遺伝子導入ベクターとして有用である。しかし,生体内のほとんどの細胞膜上にシアル酸が発現していることから,HVJ-Eは細胞・組織特異性が低い。今回,われわれは2つのアプローチによって特定組織への標的導入HVJ-Eベクターの開発に成功したので概説する。
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2. |
表面改変アデノウイルス
カプシドタンパク質改変アデノウイルスベクター
(水口裕之・櫻井文教・川端健二) |
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ベクター学 (vectorology) と遺伝子工学の進歩により,ナノサイズのウイルス表面を自由に改変し,感染域の制御
(drug delivery system:DDS) が可能なウイルスベクターが開発されている。本稿では,カプシドタンパク質を遺伝子工学的に改変することで,有効性・安全性に優れた改良型アデノウイルスベクターの開発研究について解説する。
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●索引 |