第4章 医薬品化の問題点と解決法 |
1.ペプチド創薬の問題点:非臨床動物試験 |
1) |
毒性面からの考え方 (小野寺博志)
近年,バイオテクノロジー応用医薬品は従来の化成品医薬品を凌ぐ勢いで開発が進んでいる。しかし,それに対応する非臨床における安全性評価は確立されていない。「医薬品毒性試験法ガイドライン」が1988年に,2000年には「バイオテクノロジー応用医薬品の非臨床における安全性評価」が通知されている。…… |
2) |
品質,薬物動態の面から (荒戸照世)
医薬品の品質は製造方法に依存するところが大きい。ペプチド性医薬品の場合,低分子のものは化学合成品であり,高分子のものはバイオテクノロジー応用医薬品であることから,それぞれ該当するガイドラインを参照したうえで,製品の特性に応じ,品質を担保する必要がある。また,薬物動態試験に際しては,被験薬,試験法などについて十分考慮するとともに,…… |
2. |
化学合成によるペプチド医薬品の調製 (木村皓俊)
du Vigneaudらによりオキシトシンの化学合成が初めて報告されて以来,半世紀が経過した。その間,ごく微量で強力な生理活性を有するペプチドが数多く発見され,これらを医薬品として用いようとする試みがなされてきた。ペプチドが医薬品として長年期待されながら,その開発が遅れていた理由は,作用持続が極めて短く経口投与が困難であること,…… |
3. |
遺伝子組換えによるペプチド医薬品の調製 (孫田浩二)
キメラタンパク質発現法を用いた工業スケールでの生理活性ペプチド調製が可能になった。本稿では,生理活性ペプチドの生合成に関わるプロセシング酵素を用いて行った,キメラタンパク質からの副甲状腺ホルモンの切り離しやカルシトニンの調製について述べる。…… |
4. |
ペプチドおよびペプチドタンパクのDDS (小川泰亮)
ペプチドの生理活性を薬理活性として利用し,医薬品として活用するには,的確な投与方法の開発がキーファクターとなる。本稿では,(1)多回連続注射投与に代わる投与方法としてのPLGAを利用した低分子ペプチドの長期徐放マイクロカプセル,(2)頻回パルス投与によって活性が得られるペプチドに有効なイオントフォレシス投与によるパルス吸収システム,…… |
5. |
ペプチドおよびタンパク性医薬品の消化管ならびに経粘膜投与 (山本 昌)
一般に,ペプチドおよびタンパク性医薬品は,経口投与後,消化管粘膜を透過しにくいため,経口投与後の吸収率は十分でない。そこで最近では,経口投与後のこれら医薬品の吸収率を改善するため種々の方法が試みられている。こうした方法は,(1)吸収促進剤などの製剤添加物を利用する方法,(2)薬物の分子構造を修飾する方法,…… |
第5章 ペプチド医薬の開発実例 |
1. |
リュープリン:誘導体から前立腺癌治療薬へ (福田常彦・北田千恵子)
天然型 LHRH の6位Glyと10 位 Gly-NH2をそれぞれ,D-Leu, NH-CH2CH3 に置き換えてラットの排卵促進作用で約80倍というLHRHスーパーアゴニストを得た。ところが,この化合物を連投し,しばらくするとレセプターのダウンレギュレーションが起こり,下垂体からのゴナドトロピンの放出が止まってしまう。しかし,この作用を利用して,…… |
2. |
ANP:急性心不全治療薬 (林 友二郎・古谷真優美)
心房性ナトリウム利尿ぺプチド(atrial natriuretic peptide:ANP)は心房の伸展刺激により分泌され,血管平滑筋や腎臓などの臓器に作用して,血圧や水・電解質の調節を司るホルモンである。寒川,松尾らは,世界に先駆けてヒト心房から28アミノ酸残基からなるα-ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド(α-hANP)の単離・構造決定に成功した。われわれはα-hANPの発見当初から寒川,松尾らとの共同研究を開始し,…… |
3. |
BNP:心不全診断薬と治療薬 (斎藤能彦・中尾一和)
BNPは1988年ブタ脳より単離同定されたが,その後の研究で心臓,特に心室で主に産生されていることが明らかとなった。BNPは,心不全にてその重症度に応じて発現亢進することから,心不全の診断薬として広く使用されている。BNPはANPと同様にGC-Aに統合し,利尿,ナトリウム利尿,血管拡張,アルドステロン分泌抑制作用を引き起こす。この作用を利用して,BNPは急性心不全の治療薬として米国で使用されている。…… |
4. |
Peptide Drugs for Metabolic Diseases:Amylin and GLP-1 Agonists (Andrew A Young)
《 要旨日本語訳 》
アミリン作動薬のプラムリンチドおよびグルカゴン様ペプチド1受容体作動薬であるエキセナチドの開発の経緯と臨床経験を例として,ペプチドホルモン様物質が治療薬として有利な性質を備えていることを示す。両剤が模倣するヒトホルモンは食事に反応して分泌され,栄養の取り込みを制限するグルコース依存性の中枢性血糖調節作用を有する。…… |
5. |
KP-102(GHRP-2)による診断と治療 (泉山 周)
KP-102(growth hormone relesing peptide-2:GHRP-2)は科研製薬がBowersらと共同研究し開発したGH分泌促進物質の1つであり,強力なGH分泌促進作用を有する。本剤の臨床応用に向けての第一歩は重症GH分泌不全症の診断薬として進められ,2004年に製造承認を取得し,現在臨床使用されている。…… |
6. |
エンドセリン受容体アンタゴニスト (新山健治)
エンドセリン(ET)は血管内皮細胞から単離されたペプチドで,強力な血管収縮作用を有することから各種循環器系疾患の病因および増悪因子として注目された。まず,ペプチド性アンタゴニストが創生されETの作用機序の解明に大きく貢献したが,医薬品として開発するまでには至らなかった。その後,多くの非ペプチド性アンタゴニストが見出され,…… |
7. |
アンジオテンシンII 受容体拮抗薬 (久保惠司)
レニン・アンジオテンシン系は重要な血圧調節系であり,この系の昇圧因子であるアンジオテンシンⅡ(AⅡ)の作用を阻害する化合物が新規な高血圧治療薬になると考えられてきた。武田薬品工業では世界に先駆けて非ペプチド型AⅡ受容体拮抗作用を有するイミダゾール酢酸誘導体を発見し,それを基に創薬研究を展開して…… |
8. |
Insulin and its new drug delivery systems (Thomas R. Strack, Nancy J. Harper, John S. Patton, Yasunori Yachi)
《 要旨日本語訳 》
吸入インスリンは医師にも患者にも便利な新しい血糖調節の手段である。開発者はタンパク質の肺送達に伴う重大な課題を克服するため,最新の製剤処方および投与技術を研究してきた。乾燥粉末肺吸入剤のEXUBERA®(インスリンヒト[組換えDNA由来]吸入パウダー)は,1型および2型糖尿病の治療薬として米国およびEUで承認された初めての吸入インスリンである。…… |
9. |
カルシトニンによる高カルシウム血症および骨粗鬆症の治療 (山内広世)
ウナギから比活性の高いカルシトニン(CT)の抽出・精製・構造決定を行ったが,そのCTの比活性は4000単位/mgであり,哺乳類由来のCTの比活性に比べて高かった。ウナギCTのジスルフィド結合をエチレン結合に変えたエルカトニンはウナギCTと同等の生物活性を示し,熱やpHに対する安定性が高いため,骨粗鬆症治療薬として開発された。…… |