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シグナル伝達を知る
−その分子機序解明から新たな治療戦略まで−
編  集: 菅村和夫(東北大学大学院医学系研究科免疫学分野教授)
佐竹正延東北大学加齢医学研究所免疫遺伝子制御研究分野教授
編集協力 田中伸幸宮城県立がんセンター研究所免疫学部部長

本書籍をご購入の場合は ……………… 1冊 本体 5,000円+税

要 旨
(第1章)

  総論シグナル伝達病とは何か? (菅村和夫・佐竹正延)

要旨なし
第1章 生物医学研究
1.免疫系のシグナル伝達
1) TCRを介するシグナル伝達 (横須賀 忠・斉藤 隆)

TCRはT細胞の分化・活性化・機能をつかさどるマルチタスクレセプターである。その機能は非常に多様であり,受容体の結合力や下流のシグナル伝達分子の複雑なネットワークにより制御され,さらに副刺激分子からのシグナルも加わる。TCRの研究は,多様性を意味するレパトア解析と結晶構造解析を含む構造学的研究から始まり,この項で取り上げる受容体から転写に至るまでの活性化および抑制化を含む細胞内シグナル伝達分子の同定,細胞内でのシグナル伝達分子の量的・時間的・空間的な再分布を明らかにした免疫シナプスの研究へと進展してきた。
2)

B細胞レセプターを介するシグナル制御機構 (黒崎知博)

Bリンパ球の生存・増殖・分化・死という多様な運命決定に重要な役割を担っているのは,その細胞表面に発現しているB細胞レセプター(BCR)およびCD19, FcγRIIB, PIR-B, CD22をはじめとする ポジティブ, ネガティブコレセプター群である。細胞内シグナルに目を転じてみると,シグナルの過小・過剰を防ぐために,ポジティブ(BLNK, BCAP, CARMA1)およびネガティブアダプター分子群(BANK)が存在し,これらアダプター分子群が適切なシグナル供給,ひいては適切な免疫応答・免疫寛容の一翼を担っていることが明らかになりつつある。

3) TLRを介したシグナル伝達 (松下一史・審良静男)

Toll-like receptor(TLR)は生体内に侵入した病原体の構成成分を特異的に認識し,自然免疫系の応答を惹起するために必要な受容体である。TLRを介したシグナル伝達経路においてはMyD88,TRIF,TRAMおよびTIRAPがアダプター分子として重要な役割を担っている。そして,これらの分子の下流においてNF-κB,AP-1およびIRFの活性化が誘導され,炎症性サイトカインやインターフェロン(IFN)が産生される。これにより獲得免疫も含めた免疫系全体の活性化が引き起こされ,侵入した病原体の排除がなされる。近年,TLRを介した自然免疫系の活性化は病原体への応答だけに留まらず,アレルギーや自己免疫疾患とも密接な関係があることが明らかになってきている。
4)

FcRを介するシグナル伝達 (中村 晃・高井俊行)

抗体のFc部分と結合するFcレセプターは,免疫担当細胞上に広く発現する型膜貫通タンパク質で,細胞に活性化のシグナルを伝達する活性化型と,抑制性のシグナル伝達を行う抑制型が存在している。これまで遺伝子欠損マウスの解析から,I 型アレルギー反応のみならず,自己免疫や癌免疫など様々な病態における役割が報告され,抗原提示から始まる一連の免疫応答において重要な調節システムを形成していることが明らかになっている。一方,ヒト免疫疾患においても最近になり抑制型Fcレセプターの多型性がシグナル伝達を障害することが報告され,多型性が直接ヒト疾患に関連する可能性が指摘され注目を集めている。

5) γcを介したサイトカインシグナル伝達 (葛西宏威・近藤元就)

サイトカインは単一細胞間における情報交換を担う主要な液性因子で,その情報は細胞膜上の受容体複合体によって細胞内に伝達される。γcは複数のサイトカイン受容体の機能発現に必須の役割を担うコンポーネントであり,そのシグナルの不全はリンパ球系細胞の広範な不全を引き起こす。γcを中心としたシグナル伝達の概要は,受容体構造,細胞内シグナル,細胞機能と疾患の関連を有機的に理解するうえで示唆に富んでおり,詳細かつ一般的な理解のために魅力的な研究対象である。本稿では,その受容体とJakを起点としたシグナル伝達を中心に紹介する。
6) TNFレセプターファミリーを介するシグナル伝達 (中野裕康)

tumor necrosis factor(TNF)レセプターファミリーに属するレセプターはI型の膜タンパクであり,細胞外ドメインにシステインに富む繰り返し配列を1〜5個有しているという共通点を持ち,現在では20数種類にも及ぶ大きなファミリーを形成している。これらのレセプターは,種々の免疫応答や,リンパ節や骨の形成,また細胞死の誘導など,広範な生体反応を調節することが明らかにされている。これらのレセプターの大部分のメンバーはNF-κBおよびMAPキナーゼを活性化し,一部のレセプターはカスパーゼの活性化を介してアポトーシスを誘導する。
7) ケモカイン受容体を介するシグナル伝達 (白川愛子・義江 修)

ケモカインはすべて7回膜貫通型三量体Gタンパク質共役型受容体を介して作用する。この型の受容体は共役する三量体Gタンパク質によって様々なシグナルを細胞内に伝達する。ケモカイン受容体は主にGαiに共役し,また一部はGαqとも共役している。ケモカイン受容体からのシグナルはこれらの三量体Gタンパク質を介して,低分子量Gタンパク質Rap,PI3キナーゼ,ホスホリパーゼCなどの様々な下流のシグナル分子の活性化を誘導する。それによって,インテグリンの活性化,細胞の極性形成,細胞運動の誘導などの様々な生化学的変化が時空的に協調されて誘導される。
8) 細胞-形質細胞分化における転写因子Bach2の機能 (落合恭子・武藤哲彦・五十嵐和彦)

種々の細胞は,未熟な細胞から特異的な機能を果たす成熟細胞へと分化する。B細胞も抗原刺激を受けることにより,抗体分泌細胞である形質細胞へと分化する。この過程では,クラススイッチや体細胞突然変異といった遺伝子改変反応が生じ,抗体の種類の多様化や抗体親和性の上昇が起こる。しかし,こうしたB細胞から形質細胞へと分化する,まさにその境界における遺伝子発現ネットワークについてはいまだ多くの疑問点が残る。ここでは,B細胞分化における転写因子Bach2の重要性と細胞分化に果たす役割の可能性を述べる。
2.細胞増殖・分化・死のシグナル伝達
1) TGF-βスーパーファミリーによるシグナル伝達機構と疾患 (中尾篤人)

TGF-βスーパーファミリーの様々なメンバーが細胞に与える影響は多様だが,そのシグナル伝達経路は基本的には極めてシンプルである。リガンドによって受容体が活性化されると,Smadが活性化され核内へ移行する。活性化されたSmadに細胞がどう反応するかは,細胞が既に持っている固有の転写因子の品揃えによって決定される。ヒト腫瘍の多くはTGF-β受容体やSmadを不活化する変異を持っており,TGF-βによる増殖阻害に抵抗性となっている。
2) 核内ステロイドレセプターの転写制御と染色体構造調節 (加藤茂明)

性ホルモンをはじめとした低分子量脂溶性生理活性物質をリガンドとする核内レセプターは,リガンド依存性DNA結合性転写制御因子として標的遺伝子群の発現を転写レベルで制御する。本稿では,この転写制御を,最近明らかにされつつある受容体転写共役因子複合体群の機能に焦点を合わせて概観する。特にこれら複合体は,転写制御に伴う染色体構造調節・ヒストン修飾を行う本体であることが明らかにされつつあり,染色体上での核内レセプター機能を概観したい。
3) Runx1およびRunx3転写因子によるT細胞分化制御 (河府和義・佐竹正延)

T細胞は,骨髄由来T細胞前駆体が,胸腺において分化・成熟することによって作られる。成熟後には末梢リンパ組織に移行して,種々の抗原刺激に応答し,獲得免疫システムの司令塔として活躍する。当然ながら,その分化・成熟の途上では幾度もの運命決定がなされ,様々な転写因子群により厳密に制御されている。Runx1転写因子は白血病や成体型造血に重要性が示された分子であるが,そのファミリー分子群(Runx1およびRunx3)はT細胞の分化・成熟においても重要な役割を担っている。本稿では,T細胞分化に関わるRunx転写因子の役割について,われわれの知見を中心に国内外の成果も含めて紹介したい。
4) アポトーシスのシグナル伝達経路 (黒木俊介・米原 伸)

アポトーシスの調節と実行には,カスパーゼと呼ばれるプロテアーゼファミリーが中心的な役割を担っており,イニシエーター(開始)カスパーゼの活性化→エフェクター(実行)カスパーゼの活性化→アポトーシスというカスパーゼカスケードを形成している。このカスケードには大きく分けて2つの経路が存在する。1つはデスレセプターを介してアポトーシス刺激が伝達されるデスレセプター経路であり,もう1つはミトコンドリアを介して刺激が伝わるミトコンドリア経路である。
5) 細胞周期とシグナル伝達 (中山啓子)

細胞周期とは,数種のサイクリンが秩序だって発現をon
offし,必ず一方向性に進行し,遺伝的に同一な2つの娘細胞を作る過程である。サイクリンの活性化と阻害分子の発現は,細胞外からの増殖因子によって制御されるが,その伝達経路について多くの複雑なデータが提示されている。本稿では,特にG0期からS期へ至る経路で細胞外情報がどのようにサイクリンやその阻害分子を制御するのか,そして正常な細胞周期進行を妨げるDNA傷害が起こったとき細胞はどのように反応してその後の運命決定を行っているのか,最近の知見を交えて概説する。
6) 骨免疫学 (高柳 広)

骨格系と免疫系は,骨髄微小環境を共有し,サイトカイン・受容体・転写因子などの多くの制御分子を介して相互作用し,非常に密接な関係にある。関節リウマチにおける炎症性骨破壊の研究は両者の融合領域である骨免疫学に光を当てたが,分子レベルでの解析の発端となったのは破骨細胞分化因子のクローニングであった。その後,種々の免疫制御分子の遺伝子改変マウスに骨の異常が見出され,骨免疫学の幅広い重要性が浮彫りになった。近年では,骨芽細胞・破骨細胞と造血幹細胞の関係も解明され,骨免疫学は多方面に発展しつつある。
7) RANKを介するシグナル伝達 -破骨細胞と免疫系- (門野夕峰・田中 栄)

生体内で骨吸収をつかさどる破骨細胞は,骨粗鬆症,関節リウマチや転移性骨腫瘍などの骨破壊性疾患の病態形成に大きく関与している。破骨細胞分化因子RANKLの同定以後,RANKL-RANKシグナルがTRAF6によって伝達され,NFATc1の発現を誘導し,活性化するという破骨細胞分化の分子機構の詳細が明らかにされた。また,RANKL-RANK-TRAF6シグナルが樹状細胞機能を中心とする獲得免疫機能発現にも重要なことが明らかとなり,骨と免疫系の相互作用を考慮した新たな治療方法の研究開発が行われるようになった。
3.細胞骨格・細胞接着分子群
1) アクチン細胞骨格の再構築制御とシグナル伝達 (大橋一正・水野健作)

アクチン細胞骨格は,細胞の形態と運動を制御する動的な骨格構造である。細胞内には,アクチン線維の重合・脱重合の促進,束化のようなアクチン骨格の再構築を制御する因子が多数存在する。アクチン骨格再構築の中心的な役割を果たす低分子量Gタンパク質Rhoファミリーは,多くの活性制御因子と下流エフェクターによって,これらのアクチン制御因子を時空間的に制御し,多様な細胞応答を可能にしている。これらの主なシグナル経路を概説するとともに,アクチン線維の切断・脱重合因子であるコフィリンに対する正と負のシグナル経路とアクチン骨格の時空間的な再構築制御機構を紹介する。
2) 乳癌浸潤能獲得における必須因子Arf6 (橋本 茂)

癌の最も大きな脅威は転移性にある。多くの上皮癌において,癌細胞が基底膜に対して浸潤能を獲得することが,その転移性に寄与すると考えられている。癌浸潤は,基底膜への接着/分解/運動の連続する3つのステップからなり,各ステップで特異的な分子群が機能することにより進行する。近年の網羅的遺伝子解析技術の進歩により,癌の浸潤性と相関する遺伝子群の情報が蓄積されているが,分子機序について不明な点が多い。われわれは,低分子量Gタンパク質Arf6を中心とした複合体形成が乳癌細胞の浸潤活性に必須な役割を果たしていることを見出した。
3) 乳癌浸潤能獲得における必須因子Arf6 (橋本 茂)

細胞の接着,運動,増殖は協調して起こる現象であり,それらを制御するためには細胞接着分子や増殖因子受容体が適切な場所,適切なタイミングでシグナルを伝える必要がある。また,それらの現象を協調させるために,シグナルは独立した経路で伝達されるのではなく,複雑にクロストークしていることがわかっている。このシグナルのクロストークに細胞間接着分子ネクチンとネクチン様分子(nectin-like molecule : Necl)がRhoファミリーを中心とした低分子量Gタンパク質やその他のシグナル分子を介して関与していることが明らかになってきた。
4) ギャップ結合を介した細胞間情報伝達とSrcキナーゼシグナル (伊藤聡子・浜口道成)

ギャップ結合はコネキシンと呼ばれるタンパクにより構成されるチャネルであり,隣接する細胞同士の細胞内を直接つないでいる。ギャップ結合を介した情報伝達は様々な要因により制御を受けていることが知られている。コネキシン43により形成されるギャップ結合の制御には,そのC末端のリン酸化が関係している。本稿では,ギャップ結合の重要な調節因子であるSrcキナーゼとその下流で活性化しているシグナル経路のギャップ結合への関わりとその制御機構について紹介する。
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