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シグナル伝達を知る
−その分子機序解明から新たな治療戦略まで−
編  集: 菅村和夫(東北大学大学院医学系研究科免疫学分野教授)
佐竹正延東北大学加齢医学研究所免疫遺伝子制御研究分野教授
編集協力 田中伸幸宮城県立がんセンター研究所免疫学部部長

本書籍をご購入の場合は ……………… 1冊 本体 5,000円+税

要 旨
(第2章1.〜2.)

第2章 臨床応用編
1.癌とシグナル
1) Sonic hedgehogシグナル経路と腫瘍発生モデルマウス (柳沼克幸・野田哲生)

Sonic hedgehog(Shh)シグナル経路は,胚発生における形態形成において重要な役割を果たす。その一方で,この経路の制御異常はヒトの先天的な障害や腫瘍発生を引き起こす。われわれは,ヒトの基底細胞癌や髄芽腫のモデルとして,Shhの受容体であるPatched1Ptc1)遺伝子を不活化した腫瘍発生モデルマウスを開発し,Shhシグナル経路の活性化が腫瘍発生の原因であることを明らかにした。さらに,Shhシグナル経路の特異的阻害薬である低分子化合物が,モデルマウスの腫瘍の治療に効果を示すことから,ヒトの場合の腫瘍にも有効である可能性が示唆された。
2

p53 (井川俊太郎)

癌抑制遺伝子p53変異は,ヒト腫瘍の約半分で検出され,最も注目される遺伝子である。このp53の癌抑制能は,ゲノム損傷性ストレスに応答して,転写活性を発揮し細胞の増殖停止,ゲノムの修復を誘導し,修復不能の場合には,セネッセンス,アポトーシスを誘導することで前癌細胞の拡大再生産を防ぐことにある。また,その類似遺伝子としてp73p51/p63/p40/p73Lが相次いで報告され,p53ファミリーを形成することが判明してきた。これらファミリー遺伝子は,分化発生において重要な機能を担うと同時にp53依存性の癌抑制にも重要な機能を果たしていることが判明してきた。p53の機能は,予想以上に複雑であり,その機能の詳細な把握なくしては,その知識の臨床応用への可能性は低い。

3 ヘリコバクター・ピロリCagA (畠山昌則)

近年の研究から,ヘリコバクター・ピロリ(ピロリ菌)CagAタンパク質が胃癌発症に深く関わることが明らかとなってきた。CagAはピロリ菌菌体内で産生された後,菌が保有するミクロの注射針を介して胃上皮細胞内へと直接注入される。胃上皮細胞内に侵入したCagAはチロシンリン酸化を受けた後,SHP-2と結合し,そのホスファターゼ活性を亢進させる。最近,種々のヒトにおいてSHP-2の機能獲得型変異は報告されており,CagAによるSHP-2の脱制御が胃癌発症に深く関与することが示唆される。最近の臨床介入研究の結果から,ピロリ菌除菌による胃癌予防の可能性が見えてきた。
4

癌抑制遺伝子PTEN (柳 重久・中里雅光・鈴木 聡)

PTENのDNA変異は種々のヒト悪性腫瘍に認められ,またPTENのタンパクレベルの異常をも含めると,悪性腫瘍の約半数近くにPTENの異常を認めることが明らかになりつつあることから,p53に匹敵する癌抑制遺伝子の代表格と位置づけられてきている。われわれは,PTENを各種臓器にて欠損させることにより,PTENが様々な臓器で癌抑制遺伝子として働いていること,癌抑制のみならず発生・分化・機能制御などに重要な役割をしていること,PTEN異常は癌化以外に様々な疾患を呈することを明らかにしてきた。本稿では主にわれわれがこれまでに明らかにしてきたPTENの生体における機能について概説する。

5 腫瘍の発生・進展とTGF-β (加藤光保)

癌細胞は,ゲノムDNAの異常やエピジェネシスの異常によって発生し,自律的かつ過剰な増殖と浸潤・転移を起こす。トランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)は種々の細胞に増殖抑制やアポトーシスを誘導し,異常な細胞増殖を抑制している。多くの癌組織でTGF-βは発現が亢進し活性化しているが,癌細胞では,TGF-βによる細胞増殖抑制やアポトーシスが消失している。また,TGF-βは癌細胞の浸潤・転移能を亢進させ,宿主細胞に作用して血管新生を誘導し免疫反応を抑制して,癌の進展を促進している。
6 エンドサイトーシス制御因子Arf6が関与する癌のシグナル伝達 (渡邊利雄)

癌細胞の転移能は癌細胞の浸潤能とよく相関していることから,転移を抑制し,患者の予後の向上を目指して,癌細胞の浸潤能と運動能との解明を目指した研究が精力的に行われている。細胞膜のリサイクルと細胞膜辺縁での再構築に関与する低分子量Gタンパク質のArf6と,Arf6と結合するArf GAPのAMAP1とが乳癌細胞の浸潤能に必須であることが明らかになった。AMAP1は活性化型Arf6,パキシリン,コータクチンと複合体を形成し,AMAP1とコータクチンの結合を阻害するペプチドが浸潤能を抑制したことから,転移抑制薬としての期待が持たれる。癌細胞の浸潤と関わり合いが深いEカドヘリンの細胞内への取り込みにArf6が関与していることが明らかとなり,Arf6の制御メカニズムの解明から浸潤能の新しい抑制標的発見となることが期待される。
7 SLPIと癌 (鈴木拓児・貫和敏博)

SLPIは気道,口腔内,涙腺,唾液腺,消化管などにおいて,マクロファージや好中球などの炎症細胞や上皮細胞から産生される。タンパク質分解阻害作用により組織破壊から防御する一方で,TGF-β活性化阻害やproepithelinを安定化して創傷治癒に関与し,さらにNF-κBシグナル伝達を細胞質内および核内で阻害することで抗炎症作用を示す。また,HIV-1ウイルス感染時には細胞表面アネキシンIIとの結合を阻害して感染防御に働く。肺癌をはじめ多くの癌組織でSLPIは発現し,増殖因子産生や細胞周期進行を促し,癌の増殖や転移に関わる。さらに,ノックアウトマウスの解析から肺発癌に関与することが示唆される。
8) ストレス応答シグナル(JNK経路)と癌 (河野泰秀・名黒 功・一條秀憲)

生物が生きていくためには常に変化する環境に適応することが必要とされる。そのためには外界からの情報を受容し,応答する機構が必要となる。その機構の1つに,リン酸化カスケードにより情報を伝達するMAPキナーゼ経路がある。JNK経路はこのMAPキナーゼ経路の1つであり,活性化によりアポトーシスなど癌と関連の深い生理応答を誘導することが知られている。今回はこのJNKおよびその基質であるc-junが癌抑制と癌増殖の両方に作用しうることについて紹介する。さらには,癌細胞の抗癌剤に対する感受性がJNK経路により変化するという知見にも触れ,JNKによるシグナル伝達経路と癌の関係について,これまでわかっていることをまとめる。
2.免疫疾患とシグナル
1) 自己免疫疾患とシグナル伝達制御 (吉村昭彦・高木宏美・古賀敬子・小林隆志)

自己免疫疾患の多くはT細胞の免疫寛容の破綻によって引き起こされるが,病態の進展には炎症性サイトカインの関与が大きい。この数年,末梢における寛容の維持に必須の役割を果たす抑制性T細胞と炎症性サイトカインの関係が明らかにされてきた。例えば,IL-6はTGFβによる抑制性T細胞の誘導を阻害することが示された。また,サイトカインシグナル制御遺伝子SOCSは中枢および末梢で免疫寛容の維持や調節に重要な役割を果たす。例えば,SOCS1はTh1の誘導を,SOCS3はTh17の誘導を負に制御する。TGFβと炎症性サイトカインの関係が理解されつつある現在,新たな免疫制御の理論が構築されつつある。
2) Th2細胞分化とアレルギー性疾患 (山下正克)

花粉症やアトピー性皮膚炎などに代表されるアレルギー性疾患は,体内のヘルパーT細胞サブセットがTh2細胞優位になることが一因で起こると考えられている。Th2細胞の分化には,T細胞抗原受容体とIL-4受容体からの協調したシグナルによる転写因子GATA3の発現誘導が必須である。近年,GATA3の発現や機能を抑制することで,アレルギー性炎症の病態を制御しうることが動物モデルを使った研究から明らかになってきた。そこで本稿では,Th2細胞分化のマスター遺伝子であるGATA3の発現誘導に必要なシグナル伝達経路について概説するとともに,GATA3の発現制御によるアレルギー性疾患治療の可能性について考える。
3) 炎症性腸疾患と免疫シグナル (石井直人)

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎とクローン病)は近年患者数が急増する原因不明の難治性慢性腸管炎症である。原因の1つとして,腸内細菌フローラに対する免疫寛容破綻とそれに伴うサイトカイン産生異常が想定されている。遺伝子連鎖解析法の進歩により,いくつかの遺伝子の多型・変異と疾患発症との関連性が見出された。同定された疾患感受性遺伝子の多くはサイトカインシグナルや細菌菌体成分受容体(NOD2/CARD15)など免疫反応に関与する重要な分子であった。免疫系分子を標的とした治療法の開発が急務である。
4) X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID):基礎から臨床へ (久間木 悟)

X連鎖重症複合免疫不全症(X-SCID)はT細胞,NK細胞を欠き,B細胞にも機能異常が存在する原発性免疫不全症である。責任遺伝子はγc鎖をコードする遺伝子で,γc鎖はIL-2,IL-4,IL-7,IL-9,IL-15およびIL-21の受容体サブユニットとして共用されている。その中でIL-7がT細胞の発生に,またIL-15がNK細胞の発生に重要な役割を果たしている。本疾患に対しレトロウイルスベクターを用いた遺伝子治療が開始されたが,治療を受けた患者から白血病が発症した。そのため,安全な遺伝子治療法の開発が重要な課題となっている。
5) 間質性肺炎と炎症性サイトカインIL-18 (星野友昭)

間質性肺炎は予後が悪い原因不明の間質性肺疾患群である。IL-18をIL-2と同時にマウスに連日投与すると,肺のみにリンパ球浸潤が急激に起こる致死性の間質性肺炎が誘導される。また,特発性間質性肺炎患者の肺病変部の線維芽細胞には正常肺より著明にIL-18,IL-18受容体α鎖が強く発現していた。最近の研究でplatelet-derived growth factor(PDGF),transforming growth factor(TGF)-β1 ,tumor necrosis factor(TNF)-αやIL-18などのサイトカインや増殖因子が間質性肺炎患者の肺病変部への線維芽細胞や筋線維芽細胞の動員や増殖に重要な役割を果たすと考えられている
6) 関節リウマチの血清アミロイドA発現機序 -IL-6阻害に基づくシグナル伝達,転写機序の解明- (吉崎和幸・萩原圭祐・西川哲平・宋 健)

IL-6,IL-1,TNF-α刺激肝細胞株を用いて血清アミロイドA(SAA)相乗発現のシグナル伝達,転写機序を解析した。結局,NF-κBの活性は発現に関与するが増強せず,C/EBPβ活性により発現は生じるが,STAT3がNF-κB p65,P300コファクターそしてNF-κB RE 3’下流に結合することによって発現増強が生じることを認めた。なお,SAAプロモーターには従来のSTAT3 REはなく,この結合様式はSTAT3の新たな転写機序で,in vitroばかりでなく関節リウマチの病態においても存在することを示唆する。
7) 自然免疫系におけるIκBNSの役割と炎症抑制 (桑田啓貴・竹田 潔)

マクロファージの過剰な活性化は生体に有害な影響をもたらす。しかし,マクロファージの活性を適切にコントロールするメカニズムはまだ十分に解明されていない。われわれの研究では,転写因子IκBNSが自然免疫系細胞において,LPS刺激後3?5時間に誘導される遺伝子発現(IL-6, IL-12p40など)を特異的に抑制することが明らかとなった。通常の生体においては,IκBNSがこれらの遺伝子発現を抑制することによって,IBDなどの炎症性疾患の発症を抑制していると考えられる。
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