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内容目次 |
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序文
(佐治英郎・田畑泰彦) |
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● |
概論:分子イメージングの概念と国内外における研究体制
(佐治英郎) |
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生化学・生物学・臨床診断・治療に適用するために,細胞/分子レベルの生物学的・分子生物学的なプロセスの空間的・時間的分布をin vivo で画像化する分子イメージングが,新たな切り口で生体機能を読み解く新しい研究方法論として注目されている。欧米では2000年に入ってから国家レベルで大規模な研究が推進されており,わが国でも2,3年前から国家予算による本格的な研究が進められている。本稿では,この分子イメージングについて,その概念,欧米および日本における研究体制の現状と動向の概要を述べる。
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● |
概論:分子イメージングに必要なドラッグデリバリーシステム(DDS)
(田畑泰彦) |
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●第1章 技術編 |
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1) |
PET・SPECT分子プローブ
(佐治英郎) |
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分子プローブは分子イメージング機器とともに,分子イメージングを支える両輪である。分子イメージングは,細胞/分子レベルの生物学的・分子生物学的なプロセスの空間的・時間的分布をin vivo で画像化するものであることから,検出試薬である分子プローブの開発には,生体内で起こっている生理的または病的な生命現象に特異的に発現/変化する分子を標的として,これに特異的に結合あるいは相互作用する分子の設計が不可欠である。ここでは,PET,SPECTに用いる分子プローブについて,基本的な条件と合成反応を示し,さらに代表的な分子設計概念について具体例を用いて述べる。
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2) |
PET用分子プローブの自動合成
(岩田 錬) |
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近年,注目を集めるPET核医学診断と分子イメージング研究における放射性分子プローブの自動合成装置の役割は大きなものがある。放射性物質を扱う宿命として,医療現場では分子プローブの標識合成から注射液の投与までが作業従事者の被曝防止あるいは軽減目的で自動化が進められてきた。本稿では,主に使用される11Cと18Fの標識分子プローブ自動合成装置を中心に,注射液の品質管理や投与を行う自動装置も含めて紹介する。
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3) |
PETおよびPET関連イメージング融合機器・解析技術
(村山秀雄・山谷泰賀) |
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PETは,生体内組織の形態学的異常に先立つ代謝異常を,生体まるごとの体外計測により高精度に検出できる新しい検査法である。生体に影響を与えることなく生体内極微量物質の分子生物学的活動を可視化するPET装置の計測原理について簡単に説明し,トレーサー技術と放射線計測技術,ならびに情報処理技術を組み合わせたPET特有のイメージング法を概説する。また,関連イメージング融合機器としてPET/CT装置を紹介するとともに,生理的パラメータなどの代謝情報をPETデータから得る手法や動態解析技術も簡単に説明する。
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4) |
SPECTイメージング
(銭谷 勉・渡部浩司・飯田秀博) |
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PETやSPECTなどの核医学的診断法は,トレーサー標識技術(リガンド,ナノ粒子,ペプチド,タンパクの放射性同位元素による標識)と解析技術の融合により,病態生理学や病態生化学的な変化を非侵襲・高感度かつ高精度で観察することができ,実験小動物から臨床まで応用可能な分子イメージング手法である。本稿で紹介するSPECT装置はPET装置に比べ感度の点で劣るが,標識薬剤の供給が商業ベースで整備されており,安価で手軽に検査が実施できるため臨床の場で広く普及している。本稿では,標準的なSPECT装置の構成を概説したうえで,それぞれの用途に特化した様々なSPECT装置を紹介する。さらに,当研究グループが開発したSPECTでの定量的機能画像の解析技術について述べる。
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5) |
小動物実験用PET・SPECT装置
(和田康弘) |
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小動物実験用高空間分解能のPETやSPECT装置が販売されはじめて数年が経過し,その分解能も1.5mm前後まで向上してきた。空間分解能の向上によりラットなどの小動物でのイメージングが可能になり,日常的に実験が行われている。一方,装置は空間分解能を中心に開発が行われてきた経緯もあり,現時点では感度が不足している傾向がある。ここではPETは理化学研究所で使用している装置,SPECTは国立循環器病センター研究所で開発している装置およびコンプトンカメラを中心に述べてみた。
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1) |
MRI分子プローブ
(犬伏俊郎) |
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核磁気共鳴画像(MRI)法を利用する分子イメージングでは,再生医療で用いられるES細胞や細胞治療で用いる免疫系細胞を生体内で可視化する方法が編み出され,移植細胞の無侵襲追跡が可能になっている。さらに,ナノテクノロジーを応用した素材が分子イメージングに利用されようとしている。本稿では,MRI法が細胞や分子の識別を可能にする様々な標識(プローブ)を紹介するとともに,併せてマルチモーダルイメージングに関連させて,MR細胞・分子イメージングの課題や展望についてまとめた。
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2) |
MRIイメージングの機器と解析法
(三森文行) |
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分子イメージングを行うためのヒト用MRI装置の高磁場化の傾向について述べ,装置の主要な構成要素である磁石,磁場勾配発生系,信号受信系について解説を行う。近年のトレンドであるMRIをベースとするマルチモダリティ装置についてもMRI-PETを例として紹介する。MRIを用いる分子イメージング解析法については,水プロトンと緩和試剤を併用する方法についてGd3+を分子選択的T1緩和試剤として用いる方法,超常磁性鉄微粒子をT2/T2* 緩和試剤として用いる方法について紹介し,31Pや13C,19Fなどの他核種を利用する方法についても概説する。
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3) |
動物用MRイメージング計測
(青木伊知男) |
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実験動物を対象とした磁気共鳴画像法(MRI)は,分子標的造影剤の開発や遺伝子改変マウスを用いた研究など,分子イメージング研究において重要な鍵となる技術である。 MRIは非侵襲的な計測方法であり,創薬や臨床へ直結した基礎研究などにおいて,小型?大型の実験動物から臨床研究までの展開が容易であり,いわゆるトランスレーショナル研究において有用な評価法になりうる。本稿では,動物実験用MRIによる分子イメージングを実施するために必要な方法論について,齧歯類を使用した小動物MRイメージングに絞って概説する。
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1) |
光イメージング分子プローブ
(浦野泰照) |
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「生きている状態の生物試料」で起こる種々の応答をリアルタイムで観測することの重要性が,近年の基礎生物・医学研究において強く認識されるようになってきた。本計測を実現する技法として,観測対象現象・分子を高感度に可視化する蛍光プローブを用いて,蛍光顕微鏡下で生細胞応答を観測する技法が広く汎用されている。本稿では,蛍光観測技法に必須である蛍光プローブの開発に関する最近の動向から,蛍光の精密制御を活用した高感度・高選択的癌光イメージングの実現に至るまで幅広く解説する。
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2) |
蛍光タンパク質によるバイオイメージング
(唐澤智司・宮脇敦史) |
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オワンクラゲGFPの遺伝子が同定されて以来,多くの蛍光タンパク質遺伝子が単離され,また使いやすく改変されてきた。日本国内においても独特な蛍光特性をもつ蛍光タンパク質が開発されている。Keima(桂馬)は色素タンパク質から改変により創られたストークスシフトが極端に大きな赤色蛍光タンパク質である。Kusabira-Greenからは,protein complementationを基にしたタンパク質間相互作用解析技術が開発された。
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3) |
細胞内イメージング(FRETなど)
(清川悦子・松田道行) |
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細胞内の情報伝達の時空間情報を得るために,蛍光共鳴エネルギー移動(fluorescence resonance energy transfer:FRET)の原理に基づく分子プローブが開発されている。様々な分子の活性変化をビデオ画像化するだけでなく,時間分解能に優れているという特性を生かし,シミュレーションモデルの構築に必要なパラメータの取得も行われつつある。最終的にめざすものは疾患のシミュレーションによる疾患の理解,有効な治療法の予測である。
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4) |
多光子CALI法を用いた標的分子阻害
(高松哲郎) |
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多光子CALI法において,標的タンパクと蛍光タンパクとの融合分子を適当な細胞に強制発現させ二光子励起することにより,標的タンパクの機能を即座にかつ特異的に不活性化できる。多光子CALI法のこのような特徴はこれまでの技術ではなしえなかったものであり,今後のタンパク分子の機能解析に大きく寄与すると考える。
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5) |
量子ドット医薬の開発と分子標的薬物担体への展開
(山本健二) |
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量子ドットは,1桁ナノメートルほどの大きさをもった金属,半導体などの超微小結晶である。このナノ粒子は量子サイズ効果により強い蛍光をもち,蛍光持続時間も有機蛍光色素に比べ著しく長いという特徴をもっている。このナノ粒子の表面を有機酸やアミン,アミノ酸,ペプチドや糖など,およびその誘導体などで結合し,親水性ナノ粒子を製造することが可能である。このような親水性ナノ粒子の生命科学や医療応用を検討・開発している。特に様々な毒性試験により生命科学や医療応用の目的にかなう安全で安心なナノ粒子が近年開発されてきている。本稿では,微少量の抗原に対して,量子ドット標識した抗体を用いた検査法についての応用と,腹腔マクロファージの量子ドットによる細胞染色によって得られた炎症についての知見を紹介する。
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6) |
マウスからヒトにいたるin vivo 光イメージングとその周辺技術
(上田之雄) |
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マウスからヒトにいたるin vivo 光イメージングについて,蛍光や発光,吸収イメージングなどを取り上げ,それぞれの特徴について概説する。in vivo 光イメージングにおいて,二次元のマッピングでは深さ情報がないため定量性に欠けるという問題がある。そのため三次元画像化をめざすことになるが,光による生体内の三次元画像化には生体組織のような散乱・吸収体内での光の振る舞いの扱い方や,近赤外領域の微弱光検出器などが鍵を握る。ここでは三次元画像化の例として反射型拡散光トモグラフィを用いた吸収イメージング技術とイメージングに重要な光検出器についての最近の動向も紹介する。
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7) |
眼科における光干渉断層計
(板谷正紀) |
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光干渉断層計(OCT)は,最も精密な断層画像を得ることができる。眼科領域へいち早く導入され,眼底疾患の疾患概念に修正をもたらすとともに,黄斑浮腫や緑内障における網膜の形態定量的眼科診断を進歩させるなど,エポックメーキングな診断装置となった。2006年より,スペクトラルドメインと呼ばれる新しい検出技術による次世代のOCTが上市され,高速・高分解能な3D-OCTへと進化した。OCTは臨床における重要性がますます高まり,早期緑内障診断,疾患進行のモニター,治療効果の評価など眼底診療におけるスタンダードな診断機器への道を歩んでいる。
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1) |
生体内フリーラジカル反応の可視化
(山田健一・内海英雄) |
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生体は,様々な内的・外的刺激により活性酸素,フリーラジカルを産生している。通常,これらフリーラジカルは,生体内に存在する抗酸化物質とレドックスバランスを保っているが,いったんそのバランスが破綻すると,生体膜や組織を構成する生体内分子を攻撃し,種々の炎症や発癌,老化などの疾患の原因になると考えられている。すなわち,フリーラジカルやそのレドックスバランスを可視化できれば,疾患の病因解明,創薬研究のために非常に有力な手段となる。そこで本稿では,これらフリーラジカルを生体内で捉えるために,磁気共鳴法を用いた一例を紹介する。
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2) |
CTによる分子イメージング支援
(市原 隆) |
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CT技術は過去数年間で空間分解能,時間分解能が著しく進歩した。本稿ではCT検査における造影剤と放射線被曝について触れながら,分子イメージング支援に関係するマルチスライスCT技術,CT造影検査(CT angiography:CTA)による冠動脈狭窄・プラークの画像化,心筋パーフュージョン評価について最新状況を紹介する。
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3) |
無染色細胞イメージング
(藤田克昌) |
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生体内の分子を光を用いて無標識でイメージングする技術について解説する。第2高調波発生やラマン散乱は,分子の極性や配向,分子振動に影響を受けた光を発するため,これらを分光計測すれば,特定の分子の存在やその空間分布を知ることができる。本稿では,光が分子の情報をどのようにして取り出すかについて概説し,無染色での細胞イメージングの技術と,それを用いて実際に生体試料を観察した例を示す。
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4) |
MRI顕微鏡
(松田哲也・楢崎美智子・水田 忍・塩田浩平) |
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MRIの中でも分子イメージング研究において活躍が期待されるような高い空間分解能をもつシステムはMRI顕微鏡(MRマイクロスコープ)と呼ばれ,すでに小動物を対象とした生物学的研究に利用されている。現在の小動物用MRI装置で実現している数十µmあるいはそれ以上の空間分解能になると,信号強度の低下をはじめとした様々な問題点が生じ,信号強度の増強や受信感度・受信効率の向上をはかって空間分解能を追求する試みも提案されている。このようなMRI顕微鏡の現状と課題を技術的な側面から説明する。
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5) |
顕微質量分析装置
(吉田佳一) |
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光学顕微鏡で組織切片を観察し,その場で任意の領域のマススペクトルを測定し,組織上の質量数の異なる生体分子の分布(マスイメージ)を高空間分解能で解析できる顕微質量分析装置を開発している。本装置を用いて,ラット小脳組織切片のマスイメージを測定し,質量数が異なる生体分子の分布が灰白質と白質で異なることを示した。さらに,灰白質と白質の境界領域の高空間分解能マスイメージも測定できた。この結果は,本装置がバイオマーカー探索や創薬,疾患過程の探求のための有力な手法となりうることを示している。
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6) |
原子間力顕微鏡の原理と生体試料への応用
(吉村成弘) |
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原子間力顕微鏡(AFM)は,試料の固定・染色を必要としないにもかかわらず,光学顕微鏡よりはるかに高い解像度(数nm)を得ることができるナノイメージングデバイスとして,これまで生物一般や生命科学の分野で広く利用されてきた。近年では,分子間相互作用をピコニュートンという精度で測定したり,物体や物質の物理的性質を評価するための計測機器としても広く利用されつつある。本稿では,AFMの代表的アプリケーションである1分子イメージングと1分子力計測を取り上げ,その原理と応用例について概説する。
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7) |
近接場ラマン顕微鏡
(河田 聡・市村垂生) |
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光の回折限界を超えたナノメートルスケールの空間分解能で光学イメージングを可能とする近接場光学顕微鏡法について,その原理と実例を概説する。特に,近接場ラマン顕微鏡によりナノ領域での生体分子分光および分光イメージングを実現した最先端の研究例を紹介し,生命機能研究への応用の可能性について述べる。
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●第2章 生物学的応用編 |
1. |
細胞内蛍光1分子イメージング
(十川久美子・徳永万喜洋) |
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顕微鏡技術や蛍光プローブの開発などにより,分子1個1個を細胞内で鮮明に蛍光観察できるようになった。分子1個がイメージングできれば,細胞内の分子動態と分子数の定量が可能である。また,高感度の特性を生かせば,生きた細胞を長時間照射損傷なく観察できる。免疫細胞におけるシグナル伝達開始を可視化したところ,従来の説とは異なり,約100分子程度のマイクロクラスター形成がシグナル開始であることが見つかった。
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2. |
神経の分子イメージング - 脊髄損傷を中心に -
(辻 収彦・中村雅也・藤吉兼浩・岡田誠司・山田雅之・岡野James洋尚・岡野栄之・戸山芳昭) |
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近年の生化学的・分子生物学的技術の発達により,神経系研究においてトレーサーを用いた様々なtractgraphyが可能となった。しかし,その解析には依然として多くの動物の犠牲により得られる組織切片に頼らざるを得ない。本稿では,脊髄損傷研究に携わる当研究室において現在行っている①水分子の異方性に着目したdiffusion tensor tractgraphyと,②蛍の発光酵素luciferase遺伝子を用いた移植神経幹細胞のbioluminescence imagingという2つの新しいin vivo イメージング手法について詳述する。
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1) |
エネルギー循環代謝
(井上 学・福山秀直) |
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エネルギー循環代謝の機能画像を撮影する方法として,SPECT(single photon emission computed tomography)とPET(positron emission tomography)が,現在臨床で用いられている。ここでは,SPECTとPETの撮影方法に加えて,近年利用されるようになった統計学的画像解析法について説明した。また,脳機能画像が利用されている疾患として,脳血管障害や神経変性疾患の症例を提示した。
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2) |
神経血管カップリング
(菅野 巌) |
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脳神経細胞を賦活すると神経の賦活強度に相応した局所脳血流量が増加することが,これまでのいろいろな実験で示されている。ここでは局所脳血流の変化量が神経活動の強度を反映するメカニズムについて,PETによる定量的な測定とLDFを用いたラットによる微小循環測定をもとに組み立てたい。これまでの測定からわかったことは,①賦活脳血流量はベースライン脳血流量に比例すること,したがって,神経活動を反映するのは脳血流量の絶対量変化分ではなく相対量変化分であること,②賦活脳血流量の変化量は最初の数秒間で決定されること,③毛細血管と細動脈とで脳血流が変化するとき最初に拡張するのが毛細血管であることである。これらをもとに賦活時に局所脳血流の変化量が神経の活動強度に対応するように調節するメカニズムを考察した。
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3) |
神経伝達機能イメージング
(三好美智恵・高橋英彦・須原哲也) |
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positron emission tomography(ポジトロンCT : PET)を用いて脳機能の多種多様な生理・生化学的プロセスを画像化することが可能である。リガンドの選択によって,局所脳血流や酵素活性,神経伝達物質受容体分布など多様な生体機能をin vivo で定量化することができ,神経伝達機能をターゲットとしたイメージングは疾患病態の解明や治療薬の作用機序の解明に役立っている。特にドーパミン神経伝達イメージングは各種リガンドの開発により多くの研究が行われ,パーキンソン病や精神疾患の疾患病態の解明や進行度の評価に用いられている。
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4) |
アミロイドイメージング
(岡村信行・谷内一彦) |
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アルツハイマー病に特徴的な脳病理変化である老人斑の脳内沈着が,分子イメージングプローブを用いて計測可能となった。これまでに,PIB,FDDNP,SB-13,BF-227などが,PETプローブとして臨床応用されている。アルツハイマー病患者では,老人斑の好発部位である大脳皮質領域で顕著なプローブの集積が検出される。本検査は,アルツハイマー病の早期診断法としてのみならず,抗アミロイド療法の薬効評価系としても活用することができ,認知症の治療戦略を立てるうえで有用なエビデンスを提供する優れた技術といえる。
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1) |
心筋エネルギー代謝
(石田良雄・木曽啓祐) |
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心臓病における心筋エネルギー代謝への注目は,代謝異常自身が直接の原因となる疾患が存在することとともに,原因にかかわらず心不全を進行させる重要な病態因子であることによる。本稿では,心筋代謝イメージング法として,①ATPなどの高エネルギーリン酸を計測する31P-MRS(核磁気共鳴スペクトル法,magnetic resonance spectroscopy),②脂肪酸摂取を解析する123I-BMIPP(β-methyl pentadecanoic acid)SPECT,18F-FTHA (fluro-6-thia-heptadecanoic acid) PET,③脂肪酸代謝速度を計測する11C-palmitate PET,④グルコース摂取ならびに代謝率を解析する18F-FDG(fluorodeoxyglucose)PET,⑤ミトコンドリアにおける酸素代謝(TCAサイクル)を解析する11C-acetate PETを取り上げ,心臓病における臨床知見について概説する。
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2) |
神経伝達・受容体機能解析
(玉木長良・久下裕司) |
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分子イメージングは循環器領域でも進められている。適切な放射性薬剤を用いることで神経伝達・受容体機能の映像化や定量評価が可能である。特に心不全では交感神経機能の異常が知られている。123I-標識MIBGを用いると交感神経機能異常とその程度を解析でき,心不全例の重症度判定に広く用いられている。他方,S-[11C]CGP-1217を用いるとβs受容体密度を定量的に解析できる。これまでの少ない検討では心不全例の受容体密度(Bmax)の低下を示すことができた。このような循環器領域での神経伝達・受容体機能は不全心の病態評価だけでなく,治療戦略に利用されることが期待される。
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3) |
冠動脈不安定プラーク
(細川了平・野原隆司) |
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急性冠症候群は,近年の治療学の進歩にもかかわらず依然予後不良の疾患である。急性冠症候群の主因は,冠動脈プラークの破綻であるため,その予測には不安定プラークの同定が必要である。プラークの不安定化には,プラークのサイズよりも,その性状が関与する。したがって,冠動脈造影などの形態による画像診断法では,その同定は難しい。核医学は,分子イメージングの特色を有し,プラークの性状を画像化しうる手法とされている。本稿では,核医学的手法による冠動脈不安定プラーク検出の可能性を探る。また,われわれが共同開発したカテーテル化した血管内検出器(intravascular radiation detector:IVRD)に関する検討にも触れ,冠動脈不安定プラークの検出に関する将来的展望を考える。
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1) |
糖・アミノ酸代謝
(窪田和雄・伊藤公輝) |
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悪性腫瘍における糖・アミノ酸代謝の亢進は古くから研究されている。C-11やF-18など陽電子放出核種で標識された糖・アミノ酸の代謝トレーサーとポジトロン断層(positron emission tomography:PET)を用いて,癌の代謝画像診断が行われている。特に18Fフルオロデオキシグルコース(FDG)を用いるPET診断は,高い診断能と臨床的有用性を示し,保険診療となり広く普及した。11Cメチオニンは正常脳への集積が低く,脳腫瘍の診断にメリットがあり臨床利用が拡大している。
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2) |
核酸代謝
(佐賀恒夫) |
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活発な細胞増殖は癌細胞の基本的な性質であり,PETによる腫瘍の増殖能評価は,悪性度診断,治療効果判定への応用が期待されている。核酸代謝プローブとして,これまでいくつかのチミジン誘導体が検討されてきたが,その中で広く検討されているのはFLT-PETで,その有用性が報告されつつある。PETで得られる情報を有効に診療に応用するためには,症例の蓄積とともに,核酸代謝プローブが何を見ているのかに関しての詳細な基礎的検討も重要である。細胞増殖イメージングが悪性腫瘍患者の診療に有効に応用されることが期待される。
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3) |
低酸素イメージング
(岡沢秀彦) |
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近年,分子イメージング的手法での腫瘍低酸素イメージングが注目されている。ある種の腫瘍細胞は低酸素状態でも低速増殖可能であり,放射線治療や化学療法といった一般的癌治療に感受性が低く,抵抗性を示すためである。こうした低酸素・低栄養下でも増殖し続ける腫瘍は,治療終了後に再発する癌の原因の1つと考えられており,低酸素イメージングは治療抵抗性腫瘍に対する効果的治療の適用を決定するために有効な手段と考えられる。本稿では,主にポジトロンCT(PET)用薬剤での低酸素イメージングに関して概説する。
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4) |
分子標的イメージング (酵素発現,アポトーシス,アンチセンス,アプタマー)
(福田 寛) |
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組織あるいは細胞特異的に発現する遺伝子情報,タンパク分子情報を可視化する分子標的イメージング法が発展している。腫瘍の転移や血管新生に関与するMMP-2の酵素活性を画像化する薬剤として18F-SAV03Mを開発した。担癌マウスの体内動態および腫瘍内分布を検討し,この化合物が有望であることを確認した。また,細胞の照射線感受性,化学療法感受性など癌診療にアポトーシスを可視化する薬剤(99mTc-annexin V,18F-annexin Vなど)について紹介する。さらに,mRNA発現を指標とするアンチセンスDNAによる遺伝子情報イメージング,特定のタンパクに高い特異性と親和性を有するアプタマーによるイメージングについて紹介する。
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6. |
In-Cell NMRによる細胞内タンパク質の構造・機能の観察
(杤尾豪人・白川昌宏) |
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溶液NMR法によるタンパク質構造解析は,X線結晶回折法,電子顕微鏡法とともに「構造生物学」の一翼を担う方法論である。その一方で,NMR法は生体に対する侵襲性が極めて低い。筆者らは,NMRの「原子分解観測能」と「生体に対する低侵襲性」の2つの特徴を活用し,生きた細胞内でタンパク質の状態(化学・立体構造やダイナミクス)を構造生物学的に観察するという試みを行っている。本稿では,われわれが進めている細胞内タンパク質のその場観察,いわゆる「In-Cell NMR」について紹介する。
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●第3章 新しい分子イメージングの活用 |
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1) |
遺伝子治療・細胞治療の分子イメージング
(犬伏正幸・金 永男) |
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近年,ゲノム研究と幹細胞研究が著しい発展を遂げ,遺伝子治療と細胞治療という新しい概念の治療法が臨床医療へと持ち込まれつつある。その結果,これまでにはなかった生体情報を評価する必要性が新たに生じてきた。すなわち,遺伝子治療においては治療遺伝子の導入と発現を評価することであり,細胞治療においては細胞の移行(分布)や生着(生存性)を評価することである。本稿では,そのための新しい分子イメージング技術として,レポーター遺伝子を用いた遺伝子発現イメージングおよび細胞追跡イメージングについて解説する。
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2) |
放射線治療の分子イメージング
(板坂 聡・原田 浩・近藤科江・平岡真寛) |
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放射線治療抵抗性の重要な要因である腫瘍内低酸素の克服は長年の課題であったが,低酸素応答因子hypoxia inducible factor -1(HIF-1)の発見によって新たな展開を示している。われわれはHIF-1活性化の経路を利用した低酸素イメージングにてマウス実験腫瘍内の低酸素領域の治療に伴う変化を画像化しており,今後の臨床応用に向け研究を継続している。放射線治療において低酸素イメージングは,強度変調放射線治療を用いた低酸素領域への線量増加や集学的治療の際の放射線治療のタイミングの決定など放射線治療の最適化・個別化にいろいろな応用が期待される。
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3) |
再生誘導治療(再生医療)の分子イメージング
(城 潤一郎・田畑泰彦) |
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現在,細胞移植や生体の自然治癒力を高める医工学技術(生体組織工学)による再生誘導治療が試みられている。この治療のさらなる発展のためには,移植細胞の生体内運命や再生誘導過程および再生修復された組織と臓器の生物機能を評価する技術・方法論の研究開発が必要不可欠である。本稿では,再生誘導治療のためのイメージングの現状を述べるとともに,この治療の非侵襲的な診断法としての分子イメージングの重要性と必要性を強調する。
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1) |
創薬研究への応用
(渡辺恭良) |
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生体分子イメージングの手法を用いて,これまでの分子論的生命科学をシステムへと展開することが可能であり,病態の分子医学的把握とその情報を有効に用いた薬効評価,また従来の血中動態だけでない標的細胞・分子への薬物動態を捉えることができる。特に,動物を対象として創薬基礎研究を行っていると離れがちな「ヒトに対しての創薬」を行っていくために欠くことのできない方法である。近年,世界的に分子イメージングに対する取り組みは急速に進められており,この領域でもわが国の強みを活かした統合的なプログラムを国策として推進することが必須である。この期において,効率よい標識化合物の合成法を開発し,低分子化合物のみならず,抗体医薬,核酸医薬,ひいてはゲノム創薬につながるEBMのために,高分子物質にまで分子プローブレパートリーを広げ,ほとんどの分子を生体で追跡できるプラットフォームを構築していくことが重要である。
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2) |
マイクロドーズ臨床試験
(池田敏彦) |
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医薬品開発過程での障害の1つは動物種差であり,実験動物で確認された薬効が臨床試験で認められず,あるいは予期せぬ毒性が発現して開発が失敗する事例が多い。それゆえ,開発候補化合物にはヒトで良好な薬物動態や薬効を示すと想定される化合物を選択すべきであると考えられてきている。この目的のために極微量の化合物(典型的には100µg)をヒトに投与し,薬物動態を確認する探索的な臨床試験がマイクロドーズ臨床試験として重要視されている。PETによるイメージングの多くはマイクロドーズ臨床試験の範疇に入る。
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3) |
動物PETによる薬理作用・治療効果の前臨床評価
(塚田秀夫) |
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多くの時間と開発費用を要する医薬品開発の効率化のため,PETの特性を利用する試みが国内においてもここ数年広がりを見せてきた。開発候補化合物をポジトロン核種で標識し,生体に投与して動態・分布・代謝を観察するだけでなく,疾患関連の生体内分子ターゲットに共通に結合するPETプローブとの相互作用を計測して,作用部位での占有率とその経時変化を計測することが可能となり,より少ない副作用でより高い効果を示す用量設定も可能となると期待される。本稿では,われわれの前臨床評価段階における動物PETの応用例について述べる。
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薬物トランスポーターのイメージング
(楠原洋之) |
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薬物トランスポーターは医薬品の細胞膜透過を制御する膜タンパクであり,医薬品の組織分布や,胆汁・尿中への排泄,消化管吸収を制御している。薬物間相互作用のメカニズム解析やトランスポーター遺伝子の多型による機能変動の評価,またin vitro 実験系からの体内動態予測法を構築するためには,個体レベルでのトランスポーター機能の評価が必要不可欠であり,分子イメージング技術を用いて組織中濃度の評価が必須となる。本稿では,分子イメージング技術を用いた体内動態評価法として,血液脳関門で関門機構として働くトランスポーターの機能評価や,肝胆系輸送における素過程の評価法を紹介する。
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