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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−皮膚科編 4 |
シリーズ企画 |
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特集: |
成人学習理論から学ぶ臨床遺伝教育のこれから |
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巻頭言:「成人学習理論から学ぶ臨床遺伝教育のこれから」特集にあたって
(蒔田芳男) |
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1. |
【総説】
今さら聞けない「成人教育理論」って何?
−なぜ,日本の成人教育はうまくいかないのか−
(蒔田芳男) |
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本稿では,大学改革の必要性を通じて現在の日本の成人教育の問題点を歴史的に考察し,大学改革が進まない原因について,現在の教員の持つ問題点について検討を行った。また,この現状を打開するために,今こそ教員が「成人教育理論」を学ぶべき事由について考察した。「成人教育理論」について,教育学における子ども教育学(pedagogy)と成人教育学(andragogy)の違いに基づき必要な概念の整理を行った。
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2. |
【現状認識】 医学教育モデル・コア・カリキュラムのこれから
(山脇正永) |
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医学教育モデル・コア・カリキュラムは平成13(2001)年にわが国で初めて制定されて以来,大学のカリキュラムを規定するだけでなく,共用試験,国家試験,医師臨床研修にまで影響が及ぶものとなっている。医学医療の進歩に伴い,これまで3回の改訂が行われており,医学教育モデル・コア・カリキュラムが医学教育の向上に資するデータも蓄積されつつある。今後も医学医療のさらなる発展に伴い,医学教育モデル・コア・カリキュラムの不断の見直しとその教育改善効果の評価が期待される。
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3. |
【到達目標】 臨床研修の到達目標は2020年度からなぜこのように変わったのか
(野村英樹) |
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医師臨床研修制度は,4回目の見直し結果が2020年度初めに反映されたが,これによって2004年の制度開始以降初めて,到達目標の変更が実施された。その特徴は,従来の「臨床研修の基本理念」を堅持したうえで,
A 医師としての基本的価値観(プロフェッショナリズム) 4領域
B 資質・能力 9領域
C 基本的診療業務 4領域
の3層構造を採ったことである。3者相互の関係を理解して指導にあたることが重要であるが,このような目標設定のあり方は,医師養成上の他のステージ(専門研修を含む)においても今後参考になると思われる。
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4. |
【卒前遺伝医学教育の現状】 平成28年度改訂医学教育モデル・コア・カリキュラムに盛り込まれた遺伝医学・ゲノム医学の概要
(櫻井晃洋) |
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医療の中でゲノム情報を扱う機会が加速度的に増え,卒前教育においても臨床遺伝学に関する教育の重要性が高まってきた。わが国では医学部卒前教育の内容は医学教育モデル・コア・カリキュラム(コアカリ)にまとめられているが,以前のコアカリでは臨床遺伝学の内容は不十分であった。これに対して関連学会による努力が続けられ,平成28年度(2016年度)の改訂時にこうした内容が盛り込まれることになった。遺伝医療は今後も,その内容も領域も間断なく進展していく。卒前教育においては臨床遺伝学についての知識以上に,将来の医療者として,この領域について学び続けていくことの意義と必要性について気づき,自ら学ぶ姿勢を身につけるような教育が必要である。
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5. |
【到達目標】実践例として,教育目標の立て方 臨床遺伝専門医の新しい行動目標はどのようにしてつくられたのか?
(三宅秀彦・蒔田芳男) |
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臨床遺伝専門医は,日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会が共同で認定する学会認定専門医であり,2002年に臨床遺伝専門医制度が開始された。初版の到達目標は,2001年に制定され,2006年に一部改訂された。そして,到達目標が遺伝医療/ゲノム医療の進歩と乖離してきたこと,そして専門医を取り巻く環境変化から,新しい行動目標から,新しい行動目標を策定する運びとなった。今回の目標策定は,ワークショップの実施,パブリックコメントの集約などを経てなされた。実際の行動目標は臨床遺伝専門医ホームページに掲載されているので,ご確認いただきたい。
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6. |
【学習方略】(学習準備性) 学習準備性に配慮したGCRP研修会2019中京での取り組み
(井本逸勢) |
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臨床遺伝における遺伝カウンセリング(GC)の技術と態度をロールプレイ(RP)を通じて学ぶ場として,全国の会場で共通の事例と教材を用いて行われるGCRP研修会が開始されて7年になる。2019年度に名古屋において実施されたGCRP研修会(GCRP2019中京)においては,自己学習マニュアルを事前に配布し,経験や知識に差のある医師・医療者である参加者が,自己の不足領域を意識した事前学習を行うことで,RP当日には自己決定した課題の解決に取り組み新たなGC技術や能力の習得に至ることができるよう,学習準備性(レディネス)に配慮した。十分な効果の検証は行えていないが,今後さらにブラッシュアップすることで,成人学習理論に基づく臨床遺伝教育の一つの方法として確立できる可能性がある。
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7. |
【学習方略】(学習方向性)
エクソーム時代におけるウェブリテラシー向上のための動画教材(統合TV)の活用と自己到達度判定システムによる遺伝教育プログラムの構築
(小野浩雅・井本逸勢) |
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日本人類遺伝学会では,エクソーム時代に求められるウェブリテラシーの向上を目的として,2020年度から臨床遺伝専門医や専攻医に対するウェブを活用した教育ツールの立ち上げとともに,臨床遺伝専門医の行動目標に沿ったセルフアセスメントツールの作成について検討を始めている。その中で,ライフサイエンス統合データベースセンターの「統合TV」で公開されている動画教材を活用した協働が進められている。本稿では,統合TVの紹介と,臨床遺伝専門医に必要なウェブリテラシーを習得するための成人教育システムの開発の概要について紹介する。
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8. |
【評価】パフォーマンス評価のための新しい方法
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1) |
ルーブリック評価概論
(岩﨑直子) |
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ルーブリックは学修評価法の一種であり,1980年代に米国で開発された。筆記試験では評価が困難であったパフォーマンスなどの評価法として医学分野のみならず様々な教育分野で採用されている。医学教育においては到達目標が明示され,医学生の技能と態度のパフォーマンス評価はOSCE(objective structured clinical examination)によって行われている。OSCEの評価にはルーブリックが用いられる。OSCEの評価項目は学修到達目標と対応しており,評価項目ごとに評価尺度の基準が示されている。ルーブリックには様々なタイプがあり,目的に応じて評価者が自由に作成することができる。
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2) |
専門医育成に関する日本小児科学会の取り組み
−臨床現場でのパフォーマンス評価−
(西屋克己) |
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専攻医が修得すべき能力は医学的知識や技能だけではなく,態度や人間性,プロフェッショナリズムなど多岐にわたっている。日本小児科学会では,アウトカム基盤型教育に基づき,五つの小児科専門医の医師像をアウトカムとする小児科新専門医研修を2017年より実施している。アウトカムを適切に評価するために専門医試験だけでなく,専攻医のパフォーマンスを評価する臨床現場における評価を実施している。本稿では専攻医の臨床現場における評価について,その背景と目的,評価内容と方法について解説し,今後の課題について検討していく。
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がんゲノム
(加藤元博) |
がん細胞には点変異や構造異常,コピー数異常やアレル不均衡などの複雑なゲノム異常が生じており,遺伝子の機能の過剰な活性化や不活性化をもたらすことで細胞の増殖優位性を獲得させ,発がんに至る。次世代シークエンサーを中心としたゲノム解析技術の革新的な進歩により,がんのゲノム基盤の理解が加速度的に深まり,診療にも直接的に利用されるようになっている。一方で,遺伝的な背景が想定よりも多い頻度で関与していることにも注意が必要である。
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核膜孔を介した分子輸送機構の構造的理解
(吉村成弘) |
細胞質と核質とは核膜で隔てられており,それらの間の物質輸送は,核膜に存在する核膜孔複合体を介して行われる。核膜孔は外径100 nmほどの巨大なタンパク質複合体であり,その中心孔は疎水性非構造タンパク質が密集した「選択的バリア」として機能している。この疎水性バリアの通り抜けやすさは,分子の大きさと表面疎水性の二つの要因で決まる。インポーティンなどの核輸送因子と呼ばれるタンパク質群は,柔軟な両親媒性立体構造をもっており,分子の大きさにもかかわらず疎水性バリアをうまく通過することができる。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
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Coffin-Siris症候群とBAF複合体
(岡本伸彦) |
Coffin-Siris症候群(CSS)は,知的障害,特異顔貌,爪低形成,脳梁低形成や多毛などの多彩な臨床所見を特徴とする先天異常症候群である。クロマチンリモデリング因子であるBAF複合体を構成する因子をコードする遺伝子群の変異が病因である。最初にSMARCB1,SMARCA4,SMARCE1,ARID1A,ARID1B 遺伝子変異が同定された。その後,SOX11 など新しい責任遺伝子が報告されている。典型例でない先天異常症候群や知的障害の中にも変異が同定されている。また腫瘍細胞において,これらの遺伝子の体細胞変異が同定され,CSSで腫瘍を併発する例も知られる。本症候群の研究はBAF複合体の機能について重要な知見を与えている。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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Charcot-Marie-Tooth病
(中川正法) |
Charcot-Marie-Tooth 病(CMT)は,1886年にJ-M Charcot,P Marie,HH Toothの3人によって報告された最も頻度の高い遺伝子異常が関与したニューロパチーであり,アミロイドニューロパチーなどを除く「遺伝子異常が原因の末梢神経疾患」の総称と言える。典型的には,凹足,鶏歩,下肢遠位部優位の筋萎縮・感覚障害,腱反射の消失,手指振戦などの症状を示す。平成27(2015)年1月より指定難病となった。CMT関連の原因遺伝子は120種類以上が特定されている。CMTの治療に関する新たな試みが始まっている。
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● Lecture
〈臨床遺伝学・人類遺伝学誌上講義〉 |
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エピゲノム
(副島英伸) |
エピゲノムは,ゲノムのエピジェネティックな情報(DNAメチル化とヒストン修飾)の総体のことを指す。受精卵から発生した個体の細胞は同じゲノム配列をもっているが,それぞれの細胞がもつ特有のエピゲノムにしたがって遺伝子発現を調節することで細胞ごとの特性を維持している。一方でゲノムには,DNAメチル化酵素,ヒストン修飾酵素,クロマチンリモデリング因子などのエピゲノム修飾因子の遺伝子がコードされている。つまり,ゲノムとエピゲノムは表裏一体の関係であるといえよう。本稿では,エピゲノムの基本原理と関連する代表的な生命現象およびヒト疾患について解説する。
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親水性メタボローム解析
(平山明由) |
試料中に含まれる低分子化合物の網羅的な測定を意味するメタボローム解析は,医学,薬学,食品,環境などをはじめとする様々な分野で利用されている。水になじみやすい性質をもつ親水性代謝物は,その化学的性質も多岐にわたるため,適切な前処理と分析法の選択が重要である。本稿では,メタボローム解析でよく測定される臓器,培養細胞,血液サンプルについて,親水性代謝物を抽出するための前処理方法の一例を示すとともに,親水性代謝物のメタボローム解析によく用いられている分析法について,その概要を紹介する。
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CRISPR/Cas9
(高田修治) |
ゲノム編集は,任意の塩基配列を認識する制限酵素を用いてゲノムの標的座位に二本鎖切断を誘導し,その切断点が細胞核内の活性である非相同末端結合により連結される際にエラーが生じることで変異を誘導する方法である。二本鎖切断点は,非相同末端結合以外に相同組換えによっても修復され,相同組換えを利用することで,任意の配列をゲノムに挿入することが可能になる。生きた細胞のゲノムDNAを高精度かつ迅速,安価に改変できることから一気に普及した。本稿では,ゲノム編集の原理とツール,応用法として塩基編集,エピゲノム編集,プライム編集について概説する。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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がん診療における遺伝カウンセリングについて考える
(金子景香・新川裕美・中島 健) |
がん診療において,治療選択や遺伝性腫瘍診断を目的とした遺伝学的検査や関連する検査が普及してきている。それに伴い,各診療科や各部門において,患者と話すときに「がんと遺伝」に関する話題が取り上げられる機会も増加している。遺伝性腫瘍の専門家が行う遺伝カウンセリングだけでなく,様々な職種によるそれぞれの立場を活かした遺伝性腫瘍への関わり方が必要であり,さらに当事者の主体性を重んじた支援がめざされる。頻度の高い場面を取り上げて当院の取り組み方について紹介したい。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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いろんな分野の遺伝カウンセリングといろんな認定遺伝カウンセラー®と働く日常
(黄瀬恵美子) |
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骨形成不全症協会(ネットワークOI)について
(河村進吾) |
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● Statistical Genetics
〈遺伝統計学の基礎〉 (11) |
シリーズ企画 |
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混合線形モデルによる量的形質に対する全ゲノム関連解析
①基礎とfastGWA
(小井土 大・鎌谷洋一郎) |
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「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を理解するために
(吉田雅幸) |
臨床研究およびゲノム研究の実施にあたっては,倫理指針・ガイドラインに則って進めることが求められている。わが国における倫理指針である,「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」および「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」が統合され,「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」となり,今年(2021年)6月30日から施行された。本稿では,この新しい倫理指針の特徴について,これまでの日本における倫理指針の変遷を振り返りながら解説する。
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に関連する研究〉 |
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嗅覚受容体遺伝子の進化
(新村芳人) |
匂いの受容の最初のステップは,匂い分子が鼻腔の嗅上皮で発現している嗅覚受容体に結合することである。環境中の多様な匂い分子に対応するため,嗅覚受容体遺伝子は非常に数が多く,ヒトて?約400個,アフリカゾウでは約2000個に及ぶ。哺乳類は多様な環境に適応しており,それぞれの生物のもつ嗅覚受容体遺伝子のレパートリーは,それそ?れの生物の生活環境に応じて進化してきた。
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● 編集後記 |
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