|
内容目次 |
|
● |
序文:古くて新しいdrug徐放技術が,今,熱い。 (田畑泰彦) |
|
 |
● |
はじめに:Drug徐放化技術の守備範囲は広い (田畑泰彦) |
|
|
|
|
|
|
1) |
合成高分子(吸収性)
(大矢裕一) |
|
|
生体内で分解される高分子(生体内分解性高分子)の中でも分解物が生体内で吸収(代謝・排泄)されるものは 「生体吸収性高分子」 と呼ばれている。生体吸収性高分子は体内に投与・埋入されても,やがて消滅し残留・蓄積を生じないので,スローリリースやターゲティングを目的とした薬剤担体として望まれる性質を多く有している。本稿では,代表的な生体吸収性合成高分子について,その化学構造と分解特性,合成方法などを紹介する。
|
|
|
2) |
合成高分子(非吸収性)
(竹本友紀恵・網代広治・明石 満) |
|
|
非吸収性合成高分子の薬物放出について,殺虫剤などの日用品,経皮吸収製剤などの医用材料の実用例から高分子合成の研究例までを概説する。薬物担持の役割を果たす高分子は,それぞれの徐放を制御するために,ゲルや樹脂,あるいはナノ粒子やカプセルというように放出期間に応じて形態を工夫する必要がある。ここでは,使用されうる高分子材料を化学構造によって分類し,特にビニルモノマーに着目して,それぞれの特徴を述べるとともに,それらの特性を活かした応用例および研究例を示す。
|
|
|
3) |
天然高分子(タンパク質)
(田畑泰彦) |
|
|
生体を構成する主要な成分の1つがタンパク質であり,細胞においては乾燥重量の約半分を占めている。化学的には種々のアミノ酸がペプチド結合(アミド結合)で連なるポリペプチドであるが,体内では多様な機能を担っている。それらの機能を直接薬として利用しているのみならず,タンパク質は薬と組み合わされ,薬の徐放化,薬の安定性の向上,吸収促進,およびターゲティングなどのDDS用材料としても使用されている。本稿では,タンパク質のもつ多様な機能とその臨床応用について概観する。加えて,徐放化担体としてのタンパク質の役割と今後の研究の方向性について述べる。
|
|
|
4) |
天然高分子(多糖)
(城 潤一郎・田畑泰彦) |
|
|
多糖は,タンパク質,核酸,脂質と並び,生体を構成している天然高分子である。比較的大量に得ることが可能なため,多糖は古くから医薬品添加物,医用材料,食品,衣料品,紙など,広い分野を支える天然素材として利用されてきた。本稿では,まず多糖の基礎と生物医学研究および医療応用について概説し,続いて 「徐放材料」 としての多糖について,その研究動向を解説する。
|
|
|
|
1) |
超分子ハイドロゲル
(吉井達之・黒谷和哉・濱地 格) |
|
|
「ゲル化剤」 と呼ばれる低分子化合物が水中で階層的に自己集合することによって形成する 「超分子ハイドロゲル」 は一分子レベルでの設計次第で多彩な機能を発揮できるユニークなソフトマテリアルである。超分子ハイドロゲルはナノ構造体への物質の取り込みや,迅速な刺激応答性などの高分子ゲルにはないユニークな性質をもち,DDSを含む医療・診断の幅広い分野において可能性をもったバイオマテリアルとなると期待される。
|
|
|
2) |
リピッド ナノパーティクル / リピッド マイクロパーティクル
(西浦昭雄) |
|
|
薬剤の徐放性担体としてはリポソームやポリマー粒子が注目され,これらの技術を利用した製品も上市されてきた。一方,リピッドと界面活性剤からなるリピッド ナノパーティクル/マイクロパーティクルは生体適合性に優れ薬剤の放出制御も可能で,構成成分は安価で製造方法も比較的簡単であることから将来的に有用な薬剤の徐放性担体になりうる可能性がある。ここではリピッド ナノパーティクルヘの薬剤封入・薬剤放出メカニズムおよびその調製方法について概説するとともにリピッド マイクロパーティクルの一種であるリポスフェアについて,われわれの実験結果を紹介する。
|
|
3. |
鉱物・無機質
(山口葉子) |
|
創薬研究が精力的に行われている中,実用化の橋渡しとして必要なDDS技術として代表的な技術は,リポソーム,高分子ミセルや生分解性ポリマーなどが挙げられる。これらはすでに臨床応用や治験に入っており,現在注目の技術である。しかし,これら技術をさらに進化させ,よりDDS機能を高める新しい技術が求められているのも実情である。われわれは,DDSのための新しい素材として無機質を利用し有効な結果を得ている。本稿では,無機質を利用したDDS技術の紹介とともに,われわれの開発した経皮吸収ナノカプセル 「ナノエッグ®」 を紹介する。現在,化粧品や院内処方薬として実用化されている。
|
|
4. |
金属
(樋口ゆり子) |
|
金属を利用した薬物の放出制御技術として,すでに臨床でも応用されているのが金属ステント(bare metal stent:BMS)にポリマーと薬剤をコーティングされた薬剤溶出性ステント(drug eluting stent:DES)である。本稿では,これらの従来技術に加え,ナノテクノロジーを駆使した金属ナノ粒子,磁性ナノ粒子や,新規金属性素材であるカーボンナノチューブを利用した,金属特有の性質と外部刺激との組み合わせによる新規drug delivery system(DDS)技術について紹介する。
|
|
|
|
|
1) |
ポリ乳酸およびグリコール酸共重合体による徐放
(岡田弘晃) |
|
|
徐放性DDS技術は,薬理効果の増強,副作用の軽減,コンプライアンスやアドヒアランスの向上を目的として応用されるが,ポリ乳酸(PLA)およびグリコール酸との共重合体(PLGA)は,生体適合性の高い徐放性基剤として最も多くの研究がなされてきた。本稿では,近年多くの製剤が開発されている統合失調度の低分子治療薬の徐放性注射剤に加え,アルコール依存度治療薬,およびペプチド性医薬品,さらには機能性オリゴ核酸siRNAについて本基剤を用いた徐放性注射剤による創薬について紹介する。
|
|
|
2) |
高分子ミセルにおける薬物封入・放出制御
(横山昌幸) |
|
|
高分子ミセル薬物ターゲティングシステムにおける薬物封入と放出制御について解説する。一般に高分子ミセルシステムでは,そのターゲティング機能のみ議論されることが多いが,薬物のコントロールドリリースが極めて重要な側面であることを述べ,コントロールドリリースに影響する物理的・化学的要因を,研究例を挙げて説明する。
|
|
|
3) |
ハイドロゲル
(齊藤高志・田畑泰彦) |
|
|
ハイドロゲルは,生体内分解性や生体適合性に優れているものが多い。また,その構成高分子の種類を変えることによって,酵素や,体内環境,刺激に応答するハイドロゲルが作製可能であり,そのデザインを最適化することによって高い薬物封入効率および薬物放出制御が達成できる。加えて,目的部位に薬物を到達させるために形状を変えることが容易である。本稿では,低分子薬物徐放のためのハイドロゲルの観点からその特性について概説し,低分子薬物とハイドロゲルを組み合わせた低分子薬物の徐放の方法とそれを用いた治療法・効果について紹介する。
|
|
|
4) |
リポソーム
(丸山一雄・小田雄介・小俣大樹・澤口能一・直井智幸・鈴木 亮) |
|
|
PEG-リポソームの血中滞留性,細網内皮系(RES)回避について検討したところ,血中滞留時間の延長およびRESへの取り込みの低下が認められた。PEG-リポソームにアクティブターゲティング分子を付与する場合,F(ab')2化した抗体などFc部分をもたない抗体を修飾するなどの工夫が重要である。
リポソームからの薬物放出を厳密にコントロールできる製剤はいまだ確立されていない。なぜなら,標的部位にターゲティングするためには,標的部位以外で薬物が放出しない製剤設計が必要とされており,一方で標的部位に到達した薬物は放出され,標的細胞に作用する必要があるからである。このように標的部位以外では安定で,標的部位に到達後は薬物を放出するという一見矛盾したような製剤設計が必要となる。そこで注目されているのが,熱や超音波などの外部刺激を利用したDDSである。
|
|
|
5) |
高分子型ベシクルを用いた新しいDDS材料創製:ピクソーム(PICsome)を中心に
(岸村顕広) |
|
|
最近,脂質などの低分子ではなく,合成高分子から作るベシクル 「ポリマーソーム」 の開発が進んでいる。ポリマーソームの多くが,両親媒性のブロック共重合体から作製されるが,リポソームの特徴に加えて,堅牢性,生体適合性や生体吸収性などのポリマーならではの機能をもたせることができる。一方で,両親媒性高分子を用いず,全く異なる形成原理に基づき作製する高分子ベシクルが 「ピクソーム(PICsome)」 である。PICsomeは,静電相互作用に基づくポリイオンコンプレックス (PIC) 形成を利用したベシクルであり,正・負の反対荷電を有するポリマーの水溶液を混ぜ合わせるだけという極めて簡便な手法で得ることができる。また,PICsomeはサイズや安定性が容易に制御できるほか,特有の物質透通性を示し,新規DDSキャリアとして非常に有用である。
|
|
|
|
1) |
シリコーンからの薬物放出
(岩田清和・永原俊治) |
|
|
生体適合性高分子であるシリコーンを薬物担体とするDDS技術は,生体内において年単位に及ぶ安定な薬物持続放出を可能とする。われわれはこれまでシリコーンDDS製剤に関する基礎的データ・知識を蓄積し,シリコーンや薬物の科学的理解に基づいて多数の技術を開発してきた。例えば,脂溶性薬物に加えて高分子薬物,水溶性低分子薬物など幅広い薬物を対象として長期間の徐放を達成し,また臨床での使用を想定したより精密な放出制御技術を確立してきた。シリコーンを薬物担体とする概念は古くから存在するものであるが,汎用性の高い実用的な技術へと着実に進歩を続けており,医療の変化とも相まって,その応用範囲は広がりつつある。正に古くて新しいと呼ぶに相応しい本技術の進歩について概説する。
|
|
|
2) |
ハイドロゲルを用いた遺伝子徐放技術
(櫛引俊宏) |
|
|
ハイドロゲルは,高分子鎖が物理的あるいは化学的に架橋して,水に不溶である三次元ネットワークを形成し,水で膨潤させたソフトマテリアルである。ハイドロゲルを構成する高分子材料の物理的あるいは化学的性質やそれら高分子鎖を修飾することにより,ハイドロゲル自体にも様々な性質を付加することができ,ドラッグデリバリーシステム(DDS)だけでなく,再生医療をはじめとする先端的医療や細胞培養などの基礎生物研究に用いる材料として期待されている。本稿では,高分子薬物の中でもDNAやRNAといった遺伝子を薬物として対象とし,遺伝子治療のためのDNAまたはRNA徐放化技術について記述する。
|
|
|
3) |
ナノゲル基盤材料によるタンパク質医薬の徐放技術とその応用
(田原義朗・秋吉一成) |
|
|
ナノテクノロジーによって生まれた多くの魅力的なマテリアルが,ドラッグデリバリーシステムや再生医療の分野において新しい薬物キャリアとして利用されている。これらのキャリアに求められる重要な性質の1つが,キャリアからの適切な薬物の徐放性である。高分子が架橋されて形成されるナノサイズのゲル(ナノゲル)は,タンパク質医薬を封入かつ適切に徐放可能なインテリジェントなマテリアルとして近年注目されている。本稿ではナノゲルによるタンパク質の徐放技術に注目し,実際のドラッグデリバリーシステムや再生医療への応用例について紹介する。
|
|
|
4) |
DNAハイドロゲル
(西川元也・高橋有己・高倉喜信) |
|
|
デオキシヌクレオチドがリン酸ジエステル結合により連結したDNAは,塩基部分での水素結合を介して相補的なDNAと二重らせん構造を形成する。この構造的特徴を巧みに利用することで様々な構造体を構築可能であることが明らかとなり,「DNAナノテクノロジー」 と呼ばれる分野として急速に発展しつつある。本稿では,DNAナノテクノロジーを利用して形成可能なDNAハイドロゲルについて,その構成ユニットである多足型DNA構造体(polypodna)の特徴やハイドロゲルとしての機能,DDSとしての応用例を紹介する。
|
|
|
|
1) |
細胞と細胞増殖因子を用いた難治性皮膚潰瘍治療
(桐木-市川園子・宮本正章) |
|
|
糖尿病や閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans:ASO)に起因する難治性足潰瘍・壊疸患者から下肢大切断に至る患者は増加の一途である。また膠原病の合併症として出現する皮膚潰瘍も治療抵抗性であることが多い。これら末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)による難治性慢性皮膚潰瘍・壊疸は血流改善,感染制御,創傷治癒を総合的に治療していくことが必要である。当施設では,他院で下肢大切断ほか治療法がないと言われた患者に自己骨髄幹細胞浸透人工真皮,DDS(drug delivery system)徐放化細胞増殖因子(b-FGF)による血管新生療法および浸透人工真皮による組織再生法を行い,良好な治療効果を得ている。本稿で治療の実際と症例を紹介する。
|
|
|
2) |
血管
(丸井 晃・坂田隆造) |
|
|
虚血性心疾患や重症下肢虚血に対し,遺伝子導入や細胞移植による血管新生療法が行われているが,現時点では有用性が十分に証明されておらず,確立された治療法には至っていない。われわれは血管新生療法の新たな方策として,生体材料であるゼラチンハイドロゲルをDDSに応用した。塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)徐放化ゼラチンハイドロゲルは臨床試験で安全かつ優れた血管新生効果を示しており,手技も簡便で低コストであった。現在,高度医療評価制度などの医療制度の利用や,企業との連携を強化し,将来的な製品化や保険診療化をめざしてプロジェクトを進めている。
|
|
|
3) |
脂肪組織
(木村 祐・田畑泰彦) |
|
|
脂肪組織は生体内で力学的刺激を緩和する緩衝材の役割,および外見的な形体要素(輪郭など)の構築に重要な役割を果たしており,熱傷や腫瘍組織切除部位などに対して古くから再建が求められている。このため,必要部位に必要量の脂肪組織を再建・再生することは大きな意味をもつ。一方,生体組織工学的手法を用いた自己細胞による脂肪組織の再生あるいは自家脂肪組織移植において,生体シグナル因子の徐放は細胞の増殖,遊走や分化,加えて血管新生に大きな意味をもつことが明らかになってきた。近年行われている様々なアプローチも含め,脂肪組織再生の現状について紹介する。
|
|
|
4) |
声帯内自家脂肪注入療法への応用
(田村悦代) |
|
|
声帯内注入療法は,術後の反回神経麻痺などによる嗄声の改善を目的として,広く行われているリハビリテーション手術である。最近では,安全性の点から自家脂肪組織を用いることが多くなってきたが,注入後に起こる脂肪組織の吸収などにより効果の持続期間が一定でないことが本方法の短所である。
そこで,注入後の脂肪組織の減量を防止,あるいは脂肪細胞再生を目的として,細胞増殖因子である塩基性線維芽細胞増殖因子を徐放することにより,注入した脂肪組織の容量増加効果の持続が期待できる。
|
|
|
5) |
顔面神経の再生治療
(羽藤直人) |
|
|
顔面神経減荷手術は麻痺悪化予防を目的とし,すでに完全変性に陥った症例に対する適応はこれまで疑問視されてきた。著者らは,顔面神経へ神経栄養因子を直接投与するための手段として減荷手術を見直し,モルモットを用いた基礎研究で,生体吸収性ゼラチンハイドロゲルを用いたbFGFの徐放局所投与が,良好な神経再生促進効果をもつことを確認した。顔面神経麻痺の代表的疾患であるBell麻痺に対し,倫理委員会の承認を経て,その臨床応用を行った。再生促進を目的とした顔面神軽減荷手術を行った20例では,従来法の減荷術に比べ麻痺の回復が良好であった。麻痺発症後2週以上経過しても有効であった本治療は,今後さらなる臨床での展開が期待される。
|
|
|
6) |
ゼラチンハイドロゲルを用いた鼓膜再生治療
(白馬伸洋) |
|
|
鼓膜の一部が欠損する穿孔性中耳炎は,穿孔により音の伝導が悪くなり難聴が生じる。われわれは従来から,線維芽細胞増殖因子のbasic fibroblast growth factor(bFGF)製剤を用いて鼓膜を再生させて穿孔を閉鎖させる鼓膜再生治療に取り組んできた。今回,bFGF製剤の鼓膜穿孔部における局所徐放の有用性を検討するために,ゼラチンハイドロゲルを用いてbFGF製剤を徐放させる方法を考案し,臨床応用に向けて動物モデルを用いた研究を行ったので紹介する。
|
|
|
7) |
ドラッグデリバリーシステム(DDS)による骨再生
(黒田良祐) |
|
|
骨には高い自己治癒能力があると言われているが,巨大な骨欠損や治癒機転の失われた難治性骨折ではその治療に難渋する。徐放化ドラッグデリバリーシステム(DDS)機能を有するゼラチンハイドロゲルは適切な生物活性物質の局所での徐放を可能にすることで血管新生が促進し,骨分化に関与する未分化細胞をリクルートする。さらにリクルートされた細胞は骨形成能力をもつ物質を生産するというパラクライン効果が生まれる。徐放化DDS機能を有するゼラチンハイドロゲルは骨再生において有効な足場材料の1つである。
|
|
|
8) |
b-FGF徐放システムを導入した軟骨移植法
(伊谷善仁・中尾仁美・磯貝典孝) |
|
|
形成外科領域において,軟骨移植は様々な再建術で用いられている。採取する軟骨は耳介軟骨や肋軟骨などが一般的であり,当然採取できる量には限界がある。採取できる軟骨を最大限利用し,大きな効果を出すことができるよう常に取り組んでいるが,十分に満足のいく治療法は存在しなかった。犠牲を最大限少なくし,組織を再建することが理想的な再建方法である。そこで本稿ではb-FGFの徐放システムを導入し,軟骨片を量的に増殖する可能性について大動物で検討したので,これらについて述べる。
|
|
|
9) |
歯周組織再生のための成長因子とDDS
(松野智宣) |
|
|
歯周病におけるDDSは炎症制御の抗菌薬と歯周組織再生のための成長因子に用いられる。成長因子による再生療法は,すでに2000年前後からEMDをはじめ,PRP,PDGF-BB,FGF-2などが臨床に用いられている。これら成長因子のDDSキャリアは,これまでコラーゲンやゼラチンなど天然高分子のゲル,あるいは多孔性セラミクスが主流であった。しかし近年,組織再生誘導法に用いられてきたバリアメンブレンに様々な機能が付与されるようになってきた。今後,DDS機能のインターフェイスを兼ね備えた多機能なメンブレンによる歯周組織再生に注目したい。
|
|
|
10) |
聴神経
(坂本隆則・中川隆之・伊藤壽一) |
|
|
聴神経(ラセン神経節細胞)の再生をめざして,幹細胞の移植が試みられている。Wnt1やBDNFは移植細胞の分化誘導,生前の改善などの効果があり,この投与の際にゼラチンハイドロゲルによる徐放が用いられている。また,再生ラセン神経節において,あるいは内在性のラセン神経節細胞の神経突起の伸長やシナプスの形成について,BDNF,NT-3をはじめ,いくつかの分子が効果をもつことが知られており,これらを徐放する新しい人工内耳電極の開発や,遺伝子治療による併用などが試みられている。
|
|
|
11) |
細胞移植(膵島など)
(角 昭一郎) |
|
|
酸性ゼラチンハイドロゲルなどによる塩基性線維芽細胞増殖因子の徐放化技術を用いて皮下に血管新生を誘導して膵島あるいはカプセル化膵島を移植する糖尿病治療実験では,無処置の皮下組織への移植では短期間あるいは不十分な効果に止まったが,血管新生を誘導した場合は有意に良好な治療効果が得られた。皮下に血管新生を誘導して細胞移植部位とする方法は,各種の問題を有する現行の門脈内膵島移植に替わる移植法として有望である。また,類似の方法は肝細胞でも有効との報告があり,各種細胞の低侵襲な移植法として臨床応用に向けたさらなる検討が必要である。
|
|
|
12) |
皮膚の再生
(河合勝也・中村陽子) |
|
|
真皮の再生は,人工真皮を足場とした線維芽細胞増殖因子(bFGF)併用療法により有効性が認められている。しかし,bFGFは連日投与が必要であるため,ドラッグデリバリーシステム(DDS)によりbFGFを徐放できれば治療期間の短縮とともに患者の負担も軽減される。われわれはゼラチンをDDSの担体として人工真皮に組み込んだbFGF徐放性人工真皮を開発した。医師主導型臨床治験を行い,臨床での有効性を確認している。
表皮の再生は,ゼラチンをシート状に形成することでDDSを応用した創傷被覆材としての使用も可能であり,上皮化促進効果が期待できる。
|
|
|
13) |
獣医療分野
(佐々木直樹) |
|
|
最近,自己の細胞や組織を用いて組織再生するための再生医療研究が進んでいる。軟骨再生においても生体組織工学を用いた関節軟骨再生の基礎研究や臨床応用が報告されている。高等動物では生体側の軟骨と移植した軟骨片間の連続性が十分に形成されない点が問題となっている。現在,これらの点を克服すべく,生体組織工学を導入した再生医療技術を臨床応用している。本稿では,獣医療分野における骨再生ならびに関節軟骨再生の研究成果について述べる。
|
|
|
|
1) |
血管グラフトおよび吻合部へのDDS
(齋木佳克・田林晄一・今野美樹・菅原由美) |
|
|
大血管および中口径の血管疾患に対する外科治療は,人工血管による置換術や自己代替血管によるバイパス術が行われる。周術期,また術後遠隔期における問題点には,吻合部仮性瘤,吻合部狭窄,自己代替血管の劣化・変性による狭窄,さらには閉塞という病態が含まれる。これらの臨床上の問題を解決するために,吸収性素材を足場とする薬剤徐放技術を応用し,自己組織再生促進のための基礎的実験と初期臨床応用を行ってきた。それらの中には,大動脈瘤に対する人工血管置換術において使用される従来の非吸収性テフロン系フェルトに代わる塩基性線維芽細胞増殖因子徐放型吸収性補強材の開発と臨床応用,中口径血管吻合部狭窄予防のためのラパマイシン徐放フィルムの開発が含まれる。
|
|
|
2) |
CD39を用いた次世代型冠動脈ステントの開発
(川田啓之・斎藤能彦) |
|
|
薬剤溶出ステント(DES)が頻用される現在の冠動脈疾患治療において,ステント血栓症とその予防のための長期抗血小板薬治療に伴う出血性副作用が問題となっている。われわれはステント血栓症予防を目的として,ADPを迅速に分解することにより抗血栓作用を発揮するCD39に着目した。CD39遺伝子導入ステントを作製し,ウサギ急性動脈血栓症モデルを用いた検討により,CD39遺伝子導入ステントが抗血小板薬を必要とせずにステント血栓症を抑制しうることを明らかにし,さらに再狭窄抑制作用,抗炎症作用および再内皮化促進作用を発現しうる結果を得た。
|
|
|
3) |
癒着防止
(髙井真司) |
|
|
キマーゼは,肥満細胞が含有する酵素であり,組織が侵襲された部位でのみ肥満細胞から放出され,炎症や線維化形成に関わる因子を活性化する。手術後や炎症部位では臓器間で癒着が形成される場合があり,その形成部位では肥満細胞の集積とキマーゼ活性の増加を認める。キマーゼは,癒着形成と深い関連性があり,キマーゼ阻害薬による癒着予防は機序の面から期待されてきた。キマーゼ阻害薬を含浸させたハイドロゲルは,癒着形成部位でキマーゼ阻害薬を高濃度に徐放することを可能にし,強力な癒着予防を実現した。
|
|
|
4) |
徐放化bFGFによる腸管吻合部創傷治癒促進
(平井健次郎・田畑泰彦・坂井義治) |
|
|
消化器外科手術の重大な術後合併症である縫合不全は今日でも周術期管理上の大きな課題であり,様々な工夫がされているにもかかわらず,いまだ完全には避けられない合併症の1つである。われわれは,血管新生作用を有する塩基性線維芽細胞増殖因子を徐放化できるゼラチンハイドロゲルシートを腸管吻合部に適用し,創傷治癒促進効果を検討した。結果は,縫合不全が好発する手術後早期において,徐放化bFGFにより吻合部の新生血管数,線維芽細胞数が有意に増加し,さらに吻合部強度が増加した。bFGF含浸ゼラチンハイドロゲルシートが縫合不全を軽減できる可能性が示唆された。
|
|
|
5) |
徐放化プロスタグランジンE2(PGE2)誘導体による免疫応答制御の試み
- 自己免疫疾患モデルマウスを用いた基礎的検討 -
(岡本竜弥・上本伸二) |
|
|
再生医療を外科治療へ応用するためには,レシピエント側の自然・適応免疫応答をよりよく制御する手法の開発が望まれる。われわれは,tissue engineeringの技術を応用して免疫関連因子の体内動態を変化させることが,組織障害の抑制・再生を促進すると考え,その可能性を検討した。
本検討では,炎症性メディエーターの1つであるプロスタグランジンE2(PGE2)の免疫抑制効果に注目し,この効果を in vivo において発現させるため,生体内分解性高分子からなるキャリアを用いてPGE2,およびPGE2誘導体の1つであるEP4受容体作動薬ONO-AE2-724の徐放化製剤を作製した。マウス自己免疫疾患病態モデルを用いた検討では,これらの徐放化製剤の前投薬により免疫因性の組織障害が有意に抑制されることが判明し,PGE2およびその誘導体の徐放による免疫応答調節の可能性が示唆された。
|
|
|
6) |
疼痛治療領域における徐放薬作製
(戸部 賢・齋藤 繁) |
|
|
手術後の痛みの制御は合併症を防ぐうえで非常に重要であるが,いまだ十分とは言えない。数日から1週間続く術後痛に対して,局所麻酔薬徐放薬の単回投与で制御する目的で,リドカイン徐放薬作製を開始した。リドカインとポリ乳酸,ポリグリコール酸の重合体でシート状の徐放薬を作製し,ラットの術後痛モデルに投与することで1週間の鎮痛効果ならびに目立った副作用のないことを確認した。また,リドカイン徐放粒子をラット硬膜外腔に投与し,同様に長時間鎮痛効果と毒性のないことを確認した。現在,臨床応用に向けて準備中である。
|
|
|
7) |
抗線維化
(小畑陽子・西野友哉・河野 茂) |
|
|
難治性慢性疾患の1つである線維性疾患は,細胞外基質の過剰産生による臓器の線維化を特徴とし,心臓,肺,腎臓,肝臓などの主要な臓器において重篤な機能障害をもたらすが,いまだ有効な治療法は確立されていない。近年,線維化の再生・修復に関する基礎研究により様々な線維化関連因子が明らかとなり,それらをターゲットとした再生誘導治療が注目されている。そこで本稿では,臓器線維化に対するドラッグデリバリーシステムを応用した再生誘導治療の試みについて報告する。
|
|
|
8) |
ナノDDSステントを用いた血管内治療の臨床への応用
(中野 覚・江頭健輔) |
|
|
現在市販されている薬剤溶出ステントには使用後の重篤な副作用(遅発性血栓症による急性冠症候群発症)が懸念されている。遅発性血栓症は,炎症反応,フィブリンの沈着,再内皮化の遅延に由来することが示唆されている。われわれはすでに電着コーティング技術を用いたナノDDS機能を有するステントプラットフォームの開発に成功した。本稿ではナノDDS機能を有するステントプラットフォームの概略を述べるとともに,ブタ冠動脈モデルでproof of conceptを獲得したスタチン封入ナノ粒子溶出ステントの成績について概略する。
|
|
|
9) |
脳動脈瘤血管内治療
(川上 理・波多野武人・山田圭介・宮本 享・田畑泰彦) |
|
|
現在,脳動脈瘤の治療には白金性コイルが広く使用されている。動脈瘤の血管内腔を物理的にコイルで充填し治療を行うのであるが,コイルそのものが組織反応性に乏しいためコイルの隙間を血栓が十分に埋めることができず,動脈瘤を完全に閉塞できなかったり,経時的な変化でコイルの形状が変化し再開通が起き動脈瘤の再形成(coil compaction)をきたすなど,いくつかの問題点がある。われわれは,動脈瘤内部を細胞・組織成分などで器質化することにより塞栓することができれば理想的な治療と考え,動脈瘤内でbasic fibroblast growth factor(bFGF)を徐放できる塞栓物質の研究開発を行っている。これらの実験を紹介し,脳動脈瘤に対する血管内治療の現状,問題点を述べる。
|
|
|
10) |
体内細胞動員による難病治療法の開発
(金田安史) |
|
|
現在行われている再生治療は,主として体外で培養し分化誘導した細胞を体内に戻す方法が主体である。がん治療においても取り出した免疫細胞に遺伝子を導入して体内に戻す場合が多い。しかし,生体内で治療に必要な細胞を必要な部位に動員することができれば,より生理的に近い状態で細胞を機能させることができ,治療効果も増強できるのではないかと思われる。そのためには,体内細胞動員因子をドラッグデリバリーシステムの利用により細胞内に導入,あるいは組織中に徐放化する必要がある。
|
|
|
11) |
細胞-drugハイブリッド
(城 潤一郎・田畑泰彦) |
|
|
細胞-drugハイブリッドは,細胞とdrugとを組み合わせることにより,両者の特長を活かした医療を可能とする新規医療である。本稿では,細胞-drugハイブリッドに必要な技術および方法論ついて概説する。加えて,細胞-drugハイブリッドの医療応用の現状と具体例について紹介するとともに,細胞-drugハイブリッドの構築における徐放技術の有用性について言及する。
|
|
|
12) |
生理活性物質Dual release
(松井 誠) |
|
|
生理活性物質を徐放することによって,長期間にわたって恒常的に生体に刺激を与えるという研究は古くから盛んに行われているが,その多くは単一の生理活性物質の徐放に関してがほとんどであった。しかし,生体における生理活性物質の応答は複維であり,単一のシグナルで生体活動を制御することは困難な場合が多い。そこで近年では,複数の生理活性物質を組み合わせて徐放する技術が着目されている。本稿では,複数の生理活性物質徐放技術について,これまでの知見を概説するとともに,問題点についても議論したいと思う。
|
|
5. |
診断 診断薬の徐放化
(青木伊知男) |
|
本稿では,前臨床あるいは将来の医療における徐放技術の可能性について整理した。MRI造影剤における徐放技術は,局所徐放型,血管内徐放型,集積性徐放型の3形態を想定し,それぞれの実現可能性,前臨床での研究紹介,および問題点をまとめた。また,X線CT,核医学イメージング(PET/SPECT),超音波イメージングにおける徐放技術に関して,その限界や問題点とともに可能性や萌芽的研究を紹介した。現状において徐放技術が診断の分野には十分に応用されているとは言い難く,積極的に徐放技術を応用することで,安全性を犠牲にせずに新しい診断技術を開拓できる可能性がある。
|
|
|
|
1) |
皮膚を標的とした新規ワクチン製剤「貼るワクチン」の開発
(廣部祥子・岡田直貴・中川晋作) |
|
|
経皮ワクチン,すなわち 「貼るワクチン」 は免疫担当細胞が多数存在する皮膚を標的としており,投与が簡便なだけでなく,高いワクチン効果が期待できる。しかしながら,皮膚には外界と生体を隔てるバリアとなる角質層が存在するため,抗原の皮膚内への送達は容易ではない。そこで筆者らは,2種類の経皮ワクチンデバイス(親水性ゲルパッチ,皮膚内溶解型マイクロニードル)を創製し,その実用化をめざしている。簡便・安全・有効な貼るワクチンは,開発途上国へのワクチン普及を促進するとともに,新興・再興感染症の世界的流行を阻止し,感染症対策に大きく貢献できる。
|
|
|
2) |
drug徐放化による免疫細胞活性化とワクチン効果の増強
(田畑泰彦) |
|
|
マクロファージ(Mφ)など免疫エフェクター細胞を活性化することにより,がんあるいは感染症に対する免疫化学療法が行われている。しかしながら,Mφを活性化するdrug自身の生体内不安定性とその細胞親和性の低さから,有効な免疫エフェクター細胞の活性化は必ずしも期待できない。その解決法の1つとして,Mφに取り込まれやすい高分子材料を利用したdrugのMφへのターゲティングと細胞内でのdrug徐放化に伴うMφの抗がん活性化について紹介する。また抗原をdrugと考えれば,それを徐放することでワクチン効果を増強させることもできる。本稿では,徐放化DDS技術を用いた免疫細胞活性化とワクチン効果の増強について述べる。
|
|
|
3) |
粘膜ワクチン
(仲瀬裕志) |
|
|
粘膜に備わった免疫システムを利用し,粘膜を中心に免疫力を付与する粘膜ワクチンの開発が急ピッチで進んでいる。microspheres(MS)を用いてM細胞の直下に存在する抗原提示細胞を直接標的とした免疫誘導法,センダイウイルスとリボソームのハイブリッド型粒子である膜融合リボソームのタンパクを利用した新規のワクチン,糖鎖α-L-フコースを認識するレクチンであるUEA-1でコートした粒子を用いることによるM細胞への効率のよい抗原送達などの,DDS技術による粘膜免疫システムの応用がワクチン開発に向けて重要である。
|
|
|
1. |
化粧品
(田口浩之) |
|
近年,皮膚に対する様々な効果・効能を狙った化粧品開発が盛んに行われている。化粧品として効果・効能を発現させるためには,安全性や使用感・感触といった化粧品に求められる特性を担保しつつ,有効成分を皮膚中に効果的に送達し,滞留あるいは徐放させる技術が重要となってくる。化粧品有効成分の送達・徐放に用いられる技術としては,経皮吸収促進物質などを用いた製剤化技術,各種リポソームやナノ粒子,マイクロニードルなどの物理学的方法,およびパック化粧品などがあり,これらの技術を応用した最新の成果について概説する。
|
|
2. |
芳香剤の徐放技術
(永友茂美) |
|
芳香剤は安定的に香料を徐放する製品であるが,香料の効果は単なる芳香だけでなく,アロマセラピー効果や疾患の改善や予防効果へと研究が進んできており,その意味でも芳香剤は一種のドラッグデリバリーシステムと見ることができる。ここでは香料の徐放技術を代表的な4種類の揮散メカニズム(ゲル,液体,フィルム,電気)に分け,それぞれの基本構造や特徴を実際に製品化された例とともに紹介する。
|
|
3. |
確実な薬効と投薬の利便性を求めて
(中井正博・藤岡敬治) |
|
動物医療の場合,疾病の治療や予防に動物の所有者(飼い主)が介在する点でヒト医療とは異なる。注射による医療行為では,獣医師は対象動物に直接医薬品を投与できるが,在宅での医薬品の投与は飼い主に委ねられる。この場合,動物に自発的な薬剤の摂取を求めることは難しいため,動物薬には確実な薬効を得るための製剤的工夫も求められる。
犬や猫は動物特有の疾患に対する予防・治療薬の普及などによる高齢化の進展により,ヒト医療と同様に長期の薬物治療を要する疾患が増加していることから,動物医療での取り組みがヒト医療の先駆け的な役割を果たすと考えられる一面もある。
|
|
4. |
細胞研究 (細胞足場,細胞内徐放,遺伝子導入)
(山本雅哉・田畑泰彦) |
|
現在,細胞を対象とした研究(細胞研究)で用いられている実験手法は,細胞生物学や分子生物学における従来の生化学的な方法論に限定されている。一方,材料工学の進歩にともなって,細胞研究で用いられる機能分子を,より効率よく細胞の内外の環境で作用させる技術が開発されつつある。本稿では,細胞研究に応用することができる機能分子の徐放技術について,細胞外環境および細胞内環境に分類して考察する。
|
|
|
1. |
温度
(中山正道) |
|
ある温度を境に,親水性-疎水性,可溶-不溶,構造が変化する温度応答性高分子を用いることで,外部からの温度刺激により構造・機能変化を生起させ,封入した薬物の放出制御を実現するインテリジェント型DDSを構築できる。本稿では,温度応答性システムの構成成分として,DDS分野で広く利用されている下限臨界溶液温度を有する温度応答性高分子の特性について概説する。次に温度の違いにより薬物放出を制御するハイドロゲルや,効率的ながん治療を目的とした温度応答性薬物キャリアを中心に,その設計論と薬物放出制御のメカニズムについて解説する。
|
|
2. |
光による生理活性物質の汎用的な放出制御法 (PARCEL法)
(加藤 大・村山周平) |
|
刺激に応じて医薬品を徐放することができれば,標的部位のみで薬効が発現するため,必要な効果のみが得られると期待される。光は,照射する時空間および強度の制御が容易なため,医薬品の徐放を制御する外部刺激に適していると考えられる。われわれは,生理活性物質を内包可能な光分解性ゲルを開発し,内包した生理活性物質の徐放を光で制御することに成功した。さらに最近では,本ゲルをナノ粒子に成型してマウスに投与し,生体中の標的部位において,目的の時間に必要量の内包物を放出する徐放法の開発をめざし検討を行っている。
|
|
3. |
近赤外光
(新留琢郎) |
|
近赤外光は組織透過性の高い光である。その近赤外光を金ナノロッドは吸収して発熱する。この金ナノロッドに温度感受性ポリマーや二本鎖DNAを修飾し,光照射をトリガーとした薬物リリースシステムがいくつか報告された。また,金ナノロッドが光照射により球状に変化し,表面積の減少に伴う修飾薬物のリリースも興味深い。一方,内部が中空の金ナノケージと温度感受性ポリマーとを組み合わせ,内部に閉じこめられた薬物を近赤外光照射により放出するシステムも報告された。金ナノ粒子の分光特性や形状と温度感受性ユニットを組み合わせた手法は高次のドラッグリリースシステム構築のための重要な基盤技術となるだろう。
|
|
4. |
超音波
(上杉佳子・田畑泰彦) |
|
ドラッグデリバリーシステム(DDS)は,治療,診断,化粧品など多方面で利用される技術であり,体内におけるDDSの機能発現に外部刺激に対する応答性が検討されている。これまでに,温度,光,磁気,超音波などの物理刺激を外部刺激として用いた研究が活発に行われている。なかでも,超音波は非侵襲性で生体の深部まで透過できることから,薬物放出を制御するシグナルとして非常に魅力的である。本稿では,超音波応答性システムについての研究を中心に紹介する。
|
|
5. |
糖
(山本雅哉・田畑泰彦) |
|
糖に応答して物理化学的性質が変化する糖応答性材料は,主として血糖値に応答してインスリンを放出するためのキャリアとして盛んに研究されてきた。一方,糖は細胞に対する傷害性が低いため,細胞とともに用いる生体材料としても応用することができると考えられる。本稿では,インスリンの放出制御を目的とした3つのグルコース応答メカニズムについて述べるとともに,糖応答性材料の新しい応用例として,再生医療における細胞凝集体を培養するための生体材料としての可能性についても紹介する。
|
|
6. |
生体内還元環境とそれに応答する薬剤キャリア設計
(武元宏泰・宮田完二郎) |
|
生体内の還元環境は,主にグルタチオン(GSH),チオレドキシン(Trx),システイン(Cys)の3つの物質によって制御されている。そして生体内の還元環境の差は細胞内外の違いに加え,細胞内オルガネラによる違い,臓器による違い,年齢やライフスタイルによる違いと多岐にわたることが知られている。一方で,ジスルフィド結合の開裂速度は還元環境に大きく依存する。そしてジスルフィド結合の還元環境への応答性がドラッグデリバリーシステム(DDS)開発の興味を惹くところであり,現在まで様々なDDSデザインが提案されてきた。本稿では,まず生体内における様々な還元環境を紹介した後,ジスルフィド結合を利用したDDSへと話を進めていくことにする。
|
|
7. |
pH応答性の薬物キャリア
(濱 進・小暮健太朗) |
|
生体内では,器官・組織・細胞内レベルにおいて,生理的および病的環境におけるpHの差が生じることがある。環境に依存したpHの差は,生体特性に応じた薬物放出トリガーとして魅力的であることから,このようなpHの差を利用して環境応答性の薬物放出を可能とする様々なドラッグデリバリーシステムが開発されている。本稿では,環境に依存した外部刺激としてのpH変化に応答性を有するドラッグキャリアについて紹介する。
|
|
●索引 |