序文 : 古くて新しいdrug徐放技術が、今、熱い。
 

  ドラッグデバリーシステム(drug delivery system : DDS)とは,drugと材料とを組み合わせることによって,その生物活性を最大限に発揮させる技術・方法論である。これまで,drug=治療薬というイメージの下,高分子,低分子,セラミクス,および金属などを利用して,DDS治療薬の研究が行われ,近年の材料科学の進歩とともに治療効果の改善が報告されてきている。しかしながら,生物活性をもつ物質がすべてdrugであると考えれば,DDSの対象は治療薬以外にも及び,診断薬や予防薬に加えて,化粧品,研究試薬なども含まれる。drugにも,低分子物質からタンパク質や核酸などまで,いろいろな物質が扱われるようになり,DDS技術の守備範囲は急速に広まっている。
 DDSの目的には,drugの徐故化,水可溶化と安定化,吸収と透過促進,およびターゲティングの4つがある。いずれの目的もdrugの生物活性の向上に必要なものであるが,本書では徐故化に焦点を当てたいと思う。その理由は,徐故化がdrugの濃度と時間を制御する最も基本的で着実な技術であると考えられることである。また,近年の内視鏡技術の進歩により,drugを望む部位に運ぶことができることから,DDSのもう1つの重要ポイントである部位の制御についても問題はない。このような状況から,現時点で実用化に最も近いと考えられるdrugの徐故化についてまとめてみるのも大切ではないかと考え,本書を企画した。徐故に用いられている材料,治療・診断・予防などの医療応用,再生医療,ライフサイエンス,生物研究への応用,および徐故と外部刺激との組み合わせなど,できる限り広範囲をカバーするように現在のdrug徐故技術分野を鳥瞰できるように努めた。
 ここに執筆をお願いしているのは,DDS徐放研究に携わっている,あるいは将来,関連していくであろう分野・領域において仕事をされている第一線の先生方である。各章では,それぞれの分野・領域のオーバービュー,国内外における最近の進歩,日本の位置づけ,執筆者の最新の研究成果やその関連事項,臨床応用への実際やその可能性など,将来展望,今後の方向性と課題などについて,簡潔に述べていただいている。本書が少しでもdrug徐放技術の重要性を考えていただく機会になれば幸いである。
 最後になったが,本書の趣旨を理解し,責重な時間を割いて執筆いただいた諸氏に心より感謝を申し上げるとともに企画から出版に至るまでご尽力をいただいた株式会社メディカルドゥ社には心より感謝の意を表したい。

京都大学再生医科学研究所
田畑泰彦