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内容目次 |
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序文 物質の生物効果を最大限に発揮させる最先端基盤技術 (田畑泰彦) |
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序説 ドラッグデリバリーシステム概念の変貌
(田畑泰彦) |
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基礎編 DDSの基盤要素と基礎研究のために |
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(基礎編)Ⅰ章 生物医学研究とDDS |
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1. |
細胞内への物質導入
(二木史朗) |
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遺伝子などを含む広い意味での薬物を,薬効を保ったままどのようにして効率的に細胞内に導入するかは,薬物送達における重要な課題の一つである.ここでは,エンドサイトーシス(細胞の飲食作用)系を介した細胞の物質取り込み機序を概観するとともに,マイクロインジェクション,エレクトロポレーション,リポソーム,合成高分子,キャリアペプチドなどを用いた細胞内物質導入法に関して紹介する.
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2. |
細胞内動態制御による新しいDDSの開発
(秋田英万・紙谷浩之・原島秀吉) |
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「ミクロの決死圏」という映画があり,人間をミクロのサイズに縮小して,交通事故で脳に生じた血栓を溶解し救命しようというたいへんロマンに満ちたSF小説であるが,21世紀の薬物治療では現実となる日が来ようとしている.この課題を完成させるためには,細胞生物学,生化学,分子生物学,有機合成化学,高分子化学,薬剤学などの種々の学問の融合が不可欠であるが,本稿では細胞内輸送を司っているシグナルペプチドの役割を中心に解説する.
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3. |
DDSとしての遺伝子導入の技術進展
(金田安史) |
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遺伝子を含めたDDSにはウイルスベクターと非ウイルスベクターがあり,その特長を利用して高効率で非侵襲ベクターの開発が望まれている.ベクター開発の1つとして複数のベクター系を組み合わせて欠点を相補するハイブリッド型ベクターの開発がある.ウイルスと非ウイルスの組み合わせのHVJ-リポソーム法がその1つであるが,最近それを改良し,さらに単純で高効率のベクターであるHVJエンベロープベクターの開発に成功した.このベクターがDDSとして様々な特長を有することが明らかになってきた.
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4. |
細胞性製剤によるDDS
(中川晋作・真弓忠範) |
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これまでに薬物治療の最適化をめざし,リポソームやマイクロスフェアーなど,様々な機能性粒子が開発されてきた.しかし現在,地球上で最もインテリジェントな機能を有する粒子は細胞である.従って「生きている細胞」そのものを「薬」としてとらえ,細胞が有する機能を最大限に生かした「細胞性製剤」の利用は,理想的な究極の薬物治療法の開発につながるといえる.この「細胞性製剤」を用いた細胞療法(再生医療)は,細胞の発生・分化・増殖を介して,機能を伴った臓器・組織の構築を可能にするなど,21世紀医療に向けて無限の可能性を秘めている.
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5. |
近交系アフリカツメガエルを用いた発生段階特異的な抗原の検出法と
組織リモデリングへのアプローチ
(井筒ゆみ) |
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動物の体をつくる仕組みはショウジョウバエからヒトに至るまで基本的に同じである.このことは,近年ホメオティック遺伝子の発見により解明が進んできた.部分的には独自の制御機構も存在するが,しかし,多くの機構はよく保存されている.アフリカツメガエルを含む両生類は,形態形成を研究する上では際だった特徴を有する.体の形をつくりかえる「変態」をすることである.その過程は,ホルモンによって自立的に進行すると理解されている.筆者らはそこに免疫系の抗原認識機構が関与しているという新たな考えに至る結果を得た.
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6. |
DDSを利用した疾患モデル作製
(木村英也) |
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DDSの手法を用いることにより,遺伝子やタンパク質を局所的に徐放させ,疾患モデルを作製することができる.血管新生促進作用を有する塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を徐放させるシステムを用いて,眼内での血管新生の誘発を試みた.角膜では膜状徐放体を埋め込み角膜新生血管を,網膜下にマイクロスフェアを投与することにより脈絡膜新生血管を作製することができた.これらのモデルは,DDSを含めた新しい治療法の効果を評価するのに非常に有用である.
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7. |
アテロコラーゲンDDSによるセルトランスフェクションアレイ技術
(落谷孝広) |
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ゲノムサイエンスの発展により次々と見出されている新しい疾患関連遺伝子・タンパク質の情報を,すぐさま治療標的分子の同定と治療創薬へと結びつけるのは容易ではない.癌などの疾患を改善し保健医療水準の向上に寄与する医薬品開発のためには,治療効果のある遺伝子医薬を迅速かつ網羅的に検索可能なハイスループットスクリーニング系の開発が重要である.バイオマテリアルによる遺伝子導入法は,様々な遺伝子医薬をアテロコラーゲンやキトサンなどと簡単に混ぜ合わせることで細胞や動物個体への遺伝子導入と生体内発現制御を可能にし,遺伝子治療用ベクターの欠点であった生体内での不安定性や非制御性を補う全く新規の技術である.さらに,この技術は遺伝子医薬の活性を損なわずに様々な剤形に加工したり,基材に塗布することを可能にするため,遺伝子群の機能の網羅的スクリーニングのための新しいセルトランスフェクションアレイ技術が開発された.
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(基礎編)Ⅱ章 DDSのための材料と基礎要素テクノロジー |
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1. |
薬物徐放のための生体吸収性材料
(山岡哲二) |
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ポリ乳酸やポリグリコール酸は,疎水性が高く,水溶性薬物の徐放担体には適さないので,W/O/Wエマルジョン法などが開発されてきた.一方,適当な共重合組成を有するポリエーテルとポリ乳酸とのブロック共重合体は,ミクロ相分離構造を有し,マトリックス中に生成した親水性領域が,親水性薬物を担持するリザーバーとして機能する.さらに,刺激応答性素材など,新たな高分子材料の開発により,薬物徐放化システムの新展開が期待される.
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2. |
水溶性高分子を用いたターゲティング
(横山昌幸) |
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天然および合成高分子を薬物キャリヤーとして用い,低分子薬物および生理活性タンパク質をターゲティングするためのシステム設計,実例を概説する.ターゲティングはアクティブターゲティングとパッシブターゲティングの2つの方法論に分類される.前者の代表例である特異抗体をキャリヤーとして用いるシステムは,近年ヒト化モノクローナル抗体が得られるようになって,大きな進展を見た.パッシブターゲティングは水溶性合成高分子や高分子ミセルを薬物キャリヤーとしたり,生理活性タンパク質を水溶性合成高分子で修飾したりしてなされ,抗癌剤のターゲティングを中心に臨床応用されている.最後に,これらの結果をふまえ,核酸のターゲティングに関する展望をまとめた.
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3. |
機能性微粒子
(藤本啓二) |
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ここでは基盤技術としての微粒子およびDDSへの応用例を紹介する.実際に生体コロイドは微粒子デザインにとって有用な情報を与えている.このような界面化学的なデザインに加えて合成反応(主に重合反応)によっても微粒子を作製することができる.微粒子は明確な構造を持っていることと,そのサイズが小さいことから様々な特性を示す.そのために微粒子は,臨床検査薬,アフィニティビーズ,バイオチップ,バイオセンサー,物質生産用担体など生化学および医療関係の用途に広く使われている.微粒子材料のDDSへの応用では薬物の放出制御と標的指向性付与が重要な課題となっている.前者は分解性材料および刺激応答性素材を用いることにより達成されている.後者にはEPR効果を狙った微粒子サイズの制御とバイオアフィニティ分子の固定化といったアプローチがとられている.
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4. |
高感度刺激応答性ポリマー:設計・合成・自己組織化
(青島貞人) |
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「高感度かつ多様な刺激応答性の設計」と「構造や分子量の制御された高分子の精密合成」を検討することにより,新しい高感度刺激応答性ブロックコポリマーが合成された.その結果,均一に水に溶けているポリマーが,わずか1℃の温度変化で瞬時に集まり,数十nmの大きさの揃った高分子球状ミセルを生成するようになった.また,条件によってはそのミセルが規則的な構造に並んで物理ゲル化した.しかも,その感熱応答は様々な温度に設定できるだけでなく,pHや光,試薬添加などの他の刺激によっても自己組織化することが可能になった.
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5. |
内視鏡の種類と原理,将来への展望
(小納良一) |
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内視鏡検査は広く普及し,多くの早期癌が発見され治療されている.現在では消化器内科以外に様々な領域で,それぞれの適応に応じたタイプの内視鏡により,診断・治療・手術が行われている.生体内部を直接観察しながら,処置を行うことができる唯一の医療機器である内視鏡とDDSの融合も,今後の有望な領域と考えられる.医師や研究者の様々なニーズが内視鏡に関連する新たな技術開発を促進させ,また技術の進歩が新たな診断法・治療法を生み出すというスパイラルを創り出している.
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応用編 DDSの最新臨床応用研究から |
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(応用編)Ⅰ章 広がるDDS技術の応用 |
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1) |
DDSのワクチンへの応用・全身の免疫力を高めるために
(中岡竜介) |
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この冬,何年ぶりかにインフルエンザが猛威を奮ったことは記憶に新しい.このような感染症に対する予防法としてワクチンが存在するが,その効果を一層高めるために古くからDDSを用いたワクチン研究が行われている.DDSをワクチンに応用する考え方として,抗原の徐放化により体内に長期間抗原を存在させておくことであらかじめ抗原に対する免疫を高めた状態にしておく,あるいは抗原を効率よく免疫細胞に認識されるようにして少量の抗原でもその免疫を増強しておくというものがある.今回は,以前,私が編者と共に行った研究を中心に,DDSを利用して全身の免疫を増強するためのワクチンに関する研究を紹介する.
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2) |
ドラッグデリバリーシステムと粘膜ワクチンの進歩
(岡崎和一) |
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粘膜ワクチンは微生物に対する免疫反応を賦活化させ粘膜の感染を予防するとともに抗原特異的免疫寛容の誘導を介して全身的な炎症性疾患を治療することができる手段として近年,注目されている.粘膜アジュバントにはバクテリア毒素あるいはその誘導体,CpG-DNA,またTh1,Th2を誘導するサイトカイン,ケモカインなどが工夫されている.ウィルス様微粒子やバイオマテリアルによるマイクロスフェアーによる粘膜デリバリーワクチンは粘膜への送達だけでなく,抗原の持続的な作用が期待できる新しい方法である.DNAワクチンは粘膜表面に送達できるよう開発中であるが,ロタウィルス下痢に対する経口投与,インフルエンザに対する経鼻投与では強い副作用のため,実用化には今のところ至っていない.このような短所を克服する目的で新たなバイオマテリアルを用いたマイクロスフェアによる粘膜デリバリーも開発されつつある.
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3) |
DDSと移植医療(免疫抑制療法)
(橋田 亨・乾 賢一) |
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移植医療の発展は,シクロスポリンとタクロリムスの出現によるところが大きい.両剤は,極めて脂溶性が高いため,その経口製剤を得るためにマイクロエマルジョン化や固体分散体法といったDDS技術が活用されている.そのように経口吸収率が高められた両剤であっても,なお大きな薬物動態の個体差が存在し,その一因は消化管に発現するP-糖タンパク質である.著者らはその発現量を定量的に解析し,タクロリムスの個別投与設計をより精密に行っている.薬物体内動態に関与する機能タンパクを制御しうるDDSの開発は,移植成績を飛躍的に向上させるものとして期待される.
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1) |
超音波を使ったドラッグデリバリーシステム
(森安史典) |
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遺伝子導入を含むDDSにおける超音波の役割は,次第に研究者の関心を引くようになった.従来粗密波である超音波が,生体を伝搬する過程で,物質の移送を助ける適当な手段であるということが最大の利点である.さらに微小気泡からなる超音波造影剤が,超音波の照射を受けると生体内で崩壊する.その際気泡がcavitation nucleiとなり,細胞内への物質移送を容易にする.このsonoporationと呼ばれる考えは,今後安全で効率のよいDDSの手段として主流をなすと考えられる.
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2) |
DDSにおけるMRI造影剤
(余川 隆・八杉健司) |
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近年,MRIは診断における確固たる地位を築いた.これはMRIの技術進歩,造影剤の出現によるところが大きい.
近年の造影剤の発展においてはDDSの概念が必要不可欠であり,診断の高機能,高感度化のため抗原,レセプター,組織の特性など様々な標的をターゲティングする試みが行われてきている.また,刺激応答性造影剤の研究も始まり,さらなる展開が期待されている.MRIの歴史,造影剤の仕組みを理解し,近年の造影剤の発展をレビューする.
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1) |
免疫化学療法とDDS
(田畑泰彦) |
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癌あるいは感染症に対する免疫化学療法では,マクロファージ(Mφ),樹状細胞,ナチュナルキラー細胞,およびリンパ球など免疫エフェクター細胞を活性化するBRM(biological response modifiers)を利用する.しかしながら,BRM自身の生体内不安定性とその細胞親和性の低さから,有効な免疫エフェクター細胞の活性化が期待しにくい.もしBRMを特定の細胞へターゲティングすることができれば免疫化学治療の効果は向上する.本稿では,その1例として,Mφに取り込まれやすい高分子材料を利用した,BRMのMφへのターゲティングとその抗癌活性化について述べる.
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(応用編)Ⅱ章 再生医療とDDS |
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1) |
心臓血管領域の再生医療 - 徐放化ペプチドを用いた局所療法 -
(丹原圭一・田畑泰彦・米田正始) |
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生体吸収性ゼラチン水和ゲルによる徐放化システムを利用した線維芽細胞増殖因子(basic fibroblast growth factor:bFGF)や肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor:HGF)の投与効果を,心臓血管領域の難治性疾患の動物モデルにおいて検討した.徐放化bFGFはこれまで治療対象でなかったような虚血あるいは梗塞部位に有効な血管新生を引き起こし,虚血性心筋症や重症下肢虚血に対する新しい治療法として期待される.同時に心臓術後の胸骨再生にも極めて有効で,早期の社会復帰に寄与すると思われる.また徐放化HGFは線維化の抑制をもたらし,これまで有効な治療法がないとされていた拡張型心筋症の治療に新たな可能性を開くものである.
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2) |
皮膚組織の再生におけるbFGFの応用
(鈴木茂彦・佐生泰美・河合勝也) |
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人工真皮は,足場(scaffold)としてのコラーゲンスポンジからなり,皮膚欠損部に移植すると生体内で真皮様組織が再生する.簡便でコストがかからないが,再生に日数がかかる.われわれはゼラチン粒子を担体としたbFGFの徐放により組織再生を速める試みを行い,好結果を得ている.
培養皮膚は,表皮細胞と線維芽細胞を含んでいるが血管系を持たないため,通常の皮膚移植に比べ生着しにくい.このため培養皮膚についてもbFGF徐放化により,血管新生の促進,上皮化促進が認められた.
皮膚の再生におけるbFGF徐放の臨床応用に期待がかけられる.
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3) |
骨の再生医療
(木下靭彦・横矢重俊) |
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骨を造る細胞,細胞の増殖因子および骨形成の足場は骨の再生における基本的要素である.本稿では増殖因子の臨床応用の現状と可能性について概説した.骨形成タンパクBMPsは動物実験では高い骨再生能を示すが,ヒトでは必ずしも満足すべき効果を示さない.ヒトで安全かつ確実に骨を再生するには適切な徐放システムの確立および増殖因子あるいは骨前駆細胞/幹細胞との併用が必要である.また,bFGF,TGF-β,IGF-1,PDGFなどの骨形成を促進する増殖因子の応用についても,それぞれ量的,時間的要素を考慮した局所投与が望まれる.
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4) |
骨組織の再生
(山本雅哉・田畑泰彦) |
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細胞増殖因子を用いた,骨組織の再生には,細胞増殖因子の徐放化技術,すなわち,ドラッグデリバリー技術が必要不可欠である.われわれは,細胞増殖因子の徐放化キャリア材料として,生体吸収性であるゼラチンハイドロゲルを考案した.このハイドロゲルを用いた頭蓋骨,胸骨,および異所性骨,それぞれの骨再生を試みたところ,細胞増殖因子を徐放化することによってのみ,良好な骨再生の誘導が可能となった.一方,大きな骨欠損部の再生には,徐放化細胞増殖因子のみでは不十分であり,徐放化細胞増殖因子と間葉系幹細胞や細胞の増殖・分化のための場となる足場材料などとうまく組み合せることが必要である.
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5) |
細胞増殖因子を用いた軟骨組織再生療法
(西田 崇・滝川正春) |
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関節軟骨は一度損傷を受けると,欠損部は完全な硝子軟骨で修復されることはない.この関節軟骨を修復する目的で自己培養軟骨細胞移植や骨髄間葉系細胞移植,あるいは種々の成長因子の投与が実験的に検討されているが,十分な修復作用を示すものは未だにない.しかし,成長因子の投与による軟骨修復が可能になれば,非常に臨床応用しやすい治療法になり得る.本稿ではゼラチンハイドロゲルを用いたドラッグデリバリーシステムを応用し,筆者らが注目する結合組織成長因子(CTGF)の関節軟骨修復作用の実験を中心に成長因子を用いた軟骨組織再生療法の可能性について概説する.
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6) |
末梢神経の再生医療 - 理想の人工神経とDDSについて -
(高松聖仁・越宗 勝・中塚洋直・山本雅哉・田畑泰彦) |
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末梢神経の損傷は卑近な出来事であり,日常遭遇する可能性の高い外傷の一つである.そうした場合,通常なら神経断端同士を縫合するが,神経欠損が大きい場合,現在のところ一般的に神経移植が行われている.しかし,近年種々の人工神経が開発されてきており,これらが自家神経移植に取って代わる日はそう遠くないと考えられる.そのために理想の人工神経を作成し,さらに神経の再生を良好にするために神経再生促進因子をDDSを用いて付加することが重要である.
本稿ではそうした理想の人工神経とはどのような神経か,そして人工神経に組み合わせるDDSとはどのようなものがあるのか詳説する.
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7) |
脂肪の再生医療
(稲本 俊・山城大泰) |
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脂肪組織の再生に必要な脂肪前駆細胞は脂肪組織からVascular-Stromal細胞として分離でき,増殖能と脂肪への分化能を維持している.その再生の足場としてcollagenやfibrinが使えそうである.そして,適当なDDSを用いることによりbFGFが脂肪前駆細胞の増殖を
in vivo でも促進することが明らかになっている.これらのものを利用し血管新生因子についての研究を組み合わせることにより,臨床で応用可能な脂肪組織の再生を実現できると思われる.さらに,脂肪前駆細胞へのbFGF遺伝子の導入は自己増殖能を持った脂肪前駆細胞に作り変えることができ,一種のDDSとして使用できることも期待できる.
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8) |
毛髪の再生医療
(大河内仁志・伊藤宗成) |
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臨床的には自毛の単一毛植毛術が行われているが,新たに毛髪を誘導するためには上皮(表皮細胞) - 間葉系細胞(毛乳頭細胞)の相互作用を利用した細胞療法が必要となる.残念ながらまだ in vitro で完全に毛を誘導することはできないが,ヌードマウスという生体の場を借りれば,表皮細胞と毛乳頭細胞を混合することにより発毛させることが可能である.毛の器官培養により細胞増殖因子の作用が調べられている.また細胞増殖因子(bFGF)の徐放剤により,マウスの発毛促進が報告されている.今後の毛の再生医療にとって細胞と足場となる基質と細胞増殖因子を組み合わせていかに使いこなすかが鍵となる.
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9) |
歯と歯周組織の再生療法:3次元人工ECM幾何学が拓くもの
(久保木芳徳) |
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従来の歯と歯周組織の治療には工学的な要素が多く,歯冠(体の外に出た歯の部分)の硬組織の切削というイメージが強かったが,人工歯根(歯科インプラント)などの普及に伴い,顎の中(体の内部)にも関心が深まった.その結果,生物学的な再生療法が進みつつある.歯と歯周組織は複合組織であり,元来,発生的にも興味深い上皮・間葉相互作用の産物である.その再生・再建には,①細胞,②マトリックス,③制御因子,④栄養供給,そして⑤メカニカル・ストレスの五大要素の適切な組み合わせが必須である.中でも人工マトリックス(ECM)の幾何学的な構造設計が鍵となる場合が多い.最近の人工ECM幾何学の研究例を中心に,臨床的応用の展望について述べる.
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10) |
血管新生の誘導と細胞移植
(斎藤亮彦・竹田徹朗・下条文武・田畑泰彦) |
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細胞移植は今後の再生医療にとって期待される治療手段である.血管新生因子を局所で徐放するDDSと,移植細胞を付着させる足場タンパク(scaffold)を用いて,細胞を効率よく生体内に生着させる方法が開発された.私たちはその方法を利用して,腎のタンパク代謝機能を担う受容体であるmegalinを発現する細胞を移植し,腎不全において蓄積する尿毒素タンパクを代謝・除去するため治療モデルを作製した.今後このような方法が,様々な細胞移植療法に応用されることが望まれる.
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11) |
脳動脈瘤塞栓術 - 細胞増殖因子の徐放による脳動脈瘤の器質化
(宮本 享・波多野武人・山田圭介・田畑泰彦) |
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脳動脈瘤のコイル塞栓術は,近年,急速に発展,普及してきたが,症例の蓄積と共に長期追跡中の再開通が問題点として明らかになってきた.現在用いられている白金性コイルの動脈瘤内容積占拠率には限界があり,生体反応性が低いためそのままでは動脈瘤内部の器質化が起こりにくい.このため,塞栓術による動脈瘤の根治性は高くない.われわれは,動脈瘤の塞栓物質からbasic fibroblast growth factor(bFGF)を徐放し瘤内血栓を器質化し動脈瘤壁を生物学的に強化することで治療しようとする研究開発を行っている.ここでは,この実験を紹介するとともに脳動脈瘤治療の現状,問題点および今後の展望について述べる.
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1) |
ゼラチンによる遺伝子の徐放化と細胞 - 遺伝子ハイブリッド治療への応用
(藤井隆文・永谷憲歳・徳永宜之・神田宗武・福山直人・田中越郎・
田畑泰彦・浅原孝之・盛 英三) |
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重症虚血性心疾患,難治性閉塞性動脈硬化症などでは,これまでの観血的治療法では十分な効果が得られない症例も多く認められる.遺伝子,細胞を用いた血管新生療法が,これからの新しい治療法の核として期待されているが,これらの導入法の開発が今後の大きな課題である.われわれは遺伝子を格子構造を有する生分解性ゼラチンに取り込ませ,この複合体を貪食能を有する細胞に導入する方法を開発した.これにより,従来の非ウイルス性ベクター法よりも生体内での遺伝子発現期間が延長した.機能遺伝子,貪食細胞によるハイブリッド治療は,補完的な血管新生を実現すると考えられる.
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2) |
HGFタンパク質ならびに遺伝子を用いた慢性硬化性疾患の再生治療
(福田一弘・松本邦夫・中村敏一) |
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組織傷害が長期に及ぶと肝硬変や慢性腎不全,肺線維症,心筋症など線維化と機能不全を特徴とする慢性硬化性疾患の発症にいたる.筆者らはHGFが慢性硬化性疾患に対して著しい改善効果をもつことを見出した.HGFは線維化をもたらすTGF-βの発現抑制,筋線維芽細胞の消却,細胞外マトリックスの分解促進,肝細胞や尿細管細胞に代表される臓器固有の機能を担う細胞の再生促進など,複数の生理作用を介して病態の改善をもたらす.硬化性疾患の改善はHGF遺伝子治療によっても再現され,HGF組換えタンパク質のみならずHGF遺伝子は慢性硬化性疾患に対する再生医薬となることが期待される.
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3) |
筋ジストロフィー治療
(西川元也・橋田 充) |
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Duchenne型筋ジストロフィーは,筋細胞膜を裏打ちする細胞内タンパク質・ジストロフィンの欠損により生じる遺伝子疾患である.単一遺伝子欠損により生じるため早くから遺伝子治療が期待されてきたが,その実現には程遠い.筋ジストロフィーを対象とする遺伝子治療においては,遺伝子が導入される筋肉細胞の数が有効性を規定する重要な要因である.遺伝子導入効率が高いベクターの開発に加え,できるだけ多くの筋肉細胞に遺伝子を導入可能な方法論が開発されてはじめて筋ジストロフィー遺伝子治療実現に繋がるものと考える.
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(応用編)Ⅲ章 薬物・遺伝子治療とDDS |
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1. |
ターゲティングと薬物治療
(高倉喜信) |
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薬物に標的指向性を与え,選択的な薬物デリバリーを実現するターゲティング(標的指向化)は,DDS研究において最も重要といっても過言ではない.抗癌剤,バイオテクノロジー応用医薬品,さらには最近では遺伝子医薬品など,多種多様の薬物を対象にターゲティングの試みが行われている.ここでは,高分子や微粒子を薬物キャリアーとして利用したパッシブターゲティングおよびアクティブターゲティングについて基本的な考え方と実例を概説する.
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2. |
吸収促進と薬物治療
(山下伸二) |
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薬物の吸収性を上昇させるためのストラテジーとして考えられる次の三つの方法論について概説する.
(1)透過障壁としての消化管上皮細胞層の機能,構造を修飾することによって,そのバリアーとしての機能を低下させる.
(2)薬物の分子構造を化学修飾することによって,基本的な透過性,あるいは酵素やトランスポーターに対する親和性を変化させる.
(3)十分な量(濃度)の薬物を膜表面に供給することによって,全体としての吸収率を向上させる.Nanoparticleやリポソームなどの薬物運搬体の利用,難溶性薬物の可溶化などの製剤学的な手法.
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3. |
光・超音波と薬物治療
(青山輝義・山本新吾・小川 修) |
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光増感物質に光を照射すると,局所で活性酸素が発生し細胞傷害が観察される.この現象を腫瘍などに利用したのが光線力学療法である.光増感物質に関しては,臓器ターゲットや画像造影能力を付加した新しい世代の物質も利用されはじめている.一方,超音波も,診断・治療など既に幅広く用いられているが,ある一定の条件下で照射部位に発光現象が認められることが知られている.この特性を利用した深部病変に対する超音波力学療法は,臓器特異的な光増感物質によるターゲティングとの組み合わせで将来有効な治療法となりうる.
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4. |
温度応答性高分子と薬物治療
(中山正道・岡野光夫) |
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ポリ(N -イソプロピルアクリルアミド:PIPAAm)は,水中で下限臨界溶液温度(LCST)を有し,LCST以下では水に溶解しているが,それ以上では疑集・沈殿する.この性質を利用することで,外部からの温度変化に応答して薬物の放出を制御するインテリジェント型DDSの開発が期待できる.PIPAAmゲルはLCST近傍で顕著な体積相転移を生起し,温度変化に応答した薬物放出のON-OFF制御が可能である.一方,薬物キャリアーを用いた受動的ターゲティングに,温度に応答して可逆的に薬物放出するシステムを導入した新しい薬物治療法が検討されている.
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5. |
電気・磁気と薬物治療
(上田秀雄・森本雍憲) |
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DDSの目標は,必要な部位に必要な量の薬物を送達することにより,最適な治療効果を得ることである.物理的な力の利用は,その適用強度や時間を制御することにより,薬物の体内動態を精密に制御できる可能性がある.DDS開発に用いられる物理的な力として,電気,磁気,超音波,レーザー光線などがあり,それぞれの利点を活かしたDDS開発が精力的に行われている.これらを用いた技術は,従来から用いられている医薬品のみならず,ペプチド/タンパク質医薬品や核酸医薬品など高分子医薬品の薬物送達にも応用が広がることが期待されている.
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6. |
遺伝子治療とターゲティング
(山本雅哉・田畑泰彦) |
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一般に薬物のターゲティングは,Passive Targeting(受動的に標的疾患部位に送達)とActive Targeting(能動的に標的部疾患部位に送達)との二つに大別することができる.遺伝子治療では,ポリアニオンである遺伝子とポリイオンコンプレックスを形成するカチオン性の種々のキャリアおよび金属配位結合を形成するキャリアなどが設計され,遺伝子に対して異なるターゲティング能を付与する試みがなされている.一方,超音波,電気刺激,圧力負荷,温熱などの物理的な力により標的部位での遺伝子導入を制御するという,遺伝子導入作用のターゲティングも試みられている.こうした遺伝子治療におけるターゲティング技術は,高い遺伝子導入効率とその治療効果の増強を可能とする技術として,臨床応用が期待されている.
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7. |
超音波遺伝子導入による遺伝子治療ストラテジーの開発
(冨田奈留也・森下竜一・荻原俊男) |
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遺伝子治療が臨床応用されてから早くも10年以上が経過した.対象疾患も先天性の疾患から循環器疾患などの生活習慣病によるものにまで拡大されてきており,今後ますます期待される領域になってきている.一方で遺伝子導入方法では問題が残されている.欧米での多くの臨床試験でウイルスベクターが応用されているが,死亡事故や白血病の発症などの報告もあり,やはり安全で効率のよい非ウイルスベクターの開発は急務である.われわれは近年注目を集めている超音波による遺伝子導入の改良を行い,臨床レベルに達する遺伝子導入方法の開発をめざしている.本稿ではその一部のデータを紹介したい.
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8. |
電気パルスを利用した生体への遺伝子導入法
(宮崎純一) |
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生体に遺伝子を導入する方法の1つとして,筋肉に発現プラスミドDNAを直接注射する,いわゆるnaked DNA法がある.この方法は,生体への遺伝子導入法として簡単,安全,低コストではあるが,発現力が弱いために応用範囲が限られてきた.導入効率を上げるために多くの試みがなされてきた.われわれは,DNA筋注部分でエレクトロポレーション(すなわち,DNAを注射した筋肉の部位に電気パルスをかける)を行うことにより遺伝子導入・発現効率をこれまでの数百倍に改善することに成功した.この技術により,タンパクを治療目的で血液中へ供給するための一種のバイオリアクターとして,筋肉が使われる可能性も出てきた.電気パルスをかける手法は筋肉のみならず,他の組織(皮膚,角膜,脳など)への遺伝子導入にも有効であることが示され,さらに応用範囲が広がってきている.
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資 料 |
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ポリ乳酸 - ポリエーテルトリブロック共重合体の合成
(山岡哲二) |
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水溶性高分子を用いたターゲティングシステム作製法
(横山昌幸) |
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人工シャペロンをめざした機能性ミクロスフェアの開発
(藤本啓二・清水秀信) |
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感熱応答性ポリマーの合成
(青島貞人・杉原伸治・金岡鍾局) |
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温度応答性高分子の合成とその応用
(中山正道・岡野光夫) |
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ゼラチンハイドロゲルディスク,粒子の作製
(山本雅哉・尾関 真・櫛引俊宏・田畑泰彦) |
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遺伝子徐放化ハイドロゲル粒子の作製
(櫛引俊宏・山本雅哉・友重龍治・田畑泰彦) |
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金属キレート残基導入水溶性高分子の作製
(山本雅哉・Hossein Hosseinkhani・城 潤一郎・田畑泰彦) |
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● 索引 |