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内容目次 |
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●序文 (杉山雄一) |
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●第1章 消化管吸収の概論 |
1. |
消化管吸収機構の基礎(消化管膜の構造,吸収機構,速度論)
(森下真莉子) |
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経口投与された薬物の生物学的利用能(bioavailability)を決定する主たる因子として,消化管上皮細胞を介した膜透過性と小腸および肝臓での安定性および代謝が挙げられる。小腸上皮細胞膜を介した膜輸送(membrane transport)は多くの場合,薬物の脂溶性に従う単純拡散によって支配され,イオン型薬物の場合にはpH分配仮説に基づいて説明される。しかし,実際の薬物吸収においてはこのような理論だけではなかなか予測どおりにいかないことはよく経験するところである。膜輸送研究技術の著しい進歩により,消化管の代謝酵素CYP3A4やP糖タンパク質(P-gp)の役割が明らかになってきた今日では,これらを含めて薬物吸収を考えないと精度の良い吸収予測はもはやできない。
薬物の消化管吸収とその予測を十分に議論し理解するために,ここではまず初めに薬物吸収を主に担う消化管吸収上皮細胞の構造と機能,膜輸送の形式および関連する速度論について概説する。
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2. |
バイオアベイラビリティを決定する要因と変動要因
(山下伸二) |
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医薬品の経口投与後のバイオアベイラビリティを決定する薬物側の要因として,水溶解性,膜透過性および化学的・代謝的安定性が挙げられる。本稿では溶解性と膜透過性の関係を中心に,消化管からの吸収率(Fa)の決定要因と変動要因に関して概説する。固形薬物を投与した後の吸収過程において,それぞれの薬物の物理化学的性質によって吸収の律速過程が異なる。特に,溶解性が低い薬物の吸収は,溶解速度律速と溶解度律速に区別される。それぞれのケースで,吸収改善のための製剤学的手法および吸収の変動要因が異なってくることに十分注意する必要がある。
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●第2章 Ex vivo によるBA予測 |
1. |
In silico によるバイオアベイラビリティの予測
(山下富義) |
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経口医薬品の開発において,適切な候補化合物を選択し,合理的に製剤設計を行うためには,モデリング&シミュレーション技術が不可欠である。経口バイオアベイラビリティを予測する方法は,生理学・薬物動態学を基盤とする機構論的アプローチと,統計学・推計学を基盤とする経験論的アプローチに大別される。前者は in vitro 情報から厳密に経口バイオアベイラビリティを予測することで製剤設計などに役立ち,後者は化合物ライブラリーや候補化合物を絞りこむためのバーチャルスクリーニングに役立つ。本稿では,応用例を交えながらこれらの方法について紹介する。
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1) |
Caco-2 細胞の利用
(片岡 誠・山下伸二) |
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Caco-2 細胞はヒト大腸癌由来の培養細胞で,一定の条件下で培養することによって単層膜を形成し,その構造はヒト小腸上皮粘膜様である。水溶性が高い薬物のCaco-2 単層膜透過性とヒト経口投与後の吸収率との間には良好な相関関係が認められており,その膜透過性データより経口投与後の吸収率(Fa)の評価が可能である。しかし,水溶性の低い薬物やトランスポーターあるいは代謝酵素の基質となる薬物の場合は,Caco-2 細胞自体の特徴,および用いるCaco-2 単層膜の性質について十分な情報が必要である。さらに,薬物個々の物性に基づいて最も適した評価手法を構築・選択することによって,より精度の高い予測が可能である。
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2) |
受動拡散による消化管膜透過の理論と PAMPA の有用性
(菅野清彦・鈴木恭介) |
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PAMPAは,現在創薬研究で幅広く利用されており,そのデータの有効活用は創薬研究において重要な課題である。本稿では初めに,消化管膜透過全体に対する受動拡散よる細胞膜透過の位置づけを最近の知見も交えて簡単に紹介した後,そのハイスループットスクリーニング系であるPAMPAの利用方法に焦点をおいて,実際の創薬現場での応用例を交えて議論する。
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●第3章 In vivo 動物試験からのBA予測 (動物種差を乗り越えられるか?) |
1. |
バイオアベイラビリティ予測における問題点
(加藤基浩) |
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バイオアベイラビリティ(BA)が低い薬物は,生体で有効利用されないことに加え,個体差が大きく,薬物間相互作用を受け,血漿中濃度の増加を示す可能性があるため,BA が高い薬物の開発が望ましい。BA は,吸収率と小腸・肝臓による初回通過代謝の2 つの過程により決定される。本稿では,消化管吸収と肝臓における初回通過代謝について動物データから予測可能か,またその予測・評価法の問題点について紹介する。
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2. |
サルを用いたヒト吸収性予測 : サルの消化管吸収性の種差とヒト予測上の留意点
(高橋雅行) |
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探索化合物においてサルで著しく低いバイオアベイラビリティ(BA)を示す例があるが,市販薬にもカニクイザルで著しく低いBAの薬物が数多くある。カニクイザルとヒトのFh値を比較すると,カニクイザルで低いFh値を示す薬物は多いが,同様にFaFg値を比較すると,Fh値以上に大きな違いが認められる。さらに排出トランスポーターの発現にも種差があるため,カニクイザルの低BAには,肝臓初回通過代謝のみならず腸管吸収過程が関与すると思われる。精度の高いヒト吸収性予測を行うには,種差の要因を特定し,的確な in vitro 評価法により in vivo を外挿する必要がある。
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●第4章 消化管吸収におけるトランスポーターと代謝酵素の役割 |
1. |
薬物の吸収に関わる消化管トランスポーター
(玉井郁巳) |
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薬物の消化管吸収へのトランスポーターの関与は,P-糖タンパク質のように吸収障壁となることは既に認められているが,ペプチドトランスポーターPEPT1や有機アニオントランスポーターOATPなどが薬物の吸収方向輸送に寄与することが新しくわかってきた。従来の動物試験や in vitro 試験から推察していた吸収機構が,フルーツジュースなど飲食物との相互作用や遺伝子多型によるヒトでの吸収変動現象から裏づけられるようになった。特に OATP は多様な薬物輸送能を有するため,その理解は重要である。今後は,吸収過程での相互作用の予測・回避や吸収性増進に向けたトランスポーター情報の活用が期待される。
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2. |
消化管における薬物代謝
(加藤基浩) |
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最近,小腸に存在する薬物代謝酵素により初回通過代謝され,低いバイオアベイラビリティを示す薬物がみられてきている。ヒトの小腸にはCYP3A4が発現しており,初回通過代謝を受ける薬物の大部分は CYP3A4 の基質である。ここでは,小腸における CYP3A4 による初回通過代謝に焦点をあて,小腸初回通過代謝を受ける薬物の薬物間相互作用,非線形性,個体間差などのデメリット,臨床試験における評価方法および肝ミクロソームを用いた in vitro 試験からの予測方法について述べる。
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3. |
CYP3A4とP-gp,BCRPの相互作用の予測
(楠原洋之) |
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ABCトランスポーターであるP-糖タンパク(P-gp)とBCRPは,小腸上皮細胞の刷子縁膜に発現し,能動的排出輸送により医薬品の消化管吸収を抑制することが知られている。P-gpと代謝酵素CYP3A4とは重複した基質選択性を示し,インタープレイにより効率的に医薬品吸収を抑制していると言われている。本稿では,この仮説を検証する。さらに,医薬品吸収を抑制する要因としてのBCRPの重要性ならびに,消化管BCRP機能を阻害するような薬物間相互作用の可能性について議論したい。
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4. |
製剤添加物を用いてヒトの薬物バイオアベイラビリティを上げられるのか?
(森下真莉子) |
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近年,可溶化剤などの製剤添加物が P-gp などの efflux トランスポーターを強力に阻害することが in vitro および in vivo で明らかにされてきた。製剤添加物がすでに臨床適用されていることを考えれば,これを
efflux トランスポーター阻害剤として経口バイオアベイラビリティの低い薬物の吸収改善に利用することは,魅力あるストラテジーである。しかし,実際に製剤添加剤を経口吸収改善ツールとして臨床で用いるためは,ヒトにおいての有効性も含めまだ十分な検証が必要である。本稿では,その可能性を考えるために 「薬物溶解度の上昇」 と 「efflux
トランスポーター阻害」 という2つのバイオアベイラビリティ改善因子を分離して考察し,これまでに報告されている研究結果の検証を試みる。
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●第5章 医薬品の消化管吸収に関連したFDAガイダンス |
1. |
薬物間相互作用ガイダンス
(橘 達彦・加藤基浩・杉山雄一) |
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2006年にFDAから示されたドラフトガイダンスでは,P-gpに関わる薬物間相互作用研究に関してかなり詳細な提案がなされている。P-gpの重要な機能発現部位として小腸が考えられるため,P-gpに関する相互作用を考えるうえでは阻害剤の小腸濃度を考慮する必要がある。この点を考慮してFDAから提案されたP-gp相互作用予測方法を紹介し,その予測精度および妥当性を考察した。筆者らが独自に報告した小腸相互作用の予測方法と比較してもFDAが提案する方法は納得できるものと考えられた。
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BCSとBDDCS
(高木敏英・山下伸二) |
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BCS(Biopharmaceutics Classification System)では,薬物の溶解性と膜透過性の高低に基づいて薬物を4 つのクラスに分類することで,大局的な消化管吸収挙動の考察を可能とした。溶解性と膜透過性がともに高いクラス1薬物については,その吸収挙動が製剤的な影響をほとんど受けないことから,FDAのガイダンスとして製剤変更時のヒトBE試験の免除が認められている。一方,BDDCS(Biopharmaceutics Drug Disposition Classification System)では薬物の溶解性と経口投与後の代謝消失率から,BCS と同様の薬物分類が可能であることを提案している。また,BDDCS では経口投与後の吸収動態におけるトランスポーターの関与や食事の影響を推測することも可能であるとしているが,BCS と BDDCS における溶解性および膜透過性のクラス分け基準に違いが生じており,その相互理解の障害となっている。
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● Appendix (加藤基浩) |
● 索引 |