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内容目次 |
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序文 (三木義男) |
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●第1章 総論 |
1. |
遺伝性腫瘍の概念と分類
(岩間毅夫・石田秀行) |
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遺伝性(家族性)腫瘍の概念と,分類および遺伝性腫瘍の意味について概説した。遺伝的因子が腫瘍発生に強く影響するものを遺伝性腫瘍という。遺伝性腫瘍の分類は実用的観点からなされていて,遺伝性腫瘍と家族性腫瘍の異同について述べた。McKusikによるMIMリストから引き継がれた OMIM(Online MIM) によると,臨床事項と遺伝子変異とが明らかな腫瘍だけを見ても,100以上の遺伝性の腫瘍が記載されている。すべての悪性腫瘍に共通する特定な原因遺伝子はいまだ発見されていない。遺伝性腫瘍を深く検討することによって,悪性腫瘍の本質が解明されることが期待される。
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2. |
わが国の遺伝性(家族性)腫瘍診療の歴史と将来展望
(冨田尚裕・田村和朗) |
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わが国の家族性腫瘍診療の発展に関しては,全国医療機関における遺伝子診療部門の設置,各種資格制度やセミナーの発足に加えて,日本家族性腫瘍学会などの学会や臓器別のコンソーシアムなどの貢献が大であった。遺伝とがんの2つの重要な側面を有する遺伝性(家族性)腫瘍の診療においては,専門的な知識・遺伝カウンセリングのスキル,および多職種によるチーム医療が必要不可欠である。また,日進月歩のゲノム医療の時代にあって,家族性腫瘍の診療スタッフは家族性腫瘍セミナーなどの受講によって,常に最新の知識の習得を継続する必要がある。
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3. |
遺伝性腫瘍研究の歴史的背景と今後の課題
(菅野康吉) |
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遺伝性腫瘍研究についての歴史的背景と今後の課題について解説する。遺伝性腫瘍の多くは,若年発症,特定のがん腫の家系内集積,多重多発がんの発症などの特徴を有する比較的希少な症例が研究対象とされてきた。現在では80種類以上の原因遺伝子が発見されているが,表現型がはっきりしない症例を含め,一般集団中の頻度などについては不明な点が多く,今後 population-based study や次世代シークエンサーによる multigene panel の解析が必要と考えられる。
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4. |
遺伝性腫瘍にかかわる遺伝カウンセリングの現状
(玉置知子・佐藤智佳・覚道真理子) |
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遺伝性腫瘍には,がん抑制遺伝子変異を原因とする常染色体優性遺伝性疾患と,DNA損傷・修復に関わる遺伝子変異を原因とする常染色体劣性遺伝性疾患がある。遺伝性腫瘍診療では,疾患の特性の把握のみならず既往歴・家族歴の聴取が不可欠であり,遺伝子診断や今度の疾患の進展,血縁者への影響を考えるうえで,遺伝カウンセリングのニーズは高い。次世代シークエンサーの臨床現場への導入が始まったことから,考慮すべきゲノム情報は増加しており,今後さらに遺伝性腫瘍に対する遺伝カウンセリングのニーズは重要性を増すとともに多様化すると推測される。
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5. |
遺伝性腫瘍の分子遺伝学
(藤田拡樹・千葉奈津子) |
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一般にがんは,多数のゲノム・エピゲノムの異常が蓄積して発生する多因子疾患で,遺伝性腫瘍は遺伝性の要因が圧倒的に大きい役割を果たしている腫瘍である。遺伝性腫瘍の原因遺伝子は多くはがん抑制遺伝子で,先天性の生殖細胞系列変異に加えて,体細胞に変異・欠失,あるいはメチル化などのゲノム・エピゲノムの異常が起きて,その遺伝子の機能が不活性化することにより,がん化が引き起こされる。近年の臨床研究・基礎研究により遺伝性腫瘍に関する理解が深まり,病態が解明されるとともに,その遺伝子診断も実践されている。今後はそれぞれの遺伝性腫瘍の病態に応じたより適切な個別化治療が実践されることが期待される。
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6. |
がん家系登録と情報管理
(吉村公雄) |
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登録では悉皆性と継続性が本来重要であるが,現状ではそれらに乏しい症例データベースも 「登録」 と呼ばれている。家系登録では,各家系構成員個人の情報だけでなく,各構成員間の血縁関係の情報も記録される。家系登録の目的は,診療実態を把握する臨床疫学的研究,そして分離比分析,関連法などによる疾患関連遺伝子探索,浸透率測定などの遺伝疫学的研究,さらに登録された個人に対する臨床的支援と臨床遺伝学的研究である。登録における継続性,データ品質,情報保護を保証するためには,登録体制の適切な構築が重要である。
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7. |
がん遺伝カウンセリング概論
(田村和朗) |
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家族性腫瘍症候群の診療は 「がん」 に加え,「遺伝」 という大きな課題に対しても対応を行う必要がある。現在,がん診療は個人の遺伝学的情報を基にパーソナルゲノム医療が希求されており,家族性腫瘍においても根拠に基づいた遺伝カウンセリング (evidence-based genetic/genomic counseling:EbGGC) が基本となる。現在,疾患の自然史を予測し,発症前遺伝学的検査に基づいたリスク低減手術,疾患特異的に効果を発揮する分子標的治療薬選定など多角的な対策を講じることが可能となり,当事者の自律性を重んじつつ,最適な医療を決定していく時代が到来した。
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●第2章 遺伝性腫瘍研究・診療各論 |
1. |
リンチ症候群
(赤木 究) |
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リンチ症候群は,大腸がんや子宮内膜がんなど種々のがんを好発する遺伝性腫瘍症候群で,常染色体優性遺伝形式を示す。原因遺伝子は,これまでに4つのDNAミスマッチ修復(MMR)遺伝子が同定されている。しかしながら,多発がん,若年発症,がんの家族集積性などの特徴を示す典型的な症例ばかりではないため,臨床情報のみでは見落とされる症例も少なくない。そのため,マイクロサテライト不安定性(MSI)検査や免疫組織染色を活用してリンチ症候群を予測し,医学的管理を行うことが重要である。
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2. |
家族性大腸腺腫症
(松原長秀) |
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多発ポリープを特徴とする家族性大腸腺腫症は,臨床症状がはっきりしているので古くから診断される機会が多く,原因遺伝子検査も不要と考えられてきた。しかし,同じ家族性大腸腺腫症の中にもポリープ数の少ない病態が存在することや,家族性大腸腺腫症の類縁疾患であるMUTYH 関連ポリポーシス,ポリメラーゼ校正遺伝子関連ポリポーシスなどの発見もあり,理解が複雑となってきた。リンチ症候群,遺伝性鋸歯状腺腫症候群を含め,確定診断のためには遺伝子診断が必要となる場面が増加している。今後,次世代シーケンスが遺伝子診断の効率を変える可能性がある。
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3. |
家族性多発性GIST
(廣田誠一) |
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家族性多発性GIST (gastrointestinal stromal tumor) は,生殖系列における c-kit 遺伝子の機能獲得性突然変異を原因とする。カハールの介在細胞のびまん性過形成を背景として多発性GISTが発生し,消化管以外の病変として,外陰部や手指などの皮膚色素沈着,マスト細胞性腫瘍の発生などがみられることがある。家族性多発性GISTは,散発性GISTにおける腫瘍発生機序や起源細胞に関する考え方を裏づける病態であり,モデルマウスも作製されている。家系やモデルマウスの解析を通じ,家族性多発性GISTのみならず,散発性GISTのより詳細な病態解明が期待される。
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4. |
Peutz-Jeghers症候群,若年性ポリポーシス症候群
(田中屋宏爾・石田秀行・江口英孝・尾形 毅・山崎理恵・竹内仁司) |
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Peutz-Jeghers症候群(PJS)と若年性ポリポーシス症候群(JPS)は,ともに常染色体優性遺伝性疾患で,消化管過誤腫性ポリポーシスと悪性腫瘍のリスク増加を特徴とする。PJSはSTK11 (LKB-1 ),JSPはSMAD4 とBMPR1A が原因遺伝子として同定されている。悪性腫瘍のリスクが高い臓器として,PJSは乳腺(女性),大腸,胃,膵臓,JPSは大腸,胃(胃ポリープ多発例)が挙げられる。いずれの疾患も,小児期から消化管を中心としたスクリーニングが必要となるが,発症年齢やポリープの数など表現系の差が大きく,症例に応じた対応が必要である。
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5. |
Cowden症候群(PTEN 過誤腫症候群)
(山口達郎・小泉浩一) |
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Cowden症候群は,がん抑制遺伝子であるPTEN 遺伝子の生殖細胞系列の病的変異を原因とし,常染色体優性遺伝の形式をとる稀な遺伝性疾患である。Bannayan-Riley-Ruvalcaba症候群,PTEN関連プロテウス症候群,プロテウス様症候群とともに PTEN 過誤腫症候群と呼ばれ,発生頻度は20万人あたり1人と報告されている。全身の消化管に過誤腫性ポリープが発生するほかに,巨頭症や成人型Lhermitte-Duclos病,特徴的な皮膚粘膜病変がみられる。また,乳がん,甲状腺がん,子宮内膜がんなどの悪性腫瘍を合併する頻度が高く,サーベイランスは重要である。
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6. |
Li-Fraumeni症候群
(恒松由記子) |
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Li-Fraumeni症候群(LFS)は,閉経前乳がんと骨・軟部肉腫・副腎皮質がん・脳腫瘍をコア腫瘍として,多様な部位から生ずる若年発症のがんで構成される遺伝性腫瘍症で,原因遺伝子はがん抑制遺伝子TP53 である。他の遺伝性腫瘍では短縮型変異が主であるのに対しLFSでは全長型のミスセンス変異が大部分を占め,なかでも野生型p53タンパクの機能を抑制するドミナントネガティブ変異が多い。「TP53 検出のためのChompretクライテリアの2015年再改定案」 を紹介し,LFSで生ずる腫瘍のスペクトラムについて詳述した。
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7. |
遺伝性乳がん卵巣がん症候群 - 乳腺科の立場から -
(大住省三) |
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遺伝性乳がん卵巣がん症候群は稀な疾患ではなく,私たちが普通に乳がんや卵巣がん患者の診療をしていると,この疾患の患者に頻繁に遭遇しているはずである。しかし,体表の異常などはなく,遺伝を意識して診療しなければ気づかずに容易に見逃される。この疾患の女性は,乳がん,卵巣がんに罹患する率が極めて高く,その体質は遺伝で血縁者間で共有していることが多い。こういった乳がん・卵巣がん高リスク者ががんで死亡することを防ぐことを目指すにはどうすればよいか。この論文では主に遺伝性乳がん卵巣がん症候群のがんの罹患率(浸透率),乳がんの予防法についての現状,鑑別診断などを中心に乳腺科の立場で述べることにする。
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8. |
遺伝性乳がん卵巣がん症候群 - 婦人科の立場から -
(平沢 晃・増田健太・青木大輔) |
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遺伝性乳がん卵巣がん(hereditary breast and ovarian cancer:HBOC)は BRCA1 または BRCA2 (BRCA1/2 )の生殖細胞変異が原因の遺伝性疾患であり,BRCA1/2 遺伝子変異保持者(mutant carrier)では乳がんや卵巣がんが高率に発症する。実地臨床でも遺伝的リスクを評価し,遺伝子変異のリスクが高い女性に対しては遺伝カウンセリングを勧めることが求められる。BRCA1/2 遺伝子変異保持者に対する有効な卵巣がんスクリーニング法は確立されていない。BRCA1/2 遺伝子変異保持者に対してリスク低減卵巣卵管切除術(risk reducing salpingo-oophorectomy:RRSO)を実施することにより卵巣がんや卵管がんの発症リスクが低減することは確実であり,卵巣がんや乳がんによる死亡率を低減することもほぼ確実とされている。RRSOの検体からoccult cancerが見つかることもあるため病理医との連携が重要である。
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9. |
Fanconi貧血 - DNAクロスリンク損傷修復の分子機構から臨床まで -
(平 明日香・稲野将二郎・高田 穣) |
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ファンコニ貧血(Fanconi anemia:FA)は先天性骨髄不全症候群の1つであり,1927年,スイスの小児科医Guido Fanconiによって初めて報告された劣性の小児遺伝性疾患である。人種間では特にユダヤ人(Ashkenazi Jews)に多い。本邦での発症は年間5〜7人前後と推定される。本症では,FA原因遺伝子の両アレル変異によって,染色体の不安定性を背景に,進行性の骨髄不全,急性骨髄性白血病や固形腫瘍の合併,先天奇形や不妊などの臨床症状が引き起こされる。ここでは,この疾患の臨床所見から分子機構まで,最新の知見を含めて概説する。
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10. |
多発性内分泌腫瘍症1型 (MEN1)
(鈴木眞一) |
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多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)は原発性副甲状腺機能亢進症,膵・消化管神経内分泌腫瘍,下垂体腺腫を3大病変とする MEN1 遺伝子の変異による常染色体優性遺伝形式をとる症候群である。原発性副甲状腺機能亢進症は非対称性多腺性であり,過剰腺も少なくない。膵・消化管神経内分泌腫瘍は非機能性が最も多く,機能性ではガストリノーマが最も多く,ついでインスリノーマである。いずれも多発性である。下垂体腺腫はプロラクチノーマが最も高頻度に認められる。予後に影響するのは膵・消化管神経内分泌腫瘍と胸腺NETである。
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11. |
多発性内分泌腫瘍症2型
(内野眞也) |
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多発性内分泌腫瘍症(MEN)2型は甲状腺髄様がん・褐色細胞腫・副甲状腺過形成を主徴とする常染色体優性遺伝性疾患であり,臨床病型として 2A と 2B に分類される。また家系内に甲状腺髄様がんのみがみられる場合を家族性甲状腺髄様がん(FMTC)と呼ぶ。いずれも原因遺伝子は染色体10q11.2に存在する RET がん遺伝子であり,その98%以上に RET 遺伝子の生殖細胞系列変異が証明される。変異にはホットスポットが存在し,変異は臨床病型と強い相関がある。遺伝学的検査ではエクソン10,
11, 13 〜 16を検索し,甲状腺髄様がんでは全症例に対してRET 遺伝学的検査が強く推奨される。
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12. |
母斑基底細胞がん症候群
(宮下俊之・藤井克則) |
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母斑基底細胞がん症候群は骨格などの小奇形と高発がんを特徴とする常染色体性優性遺伝病である。発生する腫瘍には基底細胞がん,髄芽腫,角化嚢胞性歯原性腫瘍などがある。責任遺伝子はソニックヘッジホッグの受容体をコードする PTCH1 である。同一家計内でも表現型は多様性に富むが,新規の変異も多い。浸透率はほぼ100%である。稀に PTCH2 や SUFU に変異をもつ症例があり,特に SUFU に変異がある場合,髄芽腫の発症頻度が高い。腫瘍の早期発見と不要な放射線・紫外線照射による発がんの予防のために,早期診断が重要である。
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13. |
Bloom(ブルーム)症候群
(金子英雄) |
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Bloom症候群は生下時からの小柄な体型,日光過敏性紅斑,免疫不全症,高率な悪性腫瘍の合併を特徴とする常染色体劣性の遺伝疾患である。病因遺伝子 BLM はDNAの二本鎖を一本鎖に巻き戻す働きを有するRecQヘリカーゼファミリーに属する。BLM 遺伝子は姉妹染色分体の組み換え抑制に必須のタンパクである。Bloom症候群では姉妹染色分体の組み換え頻度が健常の数十倍に増加しており,診断に有用である。定期的なフォローを行い早期に悪性腫瘍の発見,治療を行うことが生命予後の改善に重要である。
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14. |
色素性乾皮症
(中野英司・錦織千佳子) |
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色素性乾皮症はDNA修復異常による高発がん性の遺伝性疾患であり,日光曝露によって起こるDNA 損傷が蓄積し,露光部に皮膚がんが多発する。日本では重症型であるA群が半数以上を占めており,以前は10歳までに皮膚がんを発症する症例が多くみられた。近年では疾患概念が確立し,遮光の重要性も認識されるようになり,皮膚がんの頻度は減少しているものの,今後も新たに発症する患者が存在すると考えられる。遺伝子診断の体制を整え,早期診断するとともに,患者や家族への遮光指導を含めた診療体制の充実および疾患概念のさらなる周知を図る必要がある。
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15. |
結節性硬化症
(金田眞理) |
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結節性硬化症の原因遺伝子,TSC1 遺伝子とTSC2 遺伝子がつくるタンパク質ハマルチンとチュベリンの複合体はmammalian target of rapamycin complex1(mTORC1)を抑制することにより,その下流のS6K1や4E-BP1に作用し,細胞の増殖の制御を行う。同時に,ULKを抑制してオートファジーの促進を司る。したがってハマルチンとチュベリンの複合体が機能不全になっている結節性硬化症では,mTOTC1が恒常的に活性化し,全身に過誤腫を生じると同時に,てんかんや自閉症などの発達障害,白班を高頻度に認める。TSC1,TSC2 遺伝子はいずれも腫瘍抑制遺伝子で,いずれかの遺伝子でloss of heterozygosity(LOH)が起こることにより腫瘍性病変が出現すると考えられているが,臓器によりLOH の頻度に違いを認める。TSC1,TSC2 遺伝子は共同で作用するために,臨床的にTSC1とTSC2とを区別するのは困難である。
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16. |
遺伝性網膜芽細胞腫
(鈴木茂伸) |
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網膜芽細胞腫は小児の網膜に生じる悪性腫瘍であり,新規患者数は年間70〜80名である。眼球内限局期は生命予後良好であるが,眼球外浸潤,転移を生じると予後不良である。原因遺伝子は13番染色体長腕の RB1 遺伝子(13q14.2)である。RB1 遺伝子の生殖細胞系列変異を有する場合が遺伝性網膜芽細胞腫であり,両側性症例と片側性症例の1/6である。遺伝性の場合には,体細胞における発がんにも関与し,肉腫など二次がんの発症が増加し,松果体芽腫など三側性網膜芽細胞腫にも注意が必要である。RB1 遺伝子検査は先進医療で行われている。
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17. |
神経線維腫症1型 (NF1)
(太田有史) |
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神経線維腫症1型(NF1)は,皮膚および神経に生じる多発性の神経線維腫,カフェオレ斑と呼ばれる色素斑を主徴とし,骨の変化,脳脊髄腫瘍,眼病変,発達障害など多彩な症状を呈する常染色体優性疾患である。原因遺伝子は,NF1 遺伝子である。個々の患者にすべての症候がそろうわけではなく重症度も様々である。同一家系内でも軽重の程度が異なる。NF1 遺伝子は腫瘍抑制遺伝子の1つであること,NF1 遺伝子変異と臨床症状相関は一部の例外を除いて見出されていないこと,NF1マウスモデルからの神経線維腫発生に関する知見について記載した。
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18. |
神経線維腫症2型 (NF2)
(齋藤 清) |
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神経線維腫症2型(NF2)は両側の前庭神経鞘腫を主徴とする常染色体優性遺伝疾患で,脳・脊髄など中枢神経系に神経鞘腫,髄膜腫が多発する。原因遺伝子は22番染色体長腕(22q12.2)に存在し,遺伝子産物merlinは腫瘍抑制タンパクで,NF2では正常のmerlinができないために腫瘍が発生する。浸透率は100%であり,子供には50%の確立で遺伝する。ただし,半数以上のNF2患者は親からの遺伝ではなく,本人の体発生時にmerlinに遺伝子異常が生じて発症している。腫瘍が多発するために治療は困難であるが,増大する腫瘍や症状の原因となっている腫瘍には摘出術または定位放射線治療を行う。
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19. |
von Hippel-Lindau(VHL)病
(執印太郎・山崎一郎・井上啓史・田村賢司) |
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von Hippel-Lindau病は常染色体優性遺伝性疾患で,多臓器に腫瘍と嚢胞を多発する。網膜血管腫,中枢神経系の血管芽腫,膵臓の神経内分泌腫瘍・嚢胞,副腎褐色細胞腫,腎腫瘍・嚢胞,精巣上体嚢胞腺腫,女性で子宮広間膜嚢腫,内耳リンパ嚢腫などが報告されている。歴史的にドイツの眼科医Eugen von Hippelが網膜の多発血管腫の家族例に注目し,19世紀末から20世紀初頭に報告し,スウェーデンの神経病理医でArvid Lindauは網膜,中枢神経系にも血管腫を多発する家族例の病理検索所見を報告した。この2医師の名称より,von Hippel-Lindau病と命名された。家系の連鎖解析により,ヒト染色体3番短腕上に原因遺伝子の局在を推定し,5年後に米国NIH/NCIのグループがpositional cloning法により染色体3p(短腕)25の領域に原因遺伝子を同定し,von Hippel-Lindau 病(VHL)遺伝子として1993年に報告した。国内調査の結果には約260家系が存在し,1000名弱の患者がいることが推測されている。
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20. |
遺伝性前立腺がん
(鈴木和浩) |
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前立腺がんの家族内集積性から遺伝性および家族性前立腺がん家系が定義された。3世代にわたる罹患,1核家族内3人以上の罹患,55 歳以下の2名以上の罹患家系を遺伝性,これらを満たさない2名の罹患を家族性としている。単一の責任遺伝子は同定されていないが,GWASなどによる検討から発症リスクと関連した遺伝子変化が報告されてきている。臨床的には,前立腺がんの家族歴が発症リスクと有意に関連しており,スクリーニングでは高リスク群として認識され,より若年からのスクリーニング対象となっている。今後,遺伝子変化を加味したスクリーニングも期待されている。
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21. |
家族性胃がん
(岩泉守哉・椙村春彦) |
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家族性胃がんは,遺伝の影響ばかりではないことが想像され,特に本邦やユーラシア大陸の中央部から辺縁部にかけては,国際的にも胃がんの頻度が高く,また40代未満の若年発症例も一定割合存在する。疾患概念として確立している CDH1 関連びまん性遺伝性胃がんに限っても,コピー数変異や de novo 発症例が見つかって,対象もまた方法論的にも検索しなければいけない範囲が拡大している。世界中で次世代シークエンスによって,CDH1 の変化のない例の原因となる生殖細胞系列の変化の探索が行われていて,いくつか成果が出ているが散発例が多い。生殖細胞系列の遺伝子異常による胃がんは,その他の遺伝性悪性腫瘍の一構成分として生じることも頻繁にあり,乳腺科・小児科など多科横断的なロジスティクスが必須であり,それでも,ある1家系が特定の遺伝子(既知であれ未知であれ)による遺伝性と認識されるまで10数年から数十年かかることは稀ではない。
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22. |
家族性膵臓がん
(谷内田真一) |
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家族性膵臓がん家系は「膵臓がんに罹患した一対以上の第1 度近親者がいる家系で,既知の(遺伝性)がん症候群・遺伝性膵炎を除いたもの」と定義される。欧米では以前よりその登録制度が確立し,その臨床像や原因遺伝子の探索が行われてきた。欧米では,膵臓がんの約1割は家族性膵臓がんとされ,その原因遺伝子は遺伝性乳がん・卵巣がん症候群と類似している(BRCA1/2 やPALB2 など)。本邦では,2014年に日本膵臓学会・家族性膵癌レジストリ委員会を中心に,登録制度が始まった。今後,この登録制度を基盤にして,その付随研究が行われ,膵臓がんの早期診断法の開発や本邦における原因遺伝子の探索が期待される。
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23. |
大腸癌研究会における家族性大腸がんへの取り組み
(石田秀行・岩間毅夫・冨田尚裕・小泉浩一・古川洋一・
田中屋宏爾・上野秀樹・渡邉聡明・杉原健一) |
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大腸癌研究会では家族性大腸腺腫症の登録と,家族集積性大腸がんの家系調査・リンチ症候群の遺伝子解析などを行ってきた。また,2014年には家族性大腸腺腫症とリンチ症候群を対象とした 「遺伝性大腸癌診療ガイドライン」 を発刊した。その後の活動として,診療ガイドラインの改訂を見据えた家族性大腸腺腫症の後方視的多施設共同研究において,初回手術319例を集積した。また,HNPCCに関する第2 次プロジェクト研究で集積された症例から,リンチ症候群の生活習慣と大腸多発がんの関係,家族性大腸がんタイプXの臨床病理学的特徴を明らかにした。大腸癌研究会(家族性大腸癌委員会)のコンセプトはオールジャパンの体制で家族性大腸がんの研究基盤を構築し,得られた知見を国内外に発信することである。
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24. |
日本乳癌学会および日本HBOCコンソーシアムにおける
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群への取り組み
(中村清吾) |
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遺伝性の乳がんは,全体の5〜10%といわれている。原発性乳がん患者の中で,家族集積性が高い方は15〜20%存在し,その中の20〜30%に特に遺伝性乳がん卵巣がんの引き金となるBRCA1/2 の病的変異が見つかる。もし遺伝性であるならば,MRIを用いたより精緻な検診や,予防的(リスク低減)乳房切除術やリスク低減卵巣卵管切除術,あるいはPARP阻害剤などの適応など,個々の患者の価値観・人生観などをもとに,その人にふさわしい診療方針を選択していく必要があり,家族への対応なども含めた十分なカウンセリングに対応できる診療システムの構築が望まれる。
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25. |
多発性内分泌腫瘍症研究コンソーシアムの使命と活動
(櫻井晃洋) |
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多発性内分泌腫瘍症(MEN)は内分泌内科医・内分泌外科医にとっても決して頻繁に遭遇する疾患ではない。希少疾患では個々の医師の経験の蓄積には限界があり,病態の全貌の解明,診療の標準化などの実現に多くの困難を伴う。日本の医療制度は,居住地にかかわらずすべての患者が同質の医療を受けられることを前提としているが,高い専門性が求められる希少疾患ではむしろ均てん化よりも集約化が求められる。この時に必要なのが「ネットワーク」である。それはすべての患者や医療者が共有できる 「情報」 のネットワークであり,円滑な連携による 「診療」 のネットワークであり,疾患克服をめざす 「研究」 のネットワークであり,そして患者・家族同士をつなぐ 「人」 のネットワークである。ここでは,筆者らがこれまでに活動を続けてきたMENコンソーシアムの取り組みを紹介する。
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26. |
先端的ゲノム手法を駆使したヒト疾患の原因解明
(内山由理・松本直通) |
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ヒト疾患ゲノム解析において既にスタンダードな解析技術となった感のある次世代シーケンサーだが,シーケンサーの種類,解析領域(全ゲノム・全遺伝子・選択的遺伝子群),周辺機器,インフォマティクス解析フローなどにより幅広い解析が可能となっている。また対象疾患も,メンデル遺伝性疾患,稀なバリアントが様々に関与する多遺伝子疾患,腫瘍性疾患など拡大しつつある。本稿では,当研究室における次世代シーケンサーを用いたヒト疾患ゲノム解析の現状を概説する。
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27. |
遺伝性腫瘍情報データベースとその活用
(西尾 瞳・平岡弓枝・本田明夏・小杉眞司) |
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遺伝性腫瘍に関係する情報を検索するデータベースとして重要と思われるものを取り上げた。遺伝性腫瘍の中でも特に頻度が高い大腸がん(Lynch症候群,家族性大腸腺腫症など),遺伝性乳がん卵巣がんについて,様々な情報が公開されている。国際消化管遺伝性腫瘍学会InSiGHT (The International Society for Gastrointestinal Hereditary Tumors Incorporated) が公開している情報は,特に前者に有用である。後者については公開されている情報は限られているが,WHO,フランスINSERM,ユタ大学などが変異などの情報をデータベース化している。また,変異存在確率を予測するプログラムである BRACAPRO や KOHCal も利用可能である。
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●第3章 がん遺伝カウンセリング各論 |
1. |
がん遺伝カウンセリングの役割,考え方
(武田祐子) |
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遺伝性腫瘍の可能性がある,あるいはそのことを心配する患者や家族を対象として遺伝カウンセリングが行われる。がんの遺伝カウンセリングは,がんと遺伝に関する情報提供を基盤に,リスクアセスメントを行い,その過程では遺伝学的検査の活用について検討し,その後の対策を患者・家族と共に検討していく信頼関係に基づくコミュニケーションのプロセスである。そのことを通して,がんの予防,早期発見・治療に貢献し,家族内での情報共有や関係性,人生設計への影響などを視野に入れた支援をしていく役割を担うものである。
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2. |
がん遺伝カウンセリングの構成と実践
(四元淳子) |
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遺伝性腫瘍に対する遺伝カウンセリングにおける情報提供の内容は漸次変化しつつある。遺伝カウンセリングの内容や構成については常にup to dateを心掛け,最新かつ信頼のおける情報提供に努めなければならない。クライエントが,その人生において,遺伝性腫瘍とどう向き合っていくかには,それぞれ個別の選択がありうることを念頭に,医療的側面とともにQOLまで含めた全人的な遺伝カウンセリングが求められる。本稿では,遺伝性腫瘍の遺伝カウンセリングの内容と構成,そして基本的な技術的要素について述べる。
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3. |
がん遺伝カウンセリングにおける他科連携
(村上好恵) |
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遺伝性腫瘍は,多臓器にわたり同時性・異時性にがんを発症するという特徴があるため,患者は生涯にわたり医療機関への受診が必要となる。患者や家族ががんの早期発見・早期治療につながる検診を継続できるように様々な診療科が連携し,患者や家族にとって有益な医療を提供することは医療者の責務である。遺伝性腫瘍も様々な特徴をもつため,画一的な連携の方略が存在するわけではないが,遺伝性腫瘍を発症した患者の若年死亡を回避するためには診療科の枠を超えた情報共有や継続医療の提供のあり方を検討する必要がある。
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4. |
家族歴・家系情報に基づく遺伝性腫瘍のアセスメント
(甲畑宏子) |
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家族歴から得られる情報は,診断やリスク評価に役立つだけでなく,教育支援や心理社会的支援の方法を検討する際の手掛かりとなる。家族歴の聴取と家族歴に基づいたアセスメントスキルは,遺伝カウンセリングを有効に進めていくための強力なツールである。本稿では,家族歴聴取の効果的・効率的な聴取方法とアセスメント時の注意点について述べたいと思う。
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5. |
がん遺伝カウンセリングの心理社会的側面への対応
(浦野真理・斎藤加代子) |
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がんの遺伝カウンセリングは,一般的な遺伝カウンセリングの留意点に加えて,がん発症に伴う心理的な負担を理解する必要がある。疾患関連遺伝子が次々と判明し,誰もがリスクを有しているとわかった現代においては,がん臨床遺伝学の分野でも遺伝カウンセリングがますます重要な位置を占めるようになると思われる。カウンセリングのセッションを通して,心理社会的アセスメントを行い,クライエントを理解すること,リスク情報への反応や社会資源とコーピングの方法に焦点づけることを含みながら進めていくことが望まれる。
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6. |
がん遺伝カウンセリングのフォローアップ,マネジメント
(石川真澄・黄瀬恵美子・古庄知己) |
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がん遺伝カウンセリング来談後のフォローアップとマネジメントについて遺伝学的検査の有無とその結果を軸にまとめる。遺伝子変異の有無によって,術式の決定や明確なサーベイランスの提案など医療面での判断が促進されることもある一方,家族性腫瘍の確定・不確定による精神的負担を感じるクライエントもいる。家族性腫瘍の遺伝学的検査は家系員にも関わる遺伝情報になりうるため,発端者個人との関わりだけでなく,家系員も含めた医療面・心理面での継続的なフォローアップとマネジメントを行っていくことが重要であると考えられる。
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7. |
がん遺伝カウンセリングの実際(ケーススタディ) |
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1) |
遺伝性大腸がん
(青木美保・菊地茉莉・赤木 究) |
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日常の診療で経験することが多い遺伝性大腸がんとして,リンチ症候群〔遺伝性非ポリポーシス大腸がん(hereditary non-polyposis colon cancer)〕や家族性大腸腺腫症〔家族性大腸ポリポーシス(familial adenomatous polyposis:FAP)〕がある。これらの疾患に対しては,定期的な下部消化管・上部消化管内視鏡を実施することにより予防的・治療的効果が期待できる。遺伝性腫瘍が疑われた場合は,本人および血縁者の遺伝学的リスク評価を行い,健康管理につなげることが重要である。
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2) |
遺伝性乳がん卵巣がん
(金子景香) |
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遺伝性乳がん卵巣がん(HBOC)診療の目的は,遺伝的な高リスク家系の方々が適切な医学的な管理を選択し,受けられるようにすることによって,がんによる死亡を防ぐことである。遺伝カウンセリングでは,家族歴の聴取,リスク評価,疾患に関する情報提供,遺伝子検査の選択肢の提示,サーベイランスや予防的手術に関する話し合いなどを行う。対象は,がん既発症者とその血縁者であり,家系的な広がりをもつという特徴とともに,継続的なフォローアップが必要となる。今回は3症例を提示し,遺伝カウンセリングの過程やそこから見える課題について紹介する。
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3) |
Li-Fraumeni症候群の遺伝カウンセリング
(田村智英子) |
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Li-Fraumeni症候群(LFS)は,発症するがんの種類が多岐にわたり発症年齢も小児から大人まで幅広い疾患であり,本疾患に直面した人々に大きな不安をもたらす。本疾患の遺伝カウンセリングでは,疾患特有の配慮事項を念頭におき,相手の様々な心情に配慮しつつ,わかりやすく十分な情報提供を行い,検診サーベイランスの計画,実施につなげる。小児の TP53 遺伝子検査が行われることもある。確実に有用性が認められた検診のプロトコールは存在しないなど,LFS診療には限界があるが,LFSの情報が人々の適切な健康管理につながるよう,話し合いを重ねていくことが有用である。
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4) |
多発性内分泌腫瘍
(角田ますみ) |
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多発性内分泌腫瘍(multiple endocrine neoplasia:MEN)は,複数の内分泌臓器に腫瘍や過形成を生じる常染色体優性遺伝性疾患で,MEN1型はMEN1遺伝子,MEN2型と家族性甲状腺髄様がん(familial medullary thyroid cancer:FTMC)はRET遺伝子の病的変異に起因する。特徴として,①腫瘍のホルモン産出過多に伴う症状がある,②浸透率が高く,生涯発症率がほぼ100%である,③50%の確率で患者から子へ変異遺伝子が受け継がれるなどが挙げられ,それが遺伝カウンセリング時に重要なポイントになる。また遺伝性疾患とともに生きるということは,身体的な問題のみならず心理的・社会的な問題を抱え,血縁者や家族との関係や長期間にわたる本人の人生設計に大きな影響を及ぼす。こうした悩みを抱えるクライエントを全人的にとらえ長いスパンで支援するのが,遺伝カウンセリングの仕事である。
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8. |
認定遺伝カウンセラー制度と教育トレーニング
(山内泰子) |
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認定遺伝カウンセラー制度はわが国における遺伝カウンセリング担当者(非医師)を養成するものである。専門教育は認定遺伝カウンセラー養成課程設置の大学院で行われる。実践を支える基本的な知識(人類遺伝学・遺伝医学,カウンセリング理論と技術,倫理や社会)と態度を身につけ,どの領域でも対応できる基盤を修得する。認定試験に合格・資格取得後も継続的な研修が課せられている。就職後の現場に応じた最新の知識およびトレーニングを積み,医師などの関連識者との協同が肝要で,広く関わる領域の専門家の協力が不可欠である。
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●第4章 倫理的・法的・社会的諸問題 |
1. |
がん素因の遺伝子診断の倫理的・法的・社会的諸問題
- 特にIncidental Findingsについて
(恒松由記子) |
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がん素因遺伝子診断は,インフォームドコンセントを重視しながら,患者それぞれの遺伝的リスクを個別化し,予防・治療を行い,がんの罹患を低下させ生存率を上昇させるべく,ゲノム医療の先駆けを担ってきた。近年,分子標的治療が適応になっているがん種では,標的となる 「がんゲノム」 (体細胞レベル)を検索する必要が出てきた。また,わが国でも素因遺伝子診断において,次世代シーケンスを応用した多数の遺伝子を同時に解析するパネル診断が使用される機運にある。体細胞レベルのがんゲノム診断時にも,素因遺伝子診断においても予期せぬ偶発的(二次的)所見が発見される可能性があり,事前のインフォームドコンセントの必要性が生じてきた。
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2. |
遺伝子解析を伴う家族性腫瘍の倫理的諸問題
(丸 祐一) |
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がん研究の中でも,生殖細胞系列の遺伝子解析を主たる目的とする家族性腫瘍研究は,他のがん研究とは異なる研究倫理上の配慮が必要となる。ここでは特に発端者たる患者とその家系員の研究参加に伴って生じる諸問題について概観する。
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●索引 |