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内容目次 |
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●序文 (奥野恭史) |
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●第1章 創薬標的分子探索におけるインフォマティクス
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1. |
ゲノムインフォマティクス - 次世代シーケンサデータ解析の実践 -
(谷嶋成樹・石川元一) |
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2005 年前後に出現した次世代シーケンサは,実に年率5 倍以上の割合でスループットを向上させており,急速に研究現場に浸透しつつある。もし,次世代シーケンサを有効に活用できれば,今までにない網羅性と定量性をもった遺伝子解析結果を得ることができるが,そのためにはデータ解析環境の整備が不可欠である。本稿は,データ解析に必要となる計算機システムからソフトウエアまで,できるかぎり実践的なノウハウを解説する。
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2. |
マイクロアレイインフォマティクス
(藤原 大・辻本豪三)
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マイクロアレイはゲノム変化,遺伝子発現,メチル化を網羅的に解析する有効な測定手法になっている。しかしながら,測定結果から創薬につながる情報を得るためには,インフォマティクスが必要不可欠である。本稿では,マイクロアレイから得られるデータ解析ツールとして,GenePattern とCisGenome を中心に取り上げ,個別化医療・創薬ターゲット探索を目的に,その概要とSNP チップ・マクロアレイ・タイリングアレイ解析方法について記載する。
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3. |
遺伝子発現データを用いたパスウェイ解析(IPA解析)
(中津則之・山田 弘・漆谷徹郎) |
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近年のゲノミクスなど網羅的なオミクス解析から大量のデータが取得されるようになり,その中から目的の知識を探し出すことが非常に重要である。これらのデータの中からバイオインフォマティクス的手法により得られた何らかの意味づけをもつ遺伝子・タンパク質・化合物のグループに対し,生物学的な考察を行う必要がある。このような手法の1 つとしてパスウェイ解析がある。本稿では,パスウェイ解析の統合ソフトである Ingenuity Pathway Analysis を例にパスウェイ解析の手法について概説する。
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4. |
プロテオミクス・リピドミクスデータ解析
(横井靖人・佐久間朋寛・菊池紀広)
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本稿では,液体クロマトグラフ質量分析器 (LC-MS) を用いたノンラベル定量ソフトウエアである2DICAL と脂質同定ソフトウエアLipid Search について紹介する。Lipid Search は質量分析データからのピーク抽出からデータ中に含有する脂質同定・定量計算を自動で実行するソフトウエアで,臓器ごとの脂質プロファイル解析や正常組織と病態組織の比較変動解析などに応用されている。2DICALはLC-MS で測定した試料中の生体分子を網羅的に定量し,多数検体間で比較解析するソフトウエアであり,プロテオームに限らずメタボローム,リピドームの分野でも利用されている。
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5. |
定量プロテオミクス解析
(青島 健)
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創薬研究において,ターゲット探索,MOA,薬剤作用機序研究などで少なからずプロテオミクス技術が使われるようになってきた。これまでは同定ベースの研究が中心であったが,細胞や組織に発現しているタンパク質をやみくもに同定しても直ちに創薬研究に貢献できるとはいえない。生物学的な機能とリンクしたタンパク質の発現量に関する情報が今後の創薬研究に必要不可欠となってきている。本稿では,創薬現場で利用されている定量プロテオミクス解析ツールの1 つであるMaxQuant の利用方法についてマニュアル形式で解説する。
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6. |
タンパク質間相互作用予測と創薬応用
(吉川達也)
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タンパク質間相互作用は様々な生命活動において重要な役割を果たしており,最近では抗体医薬品開発などへの応用が期待されている。本稿では,タンパク質の立体構造情報に基づいた研究として,タンパク質-タンパク質ドッキングを紹介する。高精度ドッキングプログラムZDOCK
を用いて,抗体-抗原タンパク質の複合体予測を行うための具体的な手順を示した。今後,バイオインフォマティクスの手法を利用した研究成果が,薬剤開発の現場で本格的に利用されるようになれば,これまでは難しかった病気の早期発見や難病治療が実現する日も夢ではないだろう。
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7. |
システム創薬とソフトウエア・プラットフォーム
(松岡由希子・浅井義之・Samik Ghosh・北野宏明)
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システム創薬は,システムバイオロジーの手法を用いた創薬である。生物システムのロバストネスや脆弱性などの基本原理の理解をもとに,創薬ターゲットに関する動的モデルを構築,効果推定を行うもので,特に創薬のディスカバリー
フェーズとトランスレーション フェーズでその貢献が見込まれる。精密なモデルの構築や,複雑なシミュレーション/解析を行うため,データ/モデル形式などの標準化と,標準に準拠したソフトウエア/ツール群が必要である。さらに,それらをシームレスにつなぐ共通プラットフォームの構築が重要である。
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●第2章 リード化合物探索・最適化におけるインフォマティクス |
1. |
リガンド情報に基づくバーチャルスクリーニング
(薮内弘昭・奥野恭史)
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「リガンド情報に基づくバーチャルスクリーニング(LBVS)」 は,既知リガンドに類似した化合物を探索する手法であり,リガンド情報さえあれば適用できるという特徴をもつ。本稿では,代表的なLBVSとして,分子記述子を用いた類似性検索,骨格検出&部分構造検索,ファーマコフォア検索に焦点を当て,商用ならびにフリーソフトを紹介しつつ,実際の処理手順について解説する。また,LBVSのモデル選択・モデル改良の基準となる性能評価方法についても概説する。
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2. |
構造情報に基づくバーチャルスクリーニング
(広川貴次)
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構造情報に基づくバーチャルスクリーニングは,タンパク質構造情報に基づいた形状相補性や相互作用計算により化合物を選定するスクリーニング戦略で,既知活性化合物情報に依存しない新規ケモタイプが発見しやすく,化合物の結合に関するエネルギー的寄与を評価できるなどのタンパク質構造情報を生かした長所をもつ。しかし,タンパク質の立体構造さえ用意できれば一定のヒットが得られるほど技術は自動化されておらず,解析過程において様々な留意点がある。本稿では,実際の解析手順に沿って概要やポイントについて説明する。
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3. |
ケミカルゲノミクス情報に基づくバーチャルスクリーニング
(金井千里・村上竜太・奥野恭史)
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ケミカルゲノミクス情報に基づいた化合物‐タンパク質の結合を予測する計算手法は最近提案された手法であり,従来のインシリコスクリーニングとは異なる視点から化合物の活性を予測できる。弊社では,これを低コスト高ヒット率の新規手法のインシリコスクリーニング法としてサービスしている。ここでは予測モデルの作成から化合物の活性予測までの一連の計算の流れを解説して,GPCR のアドレナリン受容体をターゲットとした市販化合物スクリーニングを題材に計算例を紹介する。
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4. |
インシリコ創薬ソフトmyPresto を用いたドラッグスクリーニング
(福西快文)
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創薬支援ソフトウエアmyPresto は,タンパク質の薬物結合ポケット予測,タンパク質の分子動力学シミュレーションソフト,タンパク質-化合物ドッキングソフト,タンパク質の構造を基礎にしたスクリーニングソフト,活性化合物の類似化合物を探索するソフト,インシリコスクリーニング結果の信頼性を評価する方法などからなるが,本稿では問い合わせの多かったタンパク質の準備方法・注意点や,薬物スクリーニングにおけるタンパク質の選び方,使用上の注意点,結果の操作の仕方について説明する。
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5. |
フラグメントベースドラッグデザインにおける計算化学
(大野一樹・新美達也・折田正弥)
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フラグメントベースドラッグデザイン (FBDD) は,ハイスループットスクリーニングを補完するリード創出手法として注目されている。FBDD では,分子量150〜300 程度の化合物(フラグメント)ライブラリーの中から物理化学的手法に基づくスクリーニングでヒットを探し,見出されたヒットフラグメントと標的分子との複合体構造を明らかにし,その情報に基づきヒットフラグメントから合成展開を実施する。本稿では,FBDD における計算化学の主要な3 つの役割,つまりライブラリーデザイン,フラグメントの優先順位づけ,フラグメントの合成展開の方向性の決定について説明する。
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6. |
フラグメント分子軌道法によるタンパク質とリガンドの相互作用解析
(北浦和夫)
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コンピュータの計算力の向上と理論の発展により,生体高分子のような巨大分子の量子化学計算が可能になってきた。量子化学計算は生体高分子とリガンドとの分子間相互作用を精密に解析することが可能なことから,これまでドラッグデザインにおいて用いられてきた経験的・古典的エネルギー関数による結合シミュレーションを補完するものとして,創薬研究の効率化に貢献することが期待されている。本稿では,私達が開発したフラグメント分子軌道 (FMO) 法について,理論の概要と計算プログラムの使い方を述べる。
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7. |
ケモインフォマティクスによる合成デザインと反応生成物の予測
(船津公人) |
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ケモインフォマティクスとは化学情報の統計的手法ならびに知識工学的手法による取り扱いを中心とした知識発見的な研究分野である。ここで述べる合成デザインや反応生成物予測のほかに分子設計などの分野で近年その有用性が世界的に大きく認められてきている。本稿では,このケモインフォマティクス手法による合成デザイン
・ 反応生成物予測手法の考え方とその実例を示しながら,この分野が今後の有機合成化学や創薬分野に果たす視点や役割について考えることにしたい。
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●第3章 前臨床・臨床・市販後のインフォマティクス |
1. |
トキシコゲノミクスのためのインフォマティクス
(五十嵐芳暢・山田 弘・漆谷徹郎)
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トキシコゲノミクスは動物や細胞への化合物投与によって引き起こされる遺伝子発現変動をGeneChip などで網羅的に測定し,計算機解析によって毒性の評価と予測をめざす分野である。創薬の 前臨床の段階で薬剤候補化合物の肝・腎毒性の危険性を早期に予測し,そのような化合物をあらかじめ排除しておくことは,薬の安全性はもとより企業の時間的・経済的な貢献につながる。本稿ではトキシコゲノミクスインフォマティクスプロジェクトでの知見を基にした遺伝子マーカー候補の抽出とマーカー遺伝子を用いた簡易的な予測方法について紹介する。
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2. |
薬物動態シミュレーション
(本間 雅・鈴木洋史)
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創薬段階における薬物動態解析の重要な役割の1 つとして,ヒトに投与した際の血漿中濃度推移を推定することが挙げられる。一般に,薬物の非結合型分率で補正した組織分布容積や,腎排泄過程に関しては比較的良好なアロメトリーが成立することが知られており,動物実験の結果を基にヒトへの外挿を行うことが可能である。一方で,肝代謝過程に関しては種差が大きく慎重な解析が必要となる。本稿では,肝ミクロソームを用いた in vitro の代謝実験と動物実験の結果を基にヒト肝クリアランスを推定する手法を題材に選び,薬物動態解析ソフトであるNapp の紹介をする。
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3. |
ADMET分野のインフォマティクスツール
(北島正人)
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われわれは,創薬効率化のためのADMET (absorption distribution metabolism excretion toxicity) の研究開発の支援ツールであるADMET ソフトウエア,データベースを開発してきた。本稿では,化合物構造からの in silico 上でADMET を予測するソフトウエアである 「ADMEWORKS」, 薬物動態に関する情報を統合したデータベースの 「ADMEDatabase」,薬物間相互作用を定量的に予測するためのソフトウエア 「DDI Simulator」 について,操作方法および活用方法について紹介する。
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4. |
有害事象データベース 『Czeek V』 によるファーマコビジランス
(五島 誠・多門啓子) |
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薬物治療における重大な問題の1 つに副作用問題がある。これは莫大な医療費を要するだけでなく,患者のQOL を損ね,重篤なものでは生命をも脅かす。副作用被害を最小限にとどめるためには,医薬品の市販後の多様な使用例を収集し,安全性を監視することが重要である。本稿では,米国食品医薬品局 (FDA) が公開している有害事象の自発報告システムのデータを適切に整理・統計解析することにより,ファーマコビジランス (医薬品安全性監視) を実現したウェブシステム 『Czeek V』 について紹介する。
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●第4章 創薬インフォマティクスリテラシー |
1. |
創薬インフォマティクスのためのデータマイニング概論
(新島 聡)
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多様な化合物データを扱う創薬インフォマティクスにおいて,データマイニングは必要不可欠な技術である。本稿では,特に化合物データのマイニングに焦点を当て,化合物フィンガープリント,記述子の算出や,化合物の活性・非活性予測,定量的構造活性相関 (QSAR) 解析に関わるデータマイニング技術の一端を,オープンソースの統計解析ソフトであるR を利用して紹介する。
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2. |
創薬に役立つケミカル・バイオデータベース
(荒木通啓)
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創薬プロセスは,今もなお不確実性を伴うプロセスとして,研究開発コストに対するリターンの予測が極めて困難なプロセスの1 つであり,近年では研究開発コストを増大させることにより,New Chemical Entities (NCE) と称される新規医薬品の出現確率を上げている状況にある。しかしながら,新規医薬品の出現頻度については,この60 年間大きくは変化していないという報告もあり,一定の研究開発コストに対する新規医薬品の出現確率そのものの低下といった,今後の創薬プロセスにおいて閉塞的な状況も懸念されることから,創薬に関わる意思決定プロセスの見直しも含め,多様性ある創薬に向けた新しいアイデアが必要とされている。一般に,創薬プロセスにおいては属人的な専門知識に依存した広義の分業体制が築かれているが,個人レベルにおいては各人の視座拡大により専門知識の枠を新たな分野・領域に拡大・展開することが,組織レベルにおいては組織間の有機的な連携強化・情報流通の促進による新たな創薬価値の発掘が必要となってくるであろう。このためには,創薬の歴史において蓄積されてきた事例・情報を再考し,新たな知識体系の整理・構築を行う必要があり,創薬のためのデータベースはその一助として有効なツールの1 つと考えられる。本稿では,その中でも化合物・薬品情報を含むデータベースを中心として,一部を紹介する。
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3. |
創薬におけるマウスデータベースの意義とその利用法
(瀬木(西田)恵里・山本佳宏)
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種々のオミクス解析により病態の総体をシステムとして解析する手法が注目されているが,実際の創薬プロセスにおいては創薬ターゲットを絞り込むために,分子の病態における機能を検討することが必須である。しかしながら,生物の機能の多彩さのため,機能に焦点を当てたデータベース構築は容易ではない。本稿では,機能データベースとして有用な以下の2 つのデータベース,①遺伝子改変マウス表現情報を含む遺伝的・生物学的な情報を提供する Mouse Genome Informatics,②マウス脳領域における21000 個以上の遺伝子発現を詳細に示した Allen Brain Atlas を紹介する。
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4. |
Pipeline Pilotによる創薬インフォマティクスの効率化
(西崎 稔・平井啓介) |
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今日,創薬現場において,何百万という化学構造式やそれに伴う活性・毒性情報,物性プロファイル,タンパク質のアミノ酸配列など,膨大な情報が溢れている。「ワークフロー型プラットフォーム」 と呼ばれるソフトウエアの利用により,必要な情報を抽出し,解析し,レポーティングする,またこの一連の流れを 『プロトコル』 として定型化し,いつでも利用することが実現できる。創薬現場において情報処理速度を飛躍的に向上させ,自動高速ドッキングや QSAR,活性予測,データベース検索,ライブラリー構築などの創薬手法についても効率化を一層進めることができる。
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●索引 |