|
内容目次 |
|
● |
序文 (山本 昌) |
|
 |
|
●第1章 製剤添加物によるペプチド・タンパク性医薬品の経口ならびに経粘膜吸収性の改善 |
|
1. |
新規吸収促進剤を用いたペプチド・タンパク性医薬品の消化管吸収性の改善
(山本 昌) |
|
一般に,ペプチド・タンパク性医薬品は,経口投与後,消化管内のタンパク分解酵素により速やかに分解を受けたり,あるいは消化管粘膜を透過しにくいため,経口投与後の吸収率は十分でない。そこで最近では,経口投与後のこれら医薬品の吸収率を改善するため種々の方法が試みられている。これらの方法は,①吸収促進剤およびタンパク分解酵素阻害剤などの製剤添加物を利用する方法,②ペプチドやタンパク性医薬品の分子構造を修飾する方法,③ペプチド・タンパク性医薬品に剤形修飾を行う方法などに分類できる。これら方法のうち,①の吸収促進剤の利用は多くのペプチド・タンパク性医薬品に簡便に適用できるため汎用されている。しかしながら,有効性の高い吸収促進剤は同時に消化管粘膜障害性を惹起するため,有効かつ安全性の高い吸収促進剤の開発が望まれている。本稿では,各種吸収促進剤のうち,有効かつ安全性の高い吸収促進剤として一酸化窒素(NO)供与体,ポリアミン,キトサンオリゴマー,polyamidoamine(PAMAM)デンドリマーなどに着目し,これら吸収促進剤がインスリン,カルシトニンなどの生理活性ペプチドやモデル高分子化合物の消化管吸収を改善することを明らかにした。したがって,これら吸収促進剤を用いた方法は,これらペプチド性医薬品の消化管吸収の改善に有用な方法になるものと思われる。
|
|
2. |
細胞膜透過ペプチドを利用したペプチド・タンパク性医薬品の消化管吸収改善
(亀井敬泰・森下真莉子) |
|
タンパク質やペプチド性の薬物は,消化管粘膜における透過性や安定性の問題から注射剤による投与方法に制限されている。筆者らは,cell-penetrating peptides(CPPs)と総称される細胞膜透過ペプチドを利用し,これら薬物の経口製剤化の実現に向けた研究を行っている。本稿では,代表的ペプチド薬物であるインスリンの消化管吸収改善におけるCPPsの有用性についての検討結果を紹介する。さらに,薬物-CPP間相互作用や上皮細胞内在化経路などCPPsによる吸収改善メカニズムについても展開し,種々のタンパク・ペプチド性薬物の経口・経粘膜バイオアベイラビリティ改善ツールとしてのCPPsの有用性を示したい。
|
|
3. |
ポリアミンならびに胆汁酸を用いた難吸収性薬物の消化管吸収性の改善
(檜垣和孝) |
|
生体にとって必須の物質であるポリアミン(スペルミン,SPM)とタウロコール酸ナトリウム(STC)を併用利用することで,消化管粘膜に対して障害性を示すことなく難吸収性薬物の経口吸収を有意に改善することに成功した。SPM-STCの併用は,低分子薬物の場合,経細胞経路,細胞間隙経路の両経路を介した膜透過を改善することが明らかとなった。一方,分子量4000以上の化合物にも有意な膜透過亢進作用を示し,それは主に細胞間隙経路を介した透過性の亢進によることが明らかとなった。細胞間隙経路の開口には,細胞内Ca2+ の上昇が関与しているものとの示唆を得ている。
|
|
4. |
粘液溶解剤と非イオン性界面活性剤の併用によるペプチド性薬物の消化管ならびに経粘膜吸収性の改善
(吉野廣祐) |
|
ペプチド性薬物は一般に膜透過性に乏しく,臨床における投薬は注射剤に限られるが,QOL改善のため非侵襲的な経粘膜投与法も近年活発に研究されている。ペプチド性薬物の粘膜透過プロセスには,上皮細胞層分泌液の粘性,酵素分解,細胞間隙のtight junctionなど様々な障壁が存在する。したがって,複数の透過バリアを同時に軽減できるように適切な添加剤の組み合わせでより大きな吸収改善を図ることが可能と考えられる。著者らの最近の探索的な研究では粘液溶解剤と非イオン性界面活性剤の併用が有望であることを認めており,今後この分野の新しいDDS技術の開発に有益な情報となる。
|
|
5. |
吸収促進剤によるTight Junction構成タンパク質の発現変動ならびに難吸収性薬物の消化管吸収改善
(富田幹雄・林 正弘) |
|
吸収促進剤として用いたlauroylcarnitineおよびpalmitoylcarnitineのapical側への添加によりCaco-2単層膜のTJが開口し,3時間後には閉口することが示された。また,その有効濃度は従来の吸収促進剤に比べて1/100〜1/1000倍であり,膜障害性の少ない添加剤としての有用性が示された。作用機構としては吸収促進剤によるコレステロール漏出に伴うclaudin-4引き抜きという直接作用,および細胞内取り込みを介したsignal pathwayが示唆できた。paracellular dilemmaを払拭できる新規薬物吸収改善策を講ずることができる。
|
|
6. |
Claudin modulatorを用いたペプチド・タンパク性医薬品の経粘膜吸収促進
(小高美樹・近藤昌夫・八木清仁) |
|
ペプチドやタンパク質などのバイオ医薬は消化酵素による分解を受けやすいうえに生体膜透過性に乏しく,侵襲性の注射による投与を余儀なくされているものが多く,患者のQOL向上に資する非侵襲性投与法の開発が創薬研究における重要課題の1つとなっている。粘膜上皮細胞層は生体外異物などの非特異的な生体内侵入に対する防御網として機能し,生体の恒常性維持に深く関わっていることから,バイオ医薬の粘膜吸収促進に際しては,この粘膜バリアを安全かつ特異的に制御する技術の開発が必要となる。本稿では,粘膜バリアの分子基盤であるclaudinを標的としたバイオ医薬の粘膜吸収改善の現状および今後の課題について概説する。
|
|
7. |
ラウリン酸とアミノ酸を用いた難吸収性薬物の吸収改善:アミノ酸を用いた吸収促進剤による粘膜障害の軽減
(檜垣和孝) |
|
広範な分子量の化合物の吸収改善を可能とするラウリン酸(C12)とL-グルタミン(L-Gln)やタウリン(Tau)などのアミノ酸を併用することで,C12により引き起こされる粘膜障害性を有意に軽減し,かつ難吸収性薬物の吸収を有意に改善することに成功した。アミノ酸による粘膜保護効果の機構解析の結果,L-Glnは粘膜保護効果を示すHSP-70の発現を誘導していることが明らかとなった。また,L-Gln,Tauなどのアミノ酸は,C12により亢進したヒスタミンの遊離,細胞内Ca2+ の過度な上昇,誘導されるアポトーシスを抑制することが明らかとなった。
|
|
8. |
各種タンパク分解酵素阻害剤を用いたペプチド・タンパク性医薬品の消化管吸収の改善
(山本 昌) |
|
一般に水溶性薬物やペプチド・タンパク性医薬品などの高分子薬物は消化管吸収性が悪いことが知られている。したがって,これら薬物の消化管吸収性を改善するため各種吸収改善方法が用いられているが,消化管で極めて不安定なペプチドに対してはタンパク分解酵素阻害剤の利用が有力な方法の1つになると思われる。すなわち,ペプチド・タンパク性医薬品の低い吸収性の要因の1つとして,消化管内に存在する消化酵素やタンパク分解酵素などによる分解が挙げられるが,タンパク分解酵素阻害剤はこれら酵素の活性を低下させることによりペプチド・タンパク性医薬品を安定化させ,二次的にこれら医薬品の消化管吸収性を改善させることが期待できる。当研究室では,ペプチド・タンパク性医薬品のうちインスリンおよびカルシトニンに着目し,これら医薬品の消化管吸収性ならびに安定性に及ぼすタンパク分解酵素阻害剤の影響について検討してきた。そこで本稿では,タンパク分解酵素阻害剤の併用によるインスリンおよびカルシトニンの消化管吸収改善効果について検討した結果を中心に報告する。
|
|
●第2章 化学修飾によるペプチド・タンパク性医薬品の消化管吸収改善 |
|
1. |
脂肪酸修飾を用いたペプチド・タンパク性医薬品の消化管吸収性の改善
(山本 昌) |
|
一般に,ペプチド・タンパク性医薬品の消化管からの吸収を改善するため,吸収促進剤やタンパク分解酵素阻害剤の利用,分子構造修飾,エマルションやリポソームによる剤形修飾など種々のアプローチが試みられている。筆者らは,こうしたタンパク分解酵素阻害剤および吸収促進剤などの添加物を利用することにより,これら医薬品の消化管吸収を改善できることを明らかにしてきた。しかしながら,こうした添加物は対象とする薬物のみならず産生毒素,ウイルスなど他の有害物質の吸収を増大させる可能性を併せもっており,ペプチド・タンパク性医薬品の選択的な吸収改善という点では有効なアプローチとは言いがたい。そこで,ペプチド・タンパクの分子構造自体に化学修飾を施し,その安定性や吸収性を改善する方法が極めて有力な手段であると考えられる。こうした観点から,筆者らは本来投与部位において不安定で吸収性の悪いペプチドの分子構造に鎖長の異なる脂肪酸により化学的に修飾を施し,生理ペプチド・タンパク性医薬品の投与部位における安定性や吸収性の改善を試みてきた。そこで本稿では,各種ペプチド・タンパク性医薬品のうち,インスリン,テトラガストリンならびにthyrotropin releasing hormone(TRH)のアシル化誘導体の吸収性・安定性について紹介する。
|
|
2. |
プロドラッグ修飾による難吸収性薬物の消化管吸収改善
(今井輝子) |
|
プロドラッグは薬物代謝を利用した薬であり,それ自体は薬理活性を示さずに,体内で活性薬物に変換して治療効果を高める化合物である。主に,吸収の増大や安定性・溶解性の改善,作用の持続化,臓器ターゲティングなどを目的としている。すでに多くのプロドラッグが開発され,臨床応用されている。ここでは,プロドラッグの中でも特に消化管吸収の増大を目的としたプロドラッグの設計,経口投与後の活性体への変換について,実例を交えて概説する。
|
|
3. |
生理薬理活性物質の糖修飾およびグルコーストランスポーターによる腸管吸収動態の改善
(水間 俊) |
|
腸管は生体と外部との間で物質が行き来する生体のインターフェイスであり,様々な機能をもつ。その機能を利用する,あるいは避けるなどして,目的とする生理活性あるいは薬理活性物質を吸収させるための方法として,本稿では糖修飾によるプロドラッグ化およびアナログ化の例を紹介する。糖修飾のタイプとしては,αあるいはβアノマー体,OあるいはSグリコシド,スペーサーの有無など様々な形態がある。これらの糖修飾の効果としては,腸管膜透過過程における分解酵素に対する抵抗性(安定化)および Na+/glucose cotransporter(SGLT1)を介した新規な吸収経路がある。この新規な吸収経路の場合にはさらに,SGLT1を介した能動輸送により腸管アベイラビリティを上昇させる効果も認められており,輸送性と代謝性の両面で腸管吸収を改善する。
|
|
4. |
ペプチドトランスポーターを利用した難吸収性薬物の消化管吸収性の改善
(玉井郁巳) |
|
小腸上皮細胞において栄養物摂取に働くペプチドトランスポーターPEPT1 は,他の栄養物トランスポーターに比べて基質認識性が広い。PEPT1 はH+ の電気化学ポテンシャル差を駆動力とし,ジ・トリペプチドを選択的に輸送する。しかし,ペプチドを構成するアミノ酸選択性が低いためペプチド様医薬品も認識し,その吸収に働く。したがって,薬理活性体のペプチド様化合物への誘導化やペプチド付加によるPEPT1 による認識性の獲得,さらに駆動力の付与などによるPEPT1 の活性化などにより,PEPT1 はペプチド様薬物の吸収デリバリーに応用できる。
|
|
5. |
オリゴアルギニン修飾を用いた薬物の細胞内取り込みの改善とその機構
(二木史朗・中瀬生彦) |
|
ペプチド・タンパク質に基盤をおくバイオ高分子薬物は一般に高い親水性のため細胞内への移行性が低く,このことが開発の妨げとなっていることが多い。一方,近年,HIV-1 Tatタンパク質由来の塩基性ペプチドやオリゴアルギニンが膜透過性を有することが見出され,これらのペプチドとの架橋体・複合体形成によりバイオ高分子の細胞内取り込みを改善しようとする試みも盛んになされている。本稿では,膜透過ペプチドの細胞内移行機序に関する現時点での理解と細胞内送達の最近のトピックスに関して概説する。
|
|
●第3章 剤形修飾によるペプチド・タンパク性医薬品の消化管ならびに経粘膜吸収改善 |
|
1. |
ペプチド性薬物の経口・経肺吸収をめざしたポリマーコーティングリポソームの設計
(竹内洋文) |
|
経口投与においてナノ粒子をドラッグデリバリーシステムのキャリアとして用いる研究を概観し,該当分野の著者らの研究を紹介する。消化管でのナノ粒子の挙動に着目した研究は以前より行われていたが,著者らはリポソーム表面を粘膜付着特性を有するポリマーで修飾して薬物キャリアとして用い,その滞留性が改善され,さらには微粒子キャリアが消化管粘膜中に侵入することを明らかにした。その結果,インスリン,カルシトニンといったペプチド性薬物の持続的な薬理効果が観察された。これらの結果に基づくと,消化管においては粘膜を覆う粘液層が吸収のバリアとなっていることが示唆される。
|
|
2. |
粘膜付着性ナノパーティクルを用いたカルシトニンの消化管吸収性の改善
(佐久間信至・菊池 寛・林 正弘・明石 満) |
|
経口投与されたペプチドの吸収性は,低い膜透過性ばかりでなく,消化管内における酵素分解のため極めて低くなる。ペプチドの経口化をめざして著者らは,粘膜付着機能をもつナノパーティクルにペプチドを保持させ,小腸粘膜近傍にデリバリーし,膜近傍にペプチドを高濃度に滞留させることにより膜透過量を増大させるとともに,消化酵素によるペプチドの分解を抑制する対酵素安定化機能を併せもつナノパーティクルを探索した。化学構造の異なるナノパーティクルの特性を精査し,ペプチドの経口吸収性を改善するナノパーティクルを見出すことに成功した。
|
|
3. |
S/O®技術を用いたタンパク性医薬品の経皮吸収改善と経皮免疫への応用
(後藤雅宏・田原義朗) |
|
ペプチド・タンパク性医薬品の経皮デリバリーは,注射に代わる効果的な投与方法としてたいへん期待されている。われわれはsolid-in-oil(S/O®)技術という親水性薬物の新しい油中分散化技術を開発し,「油状基剤によるタンパク性医薬品の経皮吸収改善」 という新しい試みを行っている。本稿ではS/O®技術を用いたタンパク性医薬品の油状基剤への分散法や,in vitro での経皮吸収性の評価,さらに塗り薬型ワクチンである経皮免疫の in vivo での評価について紹介する。
|
|
4. |
キトサンカプセルを用いたペプチド・タンパク性医薬品の大腸特異的送達法の開発
(山本 昌) |
|
一般に水溶性薬物やペプチド・タンパク性医薬品などの高分子薬物は消化管吸収性が悪いことが知られている。したがって,これら薬物の消化管吸収性を改善するため各種吸収改善方法が用いられているが,その中で近年これら医薬品の大腸特異的送達法が注目されている。すなわち,ペプチド・タンパク性医薬品は経口投与後,胃や小腸で消化酵素やタンパク分解酵素などにより分解されることが多く,このことが低い消化管吸収性の一因になっているが,ペプチド・タンパク性医薬品の大腸特異的送達法はこれら医薬品を消化酵素やタンパク分解酵素の少ない大腸に送達させて薬物の安定性を改善し,二次的に吸収性を改善する方法である。こうしたペプチド・タンパク性医薬品の大腸特異的送達法には様々な方法が知られているが,われわれはカチオン性高分子であるキトサンを素材としたカプセルによるこれら医薬品の大腸特異的送達に着目している。すなわち,キトサンはエビ,カニの甲殻から取れる天然素材であるが,近年,胃や小腸に比べ大腸に豊富に存在する各種腸内細菌により分解されることが明らかになったことから,キトサンを素材としたカプセルを用いれば薬物を大腸で特異的に放出させることが期待できる。そこで本稿ではキトサンを素材とした大腸崩壊性カプセルを作製し,モデル薬物としてインスリンならびにカルシトニンを選択し,インスリンまたはカルシトニン含有キトサンカプセルを用いた大腸特異的送達法の開発を試みた例を紹介する。
|
|
●第4章 各種粘膜吸収経路を利用したペプチド・タンパク性医薬品の消化管
ならびに経粘膜吸収改善 |
|
1. |
ペプチド・タンパク性医薬品の経鼻吸収性と鼻腔内投与による脳への送達
(坂根稔康) |
|
鼻粘膜は高分子物質に対して比較的高い透過性を示すため,鼻腔はペプチド性医薬品の投与部位として適している。国内では酢酸デスモプレシン,酢酸ブセレリン,酢酸ナファレリンが鼻腔内投与製剤として臨床応用されている。いずれもその吸収率は2〜10%程度,分子量は約1kDaであり,臨床応用可能な分子量の目安は約1kDaであると思われる。また,鼻腔は脳への送達を可能にする投与部位としても注目を集めている。鼻腔内投与することにより,種々ペプチドのほか,遺伝子や細胞の脳内送達が可能であることを示す研究結果が報告されている。
|
|
2. |
骨粗鬆症および糖尿病治療薬の経肺投与型ドラッグデリバリーシステムの開発
(勝見英正・山本 昌) |
|
薬物の肺への投与は古くから行われ,喘息治療など局所的な治療効果を目的に用いられてきたが,①肝臓や消化管での初回通過効果が回避できること,②高分子化合物に対して膜透過性が比較的良好であることなどの利点から,最近ではペプチド・タンパク性医薬品を含む難吸収性薬物の全身作用を目的とした投与方法として注目されている。本稿では,ペプチド・タンパク性医薬品を含む難吸収性薬物の経肺吸収性ならびにその吸収改善方法について紹介する。
|
|
3. |
肺胞上皮細胞におけるアルブミンおよびインスリンの輸送機構の解析
(高野幹久・湯元良子) |
|
肺はペプチド・タンパク性医薬品の投与部位として注目されており,各種経肺投与製剤開発のための研究が活発に進められている。ペプチド・タンパク性医薬品の経肺吸収を考えるうえで,生体のもつシステムを理解することは不可欠であるが,肺胞上皮を構成するⅡ型細胞,Ⅰ型細胞間での比較研究はあまり行われてこなかった。本稿では,初代培養肺胞上皮細胞のtransdifferentiationに伴う形態や遺伝子発現プロファイルの変化,ならびにⅡ型細胞,Ⅰ型細胞におけるアルブミン,インスリンの細胞内取り込み活性や経路を中心に概説する。
|
|
4. |
スペルミン化ポリマーによるインスリンの経粘膜吸収性の改善
(関 俊暢・森本一洋) |
|
ゼラチンやプルランなどの高分子にスペルミンを結合させてカチオン性を付与し,ペプチド・タンパク性医薬品に用いる粘膜吸収促進剤としての利用を検討している。合成されたスペルミン化ゼラチンやプルランは,インスリンのラットにおける経肺吸収を,肺組織を損傷することなく促進し,その作用はアミノ基含量や分子量に依存した。スペルミン化ポリマーとインスリンは投与時複合体を形成するが,粘膜表面で複合体は解離し,遊離したスペルミン化ポリマーが上皮細胞間隙を開口し,透過経路の数を増やして透過を促進すると考えられる。
|
|
5. |
微粒子粉末を用いたインスリンの経肺吸収性の改善
(岡本浩一) |
|
肺は低い代謝酵素活性,薄い上皮,広い表面積,豊富な血流といった利点を備え,消化管からは吸収されにくい高分子医薬の吸収部位として適している。本稿では,噴霧乾燥法で糖尿病治療薬インスリンの微粒子を調製した。クエン酸添加により,肺への急性障害性を示すことなくラット肺内投与時の血糖値降下作用は改善されたが,インスリンの安定性が低下した。インスリンとクエン酸を別々の微粒子として混合することで安定性は改善された。超臨界二酸化炭素晶析法を適用することで,噴霧乾燥製剤以上の血糖値降下作用が得られた。
|
|
6. |
キトサンオリゴマーを用いたインターフェロンの経肺吸収性の改善
(山田圭吾・山本 昌) |
|
タンパクや生理活性ペプチドのような高分子薬物の経肺吸収は,消化管など他の吸収経路と比べると比較的良好であるが,薬物によっては十分な吸収を望めないものも存在するため,添加物によるこれら高分子薬物の経肺吸収性の改善が必要である。近年,天然多糖であり安全性が高いキトサンやその誘導体が鼻粘膜や Caco-2 細胞において水溶性薬物の透過性を増大させることが報告されているが,高分子薬物の経肺吸収に及ぼすキトサン類の影響については不明な点も多い。そこで本稿では,インターフェロン-αの経肺吸収性に及ぼすキトサンおよびキトサンオリゴマーの吸収促進効果と安全性について紹介する。
|
|
7. |
一酸化窒素供与体を用いた高分子薬物の粘膜吸収改善
(宇都口直樹) |
|
新規作用機序の吸収促進として一酸化窒素(NO)供与剤の可能性を検討した。NO供与剤 (SNAP,NOR1,NOR4)はウサギ直腸からのインスリンの吸収性を改善した。SNAPによる吸収促進効果はNO消去剤との併用により減弱した。NO供与剤は8 mg/mLという高濃度においても,培養細胞に何ら細胞障害性を示さず,in vivo における直腸粘膜組織においても障害性が認められなかった。さらに,NO供与剤は小腸粘膜,鼻粘膜においても吸収促進効果を認めた。NOは粘膜上皮細胞層のtight junctionを生理的に開口させると考えられており,生理反応を作用機序として吸収促進剤の可能性が示された。
|
|
8. |
薬物の経皮吸収改善法とこれら改善法によるペプチド・タンパク性医薬品の経皮吸収性改善
(藤堂浩明・杉林堅次) |
|
皮膚は,初回通過効果を回避できること,投与が簡便であること,また投与をいつでも中断できることから,ペプチドやタンパク性医薬品の投与部位として注目されている。しかしながら,ペプチドやタンパク性医薬品の皮膚を介する透過性は他の粘膜と比較して低く,経皮適用によるペプチドやタンパク性医薬品の効果を期待するためには,皮膚透過性の改善が必須となる。本稿では,これらペプチドやタンパク性医薬品の皮膚透過性を改善するための化学的促進法や物理的手段について触れ,その有効性について述べる。
|
|
9. |
イオントフォレシスを用いたペプチド性医薬品の経皮送達
(小暮健太朗・濱 進・梶本和昭・気賀澤 郁) |
|
イオントフォレシスは,非侵襲的で理想的な薬物の物理的経皮吸収促進法であり,近年注目されている。これまでは荷電性の低分子薬物への適用が一般的であった。筆者らは,ペプチド性医薬品への適用を試み,ペプチド単体およびペプチド封入リポソームをイオントフォレシスに適用することで,皮内への送達システムを確立した。これらのシステムによって皮内に送達されたペプチドは,血糖値抑制効果などの全身性の効果を発揮できるものであった。すなわち,イオントフォレシスはペプチド性医薬品の効率的な経皮送達システムとして期待される。
|
|
10. |
マイクロニードルによるペプチド・タンパク性医薬品の経皮投与
(権 英淑・神山文男・勝見英正・山本 昌) |
|
マイクロニードルは数百ミクロンの微細針を皮膚に適用することにより,微細針に表面塗布または内部に含有された薬物を皮膚内で放出させる経皮投与法である。マイクロニードルは,従来不可能とされてきたタンパク質やナノ粒子のような高分子物質の経皮吸収を可能とする新規経皮投与システムであることから,従来の物理的・化学的経皮吸収促進法にない優れた特徴を有する。本稿ではマイクロニードルの種類,構成材料,製法などの現状の多様性,またマイクロニードルの皮膚への適用性および経皮吸収機構ならびにペプチドおよびタンパク性医薬品の経皮投与について解説する。
|
|
11. |
親水性ゲルパッチを用いたワクチン抗原タンパク質のデリバリーと経皮吸収型ワクチン製剤の開発
(岡田直貴) |
|
皮膚には抗原提示細胞の1つであるランゲルハンス細胞(LC)が比較的高密度に分布しており,このLCに効率よく抗原をデリバリーできれば高いワクチン効果が期待できる。しかし,皮膚の最外層には物質透過のバリアとなる角質層が存在するため,抗原ペプチド/タンパク質を皮膚表面に塗布するだけではLCへの送達は困難である。そこで筆者らは,抗原タンパク質の角質層透過を促進する手段として独自の親水性ゲルパッチを創製し,それを応用した経皮ワクチン製剤(貼るワクチン)の開発を推進している。使用法が簡便で非侵襲的な貼るワクチンは,開発途上国へのワクチン普及を強力に推進するとともに,新興・再興感染症の世界的流行の阻止に大きく貢献できる。
|
|
●第5章 ペプチド・タンパク性医薬品をはじめとする高分子物質の注射投与後の
体内動態制御ならびに標的指向化 |
|
1. |
生体吸収性ハイドロゲルを用いた細胞増殖因子の徐放化と生体組織の再生誘導治療
(田畑泰彦) |
|
細胞の増殖・分化能力(細胞力)を促し,体の自然治癒力により生体組織を再生修復させる新しい治療に期待が高まっている。この再生治療で大切なことは,細胞の増殖分化を促すための細胞周辺環境を作り与えることである。その1つに,細胞増殖因子の利用がある。例えば,ドラッグデリバリーシステム(DDS)技術を活用して,体内で不安定なタンパク質因子を細胞にうまく作用させ,細胞力を高め,生体組織の再生修復を誘導する。本稿では,細胞増殖因子の徐放化ハイドロゲル技術の概説と徐放化因子による生体組織の再生治療の最先端について述べる。
|
|
2. |
微粒子キャリアを用いた腫瘍関連抗原タンパク質デリバリーとその癌ワクチン療法への応用
(岡田直貴) |
|
癌ワクチン療法を有効な治療法として実現するためには,腫瘍関連抗原 (TAA) を抗原提示細胞 (APC) へと効率よくデリバリーできる手法の確立が望まれる。筆者らは,ポリγ-グルタミン酸を素材としたナノ粒子 (γ-PGA NP) をTAA送達キャリアとして応用することで,TAA特異的な細胞傷害性T細胞の効率的な誘導に基づく腫瘍免疫の強化に成功した。本稿では,筆者らが推進しているγ-PGA NPを応用した癌ワクチン療法の開発を例に,APCを標的としたTAAデリバリーにおける微粒子キャリア技術の有用性を概説する。
|
|
3. |
多機能性エンベロープ型ナノ構造体(MEND)を基盤とした新規タンパク質DDSの構築と臨床開発研究への応用
(山田勇磨・中村孝司・原島秀吉) |
|
近年,抗体医薬が医薬品市場を大いに賑わせ,タンパク質は単なる 「機能分子」 から 「医薬品」 へと大きな変換を遂げつつある。現存のタンパク質医薬は細胞外で薬理効果を示すものが大部分であるが,細胞内でも作用させることが可能となれば疾患治療の適用範囲が飛躍的に広がる。したがって,タンパク質の細胞内導入を可能とするdrug delivery system (DDS)は,タンパク質医薬品の新たな扉を開く原動力になると期待されている。本稿では,われわれが開発したナノカプセル,多機能性エンベロープ型ナノ構造体(multifunctional envelope-type nano device:MEND)について概説するとともに,MENDを用いたタンパク質送達の取り組みについて紹介する。
|
|
4. |
血液脳関門ペプチド・タンパク輸送系を利用した脳へのデリバリー
- カチオン性ペプチド・タンパク質を中心に -
(出口芳春) |
|
ペプチドやタンパクは水溶性が高く比較的分子量が大きいため血液脳関門を透過しない。このことがペプチド・タンパク性中枢医薬品開発のボトルネックになっている。一方,ホロトランスフェリンなど脳の神経活動に必要な内因性物質は血液脳関門のペプチド・タンパク輸送系を介して脳内に運ばれる。血液脳関門に存在するこのような輸送系を利用することはペプチド・タンパク性中枢医薬品の開発にとって合理的な戦略といえる。筆者は数種のペプチドが血液脳関門に存在するカチオン性ペプチド・タンパク輸送系を介して脳内に運ばれることを明らかにしてきた。本稿では,これまでに報告されている血液脳関門ペプチド・タンパク輸送系とその輸送メカニズムを概説し,さらにカチオン性ペプチド・タンパク輸送系に関する筆者らの研究成果を紹介する。
|
|
5. |
PEG化による腫瘍壊死因子TNF-αの体内動態の制御と抗腫瘍効果増強
(吉岡靖雄・吉川友章・堤 康央) |
|
疾患プロテオミクス研究などで得られた情報を有効活用し,疾病治療に有効なペプチド・タンパク性医薬品を創製しようとするプロテオーム創薬への期待が高まっている。しかしながらタンパク質の生体への適用には,依然としてタンパク質の生体内安定性を向上させ,かつその多様な in vivo 生理作用の中から目的とする治療作用のみを選択的に発現させうる創薬テクノロジーの確立が必須となっている。本稿では,われわれが開発を進めてきたタンパク療法の最適化に叶う 「プロテオーム創薬のためのDDS基盤テクノロジー」 について紹介させていただく。
|
|
6. |
化学修飾アルブミンを利用した還元型チオールおよび一酸化窒素のDDS開発と酸化ストレス疾患治療への応用
(勝見英正・西川元也・橋田 充) |
|
血清アルブミンは,生体内で安定かつ生体適合性が高く,体内動態制御を目的とする化学修飾に利用可能な官能基を多数有していることから,DDSとしての利用が期待されている。本稿では,酸化ストレス疾患治療および障害抑制を目的とした還元型チオールあるいは一酸化窒素のデリバリーを対象に,化学修飾を施すことで機能性を向上させた血清アルブミンによるDDS開発について紹介する。
|
|
7. |
分子構造修飾による活性酸素消去酵素カタラーゼのターゲティングと癌転移抑制効果の増強
(西川元也・高倉喜信・橋田 充) |
|
生命現象の様々な過程において,活性酸素がシグナル分子として重要な役割を担うことが明らかとされてきた。活性酸素レベルの上昇に伴い癌転移を促進する接着分子や増殖因子などの発現が誘導されることから,活性酸素消去による癌転移抑制が期待される。私達はこれまでに,分子構造修飾を利用して過酸化水素分解酵素カタラーゼの体内動態を制御することに成功し,これにより癌転移を効率よく抑制できることを見出した。本稿では,カタラーゼの体内動態制御技術ならびにマウスでの癌転移抑制について紹介する。
|
|
●索引 |