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内容目次 |
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序文 (赤路健一) |
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1. |
高純度ペプチドの合成
(西内祐二) |
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最新のペプチド合成では,ホスホニウム塩型またはウロニウム塩型縮合剤用解1が汎用される。これらは高い反応効率をもち,速い縮合反応と欠損・短鎖ペプチドなどの副生成物の排除を可能とする。特に,立体障害を有するアミノ酸の縮合や自動ペプチド合成機には必須である。しかし,これらの試薬を適用して,システインおよびヒスチジンの9-フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)誘導体を縮合した場合,顕著なラセミ化を伴う。ペプチド鎖伸長途上に混入するラセミ体は,最終品の純度低下に直結し,その精製効率を低下させる。このラセミ化の危険性を排除した高純度ペプチドの合成を志向し,システインとヒスチジンの新規側鎖保護基を開発した。
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2. |
糖タンパク質の化学酵素合成
(北條裕信) |
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ペプチド芳香族チオエステルとアルキルチオエステルを組み合わせることにより,チオエステル法を用いてone-potで連続的に3つのセグメントを縮合する方法を開発した。この方法によりTIM-3のイムノグロブリン様ドメインのポリペプチド鎖を構築した後,酵素的に糖鎖を導入して効率的に複合型9糖をもつIgドメインを得ることに成功した。この方法は,種々の糖タンパク質合成に応用できるものと期待される。
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3. |
ファージライブラリーを用いた次世代分子標的ペプチドの創出
(藤井郁雄) |
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分子標的医薬の第一候補として,抗体医薬が注目されている。一方,その限界も指摘されている。抗体医薬の問題点は,抗体の基本構造に起因するものである。そこで,イムノグロブリン構造を利用せず,目的の標的タンパク質に対して特異的に結合する抗体様物質の開発研究が始まっている。筆者らは,抗体様物質としてヘリックス−ループ−ヘリックス構造をもつペプチドの開発を行っている。この分子標的ペプチドが,抗体と同等の結合活性と安定性をもつことから
「マイクロ抗体」 と名づけた。ここでは,ファージ表層提示法による分子標的ペプチドの創出技術について解説するとともに,「マイクロ抗体」
の可能性について紹介する。
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4. |
SARSコロナウイルスプロテアーゼ阻害剤の創薬
(林 良雄・山本剛史・小岩井勇児) |
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重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルスであるSARSコロナウイルス(SARS-CoV)の複製に必須なシステインプロテアーゼ(3CLpro)に注目し,その新規ペプチドミメティック型阻害剤の創製を実施した。トリフルオロメチルケトン構造を阻害機構に用いたテトラペプチド型阻害剤を出発点に,阻害機構部を電子吸引性アリールケトン構造へ変換,各アミノ酸側鎖構造の最適化などを進め,強力な酵素阻害活性を有するトリペプチド型およびジペプチド型SARS-CoV 3CLpro 阻害剤の創製に成功した。
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5. |
異常アミノ酸含有環状ペプチド誘導体の合成と構造活性相関
(今野博行) |
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環状オクタリポペプチドburkholdine誘導体の合成と抗真菌活性を評価した。ペプチド誘導体はFmoc-固相合成法と液相でのDIPC/HOBtを用いたカップリング反応によって調製した。さらにいくつかの真菌に対するMICによる評価を行った。
一方で環状デプシペプチドcallipeltin誘導体の合成と細胞毒性試験を行った。デプシ部分での環化は難易度が高く,誘導体合成には不向きであった。そこでアミド結合形成による環化を行い,様々な誘導体を合成した。さらに構造活性相関によって細胞毒性が発現するための必須部位を決定した。
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6. |
長鎖脂肪族アンカーの構造特性を活用した AJIPHASE®ペプチド合成法の新たな展開
(高橋大輔) |
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われわれはペプチド合成の固相法と液相法の両者の長所を取り入れ,アミド型や保護ペプチド酸など,様々なペプチド配列に合成対応できる効率的手法AJIPHASE® アンカー法を報告してきた。今回,C末端に用いるアンカーの構造を変えることによって得られる特性を利用して,AJIPHASE® アンカー法の更なる実用化・効率化を図り,最終脱保護工程でのアルキル化の抑制,分岐鎖アンカーと新規な脱Fmoc試薬の開発などにより,ワンポット合成という効率的な方法論を確立することに成功した。これらの結果を本稿にて紹介する。
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1. |
膜透過ペプチドを利用する細胞内デリバリー
(二木史朗) |
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核酸誘導体やタンパク質由来のバイオ医薬品は一般に親水性が高いために細胞膜の透過性は低い。このため,薬効を得るために細胞内への移行が必要となる場合には,これらを効率的に細胞内に送達する技術が必要となる。近年,HIV-1 Tatタンパク質由来の塩基性ペプチドや,オリゴアルギニンなどの膜透過性のペプチドを一種のベクターとして用いて,膜不透過性の薬物の細胞内移行性を改善する方法論が報告された。本稿では,膜透過ペプチドの細胞内移行機序と細胞内送達への応用例に関して概説する。
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2. |
マイクロニードルを用いたペプチド・タンパク性医薬品の次世代型経皮吸収製剤の開発
(勝見英正・山本 昌) |
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マイクロニードルは数百ミクロンの微細針を皮膚に適用することにより,微細針に表面塗布または内部に含有された薬物を皮膚内で放出させる経皮投与法である。マイクロニードルには,①低分子のみならずペプチド・タンパク質のような高分子に対しても良好な経皮吸収が期待できること,②投与に際してほとんど痛みを伴わないこと,③自己投与が可能であることなど多くの利点があることから,マイクロニードルはペプチド・タンパク性医薬品の新しい経皮吸収製剤として期待されている。本稿では,マイクロニードルをはじめとする各種経皮吸収促進法について概説するとともに,溶解型マイクロニードルを用いたペプチド・タンパク性医薬品の経皮吸収促進について紹介する。
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3. |
細胞外マトリクス由来ペプチドを利用した薬物・遺伝子デリバリー
(根岸洋一・野水基義) |
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近年,がんの薬物・遺伝子治療の臨床応用に向けたドラッグデリバリーシステム(DDS)のキャリア開発が注目されている。特にがんの薬物・遺伝子治療に用いるDDSキャリアには,がん細胞選択的に薬物・遺伝子を送達する機能が求められ,その実現化には,がん細胞を選択的に認識する分子とキャリアの組み合わせが鍵となる。一方,細胞外マトリクス,特に基底膜は,個体の発生や分化,組織の修復あるいはがんの増殖転移に深く関与していることが明らかとなりつつあり,構成成分の機能や作用メカニズムの解明が注目されている。特に,基底膜の主要構成成分のラミニンの機能部位の解明研究において,合成ペプチドを用いた網羅的解析研究から数多くの受容体特異的なペプチドが同定されてきている。本稿では,著者らが開発してきた,がん,新生血管において重要な役割をしている細胞外マトリクス由来ペプチドを利用した薬物・遺伝子キャリア,さらには超音波診断造影剤として機能するリポソームについて紹介する。
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4. |
ペプチドの経鼻吸収
(金井 靖・南竹義春) |
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生命科学分野の研究が進むにつれて,医薬品の中で biologics (ペプチド,抗体,ワクチン,タンパク質,核酸,細胞由来の医薬品)
はますます増加すると予想される。ペプチドは高活性で特異性が高いため医薬品として注目されてきたが,分子量が大きく疎水性が低いため経口投与は困難である。鼻粘膜の透過性は高くペプチドでも吸収されるため,これまでにもペプチドの経鼻製剤が多数開発されてきた。今後,経鼻粘膜ワクチンおよび鼻腔から脳への移行性の研究が進展し,薬物治療における経鼻投与の新たな展開が期待される。
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1. |
コラーゲン3重らせんペプチドの応用:体内動態特性と薬物担体としての可能性
(安井裕之・小出隆規) |
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コラーゲン3重らせん構造を特徴とする合成ペプチドは,①プロテアーゼによる消化分解に対する抵抗性,②低い免疫原性による高い安全性,③アミド結合を介した機能性分子のコンジュゲート化能をもつ,新しいタイプの薬物担体として期待されている。(Pro−Hyp−Gly)の繰り返し配列からなるコラーゲン3重らせん型ペプチドを実験動物に静脈注射すると,通常のペプチドと比べて長い血中半減期(1時間)と低い組織移行性(細胞外液部のみに分布)を示し,投与されたペプチドは未変化体のままでほぼ完全に尿中へ排泄された。特定臓器へと集積させる従来型のDDS用担体とは異なり,積極的に血液中のみを循環させた後,完全に尿中へ排泄するといった 「血液指向型かつ尿中排泄性の安全な薬物担体」 として,今後コラーゲン3重らせんペプチドを利用した創薬への応用研究が期待される。
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2. |
ペプチドアプタマー(人工抗体様ペプチド)探索法とその応用
(長谷川 慎・松野充宏・早川結実子・武居 修・北村幸一郎) |
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ペプチドアプタマーは人工抗体様ペプチドとも呼ばれ,任意のターゲット分子に対して特異性と結合親和性をもつ人工配列のペプチドである。これを得るために,網羅的なアミノ酸配列を含むペプチドライブラリーから,任意の抗原に対して結合性をもつ配列を分離する過程を繰り返し,集団の配列を収束させる手法が利用されている。ペプチドアプタマーは,抗体の作製しにくいターゲットに対する適用,構造デザインや化学修飾の容易さ,化学合成可能で低コストといった点で優位性があり,分子標的薬や診断ツールへの応用が期待されている。
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3. |
放射性標識ペプチドの分子病理診断への応用
(長谷川功紀) |
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近年,分子標的治療の進展により,分子標的薬剤の適応を確認する分子病理診断の重要度が増している。しかし既存の免疫染色法やFISH法では,バイオプシーなどで得た疾患部位の一部分しか評価できない。そこで全身を低侵襲に評価できる分子イメージング手法の適応が検討されている。分子イメージングはプローブの性質で評価対象が決まる。筆者は,腫瘍および動脈硬化部位に結合するペプチドをRI標識することでプローブ化し,疾患モデル動物で分子イメージング研究を行ってきた。その結果と既存の病理診断法を比較し,放射性標識ペプチドの分子病理診断薬の有用性を示してきた。その研究の概要を紹介する。
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4. |
ペプチド由来阻害剤への展開
(小林数也) |
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ペプチドを非ペプチドへと変換するペプチドミメティクスを用いた2つの創薬研究について概説する。1つ目はアルケンジペプチドイソスターを用いた
FC131 の構造活性相関研究,2つ目は基質遷移状態アナログを用いた BACE1 阻害剤開発研究である。それぞれの目的に応じたペプチドミメティクスを適切に選択することで,より有用な阻害剤開発のための足掛かりを得ることに成功した。
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