第2章 疾患研究からRNAへ
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1. |
癌とmiRNA異常:miRNAによる診断・治療の現在と未来
(小坂展慶・落谷孝広)
約22塩基の非翻訳小分子RNAであるマイクロRNA(microRNA:miRNA)は,癌細胞においては,様々な発現制御の異常で癌細胞の悪性化に関わっていることが報告されている。また,癌の診断や原発不明癌の同定にmiRNAの有用性が報告されており,…… |
2. |
脆弱X症候群とFMR1
(石塚 明・塩見春彦)
脆弱X症候群は,最も高頻度に精神遅滞を伴う遺伝性疾患であり,FMR1遺伝子の機能喪失によって引き起こされる。FMR1遺伝子産物 FMRPは,RNA結合タンパク質であり,リボソームと相互作用して翻訳を抑制するという仮説が提唱されている。また,脆弱X症候群では,神経樹状突起スパインの形態異常が観察されることから,FMRPは樹状突起スパインでの局所的な遺伝子発現を制御しているものと考えられる。……
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3. |
翻訳開始異常と癌化 - ミッシングリンクを求めて -
(浅野 桂)
細胞は,癌化の過程で情報伝達経路の変化などにより高いタンパク質合成能力を獲得する。本稿では,翻訳開始因子の発現量の変化から癌が起こる代表例とそのメカニズムを概説するとともに,癌の新たな原因遺伝子として注目されはじめたeIF3研究とこれからについて考える。
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4. |
リボソーム病:翻訳装置のシステム障害
(上地珠代・剣持直哉)
リボソームは多数のタンパク質とRNAからなる巨大な複合体で,細胞内のタンパク質合成の場として重要な働きを担っている。リボソームの機能は生物にとって極めて本質的であるため,疾患の原因としてはこれまであまり議論されてこなかった。しかし最近になって,ダイヤモンド・ブラックファン貧血の患者で複数のリボソームタンパク質遺伝子に多数の変異が見つかったことより,……
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5. |
snoRNA異常疾患
(日野公洋・廣瀬哲郎)
真核生物の核小体には300種類以上のsnoRNAが存在する。これらは特異的な核小体タンパク質とsnoRNPを形成することにより,rRNAの転写後修飾を担っているが,この他にも未知機能の存在が指摘されている。近年,疾患原因遺伝子座の探索や,その後の遺伝子改変マウスの解析によってsnoRNP構成因子の特異的疾患への関与が明らかになりはじめた。……
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6. |
ナンセンス変異に起因した遺伝病の治療戦略
(稲田利文)
ヒトゲノム研究の進展により,多くの単一遺伝子疾患の原因変異が数多く同定されているが,ほとんどの遺伝病について,その治療法は確立されてない。最近,ナンセンス変異が原因である複数の疾患について,遺伝子を操作することなく正常で活性をもつタンパク質を合成させ,症状を改善させる新たな化合物が同定された。……
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7. |
筋強直性ジストロフィーと異常スプライシング
(今泉和則)
筋強直性ジストロフィータイプ1(DM1)はDMPK(dystrophia myotonica protein kinase)遺伝子の3’非翻訳領域に存在するCTGの3塩基繰り返し配列が異常伸長するトリプレット病の1つである。本症ではDMPK遺伝子転写産物のCUGリピートに特定のスプライシング制御因子がトラップされ,本来のスプライシング制御が撹乱されることで筋症状を含む種々の全身症状を引き起こす。……
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8. |
筋強直性ジストロフィーとRNA結合タンパク質
(笹川 昇・古戎道典・石浦章一)
筋強直性ジストロフィー(DM)は優性の形式で発症する筋疾患である。責任遺伝子の遺伝子座によって1型,2型と命名されている。驚くべきことに,DM1型責任遺伝子であるDMPKの変異は非翻訳領域のCTGリピートの伸長,DM2型責任遺伝子であるZNF9の変異はイントロンにあるCCTGリピートの伸長であった。……
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9. |
先天性神経筋伝達分子欠損症とスプライシング異常
(大野欽司)
スプライシング・シス因子には,ブランチポイント配列,ポリピリミジントラクト,3’スプライスサイト,5’スプライスサイトに加えて,エクソン・イントロン上に遺伝子ごとに特有のシス因子(ESE,
ESS, ISE, ISS)が存在する。これらを破壊する遺伝子変異が数多く存在すると予想されるが,報告されている変異の多くはGU-AG配列破断変異である。……
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10. |
網膜色素変性とスプライシング機構異常
(佐藤 肇)
常染色体優性網膜色素変性の原因遺伝子として,スプライシング機構に関与するタンパクをコードしているHPRP3,PRPF31,PRPC8が証明された。スプライシング機構の中でこれらのタンパク質がどのような働きをしているか解説した。……
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11. |
ミトコンドリア遺伝子病
(中田和人・林 純一)
哺乳類のミトコンドリアゲノム(mtDNA)はミトコンドリア呼吸機能に必須な遺伝子群をコードしている。近年,mtDNAの突然変異によるミトコンドリアエネルギー代謝の破綻がミトコンドリア遺伝子病にとどまらず,多様な病気の原因になる可能性が次々と示唆されるにつれ,mtDNAの突然変異を起点とした病態発症に関する研究が大きな広がりを見せている。……
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