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内容目次 |
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序文 (松本直通) |
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●第1章 総論 |
1. |
基盤技術(次世代シークエンサー以外)
(難波栄二) |
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鳥取大学での1000例を超える実績を元に,疾患シークエンス解析について概説する。一塩基置換,微小な欠失・挿入の同定,次世代シークエンサー(NGS)結果の確認にはPCR直接シークエンス法が必要である。本法はPCR条件が重要である。シークエンスの効率化のための変性高速液体クロマトグラフィー法などもある。トリプレットリピート病のリピート延長の検出はNGSでは困難で,サザンブロット法やPCR法が用いられるが,様々な長さのリピートを簡便に正確に検出することは必ずしも容易ではない。新たな脆弱X症候群のリピート検出についても紹介する。
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2. |
次世代シーケンス解析技術の進歩とその臨床応用
(山口貴世志・古川洋一) |
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次世代シーケンス(NGS)技術の進歩とその普及による解析コストの低下は,NGSの利用目的や応用範囲を急速に広げつつある。がんの分野においても,パネル解析による薬剤選択,シングルセル解析による腫瘍の多様性・進化の解明,circulating tumor DNA解析による腫瘍進展・再発のモニタリング,治療応答性・耐性解析など,研究のみならず実臨床への応用が進みつつある。さらには膨大な文献データ,医薬品情報,治験データなどを学習させた人工知能を用いて,がんゲノムのバリアント情報に対応した最適な治療薬を予測するサービスも開始されている。NGSを用いたがんゲノム医療の更なる進展が期待される。
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3. |
ロングリードによるタンデム繰り返し配列の検出
(森下真一) |
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現在公開されているヒトゲノムや多細胞生物のゲノムの多くが未完成である。特に,ある単位の配列が並んで何度も繰り返すタンデム繰り返し配列の解読が難しく,見落とされる傾向にある。タンデム繰り返し配列は脳疾患と関連していることが多く,それらを検出できるようになることは,とても大切である。1万塩基対以上のDNA断片を解読できるロングリードシーケンサー
PacBio RSⅡが2011年に市場化され,その後,Nanopore 社のシーケンサーも利用可能になり,タンデム繰り返し配列の検出は容易になりつつある。本稿では,これまでにどのような問題が解決され,また現在どのような問題が残っているかを紹介する。
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●第2章 難病 |
1. |
オミックス解析を通じて希少難治性疾患の医療に貢献する基盤研究 |
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1) |
オミックス解析による遺伝性網脈絡膜疾患の病因・病態機序の解明
(須賀晶子・吉武和敏・岩田 岳) |
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視覚情報はヒトが得る最も重要な情報であり,これが障害されると生活や仕事に大きな支障をきたす。感覚器器官の1つである眼の網膜は,光を電気信号に変換する視細胞働とそれに接続する双極細胞や神経節細胞から構成される。遺伝性網脈絡膜疾患(37疾患)の多くは網膜に局在するタンパク質が遺伝子変異によって機能しないことから発症する。すでに257遺伝子が報告されているが,日本人での解析は十分に行われていない。われわれはこのような状況を改善するためにオールジャパン体制で家系単位の全エクソーム解析と変異体の機能解析による病因・病態機序の解明を試みた。
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2) |
ゲノム不安定性を示す希少難治性疾患の次世代マルチオミクス解析による病因究明
(荻 朋男) |
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ゲノムDNAを安定に維持するには「DNA損傷応答・修復システム」が必須である。本システムの異常により発症する難治性遺伝性疾患が数多く存在し,発育異常・神経変性・早期老化など多様な病態を示すが,その本質的な原因はゲノムの不安定化である。関連遺伝子の異常により発症する「ゲノム不安定性疾患」の原因究明には,技術の普及と進歩が目覚ましい次世代ゲノム解析法が広く用いられる一方で,ゲノム解析のみでは疾患原因遺伝子変異の同定が困難な症例が増えている。本稿では,ゲノム解析・トランスクリプトーム解析・精密質量分析(疾患プロテオーム解析)・細胞機能解析・身体表現型評価などの最新オミクス技術を融合した,次世代マルチオミクス解析システムを導入することで,ゲノム不安定性疾患を中心とした遺伝性疾患の診断率向上と病態解明をめざした取り組みを紹介したい。
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3) |
大規模臨床,ゲノム,不死化細胞リソースを基盤としたオミックス解析による孤発性ALS治療法開発
(中村亮一・熱田直樹・祖父江 元) |
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筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)は運動ニューロンの進行性変性,脱落を特徴とする代表的な神経難病であり,病態抑止治療の開発は喫緊の課題である。そのためには,大部分を占める孤発性ALSの病態関連遺伝子・分子を同定し,病態解明と治療薬探索を推進する必要がある。その基盤として,わが国では多施設共同ALS患者レジストリであるJaCALSが構築され,収集された遺伝子検体を用いて,孤発性ALSの疾患関連遺伝子が複数同定されている。このレジストリでは,前向きの臨床経過情報や生存期間などの多彩な臨床情報と,遺伝子検体,不死化細胞などの生体試料が結びつけられていることが特徴であり,ALSの発症に関わる遺伝子のみでなく,経過などの臨床像と関連する遺伝子の探索同定が行われている。
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4) |
遺伝性筋疾患の統合的ゲノム解析
(大久保真理子・飯田有俊・西野一三) |
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遺伝性筋疾患は,臨床的にも遺伝学的にも極めて多様な病型を示す難病である。それゆえ,一部の病型を除いて病因論の全容解明には至っていない。そこでわれわれは,遺伝性筋疾患の解明と診断,そして治療に関する情報基盤を構築するために筋病理診断にゲノム解析を組み合わせた「筋疾患統合ゲノム解析」を行っている。本稿では,独自に開発した筋疾患遺伝子パネルを中心に当センターにおけるゲノム解析について述べるとともに次世代シーケンサーを用いて開発した染色体構造異常の検出方法などについても概説する。
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5) |
周産期領域におけるオミックス解析の臨床応用
(秦 健一郎) |
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生命現象の源である遺伝子(遺伝情報)は細胞を構成する物質の設計図となり,それらの物質は生理活性や化学反応により細胞機能を担う。ゲノムシークエンス技術をはじめ様々なハイスループット計測技術が実用化されたことにより,これらの物質を網羅的に計測し,分子レベル単位でまとめた「---オーム」として全体を眺めることで,各分野で新たな発見がなされている。さらにそれらを統合したオミックス解析は,複雑な生命現象ネットワークの理解に有用であり,これまで気づかれなかった病因病態の発見や,新たな疾病概念提唱や診断治療法開発への応用展開が期待されている。
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6) |
希少難病の高精度診断と病態解明のためのオミックス解析
(青井裕美・松本直通) |
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次世代シークエンサー技術の向上によりメンデル遺伝性疾患の原因解明は飛躍的に進展した。全遺伝子のエクソン領域のみを抽出し,網羅的に解析する全エクソーム解析はwet/dryの解析効率の点で優れており,原因不明の遺伝性疾患解析の第一選択技術となっている。一方で,全エクソーム解析で病的バリアントを同定できる率(原因解明率)はケースベースで33%程度である(当研究室実績)。つまり3例解析すると1例は病的バリアントが同定できるという程度で,残りの未解決の2例を解析するためにさらなる戦略が必要である。横浜市立大学で推進しているオミックス解析拠点の解析系の主力である全エクソーム解析を概説し,原因解明率を向上させるための工夫や新たな取り組みを紹介する。
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7) |
東京大学医科学研究所におけるがんの臨床シークエンスシステム研究の背景
(宮野 悟) |
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がんはゲノムの変異が主な原因で発症する複雑な病気である。ゲノムシークエンスのコストと時間は激減し,今や数百ドルで個々人のがんのゲノムを解析できるようになった。しかしデータ解析によって見つかってくる変異は数百〜数百万と多く,人知・尽力の範囲を逸脱している。研究としては通常その一部だけを調べることで済ませている。しかし,いったん患者に治療や病態の理解として結果を返すにはそのようなわけにはいかない。ビッグデータを読み,理解し,学習・推論する人工知能技術が必要な所以である。本稿では,東京大学医科学研究所におけるがんの臨床シークエンス研究システムと人工知能システムWatson for Genomicsによる支援的活用の実際について紹介する。
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8) |
臨床応用に向けた疾患シーケンス解析
(辻 省次) |
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ゲノム医学研究の飛躍的な進歩を受けて,ゲノムシーケンスが診断確定をめざしたクリニカルシーケンスとして医療に実装する動きが活発になっている。わが国では,遺伝性の難病,がんについて,医療実装が進められている。クリニカルシーケンスにおいては,ゲノムシーケンスの解析結果を適切に解釈すること,そのために日本人集団において,健常者における変異の情報,疾患発症に関連する病原性変異について,データベースの構築・整備が喫緊の課題となっている。診断を確定することは,医療の出発点であり,クリニカルシーケンスが医療に実装され,多くの患者の診断に貢献することが望まれる。
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2. |
遺伝子情報に基づいた遺伝性難聴の個別化医療
(宇佐美真一・西尾信哉) |
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先天性難聴は,新出生児1000人に1人の割合で生まれる頻度の高い先天性疾患の1つである。難聴医療では遺伝学的検査の臨床現場での応用が進み,正確な診断に基づいた個別化医療が実現しつつある。特に,人工内耳の進歩,残存聴力活用型人工内耳などの新しい人工聴覚器の登場により,難聴のサブタイプに応じたオーダーメイドの医療が提供可能となってきた。
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3. |
遺伝性心血管疾患における遺伝子解析による原因究明と医療への応用
(朝野仁裕) |
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超高速DNAシーケンサーの登場により循環器分野でも以前に比べ比較的容易に疾患原因遺伝子を同定できるようになった。しかし,原因遺伝子を治療標的とした画期的治療法の開発は進まず,臨床医は同定遺伝子の診断的意義を考え,その情報をゲノム医療に利用すべく模索している。近年の分子標的創薬や遺伝子治療の進歩により,原因遺伝子に対して直接介入する治療が現実のものとなりはじめた。疾患病因を明確にするだけでなく,画期的治療法につながる可能性がある。本稿では,循環器疾患のゲノム医療の現状と展望について概説したい。
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4. |
「研究」から「検査」へ:次世代シーケンシングによる遺伝子検査の課題
(小原 收) |
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20世紀の終わりに出現した,それまでのゲル電気泳動に依存していたDNAシーケンシング法に代わる「次世代」と呼ばれたDNAシーケンシング法は,この20年の間に劇的な技術的進歩を遂げた結果,臨床目的に利用可能な段階に至ろうとしている。しかし,これまでの研究目的では次世代シーケンシングの利用が一般化してきたとは言え,その診断への応用が多くの方々の臨床的な期待に応えるためには,まだまだ解決していかないといけない課題が山積している。本稿では,特に希少難病の診断に焦点をおいて,次世代シーケンシングの検査利用において直面している留意しなければいけない点について述べてみたい。
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●第3章 IRUD |
1. |
未診断疾患に対する診断プログラム:IRUD(Initiative on Rare and Undiagnosed
Diseases)
(高橋祐二・水澤英洋) |
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未診断疾患に対する診断プログラムIRUDは,希少・未診断疾患を体系的に診断し,患者情報を蓄積し共有するシステムを確立するために,2015年にAMEDが中心となって設立された。拠点病院・臨床専門分科会・コーディネーティングセンター・解析センター・データセンターから構成され,全国縦断的・専門分野横断的な診療体制,ゲノム解析・データシェアリング・レポジトリを行う研究体制,IRUD推進会議を中心としたガバナンス体制が整備されている。発足以来2017年度末までに1万人以上が登録され,40%近い診断率・9つ以上の新規原因遺伝子同定・8つの新規疾患概念確立を達成している。IRUDは未診断疾患の原因究明・治療法開発を通じてわが国の希少難病医療に貢献することが期待される。
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2. |
モデル生物コーディネーティングネットワークによる希少・未診断疾患の病因遺伝子の機能解析
(井ノ上逸朗) |
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希少・未診断疾患の原因同定をめざしたIRUDがあり,それを補完するIRUD-Beyondとしてモデル生物研究プロジェクトが開始された。先行するカナダのシステムを参考にしていることもあり,J-RDMM(Japanese Rare Disease Models and Mechanisms)と名づけている。基本的にゼブラフイッシュ,ショウジョウバエ,線虫,酵母などのモデル生物を用い,低コスト,短期間,ハイスループットに検討できるメリットを最大限活かし,疾患遺伝子候補の分子遺伝学的な機能解析を行う。
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●第4章 周産期 |
1. |
周産期のゲノムシーケンスの現状
(加藤武馬・倉橋浩樹) |
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近年,周産期分野における遺伝子・染色体診断に,大容量塩基配列解析が可能な次世代シーケンサー(next generation sequencer:NGS)を用いた解析が広く応用されつつある。家族歴のない一般の夫婦で単一遺伝病の保因者診断を行うpreconception testや,母体血から胎児の染色体を調べる新型出生前診断(non-invasive prenatal genetic testing:NIPT),生殖医療における移植前の受精卵の染色体異常の有無を調べる着床前スクリーニング(preimplantation genetic testing for aneuploidy:PGT-A)など,重篤な疾患をもつ児の出生や流産のリスクの低減を目的としてNGSが多く利用されている。本稿では,NGSの解析手法や利点,またそれに伴う留意点などを交えながら解説する。
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●第5章 がん |
1. |
遺伝性腫瘍に対するクリニカルシーケンス
(平沢 晃) |
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従来より遺伝性腫瘍に対する遺伝学的検査は,十分な遺伝カウンセリングの実施と,リスク評価に基づいて遺伝子バリアントを保持している可能性が高い遺伝子の検査から施行するというアプローチが主流であった。しかしながら,近年のがんクリニカルシーケンスやPARP阻害薬を用いるためのコンパニオン診断を行う機会に,遺伝性腫瘍に関連した生殖細胞系列病的バリアントが同定される機会が増えてきている。遺伝性腫瘍の生殖細胞系列病的バリアント保持者に対しては,適切ながん予防策を講じることで,がん死を低減することが可能となることがあるため,がんゲノム医療実用化時代においてこそ遺伝性腫瘍に関する知識が重要である。
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2. |
分子標的治療薬とコンパニオン診断
(高橋俊二) |
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がん分子標的薬の使用には,がん細胞における分子標的の確定(バイオマーカー)が必要になり,これを標準化したものがコンパニオン診断薬である。最近は分子標的薬の開発と並行して開発され,ほぼ同時に承認されることが多い。トラスツズマブにおけるHercepTest, EGFR-TKIにおけるEGFR変異検査,さらに最近の次世代シークエンス(NGS)による遺伝子パネルを用いて同時に多くの分子標的を検索し標的治療薬を選択する診断薬などについて概説する。
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3. |
造血器腫瘍に対するクリニカルシーケンス
(中村聡介・横山和明・東條有伸) |
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次世代シーケンサーの登場により低コストかつ短期間で網羅的なゲノムシーケンスを行うことが可能となり,学術研究のみならず実臨床にも応用されてきている。われわれのグループでは自施設で診療する造血器腫瘍患者検体を用いて網羅的なゲノムシーケンスを行い,担当医にシーケンス結果を返却する,自施設完結型の臨床シーケンスの実践に取り組んでいる。さらに2015 年よりIBMとの共同研究を開始し,医科研独自の解析パイプラインと併用する形で人工知能Watson for Genomicsを導入した探索的臨床研究を行っている。本稿では,われわれの取り組みをもとに,臨床シーケンスの現状と展望を概述する。
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4. |
NCCオンコパネル検査システムとTOP-GEARプロジェクト
(久保 崇・河野隆志) |
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がんクリニカルシークエンスは国内において薬事承認が近づいている。現在,がんゲノム医療体制の整備が全国的に進められており,誰もが遺伝子異常プロファイル検査を受けられる日が近づきつつある。現在も多くの自由診療や先進医療で行われているが,その大半が海外検査企業を利用している。本稿では国内におけるクリニカルシークエンスシステム開発の一例として,NCCオンコパネル検査システムと,これを用いて行われている臨床研究TOP-GEARプロジェクトについて解説する。
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5. |
海外におけるがんクリニカルシークエンス
(加藤真吾) |
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近年,がんゲノムの解析を根拠に治療法を決定する,がんゲノム医療の研究が盛んに行われている。がん細胞に起きているゲノム変化を明らかにし,適切な治療法を適合させるという戦略は,極めて合理的であると考えられるが,実際に臨床応用した際に,どの程度効果が望まれるのかに関してはまだ情報が少ない。また,実際に臨床検査として用いる場合は,コストの面から各国の医療保険制度と密接な関係があり,導入は容易ではない。特にわが国は国民皆保険であるため,その費用対効果を慎重に検証せねばならない。本稿では,すでに臨床検査として運用されている海外の事例を基に,がんクリニカルシークエンス検査の現状と課題をレビューする。
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6. |
リキッドバイオプシーによるクリニカルシークエンス
(西尾和人) |
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循環腫瘍細胞,循環無細胞核酸,エクソソームなどの主に血液由来の液性の腫瘍由来検体はリキッドバイオプシーと総称される。リキッドバイオプシーを用いた腫瘍由来核酸の遺伝子変化の検出は,効果予測,治療選択,モニタリング,proof of conceptのために用いられる。肺がん領域では,血漿サンプルによるEGFR 遺伝子変異検査が追加承認され実用化された。デジタルPCR,次世代シークエンサーなどの遺伝子解析技術の進歩により,高感度かつマルチ解析が可能となり,低頻度変異アレル検出が可能となり,がん臨床における実用化が近づいた。リキッドバイオプシーを用いて治療経過中の獲得耐性の機序を明らかにすることによりadaptive treatmentへのパラダイムシフトが期待される。
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7. |
全国規模のがんゲノムスクリーニングと臨床開発
(土原一哉) |
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分子標的治療の進展に伴い腫瘍個々のゲノム変化と治療薬のマッチングが現在のがん薬物療法の基本となっている。さらに,共通のドライバー分子に対する臓器横断的な治療開発の可能性を示唆する臨床試験の結果も報告されるようになった。こうした背景のもと,大規模な患者集団を対象に広範にゲノム変異をスクリーニングし複数の臨床試験への組み入れが可能なシステム構築が新薬開発に必須となっている。国内では肺がん,消化器がんを対象にしたSCRUM-Japanによる1万例規模の症例集積が進み,治療薬の早期承認への道筋を開いている。
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8. |
二次的所見とその対応−静岡がんセンタープロジェクトHOPEの経験−
(浄住佳美・松林宏行・堀内泰江・楠原正俊) |
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ゲノム医療実用化の動きの中で,二次的所見への対応策についても国内外で様々な議論が行われている。静岡県立静岡がんセンターの臨床ゲノム研究「プロジェクトHOPE」では,主にACMG SF v2.0に準じ,十分な倫理的配慮のうえ,遺伝カウンセリング中で希望者に二次的所見を返却している。これまでに,参加者全体の約1%に遺伝性腫瘍関連遺伝子変異を認めている。実際に返却を進める中で見えてくる課題も多いが,今後も多職種で検討を重ね,個々の患者・家族にとって最善のがんゲノム医療体制づくりを進めていきたい。
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●第6章 人材育成 |
1. |
次世代スーパードクターの育成
(福嶋義光・古庄知己) |
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ゲノム医療実現推進が国策の1つとなり,具体的な様々な取り組みが始まっている。その中で最も重要なことの1つは,ゲノム医療を担うことのできる優秀な人材を効率的に育成するシステムを構築することである。信州大学遺伝子医療研究センターでは他の5大学(札幌医科大学,千葉大学,東京女子医科大学,京都大学,鳥取大学)の遺伝子医療部門と連携して,ゲノム時代の難治性疾患マネジメントを担うオールラウンド臨床遺伝専門医の育成に取り組んでいる。
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2. |
ジェネティックエキスパート認定制度
(中山智祥) |
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サンガー法を中心としたDNA塩基配列決定法は,研究から臨床応用へと随分浸透したが,最近では次世代シークエンサーやマイクロアレイ解析技術を用いた遺伝子関連検査の実用化がより一層進んできた。一方,これらの技術は全ゲノムを対象としているため,予期せぬ遺伝性疾患原因のバリアント(多様体)が発見される(secondary findings)ことがあるなど倫理的な問題が生じている。また見出したバリアントが疾患の原因(変異)になるのか,単なる個人差(多型)になるのかの判断は一筋縄ではいかず,インターネット検索によるリアルタイムの適格な情報収集が必要となる。このような問題点を解決するため,次世代シークエンサー臨床応用時代に即した新たな専門資格であるジェネティックエキスパート認定制度が日本遺伝子診療学会によって立ち上がった。本稿では,この認定制度の概説と期待される将来像を紹介する。
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●第7章 重要事項 |
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臨床ゲノム情報統合データベース整備事業
(徳永勝士) |
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「臨床ゲノム情報統合データベース整備事業」は,わが国における「ゲノム医療」の実現をめざして,ゲノム情報と臨床情報を統合する公的データベースを構築・整備するとともに,これを基盤情報として利活用する関連分野の研究開発を推進するものである。一次班(DS)グループは4つの疾患群を対象としてゲノム解析情報と臨床情報を統合し,データベースへの登録を進めている。二次班グループは,非制限公開データベースMGeNDを構築・整備し,内容の充実に努めている。筆者が参加するグループのプロジェクトについても述べる。
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2. |
次世代シークエンシング検査の品質保証
(宮地勇人) |
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次世代シークエンシングは,検出標的を限定したターゲットシークエンシングなど実用化と臨床利用は急速な展開を示している。その臨床利用の拡大を踏まえて,国内外で品質保証の取り組みや標準化の活動が活発化している。新たな解析技術に基づき検査室がデザインまたは開発した方法で遺伝子関連検査を実施する場合の品質確保において,まず技術的に分析的妥当性の確保が重要である。その客観性と信頼性を確保するには,測定システムの技術的な標準化とともに,必要な能力を有すると第三者認定された臨床検査室での検査実施と結果報告が望まれる。第三者認定のプログラムは,技術の進歩に呼応した品質保証や標準化に関する国内外の活動成果が反映されるよう構築が進められている。
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3. |
ゲノムシーケンス解析の臨床応用における倫理的配慮
(高島響子・武藤香織) |
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次世代シーケンサーの登場により希少難治性疾患やがんの領域におけるゲノム解析が目覚ましい進歩を遂げており,今後のさらなる臨床応用が期待されるところである。本稿では,ゲノム/遺伝情報を臨床応用する際に注意すべき倫理的課題を,医療倫理の4原則(自律尊重原則,無危害原則,善行原則,正義原則)の観点から整理した。そのうえで,ゲノム医療において患者と同様に配慮対象となる家系員の存在が,通常の医療以上に倫理的課題を複雑にすることを指摘した。さらに,ヒトゲノム計画から現在までのゲノム研究を巡る中心的倫理的概念の変遷を紹介した。
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●索引 |