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内容目次 |
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序文 (落谷孝広) |
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●第1章 microRNA 診断 |
1. |
肝疾患における miRNA 診断
(村上善基・田中正視・棚橋俊仁・田口善弘)
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miRNA は20mer 前後の小分子RNA で,塩基配列特異的に標的遺伝子を認識し,その発現を調節している。生命の発生,分化誘導などの生命現象に深く関与しているだけではなく,疾患,特に感染症,炎症,発がんなどに関係していることも明らかになった。miRNA は臓器別に発現パターンをもっている,その発現には個体差が少ないなどの特徴があり,miRNA を新たなバイオマーカーとして利用する試みがなされている。本稿では肝組織中のmiRNA を利用して,薬剤応答,慢性肝疾患の程度の評価の試みを紹介したい。
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2. |
肺がんにおける miRNA 診断
(石川雄一) |
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肺がんは日本で最も死亡数の多いがんであり,その治療・予防のための適切なバイオマーカーの開発が急務である。肺がん細胞の性質をより正確に特徴づけたり,肺がんを分類するには,mRNA よりもmiRNA のほうが適している。喀痰中ではmiR-21 の発現が増加しており,また肺がん患者の血漿では,miR-21 など4 種のmiRNA が高発現しており,miRNA による肺がん診断の可能性がある。さらに,肺がんの予後,組織型,喫煙と相関するmiRNA が知られている。また,腫瘍自体のみならず周囲の正常肺におけるmiRNA の発現が,発生するがんの悪性度と相関する可能性があることである。パラフィン包埋材料もmiRNA 発現研究に使えることがわかり,さらなる進展が期待される。
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3. |
糸球体腎炎における miRNA 診断の展望
(平塩秀磨・中島 歩・正木崇生・田原栄俊) |
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慢性糸球体腎炎のうち,最も一般的な疾患であるIgA 腎症は,わが国における透析導入原因として主要な疾患である。同疾患の診断および治療方針決定を目的に腎生検を行っているが,同検査は侵襲的である。現在microRNA192 などを中心とした血中・尿中のmicroRNA が,IgA 腎症の発症や進展,疾患重症度と深く関わっていることが明らかとなっており,その役割に注目が集まっている。特定のmicroRNA がIgA 腎症の診断マーカーとして開発されること,また治療に関わる創薬が成されることなどに期待がもたれている。
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4. |
神経変性疾患に関与する miRNA とその臨床応用への可能性
(今居 譲・服部信孝) |
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miRNA 合成酵素Dicer のノックアウトマウスの解析から,miRNA が予想以上に哺乳類の神経細胞・グリア細胞の発生・分化・機能維持に関与していることが示唆されている。さらに個々の遺伝性神経変性疾患の研究から,これら疾患に関与するmiRNA とその標的遺伝子が明らかとなってきた。今後は,これらの発見の臨床での検証・応用へ向けての技術開発が課題となる。一方,血液・脳脊髄液から検出されるmiRNA を利用した孤発性神経変性疾患バイオマーカー開発の試みは,疾患の早期診断につながると期待される。
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5. |
整形外科疾患における microRNA
(中原啓行・浅原弘嗣) |
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近年,microRNA(miRNA)などのnon-cording RNA は複数のターゲット遺伝子の発現を調節し,がん浸潤,組織発生および炎症反応などの様々な分野において重要な因子であることがわかってきた。整形外科領域においても組織特異的または発生段階特異的に発現し,組織ホメオスタシスや炎症応答,発生をコントロールする種々のmiRNA が報告されている。本稿では,整形外科疾患におけるmiRNA の働きと今後の臨床応用の可能性について関節炎を中心にまとめる。
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6. |
乳がんにおける microRNA 診断
(柴田龍弘) |
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乳がんにおいては,その多様な組織発生や病態に応じて多くのmicroRNA(miRNA)の発現異常が知られている。とりわけ,がん幹細胞の維持やエストロゲンシグナル,p53 など乳がんにおいて重要な分子経路にmiRNA が深く関与していることが明らかになってきた。さらに,乳がんの転移や化学療法に対する抵抗性獲得におけるmiRNA の発現異常とそれに伴う複数の標的遺伝子の発現変化の詳細が解明されてきた。乳がんにおけるmiRNA の役割を解明することで,今後新たな分子診断や治療法の開発が進むことが期待される。
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7. |
小児疾患における miRNA 診断
(大喜多 肇) |
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様々な小児疾患でmiRNA を用いた診断法の開発が試みられている。特に小児腫瘍では,腫瘍特異的な診断マーカーや層別化のためのマーカー開発が試みられ,一定の成果があげられつつある。小児の代表的な軟部腫瘍である横紋筋肉腫では,筋特異的miRNA と腫瘍の特性の関連が解析されるとともに,筋特異的miRNA が血清マーカーとなりうることが報告されている。一方,代表的な固形腫瘍である神経芽腫では,様々な生物学的態度を示す腫瘍が含まれるためmiRNA によるリスク層別化の可能性が探索されている。本稿では,小児疾患の中でも小児特有の腫瘍に対象を絞り,診断マーカー,予後マーカーとなりうるmiRNA 研究について言及する。
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8. |
血液疾患における miRNA 診断の応用
(大屋敷純子・大屋敷一馬) |
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悪性リンパ腫,白血病など血液の腫瘍(造血器腫瘍)は造血幹細胞が様々な分化段階で腫瘍化したもので,染色体異常,遺伝子異常などにより病型が規定されている。したがって,病型特異的なmiRNA はその分子病態に直結しており,診断マーカーであると同時に治療の分子標的である。血清・血漿,穿刺液,脳脊髄液などを用いた分泌型miRNA の発現解析は腫瘍細胞の解析ができない節外性リンパ腫や血球減少の著しい状態でも病勢診断が可能であり,診断マーカー,治療効果予測マーカー,そして予後マーカーとして期待される。
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9. |
胃がんにおける miRNA 診断
(阿部浩幸・深山正久) |
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miRNA はmRNA と結合して遺伝子発現の転写後調節に関わることで,がん化を含む様々な生命現象に関与している。近年,胃がん組織でのmiRNA の発現異常が指摘されており,その一部は組織型やstage などの従来知られてきた要素とは独立した予後因子になることがわかってきた。また,胃がん患者の血中miRNA の変化についても多数の研究が行われ,その一部は感度・特異度の優れた腫瘍マーカーとして期待される。胃がんの特殊な病型の1 つであるEpstein-Barr virus 関連胃がんでは,ウイルス由来miRNA が血液中の腫瘍マーカーとなる可能性がある。
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10. |
腎がんにおいて異常発現する miRNA とその機能
(中田知里・守山正胤) |
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腎細胞がんは成人腫瘍の約3%と頻度は低いが,泌尿器系腫瘍の中では前立腺がん,膀胱がんに比較して予後が悪い。進行性腎細胞がんに対する有効な化学療法はなく,外科的切除が第一の治療法であったため,分子標的薬の開発が切望されてきた。近年,スニチニブ,ソラフェニブなどが用いられるようになってきたが,耐性をもつ場合も少なくなく,選択肢を増やしていくことが必要である。そのためには開発もさることながら,腎がんに存在するゲノム異常,発現異常を頻度も含めて網羅的に把握し,標的候補分子やシグナル経路を特定することが重要になる。miRNA の発現解析,機能解析もその一端を担うものであり,これまでの知見についてまとめたい。
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11. |
眼疾患における miRNA
(橋田徳康) |
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眼科領域おける microRNA(miRNA)は,眼の発生・分化に関わり,各パーツ(角膜・結膜・ぶどう膜・網膜)において発現様式および発現量が異なり,視機能の維持に重要な役割を果たしている。現在までにマウスレベルでの知見が多く報告され,一部の疾患でmiRNA の発現変化と疾患が密接に関わっている報告がなされてきている。今後,白内障・緑内障・加齢黄斑変性といった罹患人口の多い疾患に関して研究が進み,これらの疾患の予防・治療がなされる日も近いと考える。
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12. |
大腸がんにおける miRNA 診断
(大野慎一郎・高梨正勝・土田明彦・黒田雅彦) |
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早期大腸がんを検出する有効な血中マーカーは現時点では存在しない。microRNA(miRNA)は20 塩基前後の短いRNA であり,各種のがんで特徴的な発現変動を示すことが明らかになっている。その発現変動はがん組織内に留まらず,血液を含めた体液や便でも確認できることから,非侵襲検査を可能とする新規のバイオマーカーとしての解析研究が盛んに行われている。本稿では,大腸がんにおけるmiRNA 診断に関して,これまでの研究を振り返りつつ,将来の可能性について論じたい。
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13. |
血清中 microRNA を用いた炎症性腸疾患の診断
(中道郁夫) |
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炎症性腸疾患(inflammatory bowel disease:IBD)は原因不明の消化管疾患で,いまだ完治できる根本的な治療法がない。近年の分子標的療法などで寛解する症例も多くなったが,寛解の維持が困難なことが問題となっている。現在のところIBD におけるmicroRNA の測定は主に大腸粘膜を用いたものであるが,われわれは初発IBD 症例において治療前後の血清でmicroRNA 測定を行っている。これまでのIBD における報告をまとめるとともに,われわれの検討でも明らかとなっている定量手技の問題を紹介する。
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14. |
膵がん領域における miRNA 研究
(金井雅史・松本繁巳・村上善基) |
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膵がんは現在国内の悪性新生物による死因の第5位を占めており,非常に予後が不良で難治性がんの1 つである。近年,膵がんの早期診断や化学療法に対する治療効果予測への臨床応用をめざしたmiRNA 研究が増えてきている。切除標本中のmiR-21 の発現が高い群ではゲムシタビンによる術後補助化学療法の効果が乏しいという報告もなされている。miRNA は末梢血でも測定可能であることから臨床応用もしやすく,また血管内への投与も可能であることから膵がんの増殖抑制に重要な役割を果たすmiRNA が同定されれば,それがそのまま治療薬につながる可能性も秘めている。
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15. |
脳腫瘍における miRNA
(秋元治朗・原岡 襄) |
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本稿では,microRNA の脳腫瘍バイオロジー解析およびバイオマーカーとしての意義を論じた報告をレビューした。神経膠腫におけるmiR-21,miR-221/222,miR-10 の発現増加と,腫瘍増殖・浸潤との関連性が示された。髄芽腫においては,miR-124,miR-125b の発現増加と,細胞周期あるいは腫瘍形成シグナルの制御との関連性などが示された。また,髄液中microRNA 解析のバイオマーカーとしての意義が,神経膠腫や中枢神経原発リンパ腫において報告されている。
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16. |
妊娠における miRNA 診断 :
胎盤特異的 miRNA と妊娠高血圧症候群の発症予知
(瀧澤俊広・大口昭英・右田 真・松原茂樹・竹下俊行) |
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第19 番染色体上でmicroRNA(miRNA)がクラスターを形成している領域に由来し,胎盤において特異的に発現しているmiRNA が同定された。妊娠高血圧症候群の胎盤において発現異常を認めるmiRNA により引き起こされる胎盤機能異常がはじめて明らかにされた。妊娠期間中,この胎盤特異的miRNA がエクソソームを介して胎盤より放出され,母体血液中に移行して循環している。採血というルーチン検査によって胎盤由来のmiRNA 情報を得ることができ,周産期医療のための新しい予知・診断ツールとして臨床応用が期待される。
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17. |
疼痛と神経疾患による脳内 miRNA 発現変動 :
中枢性疾患の診断基準としての miRNA
(西須大徳・山下 哲・葛巻直子・成田道子・落谷孝広・成田 年) |
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慢性疼痛が上位中枢に及ぼす影響は大きく,情動を含めた様々な変化は病態を複雑化させ,症状を悪化させる。われわれは,神経障害性疼痛様モデルマウスにおける側坐核での神経活性低下変化およびmiRNA200b/429 の減少を確認した。これらのmiRNA はDNMT3a をターゲットとしており,その有意な上昇も確認している。持続性疼痛は側坐核領域での様々な遺伝子発現変化を修飾し,難治化を引き起こす一因となっている可能性が示唆される。miRNA はこのような疼痛の難治化の一端を担う可能性が考えられ,病態解明に必要不可欠な因子であると考えられる。
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●第2章 microRNA 治療
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1. |
miR-146 による関節炎モデルにおける骨破壊抑制
(中佐智幸・越智光夫) |
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microRNA(miR)-146 は,自然免疫,炎症反応をネガティブに制御しており,関節リウマチ(RA)の滑膜,末梢血中に高発現している。われわれは,コラーゲン関節炎マウスに対して,合成二本鎖miR-146
を尾静脈から投与し,治療効果を検討したところ,関節破壊が抑制されていた。また in vitro では,破骨細胞分化においてmiR-146 の強制導入により破骨細胞分化は抑制されていた。miRNA
は,次世代の核酸医薬としても注目されており,RA における新たな治療戦略に展開できる可能性がある。
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2. |
がん抑制的 miRNAs - 効率な単離法から機能解析まで -
(土屋直人・中釜 斉) |
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microRNA(miRNA)の機能異常が多くのヒトがん組織で認められ,がん病態の誘発と深く関連していることが明らかとなってきた。特に,がん細胞の増殖抑制的に機能する,いわゆる「がん抑制的miRNA」に関しては,発がんの分子機構を解明するための重要なファクターであるのみならず,新たな核酸医薬品の開発シーズとしても注目されている。本稿では,がん抑制的miRNA の効率よい単離法として,当グループで確立した機能スクリーニング法と,本法を用いて大腸がん抑制遺伝子候補miRNA を同定したので,その機能と合わせて概説したい。
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3. |
マイクロ RNA によるがん幹細胞標的治療
(百瀬健次・下野洋平) |
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幹細胞としての性質をもつとされるがん幹細胞は,腫瘍組織中に存在するがん細胞の中でも特に高い腫瘍原性を示す。マイクロRNA-200c(miR-200c)はヒト乳がん幹細胞で特徴的に発現が低下しており,その強制発現によりヒト乳がん幹細胞の腫瘍原性は著しく抑えられる。したがって,miR-200c をはじめとする miR-200 ファミリーは,がん幹細胞の抑制を通じて,腫瘍の治療感受性を高めるとともに再発や転移を抑制することをめざすがん幹細胞標的治療に用いるマイクロRNA の候補として,その応用が期待される。
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4. |
miR-22 による乳がんモデルマウスを用いた増殖・転移抑制
(石原えりか・福永早央里・田原栄俊) |
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がん化に伴うエピゲノム変化に起因するマイクロRNA の発現亢進および発現低下は,がんの進展に重要な寄与をしていることが明らかになっている。われわれは,がんで発現低下しているマイクロRNA の中に,細胞老化で亢進しているマイクロRNA があることに注目し,細胞老化関連マイクロRNA としてmiR-22 の寄与を乳がんや子宮がんで明らかにした。さらに,乳がんの高転移がん細胞を皮下移植したモデルマウスで,miR-22 の皮下投与が顕著な乳がんの増殖抑制,転移抑制を示したことから,マイクロRNA の補充療法ががん治療に有効である可能性が示唆された。
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5. |
膀胱がんに対するmiRNA治療の可能性
(竹下文隆・落谷孝広) |
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膀胱がんは,非浸潤性であれば切除治療により予後良好であるが,再発率が高く,浸潤がんへの移行も多い。浸潤がんに対する有効な治療法は現在では非常に限られており,新たな治療法の開発が切望されている。miRNA は,発現異常とがんの発生や悪性化との関連や創薬標的として,可能性は膀胱がんの研究においても非常に注目されている。膀胱はいわば閉じた空間であるため,デリバリーの観点からもsiRNA やmiRNA などの核酸医薬の応用に期待も高い。本稿では,膀胱がんに対するmiRNA 創薬の可能性について概説する。
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6. |
マイクロ RNA によるがん転移予防への展開
- miR-143 による骨肉腫肺転移抑制効果とその標的遺伝子の同定 -
(尾崎充彦・杉本結衣) |
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悪性腫瘍の発生および進展にマイクロRNA の発現異常との関連が報告されている。さらに,腫瘍組織におけるマイクロRNA 量を調節することにより病態を改善できることが報告されつつあり,治療に向けた取り組みが進められている。
本稿では,ヒト骨肉腫細胞の浸潤能を制御するマイクロRNA を核酸医薬としてモデルマウスへ全身投与することにより,転移抑制効果を示すことに成功したデータを紹介するとともに,マイクロRNA という観点からの転移メカニズム解明に向けたわれわれの解析データについて概説する。
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7. |
分泌型 microRNA による新たな細胞間コミュニケーション :
エクソソームを用いたmicroRNA治療への挑戦
(小坂展慶・萩原啓太郎・吉岡祐亮・落谷孝広) |
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マイクロRNA(microRNA:miRNA)は,発生,器官形成および成体の恒常性など様々な生命活動の微調整を行う分子である。miRNA の発現異常は,遺伝子ネットワークを乱し,代謝疾患,免疫疾患やがんなど様々な疾患を加速する。近年,このmiRNA が細胞外に分泌されることが報告された。本稿では,分泌型miRNA,特にエクソソーム中に存在するmiRNA に焦点を当て,最近の知見をまとめたものを紹介する。さらにエクソソームを用いた新たな核酸医薬の開発も模索されており,その可能性も提示する。
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8. |
核酸医薬などのドラッグデリバリーをめざした磁性ナノコンポジットの創製
(並木禎尚) |
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本稿では,磁性ナノ構造物(磁性ナノコンポジット)に担持・搭載したsiRNA やプラスミドDNA などの核酸医薬の挙動を,磁気エネルギーの利用により遠隔制御できる新たなドラッグデリバリーシステムについて述べる。また,体内深部の標的病巣部選択的に磁気を照射することにより,磁性ナノコンポジットを磁気誘導できる生体適合性の高い装置についても紹介する。
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9. |
2’-OME RNA オリゴを基盤とした独特の二次構造をもつ新規 microRNA 阻害剤S-TuD
(原口 健・伊庭英夫) |
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われわれは,これまでに特定のmicroRNA(miRNA)を阻害するdecoy RNA,TuD RNA(tough decoy RNA)をプラスミドベクターやウイルスベクターから発現させる系を開発してきた。このベクターはそれまでのmiRNA 阻害RNA 発現ベクターと比べて極めて高い阻害能を有していることから,様々なmiRNA 解析において用いられてきた。われわれは核酸創薬をめざし,この独特の二次構造をもつTuD RNA の構造を模した2’-OME RNA オリゴを合成し,高い阻害活性をもたせる設計法を確立した。そして,この新規miRNA 阻害剤を「S-TuD(synthetic TuD)」と命名した。本稿において,このS-TuD について紹介したい。
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10. |
miRNA 制御ウイルスによるがん細胞特異的治療法の開発
(中村貴史) |
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現在世界中において,生きたウイルスを利用してがんを治療するウイルス療法(oncolytic virotherapy)に関する前臨床研究および臨床試験が積極的に行われている。これは,ウイルスが本来もっているがん細胞に感染後,がん組織内で増殖しながら死滅させるという性質(腫瘍溶解性)を利用する方法であり,最大のキーポイントは正常組織に対するウイルス病原性をいかに排除するかという点にある。本稿では,がんにおけるmicroRNA(miRNA)の特性と,その遺伝子発現調節機構を利用することによって,がん細胞特異的に増殖し正常細胞では増殖しないmiRNA 制御ウイルスの開発について紹介する。
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11. |
microRNA による遺伝子発現制御システムを搭載したアデノウイルスベクターの開発
(櫻井文教・水口裕之) |
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遺伝子治療の実現に向けては,導入遺伝子を標的組織で高効率に発現させるとともに,標的以外の組織における発現をできるかぎり抑制することが望ましい。この実現に向けて,近年,microRNA を利用した遺伝子発現制御システムに注目が集まっている。すなわち,遺伝子発現させたくない組織において特異的に高発現しているmicroRNA の完全相補配列を導入遺伝子の3’非翻訳領域に挿入することにより,組織特異的に導入遺伝子の発現を抑制することができる。本システムは,導入遺伝子の非特異的な発現による副作用の軽減に向けて極めて有用と期待される。
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12. |
miRNA による iPS 細胞作製と再生医療への展開
(宮崎 進・山本浩文・三吉範克・石井秀始・土岐祐一郎・森 正樹) |
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2006 年にマウスの線維芽細胞より,2007 年にはヒトの体細胞よりウイルスベクターを用いて4 種類の転写因子を導入することによって,ES 細胞によく似た細胞,iPS 細胞が樹立できることが報告された。2011 年に当教室よりmicro RNA(miRNA)を用いてiPS 細胞と類似した多能性をもつ細胞が誘導できるということを報告した。この方法ではウイルスベクターも用いず,さらにゲノムへの遺伝子組み込みもなく安全である。今後,再生医療のみならず様々な疾患治療に応用できることが期待される。
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13. |
miRNA による抗がん剤感受性増強効果
(西田尚弘・三森功士・森 正樹) |
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抗がん剤耐性へのmicroRNA(miRNA)の関与が明らかになりつつある。耐性獲得の要となる個々の分子,あるいはシグナル伝達経路全体を制御することによって,miRNA は抗がん剤耐性の様々な段階に関わっていることがわかってきた。これらのmiRNA は,薬剤感受性予測因子としてだけではなく,感受性増強の治療ツールとして臨床応用が期待されている。また抗がん剤耐性細胞において特異的に発現変化が起きているmiRNA の中には,近年治療標的として注目されているがん幹細胞や,上皮間葉移行に関わるmiRNA も存在する。本稿では,これらの要素も踏まえて抗がん剤感受性に関わるmiRNA に関して概説する。
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●第3章 microRNA 創薬
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1. |
アテロコラーゲンによる核酸医薬デリバリー開発
(牧田尚樹・永原俊治)
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近年,次世代の医薬品候補として核酸医薬が注目を集めており,なかでもsiRNA
やmicroRNA といったRNA 干渉を利用した技術の臨床応用が期待されている。しかしながら,DDS
技術の開発の遅れから,いまだこれらの技術が市場を形成するには至っていない。このような状況下,アテロコラーゲンによる核酸医薬デリバリー技術は,核酸医薬の
in vivo での有効性を飛躍的に高めるだけでなく,安全性や製剤としての完成度が高いDDS
技術として数多くの研究者に使用されている。本稿では,本DDS 技術の応用や安全性に関する報告事例とともに,その製剤的な特長について紹介する。
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2. |
miRNA 医薬開発の現状と展望
(山田陽史・吉田哲郎) |
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miRNA の機能解析が進み,その発現異常ががん・代謝性疾患など種々の疾患と関連するケースが続々と報告されてきた。そのため,過剰なmiRNA を抑制したり不足するmiRNA を補充したりしてmiRNA の発現をコントロールし,治療効果を発揮させるコンセプトの医薬品をめざした取り組みが始まっている。miRNA の発現制御が可能な分子構造などに関する技術の進展に伴い,miRNA を創薬標的とした欧米のベンチャー企業も複数設立されている。すでにmiR-122 を阻害するアンチセンス医薬はHCV 治療薬として第2 相臨床試験中であり,今後の展開が期待される。
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3. |
がんにおける miRNA 生合成機構の異常と治療標的としての可能性
(鈴木 洋・宮園浩平) |
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microRNA(miRNA)は,内在性のRNA サイレンシング機構を担う代表的な低分子RNA 群であり,miRNA の多様性およびmiRNA による遺伝子制御機構の複雑性を反映して,miRNAはがんの様々な生物学的側面で多彩な役割を演じていることが明らかになってきた。がんでは様々なmiRNA の発現異常? 機能異常が認められるが,miRNA の産生を司る生合成機構そのものにもがんでは異常が認められることが近年明らかとなってきており,これらの知見は低分子RNA 生物学の進展にも寄与している。本稿では,がんにおけるmiRNA 生合成機構の異常について概説し,miRNA 生合成機構を対象とした治療応用の可能性について議論したい。
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4. |
がん抑制型 microRNA を基点としたがん分子ネットワークの解明とがんの新規治療戦略
(野畑二次郎・関 直彦) |
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ポストゲノムシークエンス時代のがん研究のトピックスとして,機能性RNA の1 つであるmicroRNA(miRNA)が,がん抑制型あるいはがん遺伝子型miRNA として,がんの発生・進展・転移に深く関わっていることが示された。最近,われわれを含む多くのmiRNA 研究者は,これらがん関連miRNA が制御する分子ネットワークの網羅的な解析に苦戦している。本稿では,われわれが注目するがん抑制型miRNA の研究戦略と最近の知見について紹介したい。また,miRNA を基点とした分子ネットワークの解析成果から見えてくるがんの新規治療戦略について述べたい。
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●索引 |