|
内容目次 |
|
● |
序文
(竹田-志鷹真由子・梅山秀明) |
|
 |
|
●第1章 インシリコ創薬進展に向けた次世代創薬基盤技術 |
1. |
インシリコ創薬に関わるタンパク質の結晶構造解析
(梅原崇史・横山茂之) |
|
従来の創薬研究では,特定の機能アッセイや結合アッセイに基づいて目的活性分子を探索する方法が主流とされてきているが,近年,標的タンパク質の立体構造情報に基づいた創薬探索技術が追求・改良され,より合理的な薬剤設計が可能になりつつある。本稿では,インシリコ創薬をはじめとする合理的薬剤開発の出発点と位置づけられる「タンパク質の立体構造解析」について,重要な創薬ターゲットカテゴリーの一種であるエピジェネティクス制御因子群の解析例を中心に紹介する。
|
|
2. |
モデルから直接標的タンパク質構造へ:SBDD創薬をめざした脂質構造生物
(宮野雅司・吾郷日出夫・堀 哲哉) |
|
創薬におけるタンパク質結晶構造解析は,ますます重要になってきている。なかでも創薬ターゲットとして中心となってきている膜貫通タンパク質については,その重要性と期待にもかかわらずなかなか進んでこなかった。私達は役に立つタンパク質結晶構造解析をめざして,脂質関連タンパク質を中心に構造解析を進めてきた。2000年に初めてのGPCRとしてビタミンA誘導体であるレチナールをリガンドとするウシロドプシンの結晶構造解析に成功した。この構造はGPCRモデルとしてたいへん役立ってきた。また,2007年にはさらにわれわれのロイコトリエンC4合成酵素など,直接創薬標的となるヒト膜貫通タンパク質の構造決定が大いに進み新たな時代を迎えた。
|
|
|
|
1) |
Template Based Modeling
(竹田‐志鷹真由子・寺師玄記・加納和彦・梅山秀明) |
|
|
立体構造未知のタンパク質(ターゲット)の立体構造を立体構造既知のタンパク質(テンプレート)の立体構造情報をもとに予測するTemplate Based Modelingは,手法の開発・改良,構造データベースの拡充,コンピュータの計算処理能力の向上などに伴い高精度で簡便な手法となってきており,創薬における実用性は増加の一途をたどっている。本稿では,Template Based Modelingの手法の概要およびタンパク質立体構造予測の国際コンテスト(CASP)について紹介する。
|
|
|
2) |
de novo モデリング
(中村周吾・清水謙多郎) |
|
|
タンパク質のアミノ酸配列情報だけからその立体構造を予測する「de novo モデリング」は,科学における未解決の重要問題の1つである。しかし,この10年足らずの間に,新しい方法の開発,構造データベースの拡大,コンピュータの高速化・並列化などを背景に急速な進歩をとげている。側鎖を含めた高い精度のde novo モデリングの成功例も報告され,近い将来に創薬にも応用できる可能性が広がってきている。本稿では,de novo モデリングの代表的な手法であるフラグメントアセンブリ法およびI-TASSER法の概要を紹介し,de novo モデリングの今後を展望する。
|
|
4. |
タンパク質複合体の立体構造予測
(竹田‐志鷹真由子・寺師玄記・加納和彦・梅山秀明) |
|
創薬研究においてタンパク質相互作用を分子レベルで理解することは重要であり,コンピュータを用いたタンパク質複合体の立体構造予測(タンパク質 - タンパク質ドッキング)は欠かすことのできない手法である。本稿では,タンパク質 - タンパク質ドッキングの概要およびタンパク質相互作用予測の国際コンテスト(CAPRI)について紹介し,相互作用予測の現状と展望を述べる。
|
|
5. |
立体構造情報からのタンパク質機能予測:現状と展望
(木下賢吾) |
|
ゲノムの配列情報をはじめとして,マイクロアレイを利用した遺伝子の発現情報やタンパク質の立体構造情報など,われわれは現在様々な生物情報の急激な増加に直面している。量の増加が即質的な変換をもたらすわけではないが,多くのデータを上手に解析することで新しく見えてくることも存在する。本稿では,急激なデータ増加の現状を踏まえつつ,特に遺伝子産物であるタンパク質の立体構造情報を利用した機能予測に関する最近の知見と今後の展望を議論する。
|
|
6. |
人工タンパク質設計の創薬への展開
(磯貝泰弘・太田元規) |
|
われわれ人間が,天然のタンパク質を出発点とせずに,「初めから」新規の構造と機能をもつ人工タンパク質をデザインして合成することを「de novo タンパク質設計」という。この研究分野の現状と,創薬に向けた将来への展望について解説する。
|
|
7. |
新規創薬ターゲット探索を志向したケミカルジェネティクス - 生理活性物質との相互作用に基づく創薬ターゲット探索
(田中明人) |
|
アフィニティ樹脂を用いた方法は,直接生理活性物質が結合するタンパク質を同定することができるため,天然物,医薬品,毒物などの生理活性物質ターゲット探索に有力な手法である。しかし,従来法では一般低分子化合物への適応が困難であったため,われわれは汎用性の高いアフィニティ樹脂によるターゲット探索方法,アフィニティ樹脂に特化した固相担体,および基盤情報収集に注力してきた。ここでは,forward chemical geneticsとしてのアフィニティ樹脂の創薬研究における位置づけ,およびわれわれが開拓した基盤技術について概説する。
|
|
8. |
Fragment-Based Drug Discoveryとインシリコ技術
(田中大輔) |
|
fragment-based drug discovery(FBDD)は,活性は弱いが効率よく相互作用しているシンプルで小さな化合物に着目し,創薬リードとして高いクオリティをもつ化合物へと展開する新しい方法論である。従来のhigh throughput screening(HTS)で有望なリード化合物を見出すことができなかったケースであっても,FBDDが有効な場合が多く報告されており,創薬の現場での期待感は日増しに高まっている。様々な技術の集約によりなされるFBDDだが,その中でもインシリコ技術が果たせる役割は幅広い。FBDDの概念とインシリコ技術の活用法について考察してみた。
|
|
9. |
高精度なタンパク質 - リガンド間相互作用解析に向けて |
|
|
1) |
フラグメント分子軌道法によるタンパク質 - リガンド複合体の相互作用解析とアフィニティ計算
(仲西 功・北浦和夫) |
|
|
フラグメント分子軌道(FMO)法は,タンパク質などの巨大分子全体を量子化学計算できる方法である。この方法によるとタンパク質とリガンドの結合エネルギー計算に加えてリガンドとの相互作用をアミノ酸残基単位で詳細に解析できるため,ドラッグデザインにおいて有用な知見を与える。また,リガンドのタンパク質へのアフィニティ(結合自由エネルギー)を求めるには溶媒効果を考慮することが不可欠であるが,定量的な計算結果を得るためには溶媒モデルの精密化など,今後,解決すべき課題が残されている。
|
|
|
2) |
インシリコスクリーニングの精度向上に向けて
(福西快文) |
|
|
タンパク質に化合物を結合させるソフトウエア(ドッキングソフト)により標的タンパク質に結合する分子を化合物データベースから選択するstructure-based in silico drug screeningは,代表的な薬物スクリーニング手法となっている。しかし,ヒット率が10%に達するのはまれなケースであり,約半数の標的に対してドッキングソフトによる薬物スクリーニングは無力である。ドッキングソフトは断片的な情報を提供し,活性化合物の予測は多くの情報の処理により行われる。ここでは,これら情報処理手法を紹介する。
|
|
|
3) |
コンセンサススコアリングを用いたタンパク質 - リガンドのドッキング(インシリコ創薬効率化に向けた高精度スコアリング法の紹介)
(寺本礼仁・福西広晃) |
|
|
近年,構造ゲノム科学の進展により,X線結晶構造解析やNMRなどを用いたタンパク質立体構造の解析が急速に進んでおり,立体構造情報に基づいて計算機上での活性化合物(ヒット化合物)探索を行うインシリコスクリーニングを適用可能なタンパク質は増加している。本稿では,ドッキングシミュレーション後の化合物のランクづけに用いられるコンセンサススコアリングと呼ばれる方法に焦点を当てて,従来の研究成果と筆者らが開発した方法と適用事例を交えながら紹介し,各手法の特徴や有用性について概説する。
|
|
|
4) |
相互作用ライブラリーに基づく集約評価関数を用いたタンパク質 - リガンドドッキング
(高谷大輔・竹田-志鷹真由子・梅山秀明) |
|
|
ターゲットタンパク質とリガンドの複合体構造を予測するタンパク質 - リガンドドッキング法は,現在の創薬において欠かすことのできないインシリコ技術である。本稿では,筆者らの開発したChooseLD法について紹介する。本法は,タンパク質 - リガンドの相互作用評価に従来から用いられてきた経験的物理関数を用いずに,既知の相互作用情報(既知の複合体立体構造情報)を網羅的に用いてタンパク質 - リガンド複合体構造予測を行うことを特徴とする。立体構造データベースに登録される既知の相互作用情報の増加に伴い,本法の予測精度が向上することが期待される。
|
|
10. |
創薬現場の実際:立体構造に基づく高選択性凝固第Ⅶa因子阻害剤の創製
(大田雅照) |
|
凝固第Ⅶ因子(FⅦa)は血液凝固系の外因系に存在し,その開始点にある組織因子(tissuefactor)と複合体を形成することによって血液凝固能を発揮するセリンプロテアーゼである。化合物合成,X線結晶解析,分子モデリングによる設計というstructure-based drug design のプロセスを繰り返し実施することにより,新規でFⅦaおよび外因系に高い選択性を示す阻害剤を創製した。阻害剤/FⅦa複合体のX線結晶解析により,高選択性の要因として,① FⅦa S2ポケットとの水素結合形成,② S1-subsite Lys192との相互作用,③ Gln217との水素結合形成,④ FⅦa 170-loopのinduced-fitによる疎水性ポケットの形成と相互作用などを新しく見出した。
|
|
11. |
QSAR研究の最前線
(吉田達貞・中馬 寛) |
|
Hanschと藤田による最初のQSAR(quantitative structure-activity relationship,定量的構造活性相関)の論文発表からすでに40年以上が経ち,その間にQSARによる数々の創薬の成功例が報告されてきている。一方,この40年間の実験技術の進歩とともにコンピュータの演算・記憶能力の飛躍的発展と分子軌道法や分子動力学法などの新しい分子科学理論・計算法の出現によってタンパク質や阻害剤についての詳細な構造情報が得られるようになってきた。本稿では,QSARの更なる発展を目的とし,分子科学理論計算によるQSAR解析のもつ電子・原子レベルでの物理化学的意味の解釈をめざした研究の概要を紹介する。
|
|
12. |
NMRを用いた創薬研究とライフサイエンス企業におけるNMR
(榛葉信久) |
|
NMR技術の進歩,特にタンパク質など生体分子の解析に展開されるに伴い,創薬への応用が期待されて久しい。ところが期待とは裏腹に,製薬会社では限られたリソースを振り向けているに過ぎない。そこで,NMR技術の進展とNMRが抱える課題を取り上げ,そのギャップが生じる要因を解説する。その一方で,NMRの汎用性ゆえ創薬過程において貴重な情報が得られることも少なくない。さらに,NMRが発展してきた過程で培われた技術が別の目的にて活用されていることも見逃せない事実である。
|
|
●第2章 創薬インフォマティクス |
1. |
構造・機能バイオインフォマティクスの新規創薬への応用
(水口賢司) |
|
疾患の分子メカニズムの解明と新規創薬ターゲットの発見は現在の創薬の重要かつ困難な課題であり,各種実験データを総合的に取り扱うことにより初めて前進が期待される。本稿では,その際の構造・機能バイオインフォマティクス手法を用いたアプローチの貢献,特に①いかに多様な生物情報データを統合するか,②そこからどのような遺伝子/タンパク質ネットワークを構築し分子機能の解明につなげるか,③立体構造や相互作用の予測でいかにデータベース中のアノテーション不足を補えるか,について議論する。
|
|
2. |
包括的トランスクリプトーム解析からの創薬
(辻本豪三) |
|
ゲノム全解読により生命現象の全体像を捉えるネットワーク研究が可能となり,従来の創薬アプローチもより網羅的なものに変容してきている。一方,医療は個人個人の遺伝的体質に基づいて,各人に合う有効な薬剤を選択し最適量処方するテーラーメイド医療に向かっている。個別化医療をめざす現代の創薬科学は,今まさにバイオインフォマティクスを基盤とするインシリコ創薬科学へと進化する。そのモデルとして包括的トランスクリプトーム解析に基づく創薬ストラテジーを概説する。
|
|
3. |
ケミカルゲノミクス情報に基づく創薬
(奥野恭史) |
|
ヒトゲノム解読完了を受けて,生命科学の研究対象は,個々の遺伝子の機能解明から,多数の因子の相互作用が生み出す複雑な「システム」としての挙動を明らかにすることに移行しつつある。このことは,ゲノミクスを出発点として,「ケミカルゲノミクス」などの新しい研究分野の創出をもたらした。本稿では,ケミカルゲノミクスの創薬応用について紹介する。著者らが世界で初めて開発・実用化に成功したケミカルゲノミクス情報を用いたバーチャルスクリーニング法は,従来手法よりも卓越した性能を示し,創薬現場において威力を発揮するものと期待されている。
|
|
4. |
ゲノムワイドなタンパク質 - 化合物相互作用の統計的予測
(榊原康文) |
|
本研究はより汎用性の高い,入手しやすいデータを利用し,より網羅的なタンパク質 - 化合物間相互作用予測手法の開発をめざす。本研究の最大の特徴は,タンパク質についてはアミノ酸配列,化合物については化合物構造式データおよびマススペクトルデータを入力することである。レセプターリガンド結合,酵素- 阻害剤結合など多種多様な相互作用を判定するモデルでは,約90%の正解率を記録した。
網羅的な結合予測により,薬剤のターゲットタンパク質の同定だけでなく,それ以外の複数の結合タンパク質の予測により副作用の解析も可能となる。
|
|
5. |
ケミカルプロテオミクスによるタンパク質 - 化合物相互作用とタンパク質間相互作用の解析
(青島 健・小田吉哉) |
|
新薬の研究開発には,15〜20年の開発期間と膨大な開発費を要し,しかも開発期間は年々長く,開発費も年々上昇しているのに対し,承認される新薬数は減少傾向にあり,世界的に新薬創出が困難になりつつある。ゲノム研究からスタートし,トランスクリプトミクス,プロテオミクス,メタボロミクスなど一連の「-OMICS」は創薬研究に貢献すると期待されているが課題も多く,現時点で創薬の効率化に寄与しているとは言いがたい。われわれは,創薬研究に直接役立てることができると考えているケミカルプロテオミクス技術とバイオインフォマティクス技術を駆使し,薬剤の標的探索・作用機序解明およびタンパク質相互作用解析を行っており,今回はその一部について述べる。
|
|
6. |
インシリコADMET予測から並列創薬への展開:インシリコADMET予測の現状と今後の創薬への展望
(湯田浩太郎) |
|
開発失敗の少ない創薬は,薬理活性のみならずADMETにも留意することが必要との認識が確立しつつある。これに伴い,薬理活性,続いてADME,最後に毒性との流れに従って化合物を最適化する伝統的な「逐次創薬」の見直しが始まっている。この「逐次創薬」に代わる21世紀の創薬手法として「並列創薬」を提案する。「並列創薬」は実際に化合物合成と実験を行う前に,インシリコ上で薬理活性,ADME,毒性,物性を総合的かつ同時処理するものであり,創薬の開発時間,費用,効率が飛躍的に向上するものと期待される。この「並列創薬」実施上での最重要技術がインシリコADMET予測である。
|
|
7. |
創薬インフォマティクスの今後の展望
(白井宏樹) |
|
1990年以降の様々な技術革新にもかかわらず,依然として創薬はハイリスク研究のままである。一方,多種多様な創薬関連情報とその解析手法が溢れ,かつ急増する中,創薬インフォマティクスの能力は向上の一途をたどっている。そこで本稿では,創薬インフォマティクスが牽引する生産性の高い次世代創薬の必要性と可能性について展望し議論する。特に,新しい概念でのターゲット探索の必要性や,筆者らが最近提唱したconcavity druggabilityやantibodydruggabilityに言及し,その重要性を議論する。
|
|
●第3章 創薬に向けた生命情報の統合 |
1. |
KEGGとゲノムネットにおける医薬品と生命情報の統合
(五斗 進・金久 實) |
|
KEGGプロジェクトでは生体内分子のネットワーク情報だけでなく,薬の開発過程における構造展開の知識をネットワークとしてデータベース化している。また,ゲノムネット医薬品データベースでは添付文書情報をKEGGと連携して検索できるようにしている。このようなリソースを用いて,従来の生体分子情報と医薬品情報を統合的に解析するためのツールが,今後の創薬には必要になると考えられる。本稿では,KEGGとゲノムネットにおける医薬品・疾患情報と生命情報との統合化,およびその創薬に向けた将来像について概説する。
|
|
2. |
パーソナルゲノム時代の創薬
(舘野義男・古江基樹・五條堀 孝) |
|
次世代塩基配列決定技術の発達により個人レベルでのゲノム情報が入手可能になり,個人ベースの創薬が可能になった。ここでは,個人ゲノム情報がどのように違うかを述べ,その違いを反映した各種データベース作成と利用による,個人ベース創薬の試案について論じた。
|
|
3. |
オミックス情報を基盤にした創薬
(田中 博) |
|
ゲノム,トランスクリプトーム,プロテオームなどの網羅的分子情報(オミックス)に基づいた新たな予測的個別化医療であるオミックス医療と,「疾患をシステムとして把握する」systems pathology(システム病態学)について,その概要を説明するとともに,オミックスを基盤にした創薬について,疾患特異的発現遺伝子と薬剤発現変動遺伝子との関係からの創薬候補探索や,システム病態学からのアプローチ,すなわち疾患維持ループを開ループ化する「システム制御創薬」の概念について述べた。
|
|
4. |
薬理ゲノミクスネットワーク解析による次世代創薬科学
(田中利男・西村有平・島田康人) |
|
21世紀において,分子薬理学のパスウエイ解析から薬理ゲノミクスのネットワーク解析へのパラダイムシフトが明確になりつつある。すなわち,システムバイオロジーとケモゲノミクスを基盤に,薬物受容体から疾患遺伝子クラスターへつながるネットワーク解析が実現しつつある。そこで,治療薬と疾患との選択的相互作用を,ヒトゲノム上に連続したネットワークとして解析する薬理ゲノミクスが成立した。ラット脳血管攣縮モデルやゼブラフィッシュ生活習慣病モデルにおける統合的薬理ゲノミクスが次世代創薬科学の核になると思われる。
|
|
5. |
テーラーメイド医療をめざした疾患感受性遺伝子のゲノムワイド探索
(西田奈央・徳永勝士) |
|
ヒトゲノム計画をはじめとするゲノム情報解析の成果として,公共のデータベースに蓄積された1100万種類を超える単一塩基多型(SNP)のうち,数十万?百万種類のSNPを同時にタイピングすることのできる手法が近年になって実用化された。われわれは,最新のプラットフォームを用いてSNPタイピングを効率的に行うためのシステムを構築し,いくつかの多因子疾患を対象としてゲノムワイド関連解析を行っている。本稿では,日本人における最新のプラットフォームの有用性を評価した結果を報告し,最後に将来の展望についても触れたい。
|
|
6. |
創薬研究のためのライフサイエンスネットワーキングシステム(理研サイネス)
(豊田哲郎) |
|
疾患研究ではオミックスによるデータ駆動型のアプローチへの期待が高まっている。このアプローチでは,解析に必要となる網羅的分子〜臨床データを戦略的に蓄積し,それら多様かつ膨大なデータを介して,ゲノミクス研究者,バイオインフォマティクス研究者,基礎研究者,臨床医,専門医など幅広い分野の研究者が効果的に連携しあえる情報基盤が必須となる。この情報基盤は多階層・双方向的であるとともに,それぞれの階層が多様な研究分野の個々の現実的ニーズに応えられる独立性も求められるため,理化学研究所では創薬に限らずライフサイエンス研究全般にわたって理想的な生命情報基盤(理研サイネス)の構築が進められている。
|
|
7. |
生体分子の熱力学データと構造データの統合
(皿井明倫) |
|
生体分子は熱力学の支配するミクロな世界の実体であるので,その機能を理解するには,配列や構造の情報だけでなく,構造安定性や分子間の相互作用などに関する熱力学の情報が不可欠である。熱力学データは,タンパク質の構造安定性や分子認識のメカニズムを理解するために重要であるだけでなく,配列や構造情報とあいまって,タンパク質のデザイン,機能の予測,ドラッグデザインなどの応用研究にとっても必須である。熱力学データと構造データは相補的な関係にあり,それらを統合して解析するための基盤が必要である。本稿では,このためのわれわれの取り組みを紹介する。
|
|
|