|
内容目次 |
|
● |
序文 患者のための再生誘導治療はここまで進んでいる
(田畑泰彦) |
|
|
|
● |
序章:患者まで届いている再生誘導治療
(田畑泰彦) |
|
●第1章 細胞増殖のためのバイオマテリアルの利用
|
|
|
1) |
皮膚真皮
(武本 啓・鈴木茂彦) |
|
|
コラーゲンスポンジとシリコンシートからなる2層性人工真皮は,すでに臨床応用されている。この人工真皮を皮膚全層欠損創に貼付すると,2〜3週で真皮様組織が形成され,通常はこの上に植皮を行う。この方法は確立されたものであり,非常に有用である。しかし,治療に時間を要するという問題点がある。これを解決するため,現在,創傷治癒を促進するbFGFを併用,ゼラチンにより徐放する新規基材が研究されており,今後の臨床応用が期待される。
|
|
|
2) |
食道・気管
(中村達雄) |
|
|
胸部外科領域での夢の1つである食道・気管の再生治療の現状と,それに使われるバイオマテリアルについて述べる。食道領域では動物実験が進んでいるものの,2009年時点では臨床応用には至っていない。気管領域では組織再生の足場となるコラーゲンを生体内に置くin situ Tissue Engineeringの手法で,自己組織を再生させることが可能になり,2002年以来すでに13例の患者に自己組織再生型の人工気管が使われている。今後はいかに早く正常組織を再生させるかという点が研究の中心となるであろう。
|
|
|
3) |
硬膜:生体組織置換型人工硬膜の開発
(山田圭介) |
|
|
脳神経外科開頭手術の際生じる硬膜欠損の自己再生をめざして,組織置換型人工硬膜を開発した。生体吸収性高分子材料を組み合わせることにより,自己硬膜様組織が再生するのにしたがって,徐々に吸収されるように分解速度を調節した。また,生体硬膜と直接縫合して使用するため,力学的特性も生体硬膜に似せた設計を行った。
臨床試験では,術中操作性は良好で,半透明なため脳表の観察も容易であった。生体内で約6ヵ月で吸収され,自己硬膜様組織に置換されているのが確認された。多施設間共同治験の後,欧州では2005年5月,日本においても2008年4月より販売開始された。
|
|
|
4) |
顎骨・歯周組織:口腔顎顔面領域
(高戸 毅・西條英人) |
|
|
口腔顎顔面領域では,失われた組織を人工物などで修復・補綴する医療が従来より行われてきた。これらの医療が確実に行われるためには,その土台となる顎骨や歯周組織の存在が必須である。これらの組織が不十分な場合には,十分に噛めなかったり,喋りにくかったり,また審美的な問題も抱え,機能回復に障害を残すこととなる。それゆえに,失われた組織をより満足できるまでに回復させることのニーズは大きく,口腔顎顔面領域での再生医療には大きな期待がかかる。本稿では,再生医療の現状と将来の展望について述べる。
|
|
|
5) |
形態と機能再建を目的とした顎骨再生のためのバイオマテリアルの応用
(鎌田伸之・武知正晃) |
|
|
種々の口腔疾患などにより,歯と顎骨の欠損をきたすことは少なくない。これに対する顎骨再生治療のゴールは,顎骨の形態と咬合・咀嚼機能の回復である。そのためには,良好な生体親和性と骨伝導能をもち,CAD/CAM技術により患者特有の顎骨形態が付与され,その形態の長期的な維持が期待でき,周囲骨と一体化した後にはインプラントと強固なosseointegrationが獲得できる連通多孔質構造のバイオマテリアルが有用であり,これをスキャホールドとして患者由来顎骨骨芽細胞を三次元培養して作製した細胞 - マテリアル複合体移植の臨床応用をめざしている。
|
|
|
6) |
顎骨・歯周組織:歯槽骨・顎骨
(嶋田 淳) |
|
|
骨が形成される過程で人工材料は骨伝導能を有する。われわれの研究室でビーグル犬による骨欠損の修復を骨補填材としてβ-TCPとPRPを用いて行った研究から,この材料と方法は安全性が高く,骨再生を確実に促進することが示された。今後は骨細胞培養やBMPとコラーゲン担体を使用した方法が確実性と安全性に裏打ちされて臨床応用できる日が現実になるのを待ちたい。
|
|
|
7) |
顎骨・歯周組織:自家象牙質移植による骨再生医療
(村田 勝・赤澤敏之) |
|
|
「歯で骨を再生する」臨床研究が日本で進行している。歯と骨の成分は類似しており,コラーゲンやアパタイト,骨形成タンパク質などで構成され,骨・軟骨を誘導することが知られている。本稿では,インプラント埋入のための骨造成を目的とした世界初の自家象牙質即時移植症例と新規治療を支援する2装置を紹介する。智歯や非機能歯由来の象牙質をバイオマテリアルとして利用する長所は,健康骨を採取する外科手術が不必要になるか骨採取量を減らすことができる点にある。自家象牙質移植は細胞培養技術を必要としないため先端医療機関ではなく,歯科医院でも可能な普及型技術である。
|
|
|
8) |
骨
(玉井宣行・吉川秀樹) |
|
|
リン酸カルシウムセラミックス人工骨の歴史はわずか20年あまりであるが,確実に進化を遂げ,現在では第二世代人工骨が臨床の様々な場面で活躍しつつある。本稿では,それら第二世代人工骨の特徴,動物実験から臨床応用までを紹介し,これらの人工骨は移植母床に存在する骨形成細胞による骨欠損修復の足場となる「骨伝導能」に非常に優れていることを証明するとともに,自ら新たに,あるいは異所性に骨を作る能力「骨誘導能」を併せもつ,いわゆる第三世代人工骨への強い期待へとつなげたいと考える。
|
|
|
|
1) |
末梢神経損傷に対するPolyglicolic acid-Collagen tubeを用いた生体内再生医療 - 効用から効果への治療のエビデンス確立へ向けて -
(稲田有史・中村達雄・市原理司・諸井慶七郎・橋爪圭司・古家 仁・森本 茂) |
|
|
PGA-C tubeを用いた生体内再生治療において,ある種のCRPS type Ⅱに対して,PGA-C tube を用いた損傷神経の生体内再生神経再建は現在,実験的研究,劇的な数例の臨床成功例の発表から,多数例の検証過程へと進んでいる。一方で,人工神経誘導管は全世界で多種類にわたって開発・報告され,一部はすでに商品化されている。しかしながら,その対象疾患となる末梢神経傷害には臨床上の大きな解決するべき問題が山積している。人工神経を前に,私達は,末梢に残存し,かつ将来にわたって侵害受容性疼痛の原因となりうる可能性のある末梢神経傷害を可視化し,客観的な証明を行う手段を模索しなければならない。しかしながら,多くの新たな問題点はあるものの,これらの成果は日本の再生医療にとって大きな第一歩であると考える。理想的環境での効用から,平均的効果への全体的な治療のエビデンスを検証する時期へと着実に治療が進んでいると考えている。
|
|
|
2) |
歯周組織(GTR)
(春日井昇平) |
|
|
歯根の表面にはセメント質という石灰化組織,セメント質と歯槽骨の間には歯根膜という線維性の結合組織が存在する。歯根膜線維はセメント質と歯槽骨に埋め込まれており,歯は歯槽骨内に固定されている。歯を支える歯槽骨,歯根膜,セメント質を歯周組織といい,歯周炎によって歯周組織は破壊される。歯周組織の再生法として考案されたGTRは,メンブレンを用いて再生させたい組織に再生のスペースを確保するユニークな方法である。
|
|
●第2章 生体シグナル因子の利用
|
|
|
1) |
皮膚皮下組織
(水野博司・宮本正章) |
|
|
皮膚潰瘍治療を目的とした増殖因子製剤は,わが国においてはすでに塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)が厚生労働省により承認され,製造販売されていて広く臨床の現場で利用されており,難治性潰瘍などにも効果があるなど,その有用性は非常に高いことが知られている。本稿では,このbFGFを中心に,皮膚皮下組織の再生誘導のメカニズムや実際の治療例を概説すると同時に,ドラッグデリバリーシステムを用いた効率的な細胞増殖因子の利用法や将来的な皮膚皮下組織再生誘導の可能性について解説する。
|
|
|
2) |
下肢血管:bFGF徐放血管新生治療
(米田正始・田畑泰彦) |
|
|
塩基性線維芽細胞増殖因子(basic FGF:bFGF)の局所徐放を用いた下肢の血管新生・動脈新生治療を実験研究と臨床研究の観点から報告した。本法は遺伝子や細胞を使用せず,bFGF血中濃度の上昇もない局所治療のため,網膜症患者などを含めて適応範囲が広がる可能性がある。また,動脈新生が図れることも特長の1つである。今後臨床研究を進め,また従来治療との併用なども期待できる。
|
|
|
3) |
下肢血管:下肢慢性虚血に対するbFGFタンパクのピンポイントデリバー法
(小山博之・宮田哲郎) |
|
|
閉塞性動脈硬化症による下肢慢性虚血に対する血管新生療法の治療ゴールは,未発達な側副血行路に血管の拡大・成熟を促すarteriogenesisの機転を誘導し,虚血部位への十分な血流供給能を有した側副血行路に発達させることである。筆者らは,最新のドラッグデリバリーシステムを応用することによって,arteriogenesis誘導作用のある塩基性線維芽細胞増殖因子のタンパク製剤を治療ターゲットに対して選択的かつ持続的にデリバリーする新しい血管新生療法を開発した。本稿では本治療法の理論的背景と治療コンセプトについて概説する。
|
|
|
4) |
下肢血管:bFGF徐放薬と神経ブロックによる慢性動脈閉塞症の治療
(齋藤 繁) |
|
|
慢性動脈閉塞症に対して,内科的治療に加え,麻酔科では硬膜外ブロックや腰部および胸部交感神経節ブロックによる選択的交感神経遮断が行われる。高気圧酸素治療も虚血部の酸素化促進のために他の治療と平行して施行される。しかし,すべての治療法を駆使しても虚血肢の切断を余儀なくされる症例は少なくない。そうした重症例に対して,組織再生を促すと考えられる生体シグナル因子,線維芽細胞増殖因子(bFGF)を局所で徐放させる治療法も有効な再生医療である。徐放化bFGFによる治療は罹病者の状態に依存するファクターが少ないので,臨床適用を拡大する際に非常に有利と思われる。
|
|
|
5) |
下肢血管:造血系サイトカイン治療
(竹村元三・湊口信也) |
|
|
顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)あるいはエリスロポエチンなど造血系サイトカインにおける血球増多作用以外の心血管系への直接保護作用が,実験あるいは臨床研究で明らかになり,心血管疾患治療法の新しいブレイクスルーとして注目されている。しかし,心疾患に比べ末梢血管病変に対する造血系サイトカイン治療は,まだ臨床研究がほとんどない。一方,基礎研究は近年になって急速に進み,末梢血管疾患への有効性が確立してきた。本薬剤はすでに臨床使用されており,安全性は確立している。投与法も簡便であり,今後の治療応用が期待される。
|
|
|
6) |
心臓冠状動脈
(米田正始・田畑泰彦) |
|
|
塩基性線維芽細胞増殖因子(basic FGF:bFGF)の局所徐放を用いた心臓の血管新生・動脈新生治療を実験研究と臨床研究の両面から報告する。本法は遺伝子や細胞を使用せず,bFGF血中濃度の上昇もないため安全性に優れ適応範囲が広い可能性がある。また,動脈新生が図れることも特長の1つである。臨床研究ではバイオCABGの臨床試験で心臓外動脈と冠動脈がバイオ吻合できたケースを報告する。重症や「末期」の冠動脈病変患者に役立つ治療法となることを期待している。
|
|
|
7) |
歯周組織:bFGF徐放システムによる歯周組織再生療法
(田村利之・木下靭彦) |
|
|
歯周組織再生誘導法(guided tissue regeneration:GTR法)は有力な歯周外科療法の1つであるが,適応には自ずと限界がある。特に重度歯周病における歯槽骨の再生は困難である。近年,tissue engineeringの進歩により,歯周治療の分野においても,失われた歯周組織の積極的な再生を目的として,細胞,細胞外マトリクス,生体シグナル因子を応用した再生医療が試みられるようになってきた。本稿では,細胞増殖因子を用いた歯周組織再生療法を概説するとともに,著者らが行っている塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の徐放システム,bFGF・ゼラチンハイドロゲルによる歯周組織再生療法を紹介し,本法の有用性を示した。
|
|
|
8) |
歯周組織:組織増殖因子を用いた歯槽骨の再生
(朝比奈 泉・飛田尚慶) |
|
|
歯科口腔外科領域ではインプラント治療に伴う歯槽骨造成の要求が高まっており,従来から自家骨移植が行われている。しかし,二次的侵襲や採取量の問題から,これに代わる治療法が望まれており,様々な人工代用骨が臨床応用されているが,これ自体に骨誘導能がないため自家骨に取って代わるには至っていない。そこで,積極的に骨形成を促進させる細胞成長因子を応用した骨造成法の開発が進められているが,本稿では細胞成長因子を応用した歯槽骨造成法について概説を行うとともに,われわれが進めているbFGFを用いた歯槽骨再生法を紹介する。
|
|
|
9) |
歯周組織:歯周組織再生療法への応用
(和泉雄一・荒川真一) |
|
|
歯周治療の究極の目的は,破壊された歯周組織を健康な元の状態に回復させることであり,歯周組織再生療法に大きな期待が寄せられている。エナメルマトリクスタンパク質はEmdogain® gel としてすでに臨床使用可能であり,先進医療として厚生労働省より認可されている。サイトカインについては,PDGFがGEM 21S® としてアメリカ,カナダで販売されている。また,FGFについては,第Ⅲ相検証的試験が開始されており,近い将来の臨床への応用が期待されている。従来の切除的治療法では成しえなかった歯周組織の再生がある程度は可能となったが,「理想的な歯周組織再生」を実現すべく研究が進行中である。
|
|
|
10) |
声帯内自家脂肪注入療法における脂肪再生
(田村悦代・飯田政弘) |
|
|
声帯内注入療法は,術後の反回神経麻痺などによる嗄声の改善を目的として,広く行われているリハビリテーション手術である。最近では,安全性の点から自家脂肪組織を用いることが多くなってきたが,注入後に起こる脂肪組織の吸収などにより,効果の持続期間が一定でないことが本方法の短所である。そこで,注入後の脂肪組織の減量を防止,あるいは脂肪細胞再生の可能性について,細胞増殖因子である塩基性線維芽細胞増殖因子をイヌ反回神経麻痺モデルに脂肪組織とともに投与し,その効果を検討した。自家脂肪を線維芽細胞増殖因子とともに注入した例では,注入した脂肪組織内に紡錘形の未熟脂肪細胞が認められ,注入24週後にも注入した脂肪組織の容量がほぼ維持されていた。すなわち,線維芽細胞増殖因子の作用により,注入した脂肪組織内で脂肪細胞の増殖が起こる可能性が推定された。
自家組織を用いた注入療法は,声門閉鎖不全疾患に対する治療としての有効性については広く知られており,本方法の応用によって容積減少の問題点が解決されることが期待される。
|
|
|
11) |
顔面神経へのbFGF徐放投与
(羽藤直人) |
|
|
側頭骨の骨管内を走行する顔面神経は神経拘扼が生じやすく,高頻度に麻痺を生じる。高度麻痺例に対し骨管からの神経減荷手術が行われてきたが,成績は不良であった。著者らは,モルモットを用いた基礎研究で,生体吸収性ゼラチンハイドロゲルを用いたbFGFの徐放局所投与が,良好な神経再生促進効果をもつことを確認した。現在,顔面神経へ神経栄養因子を直接投与するための手段として減荷手術を見直し,bFGFを徐放投与する新しい顔面神経減荷手術を15例に臨床応用している。これらの症例では早期治癒傾向を認め,神経再生の促進効果が確認されつつある。
|
|
|
12) |
鼓膜:アテロコラーゲン/シリコン膜とヒト線維芽細胞増殖因子(bFGF)製剤を用いた鼓膜穿孔閉鎖術
(白馬伸洋) |
|
|
鼓膜穿孔症例の中には自然閉鎖せず,閉鎖が遷延する症例もある。このような場合,一般的には耳後部の筋膜を採取し,鼓膜穿孔部に移植することで穿孔の閉鎖を行う。しかし,筋膜を採取するためには耳後部の皮膚切開が必要となる。
アテロコラーゲン/シリコン膜を鼓膜穿孔部に充填し,組織に対し創傷治癒促進作用をもつヒト線維芽細胞増殖因子(bFGF)製剤を添加することで鼓膜の再生が可能となった。今回,新しい低侵襲な鼓膜穿孔閉鎖法として,アテロコラーゲン/シリコン膜とbFGF製剤を用いた方法を開発したので紹介する。
|
|
|
13) |
指尖部切断再接着への応用
(楠原廣久・磯貝典孝・田畑泰彦) |
|
|
指尖部切断再接着において,石川分類Subzone Ⅱでは,複合組織移植での完全生着は難しく,また血管吻合をするには血管が細く,動脈吻合しかできない症例も多く,術後,うっ血をきたし治療に難渋する。そこで今回われわれは,薬物送達システムを応用して塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)を徐放化し,再接着組織の生着率が向上するかを検討した。結果,Subzone Ⅱの指尖部切断再接着において,複合組織移植および動脈のみ吻合した症例のいずれの群においても徐放化bFGFにより組織生着が高まる傾向を認めた。
|
|
|
14) |
内耳
(中川隆之・伊藤壽一) |
|
|
内耳の発達や機能維持に,神経栄養因子や細胞増殖因子は重要な役割を果たしている。また,障害された内耳の治療にも有効であることが基礎的に示されており,臨床応用が期待されている。しかし,臨床応用に際しては,内耳にこれらの因子を適切に送達する方法を開発する必要があった。われわれは,ゼラチンハイドロゲルによる薬物徐放を内耳への神経栄養因子や細胞増殖因子の徐放に応用し,基礎的にその有効性を確認し,インスリン様細胞増殖因子1の内耳徐放による急性高度難聴治療の臨床試験を行っている。
|
|
|
|
1) |
末梢血管,心臓血管
(竹屋 泰・森下竜一) |
|
|
Folkmanが血管新生因子を発見してから40年余の歳月が経ち,これらは遺伝子治療という形でようやく臨床の現場へ応用されようとしている。しかしながら,これまでに行われた多くの基礎研究と臨床研究は,必ずしも遺伝子治療の明るい未来を示すものばかりではなく,理論と技術の両面で様々な問題を提起した。そして現在,遺伝子治療は過去の研究から学び,第二世代へ突入しようとしている。本稿では血管新生因子を用いた遺伝子治療の道程と現状,および今後の方向性について臨床研究を中心に概略する。
|
|
|
2) |
末梢血管
(米満吉和) |
|
|
生体において臓器を再生させるためには,その臓器機能を担保する構成細胞が持続性に生着する必要があり,そこには臓器構築を維持するための「血管の再生」が同時に確保されなければならないことは,個体発生時に血管網の構築が同時に行われることからも明らかである。一方で血流低下のために症状を発現する虚血性疾患に対しては,血流,そしてその供給路としての「血管の再生」そのものが治療概念として成立する。これが治療的血管新生(therapeutic angiogenesis)の概念である。
本稿では,現在われわれが臨床的評価を行っている塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF/FGF-2)遺伝子を用いた治療的血管新生について,その基本メカニズムを概説する。
|
|
●第3章 細胞の利用
|
|
|
1) |
軟骨細胞
(星 和人・高戸 毅) |
|
|
軟骨再生医療は比較的臨床応用が進み一定の成果を得ているが,今後,さらに適応を拡大するためには,より大型で十分力学的強度を有する再生軟骨をin vitro で作製する必要がある。そのための細胞学的な課題としては,①無血清培地の開発,②増殖培養における脱分化の抑制,③増殖後の再分化誘導などが挙げられる。今後,これらの課題に対する培養技術を確立するためにも,軟骨細胞生物学の一層の深化が必要であろう。
|
|
|
2) |
耳介軟骨細胞移植
(矢永博子) |
|
|
近年,細胞を利用して種々の生体組織を再生誘導する治療が試みられている。筆者は長年行ってきた基礎研究を基に2001年より自家培養耳介軟骨細胞の臨床応用を行ってきた。この方法では,わずか1cm2 の軟骨片を採取し,生体外で大量に培養した軟骨細胞を再び生体へ移植し,成熟した軟骨組織を再生することが可能である。われわれがターゲットにしているのは成熟細胞であるため,軟骨細胞が他の細胞へ変化することはない。培養耳介軟骨細胞移植はドナーの犠牲が少ないこと,量的な制限がないことなどが従来の治療法にない画期的な進歩である。ここでは培養法とヒトへの臨床応用について紹介する。
|
|
|
|
1) |
脂肪
(吉村浩太郎) |
|
|
脂肪組織には,脂肪細胞の前駆細胞であり血管の前駆細胞の性質も兼ね備える間質細胞が存在する。この間質細胞の一部は間葉系幹細胞とほぼ同等の性質をもち,間葉系のみならず胚葉を超えた多分化能をもつことが知られている。脂肪組織は脂肪吸引術により比較的簡単に大量の組織が採取可能であるとともに,その潜在能力の高さが徐々に明らかになり,広範囲の再生医療の細胞源として今では積極的に研究されるようになった。一部ではすでに臨床応用されており,その用途も今後拡大することが期待されている。
|
|
|
2) |
末梢血管・心臓血管:ヒト心臓由来幹細胞を用いた心不全への再生医療
(小出正洋・星野 温・山口真一郎・岸田 聡・竹原有史・王 英正・松原弘明) |
|
|
重症心不全は,最新の医療技術をもってしてもなお予後不良であり,すべての循環器医にとり克服すべき病態である。心不全への再生医療は心筋壊死領域が広範囲であったり,支配冠動脈が開通しているときには,骨髄細胞を利用した血管再生医療だけでは不十分であり,心筋細胞の補充(心筋再生医療)が必要になる。急性心筋梗塞(AMI)のPCI治療後に骨髄単核球を冠動脈から注入する血管新生治療が欧米で2001年頃からスタートした。初期のオープンラベル臨床試験では半年後の心機能が10%前後改善し世界中の注目をあびたが,二重盲検試験では有意な改善がみられず適応症例の選択が必要になった。自らの細胞の再生力を最大限に引き出し障害された心臓を回復させる心筋再生医療は,骨髄細胞などの他臓器由来細胞を経て,心臓由来細胞(cardiosphere derived stem cell)の登場で大きく変貌を遂げつつある。心臓由来細胞は少量の心組織からも単離可能な心筋分化効率の極めて高い組織幹細胞である。増殖因子bFGFの存在下で障害心組織内であっても高い生着率を保ち,形質転換も含めドナー心内で実効的な心筋細胞再生を果たし,失われた心臓組織を補完,局所のリモデリングを介して心機能を回復させる可能性を秘めた細胞である。近い将来,心臓由来細胞と再生工学を併用したハイブリット治療は,臨床試験を通じて重症慢性心不全患者に革新的な治療法となる可能性がある。
|
|
|
3) |
末梢血管・心臓血管:末梢血単核球細胞移植による血管再生治療とそのメカニズム
(舘野 馨・南野 徹・小室一成) |
|
|
慢性重症下肢虚血症例に対する自家細胞移植療法は,血管再生治療として広く臨床応用されており,その安全性と有用性が明らかとなりつつある。しかし,その詳細な治療機序は必ずしも明確とはなっていない。われわれは末梢血単核球細胞移植療法の臨床応用,およびbedside to bench研究を精力的に行っている。本稿では,それらの成果の中から臨床研究の概要と結果,ならびに新しい治療機序の仮説を紹介し,今後の展望について概観する。
|
|
|
4) |
末梢血管・心臓血管:骨髄細胞移植による血管再生療法
(室原豊明) |
|
|
重症虚血性心疾患や末梢動脈閉塞症の治療には,まず生活習慣の改善,次に薬物療法,カテーテルによる血管形成術や外科的血行再建術が行われる。しかしながら,病変が末梢にあるなど従来の治療法が無効あるいは不可能な症例も多い。有効な治療法のない重症虚血性疾患に対する新たな治療法の開発が求められてきた。われわれはこれまでに重症下肢虚血に対する遺伝子・細胞治療による血管再生療法に関する基礎的・臨床的検討を行ってきた。本稿では,この中で特に細胞移植による血管再生療法に関して考察したい。
|
|
|
5) |
末梢血管・心臓血管:間葉系幹細胞を用いた心血管治療
(永谷憲歳) |
|
|
心臓,特に心不全に対する再生医療として,骨格筋芽細胞,骨髄単核球,間葉系幹細胞を用いた細胞移植治療が実際の臨床で試みられるようになってきた。さらに,細胞移植効果を高めるための第二世代の再生医療の開発がスタートし,細胞と成長因子の併用や細胞シートを用いたハイブリット治療が行われるようになってきた。どの細胞種が最も有効であるのか,移植した細胞を生着させる最適な方法は何なのか,安全性・有効性は担保されているか,今後多くの症例で検討していくべきである。
|
|
|
6) |
末梢血管・心臓血管:虚血性疾患に対するEPCを中心とした自家細胞移植治療
(伊井正明・浅原孝之) |
|
|
近年,慢性下肢虚血疾患や虚血性心疾患に対する自家細胞移植治療がわが国を含め,世界各地で行われるようになった。移植細胞としては,骨髄または末梢血由来の非選択性単核球細胞や選択性幹・前駆細胞(CD34/CD133陽性細胞)が用いられているが,治療における有効性および安全性という点では後者で好ましい成績が集積されつつある。その反面,老化や基礎疾患の存在による細胞数減少・機能低下が克服しなければならない問題点である。次世代の幹・前駆細胞移植治療として,体外培養増幅による必要細胞数の確保や,特定の遺伝子導入による機能低下した細胞の活性化などの工夫が必要である。
|
|
|
7) |
骨格筋筋芽細胞シートは心筋自己修復機転を誘導する
(澤 芳樹) |
|
|
重症心不全患者に対する心機能回復戦略として,細胞移植法が有用であることが報告されており,すでに自己骨格筋筋芽細胞による臨床応用が欧米で開始されている。われわれは,温度感受性培養皿を用いた細胞シート工学の技術により,細胞間接合を保持した細胞シート作製技術を開発し,従来法であるneedle injection法と比較して,組織・心機能改善効果が高いことを証明した。これらの結果をもとに,骨格筋筋芽細胞シート移植による心筋再生治療の臨床研究も同センターにて開始した。さらに,いま注目を集めているiPS細胞を用いた心筋再生治療を含めて,末期心不全患者への心筋再生治療の現状と課題について概説する。
|
|
|
8) |
角膜:角膜上皮前駆細胞・幹細胞
(林 竜平・西田幸二) |
|
|
角膜は透明な無血管組織であるが,疾患や外傷により透明性は低下する。透明性低下により視覚障害に至った患者に対しては,ドナー眼を用いた角膜移植が実施されているが,国内においてはドナー不足,また特に角膜上皮疾患においては拒絶反応が問題となっている。われわれはこれらの問題を解決すべく,難治性上皮疾患に対して,患者自身の上皮幹細胞・前駆細胞の培養により作製した培養上皮細胞シートによる治療法の臨床応用を開始し,上皮層を再建することに成功した。本手法はドナーを必要とせず,また拒絶反応も起きないため,有効な治療法のなかった難治性上皮疾患に対する根治的な治療法になりうると考えられる。
|
|
|
9) |
角膜:培養角膜上皮シートの臨床応用
(川北哲也・坪田一男) |
|
|
角膜は外界からの物理的ならびに化学的な刺激,さらに生物的な攻撃に対して生体を守る重要な組織である。正常な角膜上皮が損傷すると,角膜輪部基底層に存在する角膜上皮幹細胞の動員が促され,再上皮化が得られる。スティーブンス・ジョンソン症候群などの重症性瘢痕性角結膜疾患では,角膜上皮幹細胞疲弊が起こっており,角膜上皮が再生されず,血管を伴った結膜上皮で覆われる。その結膜上皮細胞も広範囲に障害されると,瞼球癒着,結膜嚢の短縮,眼表面の角化を引き起こす。これらは重度の視覚障害の原因となり,少し前までは手術が禁忌となっていた疾患であるが,幹細胞移植+眼表面環境の安定化という幹細胞のニッチの再生というコンセプトで,今では治療可能な症例も増加してきている。本稿では,このコンセプトを角膜上皮から述べ,実質・内皮に存在する前駆細胞の臨床応用への展望についても言及する。
|
|
|
10) |
培養骨膜シート移植を応用した歯周組織再生治療
(奥田一博・川瀬知之・山宮かの子・吉江弘正) |
|
|
培養骨膜シートを多血小板血漿とハイドロキシアパタイト顆粒混合移植材とともに歯周骨内欠損部に投与して,術後1年目の歯周組織再生量について対照群と比較した。歯周ポケット減少量は両群間に差はなかったが,付着の獲得量,X線的骨再生量についてはテスト群で統計学的に有意に改善した。これは主に骨芽細胞へ分化しうると考えられる骨膜細胞の効果が考えられるが,シートのマトリクスの物理的性状が増殖因子の徐放体として,および上皮の深部増殖に対する遮断膜として機能したことも考えられる。
|
|
●第4章 組み合わせ
|
|
|
1) |
皮膚真皮:皮膚真皮の再生誘導治療
(宮本正章・高木 元・太良修平・水野博司・田畑泰彦・水野杏一) |
|
|
末梢動脈疾患(peripheral arterial disease:PAD)による重症虚血肢に多剤耐性菌感染を合併し,すでに前医で患肢大切断あるいは治療法がないと診断された治療抵抗性潰瘍・壊疽症例に対して,新しい組織再生法として①自己骨髄幹細胞浸透人工真皮による組織再生法,さらに非侵襲的で簡便に実施可能な②DDS徐放化bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子)ハイドロゲル浸透人工真皮による組織再生法を開発した。これらの新治療法は,臨床研究としてのエンドポイントである疼痛の完全除去,創部を再上皮化させ自立歩行による退院を可能とした。これは,骨などの露出を伴う難治性皮膚欠損創に血管新生療法とともにコラーゲンマトリクスに血管増殖因子を含有した溶液を浸透させて貼付することにより,コラーゲンマトリクスが足場となり,線維芽細胞や毛細血管の侵入を促し,そして足場自身が自然吸収により自己組織に置換されて早期に健康肉芽を誘導して良好な皮膚移植床形成に寄与するためと考えられた。
|
|
|
2) |
血管の再生誘導
(田林晄一) |
|
|
人工血管の開発は血管外科発展の重要な因子の1つである。人工血管の臨床応用に際して最も大きな問題点は生体適合性である。生体適合性の改善による抗血栓性,開存性,また成長能力などを有する血管の再生を目的として生体吸収性材料を用いた足場,生体シグナル因子,細胞などが単独または組み合わせて研究されてきた。それぞれの方法に長所・短所があり,まだ理想的な血管再生,そして臨床応用がされていない状況である。
本稿では,生体吸収性材料で足場の構築法に工夫を加え,静脈系および動脈系血管再生の現状について述べる。
|
|
|
|
1) |
皮膚真皮:皮膚線維芽細胞と培養皮膚
(森本尚樹・鈴木茂彦) |
|
|
培養皮膚の臨床使用の歴史は20年以上あり,表皮細胞,線維芽細胞,これらを培養して作製する培養皮膚が企業化され臨床使用されている。これらの細胞治療は,創傷治癒促進効果があり皮膚難治性潰瘍などの治療には有用であるが,自家皮膚の代替として使用できるものはまだ開発されていない。しかし,皮膚培養細胞を用いた治療は非常に魅力のある治療法であり,さらに安全で優れた創傷被覆材としての培養皮膚の開発,あるいは自家皮膚と遜色のない培養皮膚の開発をめざしている。今後,幹細胞,iPS細胞などの万能細胞を用いることで新たな展開も期待される。
|
|
|
2) |
皮膚真皮:培養皮膚
(黒柳能光) |
|
|
究極の治療法である自家分層皮膚移植に代わる治療が培養皮膚代替物で可能であるか否か? あるいは,自家分層皮膚移植に対して補完的な治療が培養皮膚代替物で可能であるか否か? このような観点から,実践的皮膚再生医療として成立する培養皮膚代替物を見極める必要がある。同種培養真皮は,線維芽細胞から産生される種々の細胞成長因子による創傷治癒促進作用と基材自体による創傷治癒促進作用の相乗効果があり,深達性の皮膚欠損創に適用できるため,自家分層皮膚移植のための移植床形成に有効である。その他に,難治性皮膚潰瘍の治療にも有効である。
|
|
|
3) |
皮膚真皮:人工真皮
(横川秀樹・市岡 滋) |
|
|
皮膚は人体で最大の臓器であると同時に,生体の恒常性を維持するための種々の役割を担っている。そのため広範囲の,あるいは深部にいたる皮膚欠損が生じて自然治癒に時間がかかる際には,体液の喪失や微生物の侵入などを防ぐためにも自己の皮膚,同種皮膚,人工の皮膚などで被覆する必要がある。人工の皮膚として,培養表皮,培養真皮,培養表皮真皮複合体(狭義の培養皮膚),人工真皮の4種類が存在する。本邦では通常の臨床現場で使用可能な材料は人工真皮のみであるが,細胞や成長因子と組み合わせることによって種々の皮膚・軟部組織欠損の治療に適用が広がりつつある。
|
|
|
4) |
皮膚真皮:骨髄細胞を用いた皮膚再生
(猪熊大輔・阿部理一郎・清水 宏) |
|
|
近年,皮膚を含む多くの臓器で骨髄幹細胞が個々の臓器細胞へ分化し,その可塑性が報告されている。最近われわれは骨髄幹細胞の細胞遊走機序を駆使し,より多くの骨髄幹細胞を目的臓器に遊走させる新しい再生医療の可能性を示した。さらに構造タンパク欠損症である表皮水疱症に対し,正常骨髄幹細胞移植により骨髄幹細胞由来表皮細胞が機能的なタンパクを産生し,さらに細胞遊走因子を併用することでより多くの骨髄幹細胞由来表皮細胞を誘導させる治療を検討している。今後,骨髄幹細胞を用いた先天性タンパク欠損症への応用が期待される。
|
|
|
5) |
皮膚真皮:自家培養表皮
(井家益和・畠 賢一郎) |
|
|
ヒト細胞を組み込んだ日本で最初の再生医療製品として自家培養表皮「ジェイス®」が製品化された。広範囲に受傷した重症熱傷の場合,自家植皮では十分に治療できないため,小さな皮膚組織から2〜3週間の培養で多量に製造できるジェイス® を移植すれば,救命に寄与することが期待できる。製品開発では,安定して製造するため培養法を標準化するとともに製品規格を設定し,断熱容器の開発や製造施設の建設,さらに輸送システムの構築を行った。最終製品は,剥離した細胞シートの状態で無菌的にパッケージされ,医療現場でそのまま取り出して移植することができる。
|
|
|
6) |
骨の再生
(田所美香・大串 始) |
|
|
われわれは大学および病院と共同で,骨・軟骨疾患,心疾患など様々な疾患に対する間葉系幹細胞を用いた臨床応用研究を行っている。骨疾患においては50例以上の臨床研究実績をもつ。本稿では骨疾患に対する細胞と足場材料を用いた「再生培養骨」の臨床応用の実際と,間葉系幹細胞の増殖・分化能低下に対するわれわれの取り組み,そして再生医療の早期実用化に向けた国際標準化活動について述べる。
|
|
|
7) |
膝関節軟骨:培養軟骨様組織移植による軟骨再生
(安達伸生・越智光夫) |
|
|
関節軟骨欠損に対しては様々な手術的治療が行われてきたが,関節軟骨欠損を本来の硝子軟骨で確実に修復するゴールドスタンダードとなる治療法は存在しなかった。私達は難治性の関節軟骨損傷に対し組織工学的手法を用いて生体外で作製した軟骨様組織を移植することにより治療を行ってきた。私達が行ってきた培養軟骨様組織移植の手術手技,臨床成績,特殊な臨床応用例,および将来展望について述べる。
|
|
|
8) |
膝関節軟骨:コラーゲンゲルに包埋した骨髄間葉系細胞移植による関節軟骨欠損修復
(脇谷滋之) |
|
|
修復能力の弱い関節軟骨損傷の修復を促進するために1968年に家兎を使った同種軟骨細胞移植は報告されたが,細胞を血清に浮遊状態で移植したために成績が不十分であった。軟骨細胞の欠損部への固定性および環境を改善するために,われわれはコラーゲンゲルに包埋して同種軟骨細胞移植を行ったところ良好な成績が得られた。移植前にin vitro で培養し軟骨基質を産生させて移植すると,さらに良好な成績が得られた。現在,われわれは自己骨髄間葉系細胞移植による関節軟骨欠損修復を行っているが,その際の担体もコラーゲンを使用している。
|
|
|
9) |
顎骨:骨形成性細胞・多血小板血漿複合体による骨再生
(日比英晴・上田 実) |
|
|
骨形成性細胞・多血小板血漿複合体の調製法とそれによる骨再生の実際を示す。腸骨穿刺により採取した骨髄液から骨髄間質細胞を自己血清添加培地で増殖した後に,骨形成性細胞に分化誘導する。これと自己血から分離した多血小板血漿を複合させて上記の移植材料を調製する。提示する代表症例は顎裂部骨欠損であり,CT上で術後3ヵ月では骨欠損部の相対する辺縁から不透過像が伸び出し,6ヵ月ではそれらが融合し,9ヵ月ではそこに歯根が移動しているのが観察できた。また,再生した骨により歯の萌出する場が確保され,適正な歯列が得られた。
|
|
|
10) |
顎骨:細胞と足場を用いた顎骨再生医療
(木下靭彦) |
|
|
外傷や腫瘍切除などによって顎骨に大きな欠損が生じると,審美性のみならず構音,咀嚼機能に著しい障害をもたらす。顎骨再生の基本戦略は,骨前駆細胞を含む生体組織(骨髄)を形態保持のための足場とともに直接局所に移植するか(in situ bone tissue engineering),あらかじめ骨前駆細胞を体外で増やした後,適切な足場に播種し,培養骨として移植して(extracorporal bone tissue engineering)骨形成を誘導する。本稿では,これらの組織,細胞と足場を用いた顎骨再生医療の現状を解説する。
|
|
|
11) |
大血管
(日比野成俊・新岡俊治) |
|
|
再生医学の心血管系への応用は,1993年にMayerとVacantiらによって始められ,われわれも既存の人工医用材料の問題点を克服すべく,再生血管の基礎研究,臨床応用を行ってきた。再生血管は,足場となる生体吸収性ポリマーに自己細胞を播種して作製される。ポリマーは生体内に植え込まれると分解され,最終的に異物が残存しない自己組織が形成される。したがって,より長い耐久性,抗血栓性,抗感染性,成長性が期待できる。
現在は東京女子医科大学での臨床治験を踏まえて,米国での臨床治験開始に向けてYale大学からFDAに申請中である。
|
|
|
12) |
角膜
(中村隆宏・木下 茂) |
|
|
角膜上皮幹細胞が高度に傷害されて生じる難治性眼表面疾患に対しては,その上皮の再建のみならず,細胞外マトリクスを含めた足場(基質)の正常化が必須であると考えられ,細胞+足場を用いた再生誘導治療が開発された。特に,生体材料の1つである羊膜は,瘢痕抑制,抗炎症効果など様々な生物学的特性を有し,眼表面再建の代表的な足場として位置づけられている。さらに近年では,羊膜の様々な課題を克服すべく,次世代型の羊膜が開発されている。
|
|
|
|
1) |
海綿骨細片(PCBM)と多血小板血漿(PRP)による顎骨および歯周組織の再生
(松尾 朗) |
|
|
多血小板血漿(PRP)は血液を遠心分離し血小板を抽出した物質で,創傷治癒や骨形成が促進される。現在,海綿骨細片(PCBM)と組み合わせ顎骨再建に,培養骨芽細胞,β-TCPと組み合わせインプラントに,異種骨やGBRと併用し歯周組織に,また単独で形成外科や血管外科で創傷治癒の促進に臨床応用されている。著者らはPCBMとPRPを組み合わせ,欠損部に充填する小規模な骨造成15例と顎骨再建18例の臨床応用を行った。そのうち,骨形成の不良は1例だけであった。術後感染2例とトレーの露出を1例認めたものの,いずれも十分な骨形成が得られた。
|
|
|