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内容目次 |
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序文
(杉山雄一・金井好克) |
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総論:薬物動態とトランスポーター
(杉山雄一) |
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総論:薬効標的のトランスポーター
(金井好克) |
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●第1章 トランスポーター研究の基礎
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1) |
SLCの構造と機能
(本橋秀之・乾 賢一) |
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Human Genome Organisation(HUGO)によって,二次性能動輸送や促進拡散型のトランスポーターが solute carrier(SLC)ファミリーとして分類・命名された。SLCに分類されるトランスポーターは様々な生理機能に関与するが,特に薬物動態に重要な役割を果たすのはペプチドトランスポーター(SLC15),有機アニオントランスポーター(SLCO,SLC21),有機イオントランスポーター(SLC22),プロトン/有機カチオンアンチポーター(SLC47)などである。これらトランスポーター共通の特徴は広範な基質認識能を有することであり,薬物やその代謝物を輸送することから,薬物の吸収・分布・排泄や薬物相互作用などに深く関与する。
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2) |
ABCタンパク質の機能と輸送メカニズム
(植田和光) |
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ABC(ATP-binding cassette)タンパク質ファミリーは類似の二次構造とATP結合ドメインをもちながら,メンバーの中には輸送体として機能するものだけでなく,チャネルとして機能するものや受容体のように機能するものが存在する。ヒト染色体には48あるいは49のABCタンパク質遺伝子が存在し,それぞれのABCタンパク質の異常は高脂血症,動脈硬化,糖尿病,老人性の失明,新生児呼吸不全,皮膚疾患など多くの疾病と結びついている。
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3) |
Targeted Absolute Proteomicsを用いたトランスポーターの新しい研究展開
(大槻純男・上家潤一・寺崎哲也) |
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トランスポーター研究において,組織や細胞におけるトランスポーターの絶対発現量を網羅的に得ることは,各トランスポーターの生体における役割の解明や輸送システムの種差,個人差,年齢差,病態変化などを理解するために必須である。また,トランスポーターの絶対発現量のプロファイルは,今後,トランスポーター研究における多くの困難な課題を解決し,新たな研究領域を開拓すると考えられる。本稿では,近年われわれが開発した「トランスポーターを含む機能性タンパク質の絶対発現量測定法」の技術原理を中心に,最近のわれわれの研究成果や応用について概説する。
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1) |
核酸塩基 - 陽イオン共輸送体の構造と機能
(岩田 想) |
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核酸塩基 - 陽イオン共輸送体は核酸塩基およびその関連化合物のサルベージ経路に必須な膜タンパク質である。われわれは最近,その一種であるヒダントイン輸送体Mhp1の構造を,基質結合部位が外向きに開いている状態,および基質を結合して閉じている状態で解析することに成功した。さらに,これらのMhp1の構造を膜の内向きに開いた構造をとっている関連輸送体vSGLTの構造と比較することにより,輸送体一般に対して適応できる「アルタネイティングアクセス」と呼ばれる輸送機構の分子メカニズムの一端を明らかにすることができた。
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2) |
トランスポーターによる多剤認識の構造的基礎
(山口明人・中島良介) |
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多剤排出トランスポーターは,化学構造上ほとんど関連性のない幅広い薬物・毒物を排出するという点で,一般のトランスポーターとは大きく異なっている。筆者らは,2002年に初めて細菌の多剤排出トランスポーターのX線結晶構造解析に成功し,多剤認識の構造的基礎を明らかにした。多剤排出トランスポーターは,脂質二重層に溶け込んだ基質を,分子側面から取り込んで排出することがわかった。薬物・毒物は一般に両親媒性であり,脂質二重層を通って細胞内に侵入するので,このような機構により効率的に侵入を食い止めることができる。また,多剤の認識は,複数の基質結合ポケットの組み合わせによるマルチサイト結合に基づいていることがわかった。
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●第2章 トランスポートソームの概念 |
1. |
トランスポートソーム:その概念と生体輸送における重要性
(金井好克) |
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生体膜物質輸送の機能単位は,個々の単一の輸送分子(トランスポーター,チャネル,ポンプ)ではなく,様々な相互作用によって関係しあった輸送分子群,機能制御分子群,それを束ねる足場タンパク質群が集積して形成する分子複合体(トランスポートソーム)である。トランスポートソームは,輸送分子間の機能共役,輸送分子と代謝酵素の共役,輸送分子と細胞の他の機能要素やシグナル系とのクロストークの分子的背景をなす。トランスポートソームの概念は「単一分子」から「分子複合体」へのパラダイムシフトであり,網羅性を重視するポストゲノムの技術に後押しされ,いままで捉えがたかった複合体の階層へのアプローチが試みられている。
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2. |
薬物動態関連トランスポーターと相互作用するタンパク質
(杉浦智子・加藤将夫) |
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トランスポーターは種々薬物の体内動態に重要な役割を担っていることが示されつつあり,個々のトランスポーターに着目した研究が多くなされてきた。一方,細胞膜直下に発現するPDZタンパク質は,トランスポーターと相互作用し,トランスポーターの細胞膜へのソーティング,細胞膜表面での安定化,輸送駆動力を供給するトランスポーターとの共局在など,トランスポーターを介した基質輸送の効率化にアダプターとして関与することが示唆されている。最近の研究から,複数のトランスポーターの基質薬物の体内動態が,PDZK1やRab8などのアダプターによって制御を受けることがin vivo において示されており,トランスポーターの機能解析においては,アダプタータンパク質の存在も考慮に入れた検討が重要である。
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3. |
薬物動態関連トランスポーターとERMタンパク質
(伊藤晃成・鈴木洋史) |
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ezrin,radixin,moesinを含むERMタンパク質は,アクチン線維と細胞膜および細胞膜タンパク質をつなぐ細胞質タンパク質として知られている。いくつかの薬物トランスポーターにおいては,ERMタンパク質との相互作用が膜表面での安定発現に必要であることがわかってきた。また,ERMタンパク質が足場となり,膜タンパク質の局在・機能制御に関わる因子群を近傍に集積させることで,膜タンパク質の動的制御を担う可能性も示されつつある。本稿では主にERMタンパク質を中心とした薬物トランスポートソームの概念に関して紹介する。
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1) |
偽性低アルドステロン症Ⅱ型とWNKキナーゼ
(内藤省太郎・内田信一) |
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偽性低アルドステロン症Ⅱ型は,高血圧o 高カリウム血症・代謝性アシドーシスをきたす常染色体優性遺伝形式の疾患である。この疾患の原因遺伝子としてWNK1とWNK4が同定された。この疾患の患者においてサイアザイドが治療に効果的であることから,サイアザイドのターゲットであるNa-Cl共輸送体(NCC)が病態に深く関わっていることが予想され,WNKとNCCの関係を解明する様々な研究が行われた。われわれはWNK4ノックインマウスを作製し,WNK4-OSR1/SPAK-NCCのリン酸化カスケードの存在を明らかにし,このカスケードの活性化が本疾患の病態の本態であると結論した。
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2) |
物質輸送システムの支持機構としてのセプチン系とその破綻
(木下 専) |
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物質輸送システムの分子実体は,細胞内に極性配置され,組織化された多数のトランスポーターやチャネルである。細胞構造の基礎をなす細胞骨格のネットワークは,①輸送体を振り分ける小胞選別輸送,②物理的障壁による脂質二重膜の区画化,③輸送体を係留・組織化するスキャホールドの構築,によって物質輸送システムの構築と支持に寄与する。あらゆる細胞に存在するセプチン重合体は,微小管系,アクチン系,リン脂質二重膜,一部のトランスポーター複合体に会合することで,物質輸送システムの構築に多彩な役割を果たすことがわかってきた。
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●第3章 トランスポーターの発現制御 |
1. |
薬物トランスポーター遺伝子の転写調節
(小林カオル・降幡知巳・千葉 寛) |
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薬物トランスポーターの構成的発現および薬物などの外因性因子やホルモンなどの内因性因子による発現変動は,薬物トランスポーター遺伝子の転写によって主に調節されている。転写調節機構の解明は,薬物トランスポーターの臓器特異的発現,薬物動態の制御,トランスポーター発現量の個人差,生理学的機能の理解につながるであろう。本稿では,基本転写因子による発現調節,薬物による誘導,核内受容体を介した誘導機構について概説する。
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2. |
エピジェネティック調節
(菊地良太・楠原洋之・杉山雄一) |
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薬物トランスポーターの組織特異的発現は基質薬物の体内動態,薬効,毒性の重要な決定因子である。また,癌細胞での排出トランスポーターの異所性発現・発現誘導は癌の多剤耐性の分子的実体である。近年,遺伝子発現制御には転写因子ネットワークよりも高次のエピジェネティクス系による制御システムが存在し,正常・病態時において様々な生命現象を支配していることが明らかとなってきた。本稿では,DNAメチル化を中心として,これまでに報告されているトランスポーターのエピジェネティック制御について概説する。
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●第4章 動態における薬物トランスポーターの役割
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1. |
消化管と肝臓
(玉井郁巳) |
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小腸と肝臓は経口投与後の吸収性を決める臓器である。両臓器とも栄養物の摂取機構とともに医薬品を含む異物の侵入防止と積極的排除機構を有している。トランスポーターと薬物代謝酵素がその機構を担っている。トランスポーターは小腸上皮細胞と肝実質細胞の血管側と管腔側に特異的に存在し,様々な物質の摂取と排除を選択的に行っている。多様なトランスポーターが発現するが,各分子の機能特性と発現部位を理解することにより,医薬品の吸収促進や肝移行性促進あるいは回避のための化学構造デザインやデリバリーへの応用が可能である。
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2. |
血液脳関門・腎尿細管分泌における薬物トランスポーターの役割
(楠原洋之) |
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血液脳関門では,P-gpやBCRPが管腔側からの異物の侵入を制限する一方で,脳側では肝や腎にも発現する有機アニオントランスポーター(Oatp1a4とOat3)が脳実質側からの排泄を促進する。一方,化合物の電荷に応じて輸送システムが異なるが,腎尿細管分泌の取り込み(OAT1,OAT3,OCT2)と排泄(MRP4,MATE1/-2,OCTN1/-2)の両過程に輸送駆動力の異なるトランスポーターが配置され,効率的なベクトル輸送を形成している。いずれの組織においても,基質選択性の重複したトランスポーターが複数発現しており,安定した異物排泄システムを構築している。
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3. |
トランスポーターと癌
(鈴木健弘・海野倫明・阿部高明) |
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癌とトランスポーターの関わりとして,多剤耐性獲得の実体として明らかにされてきたABCトランスポーターファミリーのMDR1やBRCP,抗癌剤の細胞内への輸送担体として薬剤感受性を決定し癌患者の予後因子マーカーとしての有用性が期待される有機アニオントランスポーターLST-2,腫瘍細胞の増殖に関わり癌組織の悪性度と発現の相関が認められ癌治療のターゲットとしても注目されているアミノ酸トランスポーターのLAT1などの報告が相次いでいる。今後ますますこの分野の研究が進展することが期待される。
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4. |
トランスポーターと薬物間相互作用
(設楽悦久・堀江利治) |
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近年,薬物体内動態の決定因子の1つとして,トランスポーターの役割が重要視されている。トランスポーターを介した輸送過程で生じる薬物間相互作用が臨床で報告されたことや,トランスポーターの遺伝的多型によって薬物体内動態が変化する例が報告されたことで,トランスポーターが実際の薬物治療に対して直接的に影響しうることが示されたためであろう。ここでは,トランスポーターを介したメカニズムで生じる薬物間相互作用の例をまとめる。
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5. |
トランスポーターの遺伝子多型が臨床薬物動態・薬効に与える影響
(前田和哉・杉山雄一) |
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薬物の体内動態を支配する因子の1つとして薬物トランスポーターの重要性が高まるとともに,体内動態の個人差の要因として,トランスポーターの遺伝子多型が注目を集めている。薬物トランスポーターの役割は,肝臓や腎臓・小腸などに発現し,全身循環血の薬物濃度を決定することと,脳や精巣など重要な臓器と血液とを隔てる関門に発現し,局所における薬物濃度を決定することに大別される。いずれの場合も,最終的には薬の標的部位の濃度推移に影響を与え,薬効・副作用の変動要因ともなりうる。近年,ヒト臨床研究が進むにつれ,トランスポーターの遺伝子多型が臨床薬物動態・薬効・副作用の決定因子となる事例が多数報告されている。本稿では,現在のトランスポーターの遺伝子多型研究の状況を概観し,重要な遺伝子多型について情報を整理した。
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6. |
トランスポーターと薬物毒性
(前田和哉) |
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トランスポーターは,肝臓や腎臓など薬物の主要なクリアランス臓器に発現し,全身における物質の曝露を制御する一方で,血液脳関門など重要な臓器を保護するために物質の移行を制限するような関門や各組織においても発現しており,局所における物質の濃度調節に寄与している。これらの機能の総体として異物を効率よく解毒するためのシステムが構成されている。薬物は一般的には生体にとっては異物と認められ,トランスポーターや代謝酵素により効率よく解毒されるケースが多いが,一方,トランスポーターによる効率的な輸送がときに副作用臓器への薬物の予期せぬ集積を招くケースがある。また,これら機能が遺伝子多型や薬物間相互作用により変動した場合に予期せぬ副作用が発現する場合もある。本稿では,トランスポーターが薬物の毒性発現に関与しうるケースについて紹介する。
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1) |
医薬品開発過程におけるトランスポーター研究
(水野尚美・丹羽卓朗) |
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薬物トランスポーターは生体内の様々な臓器に発現し,薬物の体内動態を決める重要なファクターの1つである。そのため多くの製薬企業において,動態特性の至適化をめざして,医薬品開発の探索段階からトランスポーターのin vitro スクリーニングが導入されてきている。また前臨床や臨床段階においては,トランスポーターを介した薬物間相互作用の検討や,開発化合物の組織移行・吸収・排泄メカニズムの検討が行われている。本稿では,医薬品開発におけるわれわれのトランスポーターの評価例を紹介する。
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2) |
第一三共におけるトランスポーター評価
(内藤省太郎・内田信一) |
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近年のトランスポーター研究の発展に伴い,製薬企業での新薬候補化合物の開発においても,代謝酵素であるCYPと同様に,トランスポーターは一定の評価が必要な対象となってきている。弊社においても,「トランスポーターを介した薬物間相互作用の予測,対抗品との差異化」の基本方針の下,新薬候補化合物によるDDI(薬物間相互作用)リスクを考慮し,新薬候補化合物の開発ステージおよびトランスポーターの種類別に試験項目を分類し,評価している。本稿では,弊社でのトランスポーターに対する取り組みを紹介する。
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●第5章 薬効標的としてのトランスポーター
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1. |
利尿薬の標的としての腎尿細管のナトリウムトランスポーター
(松原光伸) |
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腎尿細管の管腔側に発現するナトリウム(Na)トランスポーターはNaに加え,溶質,重炭酸,水,他の電解質の再吸収にも必要である。尿細管の3ヵ所でNaトランスポーターの働きによるNa再吸収が亢進し,栄養状態と酸・アルカリバランス(近位尿細管),体液の量(ヘンレループ上行脚),血圧(遠位曲尿細管から皮質集合管),電解質バランス(ヘンレループ上行脚 - 皮質集合管)の調節に関与する。したがって,浮腫性疾患の治療にはヘンレループ上行脚のNaトランスポーターが最も有効な標的であり,その他のNaトランスポーターを標的とする薬剤は個々のNaトランスポーターの役割に合わせた適応病態を考える必要がある。
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2. |
尿酸トランスポーターと血清尿酸値異常
(安西尚彦) |
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ヒトでは,プリン代謝の最終産物である尿酸は抗酸化能をもつことから,最近,酸化ストレスに対する保護的役割が注目されている。しかし以前より,高尿酸血症は痛風や心血管疾患の発症と関連することが知られている。腎臓の尿酸輸送機構は,血清尿酸値を決める1つの重要な因子であるが,その分子機序はいまだに完全になされたとは言えない。2002年,われわれのグループによる腎臓特異的尿酸トランスポーターURAT1の分子同定が契機となり,その後の腎臓の尿酸輸送に関与する個々の分子の情報の蓄積につながった。本稿では,それらの最近の知見を中心に紹介する。
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3. |
セロトニントランスポーターと精神神経疾患
(酒井規雄) |
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セロトニン神経伝達の終了を担うセロトニントランスポーターは,その分子実体が明らかになる以前から,抗うつ薬や依存薬物の標的であることが知られており,これらの病態に密接に関係するトランスポーターとして研究されてきた。抗うつ薬の作用機序はいまだ解明されていないが,最近の研究からは神経の再生・新生を促すことにより抗うつ作用を発揮するという神経可塑性説が注目されている。さらに,神経伝達物質トランスポーターのバクテリア・ホモログであるロイシントランスポーターの構造と抗うつ薬の結合様式が三次元的に明らかにされ,薬物標的としてのセロトニントランスポーターの研究は新たな段階に入っている。
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4. |
グルタミン酸トランスポーターと精神神経疾患
(相田知海・田中光一) |
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グルタミン酸は中枢神経系における主要な興奮性の神経伝達物質であると同時に,グルタミン酸受容体の過剰活性化による神経毒性をもつ。このため細胞外グルタミン酸濃度は,グルタミン酸トランスポーターにより厳密に制御されている。グルタミン酸トランスポーターの機能障害は,緑内障・筋萎縮性側索硬化症などの神経変性疾患,自閉症・統合失調症などの精神疾患の発症に関与することが,モデル動物・ヒト症例において明らかにされつつある。グルタミン酸トランスポーターを活性化する薬剤は,これら精神神経疾患の新たな治療法となりうる。
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5. |
アミノ酸トランスポーター:悪性腫瘍の診断と治療の分子標的としての可能性
(金井好克) |
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腫瘍細胞においては,亢進した細胞内代謝を反映し,アミノ酸トランスポーターの発現が高まっている。多くの必須アミノ酸の取り込みを担当するLAT1とグルタミンを細胞内に維持するASCT2の発現上昇が種々の腫瘍で確認されている。これらは,分子複合体を形成して協調的に機能し,持続的な必須アミノ酸取り込みを可能とするとともに,それぞれ異なった様式でmTORシグナル系を活性化し増殖を制御する。LAT1選択的リガンドである18F-FMTにより,ヒト肺癌において腫瘍特異性の高いPET診断が可能であることが明らかになった。LAT1抑制には抗腫瘍効果があり,選択的高親和性抑制薬が開発され,その臨床応用が期待される。
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6. |
糖
(浅野知一郎) |
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糖のトランスポーターは,拡散性移動を担うGLUTと,Naイオンとの共役輸送を担うSGLTの2タイプに大別される。GLUTのアイソフォームの1つであるGLUT4は非刺激時には細胞内の小胞に位置し,インスリンや筋肉の収縮に応じて細胞膜上に移動する。すなわち,筋肉や脂肪細胞のグルコース取り込み量を決定することで生体における糖代謝に重要な役割を果たしている。2型糖尿病の病態であるインスリン抵抗性状態では,GLUT4の細胞膜上への移動の障害が認められる。本稿では,GLUT,特にGLUT4に焦点をあて,細胞内移動のメカニズムと糖尿病状態における変化について解説する。
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7. |
NPC1L1・ABCG5/ABCG8によるコレステロール輸送と創薬
(高田龍平・鈴木洋史) |
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高コレステロール血症治療薬エゼチミブの発見,シトステロール血症の原因遺伝子の解析を契機に研究が進められ,コレステロールの消化管からの吸収,胆汁中への排出に関与するトランスポーターが同定された。本稿ではNiemann-Pick C1-like 1(NPC1L1)とATP-bindingcassette G5(ABCG5)/ABCG8に焦点をあて,現在までに得られている輸送特性や発現・機能制御に関する知見と創薬標的としての可能性について述べる。
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8. |
胆汁酸トランスポーターの異常による肝内胆汁うっ滞
(林 久允・杉山雄一) |
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肝細胞毛細胆管側膜に局在するトランスポーターであるbile salt export pump(BSEP)は,胆汁中への胆汁酸輸送能を担っている。肝細胞から胆汁中への胆汁酸排泄は,胆汁流形成の主要な駆動力であるため,BSEPの機能不全は肝細胞内での胆汁酸の蓄積を招き,最終的には肝内胆汁うっ滞として顕在化する。本稿では,胆汁酸トランスポーターの実体としてBSEPが同定されるまでの過程について述べた後,BSEPと肝内胆汁うっ滞との関連について概説し,最後に肝内胆汁うっ滞の薬物療法の可能性について考察する。
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9. |
リントランスポーターと疾患
(宮本賢一・瀬川博子・伊藤美紀子・辰巳佐和子・竹谷 豊) |
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腎近位尿細管における無機リン酸(リン)再吸収機構は,血中リン濃度調節において最も重要である。近位尿細管に局在するⅡ型NaPi輸送担体(NaPi-ⅡaおよびNaPi-Ⅱc)はその中心的な役割を担っている。NaPi-Ⅱaは,副甲状腺ホルモン(PTH)により調節される。これには,NHERF-1のリン酸化が関与している。また,NaPi-Ⅱcの遺伝子異常は,高カルシウム尿症を伴う低リン血症性くる病を引き起こすことが明らかにされた。
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10. |
Na+/Ca2+ 交換体を分子標的とした新規Ca2+ 調節薬の開発
(岩本隆宏・喜多紗斗美・伊豫田拓也) |
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Na+/Ca2+ 交換体は,細胞膜を介して3個のNa+ と1個のCa2+ を交換輸送するトランスポーターである。この輸送体は,心筋,血管平滑筋,神経,腎尿細管などに多く発現し,様々な細胞内Ca2+ シグナルの制御に関わっている。近年,特異的なNa+/Ca2+ 交換体阻害薬(NCX阻害薬)が開発され,また輸送体遺伝子改変マウスを用いた研究が進み,Na+/Ca2+ 交換体が種々臓器の虚血再灌流障害,心不全,食塩感受性高血圧などの発症に関与することが明らかになってきた。本稿では,Na+/Ca2+ 交換体の病態機序に関する最近の知見を紹介するとともに,この輸送体を分子標的とした創薬(新規Ca2+ 調節薬)の可能性について概説する。
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11. |
Na+/H+ 交換輸送体:機能調節と薬物標的としての意義
(中村(西谷)友重・古林創史・久光 隆・岩田裕子・若林繁夫) |
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Na+/H+ 交換輸送体(Na+/H+ exchanger:NHE,SLC9)は,細胞内pH,Na+濃度,細胞容積の調節など,イオン環境整備に関わる主要なトランスポーターである。NHEによるイオン輸送は,ストレス時に分泌されるホルモンやメカニカル刺激など様々なシグナルにより活性化されるため,薬物標的として特に重要である。そのため古くからNHE特異的阻害薬が開発され,各種心疾患や癌を含む多くの疾病におけるNHEの関与が報告されてきた。本稿では,特にNHE1の活性化が心肥大・心不全発症に十分な要因になりうるという著者らの最近の知見を中心に述べ,形質膜で起こるトランスポーターの活性変化が遺伝子発現までをも制御し,組織リモデリングを惹起する最初のシグナルになりうることを紹介する。
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