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内容目次 |
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総論 マイクロアレイ解析(総論)監修にあたって
(油谷浩幸) |
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●第1章 DNAチップ/マイクロアレイの基礎
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1) |
RNAの解析:総論
(油谷浩幸) |
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マイクロアレイを用いたRNA解析は基礎研究から臨床研究にまで広く応用されている。また,近年の様々な機能性RNAの発見により,その重要性は一層増している。遺伝子発現の総体を解析することにより,未知の疾患単位の発見が期待されるほか,薬剤感受性を識別する遺伝子セットの同定も可能となり,個別化医療実現のために必須の解析ツールと考えられる。今後,さらに微量試料や臨床試料の解析,選択的スプライシングなどによる多様な転写産物の解析手法の開発が進むことが期待される。
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単一細胞マイクロアレイ法の開発と応用
(斎藤通紀・薮田幸宏・栗本一基) |
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多細胞生物を構成する様々な組織中には,医学・生理学的に重要かつ特有の機能を果たす多種類の希少な細胞群が存在する。単一細胞レベルでの遺伝子発現解析は,それら細胞群に特異的に発現しユニークな機能を発揮する遺伝子群の同定に貢献してきた。本稿では,単一細胞レベルでの遺伝子発現解析の発展を概説し,筆者らが最近開発した高い定量性と再現性を有する単一細胞マイクロアレイ技術の方法論,その実際の応用に関して議論する。本方法論の開発により,様々な医学・生理学的文脈における,いかなる時点の,いかなる細胞からもゲノムワイドな遺伝子発現プロファイルを取得する基盤が形成されたと考えられる。
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3) |
ホルマリン固定パラフィンと包埋標本を用いたトランスクリプトーム解析
(星田有人・Todd R. Golub) |
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ホルマリン固定標本を用いる遺伝子発現解析は,高度なRNA分解のため長らく不可能であった。しかし,近年の技術開発により数種の商用プラットフォームが利用できるようになりつつある。これまでに蓄積されたデータを有効利用し,同標本の利点を最大限に引き出すプラットフォームをデザインすることにより,様々な疾患の分子病態の解明やより頑健な予後予測遺伝子の同定が可能になると期待される。また,臨床検査としての遺伝子発現プロファイリングを強力に推進するものと期待される。
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4) |
エクソンアレイ解析
(西村邦裕) |
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エクソンアレイは,エクソン部分にプローブセットが設計されており,エクソンごとの発現の違いが原理的には観測できるため,転座やスプライスバリアントの検出などに利用できると考えられている。本稿では,エクソンアレイの解析手法などについて解説を行う。具体的に本稿では,Affymetrix社が提供するヒトゲノムエクソンアレイ(Gene Chip® Human Exon 1.0 ST Array)を対象とし,エクソンアレイの概要,エクソンアレイの検出力,再現性について,発現アレイとしての利用,選択的スプライシング解析・スプライスバリアント検出,転座検出などについて解説を行う。また,現在開発しているエクソンアレイ用システムについての紹介を行う。
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5) |
マイクロRNA
(間野博行) |
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マイクロRNA(microRNA:miRNA)は20〜24塩基からなる低分子量RNAであり,標的メッセンジャーRNAの3'非翻訳領域に結合し,その翻訳を抑制すると考えられている。数多くのヒトの疾患発症にmiRNA異常が関与すると予想されており,特定のmiRNAは癌遺伝子あるいは癌抑制遺伝子として働くことも明らかになった。実際のヒト疾患細胞においてハイスループットにmiRNAの発現プロファイルを決定することをめざして,マイクロアレイを主体とした様々な手法が現在数多く開発されつつある。
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6) |
Standard Controls and Protocols for Microarray Based Assays in Clinical Applications
(Janet A. Warrington) |
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標準管理およびガイドラインは,研究開発を促進するための技術基準を示し,規制当局の意思決定の一助となり,研究室において品質管理および熟練度試験を実施するうえで有用なツールを提供する。臨床試験,医薬品開発,臨床診断におけるマイクロアレイ技術の適用およびマイクロアレイに基づくアッセイデータを用いた医薬品および試験の規制当局による認可に不可欠な標準品およびガイドラインを開発すべく,様々なグループが協同でマイクロアレイ技術の成熟と臨床分野での受け入れに力を注いできた。これらのグループの活動の概要を紹介する。
Standard controls and guidelines provide a technological reference point for advancing research and development, aid regulatory decision-making and provide accepted tools for quality management and proficiency testing in the laboratory. A significant component of the maturation of microarray technology and acceptance by the clinical community has been the simultaneous efforts of a number of groups to develop the standard reference materials and guidelines requisite for use and acceptance of microarray technology in clinical trials, drug development, clinical diagnostics and regulatory clearance of drugs and tests using microarray based assay data. A summary of a number of these efforts is presented.
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リシークエンシング
(間野博行) |
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すでに決定されたヒトゲノム配列を各患者ゲノムにおいて再解析し,疾患細胞におけるゲノム異常の有無を検証する研究をメディカルリシークエンシング(medical re-sequencing)といい,現在そのための技術開発が急速に進行している。なかでも高密度マイクロアレイを用いた塩基配列解析はすでに市販化されて応用されているものもある。これは解析したい塩基配列の前後をカバーする短いオリゴヌクレオチドを用意し,解析ポイントについてA,G,C,Tの4種類の塩基それぞれのバージョンをアイレ上に配置する。それに患者試料ゲノム(あるいはmRNA,cDNA)をハイブリダイズさせ,どのオリゴヌクレオチドに最も多く試料が結合するかによって解析ポイントの塩基を決定する方法である。さらに最近は一度に数百万種類のクローンの並列シークエンスが可能な全く新しいシークエンス技術も開発され,実際の患者細胞におけるゲノム異常の同定が加速されつつある。
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2) |
DNAマイクロアレイを応用したハイスループット遺伝子解析システム
(高橋祐二・後藤 順・辻 省次) |
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DNAマイクロアレイによるリシークエンシングを応用したハイスループット遺伝子解析システムを構築し,神経変性疾患の原因遺伝子および疾患関連遺伝子を網羅的に解析している。本システムは,目的の配列とプローブとの特異的ハイブリダイゼーションにより,一度に数万〜数十万塩基の解析が可能である。そのうえ,実験方法は簡便で高精度の解析が可能であり,変異および多型を高感度に検出できる。多検体に対する特定の遺伝子群についてのハイスループットな解析において威力を発揮すると考えられる。
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1) |
SNPゲノムタイピング(総論)
(久木田洋児・林 健志) |
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ヒトゲノム参照配列決定に伴い,ヒトゲノム多型の中でも最も多数存在する一塩基多型(SNP)がDNAマーカーとして整備された。dbSNPデータベースに登録されているその数は107 を超える。また,HapMap計画の成果にも見られるように,人種ごとのSNPを基にしたハプロタイプ構造などの遺伝学的情報基盤の整備も行われつつある。われわれは整備されたSNP情報を有効に活用し,ハイスループット,信頼性,簡便性,低コストを兼ね備えたゲノタイピング方法を用いて疾患のゲノムワイドな関連解析を本格的に行っていく段階にある。
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2) |
全ゲノム関連解析
(南谷泰仁・小川誠司) |
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全ゲノム関連解析は,比較的頻度の高い,複合的要因による疾患の発症に関与する遺伝子を探索するために考案された手法である。具体的には,患者-対照両群のゲノムを用いて遺伝子多型をタイピングし,連鎖不平衡を手がかりにして,疾患の発症の有無と遺伝子多型の間に有意な相関がみられるものを探索する。近年の大規模SNPsタイピングアレイの急速な進歩によって現実的なものとなったが,すでに多くの疾患の原因遺伝子の同定に成果を挙げている。
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3) |
精神疾患の関連解析
(有波忠雄) |
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精神疾患は比較的頻度が高く,遺伝子多型のリスクに関わっていると推測される。関連遺伝子の同定は主に候補遺伝子法により進められ,患者数を劇的に増やすことが難しいため,メタ解析により関連の確認が進められている。これまで8遺伝子の遺伝子多型において精神疾患との関連がメタ解析で確認されている。しかし,解析された遺伝子の数はごく少数にとどまっており,ゲノムワイド関連解析に対する期待は大きい。個々の多型の影響力は小さいと予想されるため,非常に大きなサンプルサイズで検討する必要があることが明らかになっている。
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1) |
SNPアレイを用いたゲノムコピー数の解析
(小川誠司・南谷泰仁・山本 豪) |
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SNPアレイは,当初,ゲノムワイド関連解析に必要とされる大規模SNPタイピングを可能にする技術として開発されたが,同時に癌や先天性異常におけるゲノムコピー数解析のための強力な手段を提供する。また,SNP特異的なプローブが用いられていることから,アレル特異的なコピー数の情報を解析することが可能となっている。本稿では,特にAffymetrix社のGeneChip®を標的プラットフォームとして,SNPアレイを用いたゲノムコピー数解析の手法について概説する。
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2) |
コピー数多型と疾患解析
(石川俊平) |
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これまで遺伝子は染色体ごとに1つずつコードされ,細胞あたり2コピーもつと考えられてきた。しかし,ここ数年の研究でその数が2以外の数,1,3,4またはそれ以上といった現象が確認されている。このような遺伝子の数の違いはコピー数多型(CNV:copy number variation)と呼ばれ注目されている。
疾患のリスク,様々な薬の治療応答性,副作用の違いといった個人の体質差を生み出す原因として,これまではSNP(一塩基置換多型)に代表される個人間の遺伝子の「配列の違い」がよく知られているが,近年見つかったCNVといわれる現象は遺伝子の「数の違い」であり,遺伝子をまるごと含むような数Kbp〜数Mbpの長さの大きな領域の数が個人間で異なるというものである。
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3) |
BACアレイを用いた微細染色体異常の検出
(井本逸勢・林 深・稲澤譲治) |
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小児の先天異常疾患の臨床や出生前診断における染色体異常の検出において,従来の分染法による染色体分析やfluorescence in situ hybridization(FISH)法を補完・代替する診断・解析技術としてゲノムアレイを用いたアレイcomparative genomic hybridization法(アレイCGH法)の重要性が増している。ゲノムコピー数解析法としてのアレイCGH法の有用性や限界を理解し,他の検査法と組み合わせてその有用性を生かした診断・研究レベルでの利用を行うことが,先天異常症の臨床・病態解明のうえで重要である。
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●第2章 DNAチップ/マイクロアレイの最新技術
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1) |
ChIP-chip技術(総論)
(古俣麻希子・白髭克彦) |
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転写,複製,分配,組換え,修復といった染色体諸機能の実体は広い意味でDNA-タンパク相互作用とその変化である。ChIP-chip法とはゲノムDNA上のタンパクの結合プロファイルを網羅的に検出する方法であり,この方法により,今まで生化学的あるいは遺伝学的方法を用いて,部分あるいは点としてしか捉えられなかったDNA-タンパク相互作用を全体として動的に捉えることが可能となった。ここに,ようやくわれわれは染色体構造および染色体機能を多数のDNA-タンパク相互作用の集積物としてありのままに丸ごと捉え,その実体に迫ることが可能な方法論を手にしたのである。本稿ではChIP-chip法による染色体動態の解析法について概説する。
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2) |
タイリングアレイのデータ解析
(堤 修一) |
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一定の間隔ごとにゲノムの塩基配列から選択した配列を,高密度にマイクロアレイ上に設計したものをタイリングアレイと呼ぶ。この比較的新しいマイクロアレイによって,新規の転写産物や,ヒストン修飾や転写因子の結合領域がゲノムワイドに測定できる。現在の解析では,1アレイあたり数百万にも及ぶプローブから得られるシグナルを,プローブ配列やゲノム上に該当するコピー数などによって補正できるようになっている。そのため,従来は煩雑で高コストであった実験過程はより簡便になり,結果はより高い信頼性をもつようになった。しかし,生成されたエピゲノム情報もまだ十分に大きく,新たな結果の解析手法が求められている。
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3) |
メチル化解析
(永江玄太) |
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メチル化DNA免疫沈降法とタイリングアレイ解析を組み合わせたMeDIP-chip法の登場により,1つの細胞のDNAメチル化状態をゲノム全体にわたって詳細に解析することが可能となった。ゲノムサイズの大きなヒトやマウスにも応用され,1kb以下の解像度で高メチル化領域をマッピングすることができるようになった。この技術によって得られた様々な細胞におけるメチル化プロファイルは,発生・分化などの生理的現象から癌などの病態の解明に重要な役割を果たしていくことが期待される。
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4) |
MassARRAY® によるDNAメチル化解析
(金田篤志) |
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遺伝子発現制御に重要な役割を果たすDNAメチル化については,これまで多くの解析技法が発表されてきた。MassARRAY®(SEQUENOM社)は,解析したい領域の塩基配列の違いによる質量の違いを利用して質量分析する手法である。DNAメチル化解析に応用する場合は,DNAをbisulfite処理しメチル化の有無を塩基配列の違い(CとU)に変換,その相補鎖の塩基GとAの質量差からメチル化の有無を解析する。大量のサンプル,大量のCpG部位を定量的に短時間に解析することに優れたMassARRAYによるメチル化解析について解説する。
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1) |
SuperSAGEアレイ法
(松村英生・寺内良平) |
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筆者らは,ゲノムワイドな転写レベルの遺伝子発現解析法であるSAGE(serial analysis of gene expression)法を改良したSuperSAGE法を確立した。SuperSAGE法は各cDNAから抽出した26塩基配列の断片(タグ)により遺伝子発現プロファイリングを行う方法である。この26塩基タグ配列を直接利用したオリゴヌクレオチドマイクロアレイを作製し,遺伝子発現を解析する方法を確立してSuperSAGEアレイ法と名づけた。実際にSuperSAGEアレイ法を用いた解析では多くの遺伝子(タグ)の発現を安定かつ正確に捉えることが可能であり,本法はSuperSAGE法およびマイクロアレイ法の両者の長所を生かした解析技術であるといえる。
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2) |
高感度マイクロアレイ
(土屋創健・清水一治・辻本豪三) |
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DNAマイクロアレイのスポット部位に柱状構造を有する黒色樹脂の基板とその柱状構造を利用したビーズによる撹拌を用いることで,従来のガラス基板のマイクロアレイと比べて,約100倍高感度なマイクロアレイが開発された。この高感度マイクロアレイは,わずか0.01µgのtotal
RNAから遺伝子増幅を行うことなく正確な遺伝子プロファイルを取得することが可能であった。今後,高感度マイクロアレイを用いることにより,臨床の場において治療前生検標本から迅速かつ簡便に正確な遺伝子プロファイルを取得できると期待される。
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3) |
電流検出型DNAチップ
(源間信弘) |
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電流検出型DNAチップは,色素標識が不要でかつ検出系がシンプルな構成のため,簡便で低コストなDNA検査の実現が可能である。そのため,現在研究用途では主流の蛍光検出方式に置き換わり,医療診断でのプラットフォームになることが期待されている。本稿では,その原理や特徴,テーラーメイド医療への応用としてC型肝炎薬剤効果判定・薬物代謝酵素SNPs解析,さらには次世代技術として,全自動検査装置の開発,高感度CMOS型DNAチップの開発を紹介する。
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●第3章 データ解析法 |
1. |
発現マイクロアレイデータ解析(概論)
(星田有人・油谷浩幸) |
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遺伝子発現解析のためのDNAマイクロアレイは,トランスクリプトームの状態や構造を捉えるために広く用いられるようになった。そのデータは,発現の異なる遺伝子の同定,サンプルの分類(クラスタリング,機械学習)のみならず,遺伝子・疾患・薬剤などの間の相互作用やネットワーク解析にも用いられている。標準的な解析法に関するコンセンサスもほぼ形成され,実験データ同様に解析結果の再現性が重要になっている。これら基本的な解析のコンセプト・流れは,他のゲノミクスアッセイにも適用することができる。
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2. |
マイクロアレイデータ解析法
(牛嶋 大・宮田 敏・松浦正明) |
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臨床検体を用いたマイクロアレイによる遺伝子発現解析の目的として主なものは,新たな表現型の分類や発見,患者の表現型と関連する遺伝子の抽出,遺伝子発現プロファイルで表現型を予測する予測システムの開発がある。本稿ではマイクロアレイデータの前処理について概説し,表現型の情報を利用しない教師なしデータ解析と表現型の情報を利用する教師ありデータ解析の標準的な方法の紹介とその意義について説明する。
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3. |
遺伝子発現データベース
(山本尚吾) |
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生命科学の情報基盤としてのデータベースが急速にインターネット上に拡充されつつあり,特に網羅的遺伝子解析技術であるDNAマイクロアレイの普及により,多種多様なサンプルに関する膨大な遺伝子発現データが蓄積しつつある。生命現象の解明のために遺伝子発現データベースを活用した統合的アプローチが試みられているが,データベースはいまだ発展途上にあり,統合解析のための基盤としてさらなる展開が期待される。本稿では主要な遺伝子発現データベースを紹介し,正常臓器発現プロファイルの特徴や利用例を紹介する。
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4. |
遺伝子セットを使った発現情報の解析(GSEA解析)
(辻 真吾) |
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DNAマイクロアレイの実験結果を解析する場合,コントロール群との比較である程度の発現変動を示す遺伝子を抽出すると,膨大な遺伝子のリストになり,生物学的な意味を捉えることが困難になる。遺伝子セットを使った解析では,こういった問題を解決できる可能性がある。特にGSEAは従来の遺伝子セットを使った解析と計算方法が違うことに加え,MSigDBという独自の遺伝子セット情報を内包している。これには,既報のマイクロアレイを使った研究から,様々な実験条件で発現変動した遺伝子セットが収められており,こうした情報とともに解析することで,DNAマイクロアレイの実験結果から生物学的な意味を捉えやすくなるだろう。
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5. |
インタラクトームからのパスウェイ解析
(井原茂男) |
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タンパク質・遺伝子の相互の関係性,特に分子間の相互作用を網羅的に調べ上げ,時間および空間的な相互作用の変化から細胞の中の現象を理解しようとするアプローチはインタラクトームと呼ばれている。相互作用をエッジに,タンパク質をノードとする相互作用ネットワークとして表現し,現象をネットワークの変化としてとらえる。マイクロアレイの実験結果を解析するうえでの問題点とその具体的な解決方法を検討する。また具体的な例として,HUVEC細胞のマイクロアレイ実験による詳細な時系列遺伝子発現データに適用した結果を示す。
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●第4章 DNAチップ/マイクロアレイ臨床応用への実際 |
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マイクロアレイを用いた生活習慣病関連遺伝子の解明 - 発現マッピングとeQTLマッピングの可能性 -
(水野洋介・二階堂愛・岡崎康司) |
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生活習慣病は一般に単一の遺伝子に起因するものではなく,複数の関連遺伝子がそれぞれ複雑な制御を及ぼした結果に起因するものであるといわれている。各種の疾患に関連する遺伝子を探索するうえでは,血圧や血糖値などの量的形質を支配する遺伝子を探索することはますます重要になっている。また,生活習慣病をはじめとする疾患遺伝子を探索するアプローチとして,マイクロアレイを用いた解析が盛んに行われている。本稿では,量的形質を扱う遺伝学と発現アレイを結びつけて疾患遺伝子を効果的に探索した例を紹介する。
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癌幹細胞におけるアレイ解析
(松崎信治・原口直紹・森 正樹) |
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癌幹細胞は正常幹細胞と同様に自己複製能および多分化能を有するため,異なる性質を示す癌細胞に分化し,これが癌のheterogeneityの源になると推察される。したがって,癌幹細胞の生物学的特徴や遺伝学的特徴や癌幹細胞特異的な遺伝子の同定が重要である。乳癌における癌幹細胞に関するアレイ解析で,MAPK,STK39,METTL2 などの遺伝子が亢進しており,他の癌でも予後に相関していることが示されている。他の臓器では,癌幹細胞におけるアレイ解析の報告は少ない。今後の発展が期待される。癌幹細胞におけるアレイ解析により,癌幹細胞の特徴などが明らかになることによって癌幹細胞を標的とした治療法が確立されることが期待される。
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3) |
活性化血管内皮細胞のアレイ解析と血管疾患
(南 敬) |
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血管系を構築する内皮細胞は一層からなるが,各臓器において微小環境因子の制御を受けて変動する非常に動的な性質を有する。筆者らは血管内皮に対する外的刺激に伴う遺伝子変動の網羅的探索から,これら活性化シグナルは転写カスケードを介して経時的に接着因子,増殖因子の発現誘導へと推移していくことを見出した。特に刺激初期においては トロンビンとVEGF の共通反応として転写因子NF-AT の活性化が挙げられ,かつ活性化のフィードバック因子であるDSCR(down syndrome critical region)-1 が最も強く誘導されてくること,DSCR-1 が安定に存在した状態では血管新生,炎症を含む内皮の活性化状態を顕著に抑制することが示唆された。
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4) |
肺癌のアレイ解析
(元井紀子・石川雄一) |
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肺癌におけるアレイ手法を用いた網羅的発現解析の研究の現状を述べる。肺癌は,喫煙の影響,大気汚染との関連などで,現在でも死亡数第1位であるばかりでなく,さらに増加が予測されている癌である。一部の肺癌ではEGFR分子標的薬の腫瘍縮小効果があるが,生命予後の改善という点では現状で有効な治療法は確立されているとは言えない。病理組織学的に肺癌は,小細胞癌,非小細胞癌に大別されているが,実際には非常に多彩なサブグループがあり,臨床サンプルを用いた発現解析など,予後予測あるいは治療選択の指標に有用な遺伝子あるいは遺伝子群の解析が精力的に行われている。肺癌の組織型分類と発現解析の実際,腺癌におけるサブグループの抽出,神経内分泌腫瘍の発現解析,リンパ節転移に関与する遺伝子の解析を例にとり,現状を解説し,問題点と今後の方向性について述べる。今後は,アレイ技術による網羅的解析結果を統合した,より再現性があり確実な予後予測および治療効果予測因子が抽出され,臨床応用されることが期待されている。
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5) |
肝癌のアレイ解析
(緑川 泰・杉山保幸) |
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マイクロアレイ技術の普及により発現解析のみならず,ゲノムワイドなコピー数解析から肝発癌に関わる染色体領域や肝癌関連新規遺伝子の同定がされ,診断マーカーや分子標的治療薬の開発が報告されている。さらに肝切除や化学療法などの従来の臨床病理学的因子のみからは判定不能であった治療効果や予後予測のためのクラスタリング,遺伝子セットの選定も試みられるようになった。実験室での癌の解析のみならず,癌治療の臨床現場でも包括的な遺伝子発現解析,コピー数解析の導入による個別化医療の臨床応用が期待される。
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6) |
大腸癌のアレイ解析
(竹政伊知朗・池田正孝・山本浩文・関本貢嗣・門田守人) |
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ヒト全遺伝子の発現情報が1枚の再現性に優れた高品質なマイクロアレイで解析可能な時代となり,これまでに遺伝子発現プロファイル解析によって得られた癌の悪性度や治療応答性に関する成果を実際の臨床に応用する期待が高まっている。しかし,臨床応用にいたるには,関連遺伝子の選択,診断システムの構築と精度の独立試験,臨床有用性の評価など数多くの検証が必要であり,まだ多くの課題と改善点が残されている。本稿では,乳癌での成功例と大腸癌における遺伝子プロファイル研究の臨床応用の現況について概説する。
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7) |
眼科領域におけるアレイ解析の動向
(中野正和・米田一仁・木下 茂・田代 啓) |
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ここ数ヵ月の間に,ヒト全ゲノムにわたる数十万ヵ所の一塩基多型(single nucleotide polymorphism : SNP)をタイピングし,数千人規模のアソシエーション解析を実施した研究成果が次々に報告され,geneticsの分野では疾患関連遺伝子の同定に沸いている。奇しくも,その先駆けの1つとなった研究例は眼科領域からのものであった。それは,2005年に加齢黄斑変性の原因遺伝子として補体系の調節因子の1つ,H因子遺伝子が同定された研究である。本稿では,DNAチップを用いたSNPをマーカーとするアソシエーション解析がもたらしたブレイクスルーについてこの研究を題材に概説するとともに,もう1つの代表的な眼疾患である緑内障のアソシエーション解析の現状やチップを用いた遺伝子発現解析が眼科領域に与える可能性について考察する。
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8) |
アレルギー疾患のアレイ解析
(松本健治) |
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マイクロアレイは遺伝子情報の充実とコンピュータテクノロジーの目覚ましい発展によって,極めて強力なスクリーニングツールとしてアレルギー研究の進展に寄与してきた。その用途は炎症細胞や組織細胞のプロファイリングや細胞内/細胞外活性化経路の解析,患者の病態解析など多岐にわたる。将来的には個体すべての生命活動に関わる分子群,タンパク,酵素などのネットワークの全貌が明らかとなる,いわゆるsystems biologyの達成のために重要な役割を演じると考えられる。
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9) |
ニュートリゲノミクスのアレイ解析
(加藤久典・阿部啓子) |
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われわれが摂取する食品の機能は,一次機能,二次機能,三次機能に分類され,しかもその研究に分子生物学的手法が活用されてきたが,近年はDNAマイクロアレイを中心とした網羅的解析が有効に利用されている。特定の食品成分の新たな機能の探索や機能性のメカニズムの解明においては,こうした悉皆解析の威力が特に有効に発揮され,すでに膨大な成果が生み出されている。また,食の安全性の問題にもニュートリゲノミクスの活用が試みられはじめている。機能性食品研究においてはわが国が世界をリードしてきた。さらにニュートリゲノミクス研究を発展させることで,人類の健康増進や産業の発展への大きな貢献が期待できる。
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10) |
哺乳類発生分化研究におけるアレイ解析の応用
(内山裕佳子・西中村隆一) |
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不可逆的損傷を受けた組織に対する再生医療や,発生異常に対する治療法の開発には,正常発生過程の理解が不可欠である。近年,主にノックアウトマウスの作製により発生に関与する分子のリストは増大しているが,さらなる未知分子の検索やそれらの相互作用の解析のために,マイクロアレイを利用することが一般的となってきている。本稿では,発生研究におけるマイクロアレイの応用例として,腎臓を例とした発現解析の例,および哺乳類ES細胞におけるChIP on chipについて紹介する。
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1) |
オーダーメイド医療
(片桐豊雅・中村祐輔) |
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DNAマイクロアレイ法による網羅的発現情報解析が癌研究において最もよく利用されており,多くの成果があがってきている。癌の個性として予後不良の腫瘍と予後良好な腫瘍などの生物学的特性や薬剤や放射線などの治療に対する感受性の違いなどを遺伝子発現により明確にすることで,治療前に効果予測することや患者の予後予測が可能となってきている。さらに,同一臓器由来の多数の癌症例の発現解析を行うことで,多くの症例で共通に発現変動する遺伝子を同定することができ,これらの遺伝子産物を機能解析することは新規抗癌剤の開発につながる。本稿では,遺伝子発現情報解析による抗癌剤効果予測法の開発および癌治療標的分子同定のための戦略を述べる。
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2) |
癌における薬剤応答性
(齋藤さかえ・鶴尾 隆・冨田章弘) |
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分子標的抗癌剤においては,標的タンパク質そのものの量や活性の変化が治療効果を予測する因子となりうる。しかし,生体の薬剤応答には,個々の細胞のもつ耐性や癌固有の微小環境など,より多くの因子が関与していることが知られている。これまで,既存の化学療法を含めた薬物療法のバイオマーカーの同定のため,包括的なゲノム解析が数多く行われており,実用化に向けた研究成果が国内外で報告されている。本稿では,マイクロアレイを用いた解析の例として,イマチニブ,ゲフィチニブの感受性予測と,微小環境を標的とした抗癌剤開発の試みについて紹介する。
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3) |
細胞株パネルを用いた薬剤感受性予測
(辰野健二・油谷浩幸) |
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DNAチップ/マイクロアレイを用いた遺伝子発現プロファイル解析や遺伝子多型解析により,薬剤の効果予測をする研究が進められている。細胞株での薬剤応答と遺伝子解析から薬剤感受性に関連する遺伝子を探索する方法は,臨床サンプルでの解析と比べると質の揃ったデータを比較的容易に得ることができ,また薬剤の制限を受けない特徴がある。癌細胞株パネルを用いて抗癌剤の感受性に関連する遺伝子を探索し,効果予測をする研究のほかに,不死化リンパ球細胞株パネルを用い,連鎖解析や関連解析により感受性に関連する遺伝子多型を探索する研究が報告されている。
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4) |
RNAチェックTM による寛解をめざした関節リウマチの個別化医療
(谷野元彦・竹内 勤) |
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関節リウマチに対する生物学的製剤の登場によって,寛解を治療のゴールとすることが現実化しつつあることは患者にとって福音となるものである。しかし,その効果には個人差があり,副作用,さらに費用も高価なことから個々の患者に適した治療,すなわち個別化医療を実践する必要がある。特に薬剤投与前もしくは投与後早い時期に末梢血中のPBMC(peripheral blood mononuclear cells)からのRNAの発現解析による薬剤の効果判定は,患者個々の薬剤選択のために有用と考えられる。今後,リウマチにかぎらず様々な疾患において,血中のPBMCのRNA発現変動が病態を反映するという証拠が明らかにされ,医療に応用されていくかもしれない。
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5) |
神経芽細胞腫
(大平美紀・中川原章) |
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癌の個別化医療実現において,腫瘍の早期かつ正確な層別化とリスク予測は適切な治療法選択につながる重要なステップである。千葉県がんセンター研究所では,これまでに小児の代表的な腹部固形腫瘍である神経芽腫について診断用ミニチップを開発し,遺伝子発現プロファイルに基づいた予後予測システムの構築を進めてきた。現在さらに精度の高いシステムの構築をめざし,臨床と連携しながら遺伝子発現とゲノムコピー数異常を統合したリスク予測システムの整備を進めている。
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6) |
個別化医療Oncotype DXTM,MammaPrint®
(上野貴之・戸井雅和) |
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複雑化する癌治療の中で,患者・医師の治療法選択のための指標の必要性は高まっている。乳癌においては,ホルモン受容体,HER2,その他の病理学的因子を指標に判断されるが,これらの指標は個々の症例に対し,必ずしも最適な治療法を提示できるわけではない。そこで,遺伝子発現プロファイルにより再発リスクや予後を予測し,それに基づき個々の症例における治療法決定を可能にしようとする試みが行われている。Oncotype DXTM は21個の遺伝子発現をRT-PCR法で測定し,再発リスクを予測するものである。ホルモン受容体陽性,リンパ節転移陰性の症例が対象となる。一方,MammaPrint® は凍結標本を用いて70遺伝子をDNAマイクロアレイで解析する方法であり,ホルモン受容体の発現に関係なく予後の評価を行うものである。これらのシステムは,原発性乳癌における化学療法の必要性の判断に使用されてきており,現在それぞれ大規模な臨床試験も行われている。今後の個別化医療へ向け,こうした遺伝子発現プロファイルを用いたシステムの開発と臨床応用の重要性は高い。
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●第5章 DNAチップ/マイクロアレイ創薬研究応用への実際 |
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ファーマコゲノミクス(総論)
(前田和哉・杉山雄一) |
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近年,薬物の効果・副作用の個人差を説明しうる一要因である遺伝的要因の対象となる遺伝子および変異の発見が急ピッチに進むとともに,臨床での処方設計や創薬の方法論にも大きな考え方の変化が訪れている。また,DNAチップなど一度に多検体測定可能な技術開発は,ゲノムワイドに網羅的な遺伝子の発現プロファイルや変異解析を可能とし,従来の仮説-検証型の遺伝子解析から,推論を経ないgenome-wide association study(GWAS)アプローチによる原因遺伝子および変異探索の事例が徐々に集積されつつある。本稿では,ファーマコゲノミクスの現状と将来展望について実際の事例を交え概説する。
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概日リズムと創薬標的遺伝子探索
(橋本誠一) |
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生体において主要な機能を担っている多くの遺伝子の発現レベルが日内変動している。したがって,DNAマイクロアレイを用いて臓器・組織の包括的遺伝子発現解析をする場合,生体リズムについて常に留意しなければならない。創薬研究において,疾患に伴い発現レベルが変動する遺伝子や薬物刺激に応答して発現レベルが変動する遺伝子を探索しようとする場合,検出された遺伝子発現の変化が,真に疾患や薬物応答に伴う発現レベルの変化なのか,あるいはリズム変動によるものなのかは重大な問題である。これまで見落とされてきた問題に迫る。
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抗腫瘍性低分子化合物の転写プロファイリングと生物パスウェイ解析への応用
(大和隆志) |
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筆者らは,種々の抗腫瘍性低分子化合物が癌細胞に及ぼす遺伝子発現変化のパターンをマイクロアレイ法により解析し,それを各化合物固有のフィンガープリントとして化学構造と対応させて分類のうえ,データベース化する取り組みを進めている。この構造-転写プロファイル相関の検討は,創薬研究においてケミストリーとゲノミクスを有機的に融合させるケミカルバイオロジーのアプローチであり,癌生物学における転写プロファイルのバイオインフォマティクス解析と組み合わせることにより,新規抗癌剤の探索ならびに開発研究の効率化に寄与しうると考えられる。本稿では,われわれの行ってきたパイロット研究の概要を説明する。
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1) |
Percellome Project
(菅野 純・北嶋 聡・相ア健一・五十嵐勝秀・中津則之・高木篤也・種村健太郎・小川幸男・児玉幸夫・関田清司) |
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毒性学(トキシコロジー)は身の回りの物質の毒性(有毒性)を予測し,それらの曝露による被害を未然に防ぐ研究分野である。その精度向上を目的にトキシコゲノミクス研究を開始した。マイクロアレイから細胞1個あたりのmRNAコピー数を得るPercellome法を開発し,遺伝子発現変動を投与量および時間の関数として三次元曲面(surface)データとして可視化し,これを基本に網羅的解析法を独自に開発した。単回投与による肝の初期反応データを中心に延べ約2億超データを採取し,毒性カスケード解明の糸口となる変動遺伝子情報を蓄積しつつある。
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動物を用いたアレイ実験の実際
(中山光二・関島 勝) |
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遺伝子発現変動から毒性/副作用を測定・予測しようという分子毒性学(トキシコゲノミクス)の研究が取り組まれており,毒性のメカニズムを解析したり,毒性を予測したりする手法として有効な手段であることが示されている。しかしながら,現在でも培養細胞と動物個体から得られるデータのブリッジングができておらず,完全に動物を使用しないで安全性評価を実施することは困難であり,そのため効率的な試験が求められている。ここでは,動物を用いたマイクロアレイ実験を実施するうえで考慮するべきポイントについて記載する。
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医薬品安全性評価とヒトにおける副作用予測
(小野 敦) |
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網羅的遺伝子発現の毒性評価への応用(トキシコゲノミクス)は,従来の毒性試験では予測が困難であった毒性を短期間・高精度に予測可能にすると期待されている。しかし現時点では,ほとんどの遺伝子について,その変動と毒性表現系との関連は明らかにはなっていないため,バイオマーカーの確立が必須である。遺伝子発現変動は,毒性変化の背景メカニズムに起因するものであり,その関連を解き明かすには,高度なインフォマティクス技術よりも,むしろ地道な解析が重要である。さらに,トキシコゲノミクスにより毒性発現の種差についても予測可能となると期待されているが,ヒト特異的に活性化する遺伝子(群)が関与する副作用については,動物試験では予測は困難であり,ヒト生体における薬剤反応性を維持したin vitro 評価系の構築が重要である。
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●資料(DNAチップ/マイクロアレイ関連資料) |
1. |
市販DNAチップ一覧 |
2. |
市販DNA解析ソフト一覧 |
3. |
カスタムチップ作製受託企業一覧 |
4. |
DNAチップ解析受託企業一覧 |
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