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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−整形外科編 4 |
シリーズ企画 |
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濃化異骨症,マルファン症候群
(高畑雅彦・小野寺智洋・高橋大介・岩崎倫政) |
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特集: |
日本がリードする神経難病のゲノム創薬・遺伝子治療薬開発 |
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巻頭言:神経難病のゲノム創薬・遺伝子治療薬開発
(池田真理子) |
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1. |
筋強直性ジストロフィーの創薬開発
(中森雅之) |
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筋強直性ジストロフィー(DM)は,遺伝子上の塩基繰り返し配列(リピート)の異常伸長が原因で,そこから転写される異常RNAがスプライシング制御機構などを障害することで,全身の多様な症状を引き起こす。DMでのこうした異常RNAを介する病態が解明され,異常RNAを標的とした創薬開発が活発に進められている。わが国からも異常RNAを分解する核酸医薬,異常RNAに結合し毒性を低減する低分子化合物,遺伝子上の異常伸長リピートを短縮させる低分子やCRISPR/Casシステムなど,先端的治療研究が報告されている。
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2. |
タウリンはミトコンドリアtRNALue(UUR)の転写後化学修飾異常によるMELAS脳卒中様発作を抑制する
(大澤 裕・砂田芳秀) |
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MELASは脳卒中様発作を特徴とし,希少難病ミトコンドリア病では最も頻度が高い。変異の多くは,ミトコンドリアtRNALeu(UUR)領域に存在する。MELASでは,このロイシンtRNAにおいて,アンチコドンの1文字目の転写後,タウリン化学修飾が障害され,コドン3文字目の認識障害から呼吸鎖タンパク質の翻訳が障害される。既存薬であるタウリンのドラッグリポジショニングによる脳卒中様発作の再発抑制療法について紹介する
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3. |
デュシェンヌ型筋ジストロフィーに対するエクソンスキッピング療法の開発
(倉岡睦季・青木吉嗣) |
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デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)は,DMD 遺伝子の変異によるジストロフィンタンパク質の欠損に起因する遺伝性筋疾患である。エクソンスキッピング療法は,人工核酸医薬を用いてmRNAでのアウトオブフレーム化したアミノ酸の読み枠を修正し,短縮型ジストロフィン合成を誘導する治療法である。本稿では,国立精神・神経医療研究センターで実施されたイヌ筋ジストロフィーモデルCXMDJ におけるエクソンスキッピング療法の開発を概説し,近年の臨床試験を含めた動向を紹介する。
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4. |
DNA/RNAヘテロ核酸を用いた難病に対する遺伝子治療薬開発
(浅見裕太郎・横田隆徳) |
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DNA/RNAヘテロ2本鎖核酸は,アンチセンス核酸の主鎖と,主鎖に相補的なRNAからなる新規核酸医薬である。リガンド結合により標的臓器へのデリバリーが向上することに加えて,アンチセンス核酸と異なる細胞内輸送メカニズムをもち,標的細胞でのRNA制御を効率よく行うことが可能である。さらに構造を発展させることで,静脈内投与で核酸医薬がこれまで通過できなかった血液脳関門を越え中枢神経系の標的RNA調節が可能になり,制御が難しかったリンパ球へのデリバリーも可能になった。ヘテロ2本鎖核酸の基本概念や最近の進歩について紹介する。
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5. |
脊髄性筋萎縮症の最新治療と今後の課題
(齋藤加代子) |
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脊髄性筋萎縮症は,核酸医薬品ヌシネルセン,低分子医薬品リスジプラム,遺伝子治療薬オナセムノゲン アベパルボベクの3種類の疾患修飾治療薬の臨床試験において各々の有効性と安全性が示され,世界中で実臨床が開始された。新生児スクリーニング(NBS)対象疾患に挙げられ,わが国でもNBSで発見された症例における発症前の治療により発症抑制がなされてきている。希少疾患ゆえに国際共同治験が必要であり,その成功により各国での承認に至った。さらに上市後の実臨床経験が積まれるという希少疾患治療薬開発のモデルにもなると考える。
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6. |
ゴーシェ病に対する薬理学的シャペロン療法の開発
(成田 綾) |
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ゴーシェ病はライソゾーム加水分解酵素である酸性β-グルコシダーゼの活性低下・欠損により発症する先天代謝異常症である。酵素補充療法と基質合成抑制療法が承認されているが,いずれも中枢神経症状への効果はない。薬理学的シャペロン療法は神経症状に対する治療戦略の一つであり,患者の有する変異酵素タンパクの適切なフォールディングを促し,安定化させる特性をもつ低分子化合物を投与することで,酵素活性の復元を目指す治療法である。本稿ではシャペロン療法の原理と臨床応用について概説する。
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7. |
福山型筋ジストロフィーおよび類縁疾患の新規治療法開発
(徳岡秀紀・戸田達史) |
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福山型筋ジストロフィーはフクチンを原因遺伝子とする日本人に特に多い先天性筋ジストロフィーで,ジストログリカンの糖鎖修飾の異常によって生じる。フクチンはジストログリカン糖鎖に特異的なリビトールリン酸修飾に関わる酵素である。われわれはリビトールリン酸修飾異常の病態に対して,リビトールリン酸の前駆体であるCDP-リビトール補充療法を提唱している。福山型に対して日本人に多い変異を標的としたアンチセンス核酸治療薬の治験が行われているが,CDP-リビトール補充療法は類縁疾患への幅広い応用が期待できる。
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8. |
先天代謝異常症に対する最新の遺伝子治療
(村松一洋) |
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遺伝性希少難治疾患,特に神経・代謝性疾患領域においては遺伝子治療開発が世界中で飛躍的に進んでいる。医療技術開発の急速な進歩に伴い,医療提供の可能性が拡がることは喜ばしいことである。一方で,劇的な改善を期待できる対象疾患もあれば,完成した治療法にまでは成熟していない対象疾患もある。医療者としては疾患ごとの治療到達水準と治療開発状況を十分に理解する必要がある。また治療効果を最大限に引き出すには,早期診断が重要である。先天代謝異常症を中心に遺伝子治療開発の国内外の現状について述べる。
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スプレッドシートに代わる関係データベースの活用
(岡村浩司) |
画像認識において目覚ましい成功を収めたディープラーニングは,医学のあらゆる分野に応用され,人々の生活だけでなく社会全体にも多大な影響を与えている。それを支えているのは,個々ではそれほど役に立たないとしても大量に集積されることで大きな価値を生み出すビッグデータである。スプレッドシートでもそれなりのデータを集めることはできるのだが,サイズだけでなく,データ共有,操作性,安全性などの観点から不満は大きい。ここでは,それに代わる関係データベースを自分のコンピュータに設定し,その有用性を体感してみたい。
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原発性胆汁性胆管炎
(人見祐基) |
臓器特異的自己免疫疾患の原発性胆汁性胆管炎(PBC)は多因子疾患であり,国内外でゲノムワイド関連解析(GWAS)を活用した疾患感受性遺伝子領域探索が行われている。最近,本邦の研究グループが参加した国際メタGWAS解析や,マルチオミックス解析を駆使したpost-GWAS解析などの研究成果の報告が相次いでおり,ヒトゲノム情報を基盤としたPBCの発症機序や病態の解明が進んでいる。本稿では,PBCを対象とした遺伝学的解析に関する最新の知見を紹介するとともに,それらの研究成果を活用した臨床応用の可能性について概説する。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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筋強直性ジストロフィー
(佐藤友紀・高橋正紀) |
筋強直性ジストロフィーは成人で最多の遺伝性筋疾患である。筋症状以外に不整脈,高次機能障害,白内障,耐糖能異常,腫瘍など様々な障害を伴い,多くの診療部門が関わる全身疾患である。顕性(優性)遺伝をとり,家族内集積性が高く,表現促進現象により次世代で重症化し,先天型の多くは母親由来である。周術期・周産期トラブルで初めて診断されることも多い。ライフステージの様々な段階で患者・家族の状況に応じた遺伝カウンセリングが必要となる疾患である。異常RNA蓄積によるスプライス異常症としての機序が明らかになり,根本治療開発が期待されている。
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がん遺伝子パネル検査の質保証
(岩泉守哉・前川真人) |
次世代シークエンサー(NGS)を用いたがん遺伝子パネル検査(がんパネル検査)は複数のプロセスからなり,それぞれが複雑な検体検査である。それゆえに検査の全工程(分析前,分析,分析後のプロセス)の質保証・運営を確実に行わなければならない。特に忘れてはならないのは,臨床検査室で行われる分析プロセスだけではなく,臨床検査室以外の関わりも大きい分析前と分析後のプロセスも検査結果に大きく影響する点である。がん遺伝子パネル検査の信頼性を高めるためには,多職種チーム内・チーム間で情報を共有しつつ,関係する者それぞれの役割を果たすことが大切である。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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連続して周産期死亡となった夫婦への遺伝カウンセリングを考える
(宇津野恵美・中田恵美里) |
超音波検査の進歩により胎児異常が見つかるケースは増加している。胎児の形態異常は時に胎児死亡の結果となるが,その大半は散発性であり,再発リスクは低いと判断されることが多い。一方,同一家系内で連続して類似な経過を呈する場合は,遺伝的要因が関与する可能性もあり,遺伝カウンセリングが必要となる場合がある。ひとりの児を亡くすだけでも,その悲嘆は計り知れないが,それが連続して起こった場合の夫婦はその心情に加え,再発の恐れを持ち続け,次の妊娠をためらってしまうかもしれない。死産に関するグリーフケアの文献は特に母性看護領域で散見されるが,連続して類似な経過を辿り死産となった場合のグリーフケアについての論文はほとんどない。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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「その幸運は偶然ではないのです」−キャリア理論の視点から−
(阿部歩美) |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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酵母とシステムバイオロジー:遺伝子発現量を正確に予測するAIを例として
(守屋央朗) |
本稿では,出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae )というモデル生物を対象として,数理モデリングと大規模実験を特徴とするシステムバイオロジーという学問分野の枠組みで行われている研究を紹介する。特に,これらを象徴するような具体的な例として,最近報告された「遺伝子発現(転写)量を正確に予測する人工知能(AI)」を紹介したい。この研究は,AIが生命現象の「理解」に対する人類のアプローチを完全に変えてしまう可能性を示している。
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● 編集後記 |
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