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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−整形外科編 2 |
シリーズ企画 |
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先天性脊椎骨端異形成症,骨形成不全症
(高畑雅彦・小野寺智洋・高橋大介・岩崎倫政) |
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巻頭言:遺伝子治療研究の最前線
(小野寺雅史) |
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1. |
遺伝子治療総論
遺伝子治療の歴史とそこで使用されたベクター
(小野寺雅史) |
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現在,遺伝子治療は幅広い分野において多岐にわたる疾患に対し有効性をもって実施されている。ただ,ここに至る過程は決して平坦ではなく,数多くの課題に対して先人達が地道な努力の末,その解決策を見出し,現在ある遺伝子治療の体系を構築してきたと言っても過言ではない。特に,その場面,場面でブレイクスルーとして登場してきたのが新規ベクターであり,今後もゲノム編集技術を含め新規ベクターの開発が新たな遺伝子治療の方向性を決定していくものと思われる。
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2. |
遺伝子治療における安全性−造腫瘍性と免疫毒性−
(内山 徹) |
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近年,難治性疾患に対する遺伝子治療は急速に開発が進み,多くの患者において高い有効性が認められているが,その一方で遺伝子治療特有の副作用(合併症)が報告されている。染色体挿入型ベクターによる遺伝子治療では,ベクターの挿入変異に起因する造腫瘍性の問題が明らかとなり,またウイルスベクターを直接体内に投与するin vivo 遺伝子治療では,免疫毒性による臓器障害が報告されている。今後の遺伝子治療の発展には,遺伝子治療固有の安全性を理解し,これらを正確に解析,評価することが重要である。
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1) |
造血幹細胞を標的とする遺伝子治療
(内田直也) |
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骨髄幹細胞を対象とした遺伝子細胞治療は様々な先天性疾患で有効性と安全性が示されており,患者自身の骨髄造血幹細胞に欠損タンパク質の正常遺伝子を付加することで,一回の治療で生涯にわたって治癒することが可能となっている。自己不活化型レンチウイルスベクターの使用により安全性が向上し,造血器悪性腫瘍の合併は1%程度に抑えられている。また遺伝子編集の技術が開発され,ベクター配列の挿入なく,造血幹細胞の遺伝子異常を直接修復する治療法の研究が進んでいる。造血幹細胞遺伝子付加・修復治療の臨床応用が期待されている。
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2) |
CAR-T細胞療法
(加藤元博) |
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がん細胞のもつ抗原を標的とした遺伝子改変(CAR)T細胞の開発が進み,劇的な治療効果が確認され診療へと実装されている。T細胞受容体の細胞内ドメインと免疫グロブリンの可変部位を一本鎖化させたキメラタンパクをT細胞に導入し,さらに共刺激分子を組み合わせることで,臨床的な効果を発揮するようになった。投与後のサイトカイン放出症候群などの有害事象の対処についても経験が蓄積されている。一方で,より効率的かつ有効なCAR-T細胞の開発に向けて取り組みが進み,様々ながん種に対するCAR-T細胞療法も試みられている。
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1) |
脊髄性筋萎縮症,デュシェンヌ型筋ジストロフィー,その他
(宮内彰彦・山形崇倫) |
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遺伝子治療は多くの遺伝性神経・筋疾患で様々な臨床研究や治験が行われているが,in vivo 遺伝子治療においてはアデノ随伴ウイルス(AAV)由来ベクターがその中心的役割を担っている。脊髄性筋萎縮症(SMA)では,AAVによる遺伝子補充療法が承認され,高い有効性が示されている。発症前治療も求められているが,大量のベクター静注による肝障害,血小板減少が報告されており,課題も示されている。デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)では,全遺伝子をAAVに搭載できないため,重要な機能部位のみを選択した短いジストロフィン遺伝子(マイクロジストロフィン)を作る遺伝子を設計して組み込んだAAVベクター治療が開発され,治験に進んでいる。遺伝子治療開発状況について現状をまとめた。
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2) |
AAVベクターによる血友病遺伝子治療
(柏倉裕志・大森 司) |
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血友病は,血液凝固第Ⅷ因子または第Ⅸ因子の遺伝子変異による先天性出血性疾患である。重症患者では,幼少期から出血の予防のために凝固因子製剤の定期的な補充が必要である。生命予後は改善しているものの,生涯続く治療は患者や家族の負担となっている。近年,血友病に対するアデノ随伴ウイルスベクターを用いた臨床試験において,一回の投与で血中凝固因子が長期に維持され,製剤を補充する必要がなくなる有望な成果が得られている。今後は,長期的な有効性・安全性の観察に加え,高額な医療費に対する議論が必須である。
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3) |
網膜色素変性
(五十嵐 勉) |
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網膜色素変性を含む遺伝性網膜変性疾患は,眼科領域の難治性疾患である。現在有効な治療法がなく,遺伝子治療やiPS細胞による網膜再生療法などに期待が集まっている。近年,遺伝性網膜変性疾患に対して,欧米から遺伝子治療の臨床応用の結果が数多く報告されてきた。2017年以降,その安全性と治療効果によりLeber先天盲に対する遺伝子治療薬が認可された。本稿では,使用されるアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターによる治療効果なども含め,網膜色素変性への遺伝子治療の現状と今後の発展予想について紹介する。
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1) |
腫瘍溶解ウイルス(アデノウイルス,ヘルペスウイルス,ワクシニアウイルス,麻疹ウイルス)臨床開発の現状
(谷 憲三朗) |
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腫瘍溶解ウイルス療法は新たながん治療法として,現在,期待がもたれてきている。特にヘルペスウイルス,アデノウイルス,ポックスウイルス,ピコルナウイルス,レオウイルス,パラミクソウイルス,ラブドウイルス,パルボウイルスなどを中心に基礎および臨床開発が進められており,2022年5月20日段階でClinicalTrials.govで,oncolytic virusで検索をすると103件の臨床試験が実施もしくは完了している。本稿では国内外で承認されているヘルペスウイルスに加え,アデノウイルス,ワクシニアウイルス,麻疹ウイルスについての臨床試験の現状について紹介させていただく。腫瘍溶解ウイルス療法は新たな免疫療法としても今後の臨床応用が期待される。
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2) |
核酸医薬−オリゴ核酸による遺伝子発現制御−
(井上貴雄) |
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アンチセンス医薬やsiRNA医薬に代表される核酸医薬は,タンパク質を標的とする従来の低分子医薬や抗体医薬とは異なり,RNAのレベルで生体を制御できる点が大きな特色であり,この数年で急速に実用化が進んでいる。核酸医薬は核酸モノマーが連結したオリゴ核酸で構成される共通の特徴をもつこと,有効性の高い配列のスクリーニングが低分子医薬と比較して容易であることなどから,一つのプラットフォームが完成すれば短期間のうちに新薬を開発することが可能である。本稿では,核酸医薬の定義,分類,基本的性質,作用機序などを解説するとともに,その実用化例を紹介する。
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3) |
ゲノム編集
(三谷幸之介) |
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近年の日米欧における遺伝子治療薬の承認と並行して,ゲノム編集技術の進歩により,従来の遺伝子治療(いわゆる遺伝子付加治療)では困難であった遺伝子ノックアウトや正確な遺伝子修復による治療ストラテジーも可能になった。海外ではすでに100を超えるゲノム編集治療の臨床試験が行われており,安全性だけでなく治療効果が示されたプロトコールもある。しかし,より広範な疾患に対する治療法として確立するために,さらなる技術の開発の余地がある。本稿では,ゲノム編集治療のこれまでの代表的な前臨床ならびに臨床試験の現状を紹介するとともに,次第に明らかになってきた技術的な課題について解説する。
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ミトコンドリア病とアミノレブリン酸
(荒尾正人・大竹 明) |
ミトコンドリア病に対する治療はいずれも対症療法のみで,現状,根治療法はない予後不良の疾患群である。5-アミノレブリン酸(5-ALA)+クエン酸第一鉄(SFC)は,残存するミトコンドリア呼吸鎖酵素を強化することでミトコンドリア機能を改善させることが,動物や患者細胞を用いた実験で証明されている。
今回,ミトコンドリア病を対象に行った5-アミノレブリン酸塩酸塩(5-ALA HCl)およびSFCを用いた治験結果について報告する。結果,主要評価項目に有意差を認めず中止となったが,安全性は確認でき,一部の症例においてQOLの改善を認めた。根治療法としての可能性を秘めた治療法である。
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古代ゲノム研究の最先端②
(太田博樹) |
絶滅したネアンデルタール人やデニソワ人(古代型人類)の全ゲノム配列が高い精度で解読され,10年以上が経過した。古代型人類のゲノム情報は,彼らが現生人類(ホモ・サピエンス)と60〜80万年前に分岐し,5〜6万年前に再会して交雑したことを示し,別種と思われていた古代型人類と現生人類の系統関係について見直しが迫られている。さらに,交雑や絶滅の事実は「なぜサピエンスだけ生き残り,繁栄したのか?」という問いを改めて私達に突きつけている。人間らしさとは何か,現代人らしい行動とは何か,といった問いに対する答えを求めて,iPS細胞を用いた実験系の構築など新たな研究分野が誕生しつつある。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
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Kabuki症候群
(黒田友紀子) |
Kabuki症候群はヒストン修飾因子であるKMT2D 遺伝子,KDM6A 遺伝子異常により起こる先天異常症候群である。下眼瞼外反,長い瞼裂,外側3分の1がうすく不連続な眉毛などを身体的特徴とし,歌舞伎役者の隈取りが症候群名の由来となっている。遺伝子発現異常が原因となって幅広い臓器に症状を認め,知的障害,てんかん,先天性心疾患,腎泌尿器系構造異常などをきたす。症状には個人差が大きく,遺伝カウンセリングは慎重に行う。現時点で根本的な治療はなく,個々の症状に合わせた疾患管理を行っていく。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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筋萎縮性側索硬化症(ALS)
(青木正志) |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)は選択的な運動ニューロン死をきたす代表的な神経変性疾患である。ALS発症者の約5%は家族内で発症がみられ,1993年にその一部の原因遺伝子がCu/Zn superoxide dismutase (SOD1 )であることが報告された。その後,多くの原因遺伝子が報告されたが,わが国ではSOD1 が最も頻度が高く,次いでFUS がこれに続く。現在,ALSの治療薬として認可されているのはリルゾール内服およびエダラボン点滴のみであり,いずれを用いてもその進行を止めることはできない。本稿では家族性ALSの遺伝子解析および私たちが慶應義塾大学および大阪大学との共同で行っている肝細胞増殖因子HGFを用いた新規治療法の開発を中心に紹介する。
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ゲノムの非コード重要領域を探る:ATAC-seqが拡げるクロマチンアクセシビリティ解析の可能性
(小田真由美) |
エピゲノム情報はゲノム情報の利用を媒介する様々な分子修飾・分子相互作用の莫大な情報を含む。多様なエピゲノム情報の中で,遺伝子の転写活動に最も近く,かつ様々な分子相互作用の影響を受けるのがヌクレオソームの位置情報を示すクロマチンアクセシビリティ情報である。ATAC-seq法は2013年に発表されて以来,エピゲノム解析として最も多く実施されてきた解析方法である。本稿では,クロマチンアクセシビリティ解析の一つとしてのATAC-seq法の方法論,その特性と今後の展望について概説する。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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治療法が進歩する遺伝性難病の遺伝カウンセリングで配慮すべきこと−遺伝性ATTRアミロイドーシスの遺伝カウンセリング−
(柊中智恵子・植田光晴) |
遺伝性ATTRアミロイドーシスは,指定難病「全身性アミロイドーシス」の一つであり,常染色体顕性遺伝(優性遺伝)性疾患である。治療法が肝臓移植から薬物療法へ発展したことで,疾患修飾療法の治療の恩恵を受けることができる患者が劇的に拡大した。そのため早期診断,早期治療はますます重要となっている。家族歴がある家系の場合,世代によって受けた医療が異なるため病体験にも違いがある。発症を早期発見するためには,病気の知識だけでなく病体験について把握し,継続したフォローアップができる関係性を構築することが重要である。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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「咲けない時は,根を下へ下へと降ろしましょう」〜次に咲く花が,より大きく,美しいものとなるために〜
(石堂佳世) |
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マルファン症候群と類縁疾患を取り巻く環境改善のために
(猪井佳子) |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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哺乳類食虫目の小型実験動物スンクス(Suncus murinus )の研究
(竹見祥大・坂田一郎) |
スンクスは哺乳類食虫目トガリネズミ科に分類され,和名をジャコウネズミという。食虫目に属する唯一の確立された実験動物であり,齧歯類には見られない生物学的特徴を有することから,スンクスを用いた様々な特徴ある研究が萌芽している。本稿では,その中でも筆者らが注目している,消化管運動,代謝,腸内細菌研究のモデル動物としてのスンクスの有用性と現在の研究状況,今後の展開について概説する。
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● 編集後記 |
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