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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−皮膚科編 3 |
シリーズ企画 |
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巻頭言:
新生児マススクリーニングの新たな展開
(中村公俊) |
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1. |
新生児マススクリーニング−ガスリー法から遺伝子解析まで−
(福士 勝) |
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わが国の新生児マススクリーニングは公衆衛生行政における母子保健事業として実施されており,国内で出生するすべての新生児を対象として,検査は無料で行われている。わが国では1977年にフェニルケトン尿症などの先天性代謝異常症5疾患を対象疾患として開始された。その後,1979年に先天性甲状腺機能低下症,1988年に先天性副腎過形成症が追加された。2012年以降にタンデム質量分析計を用いるアミノ酸,アシルカルニチンのマルチプレックス検査法により,アミノ酸代謝異常症,有機酸代謝異常症,脂肪酸代謝異常症の合わせて14疾患が追加され,対象疾患は19疾患まで拡大された。2021年1月現在では先天性代謝異常症18疾患,先天性内分泌異常症2疾患の合計20疾患となっている。近年,先天性免疫不全症や神経筋疾患などの新しいスクリーニングのパイロットスタディも行われ,オプショナルスクリーニングと称して有料で実施されるようになってきた。
本稿では,新生児マススクリーニング検査センターレベルにおける検査法の進歩と対象疾患の拡大,遺伝子解析の新生児マススクリーニング検査への導入例に加えて,今後の動向についても報告する。
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2. |
遺伝学的検査のエビデンス創出
(笹井英雄) |
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先天代謝異常症は代謝酵素の機能低下で病気を発症するため,該当酵素をコードしている遺伝子の変異と機能変化との間に強い相関をもつケースがよくみられる。近年,新生児マススクリーニング(NBS)対象疾患の多くで,保険適用による遺伝子検査が可能となってきた。疾患の遺伝子型と臨床像の情報(遺伝子型表現型相関,genotype-phenotype correlation)が蓄積されれば,将来的には遺伝子型によって各疾患の診療ガイドラインを個別化できる可能性があり,テイラーメイド治療につながっていくと考える。この遺伝子型表現型相関のデータ蓄積を継続していくことがエビデンス創出には必要であり,難病プラットフォームの活用も期待される。
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3. |
フェニルケトン尿症
(濱崎考史) |
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フェニルケトン尿症(PKU)は,新生児マススクリーニングにて血中のフェニルアラニン(Phe)高値を指標に発見される。新生児期に診断し,速やかに血中Phe値を適正範囲内に下げ,維持することで,不可逆的な知的障がいの発症を防ぐことができるようになった。PKUは乾燥濾紙血を用いた血中Pheの測定法の開発により新生児スクリーニングの契機となった代表疾患である。本稿では,PKU研究の歴史的な背景と日本での診断方法と診療の現状,今後の課題について概説する。
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4. |
オルニチントランスカルバミラーゼ欠損症のスクリーニング,
遺伝学的検査ならびに遺伝子治療のup-to-date
(松本志郎・中村公俊) |
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オルニチントランスカルバミラーゼ(OTC)は,尿素サイクルを構成する酵素の一つであり,カルバミルリン酸とオルニチンからシトルリンとリン酸を合成する活性を有する。先天的なOTCの欠損では,しばしば致死的な高アンモニア血症を示すため,新生児スクリーニングのターゲットとして研究が進められている。これまで400を超える変異が同定されており,遺伝学的検査はコマーシャルベースで利用が可能であるが,出生前診断に関しては研究段階にある。治療に関しては,肝臓移植治療が根治治療であるが,細胞移植治療,遺伝子治療についても臨床研究が進んでいる。
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5. |
プロピオン酸血症
(但馬 剛・笹井英雄) |
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プロピオン酸血症は,典型的には新生児〜乳児期に,代謝性アシドーシスと高アンモニア血症を伴って急性脳症様に発症する有機酸代謝異常症である。発症患者の国内推計頻度(約1/40万人)に対して,新生児マススクリーニングでの頻度は約10倍も高い。大半が無症状で,7〜8割が発症患者に認められない共通変異PCCB p.Y435Cを有することから,この変異による「患者」の急性発症リスクは極めて低いことが示唆される。一方,発症患者群では急性代謝不全歴の有無にかかわらず心筋症やQT延長を呈する症例が少なからずあり,マススクリーニング発見例の心臓予後は今後の究明が必要である。
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6. |
VLCAD欠損症
(小林弘典・大澤好充) |
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極長鎖アシルCoAカルボキシラーゼ(VLCAD)欠損症は脂肪酸代謝異常症の一つであり,常染色体劣性遺伝性疾患である。2014年のタンデムマスによる新生児マススクリーニング(NBS)の全国開始以降,NBS陽性を契機に診断される例が増え,9.3万人に1人の発見頻度である。責任遺伝子はACADVL であり,遺伝子型と臨床像の相関がみられる。NBS開始後は,これまでの発見例より軽症と推測される患者が数多く発見されている。これらの患者はNBS前に診断された患者ではみられない変異をもつ場合が多い。このような例の長期的な自然歴,管理指針は定まっておらず,今後の課題である。
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7. |
ガラクトース血症
(和田陽一) |
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ガラクトース血症はガラクトース代謝経路であるLeloir経路の酵素活性低下を原因とする先天代謝異常症の一つである。主に乳糖に由来するガラクトースはグルコース-1-リン酸に変換されて解糖系に用いられるだけでなく,糖鎖修飾などの多様な生理的役割も有する。日本を含む各国で新生児スクリーニングの対象疾患であり,早期に発見して乳糖制限を行うことで様々な合併症を予防しうるが,疾患の全体像は不明な部分も多い。現在も病態解明や新規治療法の開発が検討されている。
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8. |
ファブリー病
(澤田貴彰・中村公俊) |
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わが国ではファブリー病は公費で行われる新生児スクリーニングの対象疾患ではないが,自治体や病院によっては拡大スクリーニングの対象疾患となっている。乾燥濾紙血を用いた酵素活性測定によってスクリーニングされ,診断には遺伝子解析を要する。X連鎖性遺伝形式で,発端者が診断された後に,未診断の家族がファブリー病と診断されることがある。酵素補充療法(ERT)とシャペロン療法が承認されている。さらに遺伝子治療を含む新しい治療法の研究も進められており,今後,それぞれの患者に対して,これらの新しい治療法の中からどの治療法を選択し,いつから治療開始するかが課題である。
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9. |
ムコ多糖症
(小須賀基通) |
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ムコ多糖症は,ムコ多糖の分解に関わるライソゾーム酵素活性の異常により,細胞内にムコ多糖が過剰蓄積する先天代謝異常症である。ムコ多糖症は,Ⅰ型からⅨ型までの7病型に分類され,それぞれの病型において蓄積するムコ多糖の種類や障害される組織・臓器が違うため,異なる臨床症状を呈する。診断には,尿中ウロン酸測定,酵素活性測定と遺伝子検査などを用いる。根治的治療としては,造血幹細胞移植,酵素補充療法などがあり,早期に治療を開始することにより生命予後やQOLの改善が期待できる。近年,早期発見・早期治療を目的とした新生児スクリーニングがわが国でも始まっている。
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10. |
副腎白質ジストロフィーマススクリーニング国内導入に向けての現状と課題
(下澤伸行) |
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副腎白質ジストロフィー(ALD)男性患者では重篤な経過を示すことが多く,早期の治療が予後を改善することより発症前診断が推奨されている。そのため欧米では新生児スクリーニングが行われているが,発症前の予後予測は難しく,発症まで長期のフォローアップが必要になる。本稿ではWilson&Jungnerの基準と照らしてALD新生児スクリーニング導入の意義を男女に分けて考察,米国とオランダのスクリーニングアルゴリズムも紹介したうえで,国内導入に向けての課題と現状について解説した。
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11. |
新生児マススクリーニングと遺伝カウンセリング
(洪本加奈・森貞直哉・山田崇弘) |
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新生児マススクリーニングで見つかる疾患の多くは常染色体劣性遺伝形式の遺伝性疾患である。また,多くの場合には症状顕在化前に発見されるため,発症前診断とも類似した状況となる。このような特徴から両親は予期せずに"遺伝"と向き合うこととなる。そのため,医療者はこのような状況を理解して支援する必要があり,適切なタイミングでの遺伝カウンセリングは有用であると考えられる。
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ペリツェウス・メルツバッハ病の分子病態に基づく新たな治療法開発の現状
(井上 健) |
ペリツェウス・メルツバッハ病(PMD)は,中枢神経系の髄鞘の形成が障害されるために生ずる遺伝性疾患である先天性大脳白質形成不全症の代表的な疾患である。原因遺伝子のPLP1 の変異が初めて同定されてから30年ほどになるが,治療は対症療法のみであった。しかし近年,分子病態の解明と遺伝子治療をはじめとする分子医学の進歩により,新たな根治療法が模索されている。本稿では,著者らが取り組む人工マイクロRNAを搭載したアデノ随伴ウイルス(AAV)を用いた遺伝子発現抑制治療を中心に,臨床応用をめざして研究が進められているPMDの治療法について紹介する。
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Oligogenic Inheritance:遺伝性疾患の未知なる原因遺伝子を求めて
(八谷剛史) |
遺伝性疾患の遺伝様式の一つとして,数個の病的変異の組み合わせが疾病発症に寄与するというoligogenic inheritanceを紹介する。特に,oligogenic inheritanceを仮定した病的変異の絞り込みアプローチによって,新たな原因遺伝子の組み合わせを発見した全前脳胞症の研究に着目し,その手法を詳述する。本稿で紹介する手法は,汎用的であり,他の遺伝性疾患にも適用可能と考えられる。oligogenic inheritanceを想定した原因遺伝子の探索は始まったばかりであるが,このアプローチが普及することにより,様々な遺伝性疾患の原因遺伝子同定が促進されることを期待している。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
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レット症候群
(伊藤雅之) |
レット症候群は遺伝性発達障害の代表的な疾患で,退行や手の常同運動などを特徴的とする疾患である。1966年に報告され,疾患概念が確立し,1999年に原因遺伝子としてMECP2 遺伝子が発見された。典型的レット症候群の95%以上にMECP2 遺伝子変異が見つかり,非典型的レット症候群ではCDKL5 遺伝子とFOXG1 遺伝子の異常が知られている。いまだに有効な治療法がない。そのため,早期の医療・療育介入には,臨床診断とともに遺伝子検査に基づいた早期診断が求められる。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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脆弱X関連振戦/失調症候群(FXTAS)
(田港朝也・永井義隆) |
脆弱X関連振戦/失調症候群(FXTAS)は,FMR1 遺伝子の5'UTR領域に存在するCGGリピート配列が異常伸長することで多彩な神経症状と特徴的な頭部MRI所見,病理所見を呈する疾患である。ノンコーディングリピート病の一種でもあり,近年その病態仮説は大きな注目を集めている。FXTASを模した実験モデルは,FXTASにとどまらず,ノンコーディングリピート病全体の病態解明および治療薬開発のため精力的に用いられている。本稿では明らかになりつつあるFXTASの病態について概説する。
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わが国における保険適応の遺伝子検査の現状
(難波栄二) |
ゲノム医療の推進を背景に,令和2(2020)年度の診療報酬改定においては,がんプロファイリング検査や難病領域の遺伝学的検査など,多くの遺伝子関連検査項目が保険適応となった。保険適応の検査の実施には,改正医療法等に従った検査の品質・精度の確保が求められる。これを契機に,難病における遺伝学的検査の実施体制が大きな課題となり,「難病領域における検体検査の精度管理体制の整備に資する研究班」(難波班)が発足した。本稿では,令和2年度の保険収載項目を概説するとともに,遺伝学的検査の保険適応の課題について述べた。
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● Lecture
〈臨床遺伝学・人類遺伝学誌上講義〉 |
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神経筋疾患
(齋藤伸治) |
神経筋疾患は筋力低下を主たる症状とする疾患であり,脊髄運動神経細胞,末梢神経,神経筋接合部,筋肉に病変の首座が存在する。遺伝性疾患が重要な位置を占めるが,原因遺伝子は多数存在し,症状から原因を特定できない疾患も多く,網羅的遺伝子解析が必要になる。脊髄性筋萎縮症に対するアンチセンスオリゴ療法の実用化を嚆矢として,遺伝子治療を含む新規治療法が次々に開発されており,神経筋疾患は治療を展望した診断が必要な疾患に様変わりした。適切な治療を行うためにも遺伝学的解析による正確な診断が求められる。
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RNA干渉(RNAi)
(山本佑樹) |
RNAiは,遺伝子の機能解析を目的に広く用いられる実験手法であり,細胞内に導入された二本鎖RNAが標的mRNAを分解し遺伝子発現を抑制することを利用する。RNAi実験にはsiRNAやshRNAが用いられ,それぞれ様々な方法により細胞内へと導入し,遺伝子機能の解析をすることができる。最近では遺伝子導入効率も向上し,非常に容易にRNAi実験を行うことができるが,気をつけるべき点がいくつか存在する。本稿では,RNAiに用いられるRNA分子と具体的な遺伝子導入方法について概説し,RNAiを行う際に気をつけていただきたい点について紹介した。
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デジタルPCR
(藤田京志・松本直通) |
デジタルPCRはリアルタイムPCRと同種の試薬を用いて微小区画に分けてPCRを行うことで,従来検出が困難であった微量な変化を容易に検出可能としており,幅広い分野で利用されている。また,微小区画に分けて反応させるという特徴に加え,蛍光プローブによる検出を工夫することで二つのバリアントのフェージングや次世代シークエンスのライブラリー定量,ゲノム編集の評価などDNA断片ごとの情報を得ることができる方法でもある。本稿ではデジタルPCRの原理と疾患解析におけるDNAを用いたデジタルPCRの利用法について紹介する。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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治療過程における遺伝カウンセリング
(西垣昌和) |
遺伝情報に基づく医療の普及に伴って,治療方針の決定が主目的の遺伝学的検査,すなわちtreatment focused genetic testing(TFGT)が行われる機会が増えている。従来のタイムラインでは,クライエントは検査前の遺伝カウンセリングを経て,遺伝性疾患の診断に対するレディネスを備えたうえで遺伝学的検査に臨む。一方,TFGTは治療を担当する各診療科で実施され,病的バリアントが検出された場合に遺伝子診療部門に紹介される,post-test referralの形がとられることが多い。本稿では,遺伝学的検査が先行し,クライエントのレディネスが十分でない状況での遺伝カウンセリングのポイントを示す。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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我が責務は後進の育成なり〜遺伝カウンセリング教育について思うこと〜
(河村理恵) |
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むくろじの会【MEN(多発性内分泌腫瘍症患者と家族の会)】
(殿林正行) |
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● Statistical Genetics
〈遺伝統計学の基礎〉 (10) |
シリーズ企画 |
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混合線形モデルによる遺伝率の推定
(澤田知伸・小井土 大・鎌谷洋一郎) |
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● 編集後記 |
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