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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−皮膚科編 2 |
シリーズ企画 |
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巻頭言:
Common disease のゲノム医学研究を展望する
(徳永勝士) |
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1. |
2型糖尿病ゲノム解析の最前線
(床嶋伸浩・鈴木 顕・細江 隼・山内敏正・門脇 孝) |
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2型糖尿病は,多くの遺伝因子と環境因子が複雑に相互に作用をして病態を形成している。2型糖尿病の精密医療においては,個人ごとに糖尿病発症リスク予測や,薬剤反応性や生活習慣への介入効果の予測がより正確にできることが期待されている。大規模なゲノムワイド関連解析とバイオバンクの情報を活用したポリジェニックリスクスコアにより,2型糖尿病の予測が可能となってきた。今後は,より低頻度で効果の高いバリアントや,遺伝因子と環境因子との関連の解明,機械学習を用いた予測のアルゴリズムの開発により,日本人の2型糖尿病遺伝素因の精密医療が実現すると考えられる。
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2. |
自己免疫疾患のゲノム・オミックス解析の最前線
(高地雄太) |
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ゲノムワイド関連解析(GWAS)によって,自己免疫疾患においても多くの遺伝因子が明らかにされた。HLA多型がその中心にあり,他の遺伝因子との組み合わせによって各自己免疫疾患の感受性が規定されていると考えられる。GWASの結果を理解するためには他のオミックスデータとの統合解析が必須であるが,なかでも疾患と関わる細胞種におけるeQTLデータが重要である。また,rare variantや構造多型を解析することによって,残された遺伝性が明らかになり,自己免疫疾患のゲノム精密医療につながるものと考えられる。
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3. |
多因子疾患としてのがんゲノム解析の最前線
(松田浩一) |
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近年の大規模ゲノムワイド関連解析によって様々な疾患関連遺伝子が明らかとなっており,がん領域においても疾患感受性遺伝子や環境因子との相互作用も解明されてきた。一方で,がん患者の2〜10%程度では家族性腫瘍関連遺伝子の変異キャリアが存在することも示されており,発がんに関わる遺伝因子の網羅的な解明と環境因子の関与を明らかとすることが,正確なリスク予測や予防法の確立に重要である。本稿では,日本人集団を中心に最近のゲノム解析の成果およびゲノム医療に向けた取り組みを解説する。
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4. |
精神疾患ゲノム解析の最前線
(垣内千尋・加藤忠史) |
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精神疾患のゲノム解析はこの30年で,家系での連鎖解析や小規模サンプルによる候補遺伝子についての関連研究から,国際コンソーシアムによる膨大なサンプル数での全ゲノム関連研究に加え,コピー数多型,レアバリアントやde novo 変異,また後成的変化も調べられるようになってきた。確からしい関連遺伝子の同定に加え,関連遺伝子群と多種の網羅的データとの統合的解析から機能や新規薬物候補の推定,また他疾患やフェノタイプとの遺伝学的共通性も示されつつあり,分子病態の理解とともに,それぞれ別個の精神疾患として分類されてきたカテゴリーそのものへの問いかけも提供しつつある。
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5. |
アレルギー疾患ゲノム解析の最前線
(野口恵美子) |
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アレルギー疾患は他の糖尿病やがん,高血圧などのcommon diseasesと同様に複数の遺伝要因と環境要因が発症に影響を与える多因子疾患に分類される。双生児研究などにより算出されているアレルギー疾患の遺伝率は総じて高く,その発症には遺伝要因が大きく関わっている。全ゲノム関連解析が行われるようになってから20年近くが経過し,サンプルサイズは数万から数十万規模となっているが,近年ではより疾患のpathobiologyを探求する目的でsingle traitのGWASからより均質な表現型であるサブタイプ解析を行うことの重要性が提唱されている。本稿では,アレルギー疾患のゲノム解析の現状と,最近私たちが行った経皮感作食物アレルギーのGWASについて述べる。
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6. |
感染病ゲノム解析の最前線
−COVID-19のゲノムワイド関連解析を例として−
(大前陽輔・徳永勝士) |
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ヒトゲノム中の疾患に関連する遺伝子領域の探索において,ゲノムワイド関連解析はゲノム全域を網羅する多型をマーカーとすることで,仮説によらず疾患関連遺伝子領域を同定しようとする手法である。2020年初頭より世界各地で問題となっているCOVID-19感染症においても,本稿を執筆する2020年10月初旬の時点でプレプリントであるmedRxivに登録された論文を含めると,すでに8報のゲノムワイド関連解析結果の報告が行われている。また早くから国際共同研究コンソーシアムが立ち上がり,国際メタ解析も進められている。COVID-19におけるアプローチと成果を例として,感染症のゲノム解析の最前線を展望する。
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7. |
Polygenic Risk Scoreの最前線
(岩﨑航太郎・岡田随象) |
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ゲノムワイド関連解析(GWAS)を社会実装する方法として,近年polygenic risk score(PRS)が注目されている。ゲノム情報から患者の疾患や複雑な表現型のリスクを予測するこの手法は,疾患予防,患者層別化,個別化医療において,効力を発揮することが証明されつつある。一方,人種やゲノム背景によってはリスク予測の精度が低下することも報告され,社会実装に向けた課題も明らかになってきた。本稿では最近のPRS構築手法の詳細,研究動向や課題,そして課題解決に向けて取り組みについて紹介する。
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8. |
ゲノムコホート研究におけるポリジェニックリスクスコア開発の最前線
(須藤洋一・八谷剛史・清水厚志) |
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この10年にわたりゲノム情報を用いた大規模な症例対照研究により多数の感受性多型が同定された。しかし,数十?数百の疾患感受性多型を組み合わせても失われた遺伝率の問題は解決することができなかった。近年,ポリジェニックリスクスコア(PRS)の手法により,ゲノム情報のもつ潜在的なポテンシャルを引き出すことができるようになった。その一方,生活習慣と組み合わせた個別化予防には人種特異的な大規模な前向きゲノムコホートが必要不可欠であることも次第に明らかとなった。本稿では,われわれが現在取り組んでいるPRSによる先制医療実現に向けた動きについて紹介する。
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9. |
ポリジェニックモデルによるゲノム情報解析の最前線
(Gervais Olivier・河合洋介・長﨑正朗) |
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疾患や量的形質の感受性遺伝子を同定するためのゲノムワイド関連解析が広く行われている。一方,微小な働きをもつ多数のバリアント
(ポリジーン)の集合体の効果を研究対象としたポリジェニックモデルが医学分野において注目を浴びてきている。本稿では,ポリジェニックモデルの植物・動物育種遺伝学を起源とする歴史的な背景から近年の医学分野での応用について概説する。さらに,ポリジェニックモデル
の一つであり著者らが開発を進めている領域内遺伝率推定法(regional heritability mapping:RHM)と一般的なゲノムワイド関連解析の希少疾患への適用例を通じてRHMの有用性を議論する。
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メンデル無作為化法
(竹内史比古) |
遺伝疫学では,いまメンデル無作為化法が大流行である。親から子へのアリル伝達のランダム性に着目することにより,観察研究でありながら無作為化ができる手法である。遺伝因子と疾患の因果関係をモデリングするものであるが,さらには環境因子と疾患の因果関係にも示唆を与える。実践するにあたっては,水平多面発現という厄介な問題が残っており,その克服に向けて現在も研究が進められている。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
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総説 常染色体優性多発性嚢胞腎
(花岡一成) |
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は最も頻度の高い遺伝性腎疾患であり,全身に様々な合併症を有する疾患である。両側腎臓に多数の嚢胞が進行性に発生・増大するとともに腎機能が徐々に低下し,60〜70歳までに約半数の患者が透析・腎移植などの腎代替療法が必要となる。責任遺伝子であるPKD1 遺伝子,PKD2 遺伝子の変異が大多数の患者に同定され,PKD1 遺伝子変異を有する患者で腎障害の進行が早い。近年バソプレシンV2受容体拮抗薬トルバプタンによる腎障害の進行抑制効果が証明され保険適応となり,治療が進んでいる。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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RASopathies:Noonan症候群類縁疾患
(青木洋子) |
Noonan症候群,Costello症候群,cardio-facio-cutaneous(CFC)症候群は,細胞内RAS/MAPKシグナル伝達経路に存在する遺伝子の生殖細胞系列での変異により,成長・発達障害,先天性心疾患,肥大型心筋症,様々な程度の精神遅滞,特徴的な顔貌,皮膚症状などを示す常染色体優性/劣性遺伝性疾患である。Noonan症候群の原因遺伝子としてPTPN11,SOS1,RAF1,RIT1,KRAS,NRAS,SHOC2,CBL などが同定されている。Costello症候群の原因はHRASの遺伝子変異である。CFC症候群の原因遺伝子は,KRAS,BRAF,MAP2K1,MAP2K2 遺伝子のいずれかに変異が認められる。これらの遺伝子は細胞内RAS/MAPKシグナル伝達経路に存在するためRAS/MAPK症候群(現在は国際的にはRASopathies)と呼ばれる。
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VUSの取り扱い−国内外の状況−
(中山智祥) |
VUSはvariant of unknown significanceの頭文字をとった単語で,この定義は「DNAの塩基配列変化が疾患の原因になっているかどうか判断する分類において,不確かな意義のバリアント」ということになる。この単語を正しく理解するために,その意味・意義を説明するとともに,関係するガイドライン,提言などを紹介する。VUSかどうかの判断基準は,国外的にも国内的にも最もスタンダードなものはAmerican College of Medical Genetics and Genomics(ACMG)Standards and Guidelines(ACMG2015ガイドライン)である。バリアントの解釈が変わって,pathogenicがVUSへあるいはVUSがbenignになることがある。がんゲノム医療,生殖細胞系列網羅的遺伝学的検査ともにエキスパートパネルでバリアントの評価をしていくシステム作りが必要となろう。
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● Lecture
〈臨床遺伝学・人類遺伝学誌上講義〉 |
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小児内分泌疾患診療における遺伝学的検査
−21水酸化酵素欠損症と性分化疾患を中心に−
(永松扶紗・中村公俊) |
1.21水酸化酵素欠損症(21OHD)について:21OHDの診断には必ずしも遺伝子解析は必要とはならないが,診断が困難な場合や遺伝カウンセリングに有用である。遺伝型と表現型には相関があり,非古典型21OHDの診断,予後の研究などに用いられている。しかし,必ずしも遺伝型と表現型が一致しないことには留意が必要である。
2.性分化疾患(DSD)について:性別決定の際,染色体検査は必須である。5αレダクターゼ欠損症など一部の疾患は,確定診断のための遺伝子解析も行う必要がある。46,XX testicular/ovotesticular DSDについては,これまで原因不明の症例が多かったが,NR5A1 やWT-1 のバリアントが原因として判明している。
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メタゲノム解析・メタ16S解析
(漆山大知・秦 健一郎・宮本新吾) |
近年,その環境・組織に存在する微生物由来DNAを「片っ端から」解析する手法としてメタゲノム解析やメタ16S解析が注目されはじめた。ヒトに常在する微生物(主に細菌)は,宿主の代謝や免疫系と大きく関与し,各種疾患との関連も数多く報告されてきた。今後は,再生医療などと同様,これらの知見に基づく革新的な臨床応用(新規治療法・診断法・健康食品や美容関連の開発など)についての期待も大きいようだ。
そこで本稿では,誰もが少しでもやってみたいと思えるよう,「意外と簡単にできる」本研究手法について概説し,一例としてわれわれの研究について紹介する。
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MLPA法
(山本俊至) |
MLPA法(multiple ligation-dependent probe amplification法の略)はPCRの変法であり,多数のターゲット領域の欠失や重複を一度に解析できる便利なツールである。マイクロアレイ染色体検査では捉えられないエクソンレベルの欠失・重複を効率よく検出できること,定量PCRではできない1チューブで多くのターゲット領域を同時に解析できることが最大のメリットである。エクソン数が79と多く,しかも塩基置換よりエクソンレベルの欠失・重複の頻度が高いDuchenne型筋ジストロフィーの原因遺伝子であるDMD の解析において最も適している。MLPAの特許はMRC Holland社が持っているため,MRC Holland社製Salsa MLPA® kitを購入する必要がある。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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周産期の遺伝カウンセリングにおけるフォローアップのこつ
(中込さと子・宮田 郁) |
妊産婦の周産期死亡の第1位は自殺であり,産科医療におけるメンタルヘルスケアの体制整備は重要な課題である。妊娠や出産は,喜びと同時にストレスフルな状態であり,経験のない心の病気に罹患する場合がある。妊娠中絶や流死産という喪失体験や,情報過多になる一方で養育環境においては孤立することも一因である。さらに内科疾患をもちながら出産に臨む女性も増加し,妊娠から育児期にかけて心身の変化をきたすことがある。
本稿では,出生前検査をめぐるクライエントである妊婦のメンタルヘルスケアを考慮した遺伝カウンセリングのフォローアップをテーマに述べる。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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「どんなに忙しくても,暇そうにしていなさい。忙しそうな人に向かって話そうという人などいないのだから。」
(畠山未来) |
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ALD(副腎白質ジストロフィー)の患者とその家族の未来のために
(本間りえ) |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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新型コロナウイルスのゲノム
(中川 草) |
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による感染症は中国武漢から世界各地に広がった。本稿では新型コロナウイルスの分類,ゲノムにコードされている遺伝子,そして遺伝子変異に関して取り上げる。本稿執筆時には,まだこの感染症が広がって1年も経っていないため,遺伝子の数を含めて未知の部分が多いが,それでも世界各地の研究機関がゲノムをシークエンスし,その配列情報を共有し,また様々な研究を進めてわかってきたこともある。本稿では,そのような新型コロナウイルスのゲノムに関する最新の研究成果報告を一部プレプリント(査読前論文)も含め取り上げる。
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● 編集後記 |
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