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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−耳鼻科編 4 |
シリーズ企画 |
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SLC26A4 変異(Pendred症候群・DFNB4)
(岡野高之) |
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巻頭言:ロングリードシークエンサー
(鈴木 穣) |
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1. |
長鎖型シークエンサーのバイオインフォマティクス
(舛谷万象・森下真一) |
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2010年代前半頃から登場した長鎖型シークエンサーはゲノム生物学の分野で広範に用いられるようになった。本稿では,既存ソフトウェアの中核をなす手法や,これから使われるであろう手法を紹介する。毎年,非常に多くのソフトウェアやアルゴリズムが開発されているが,基礎となるアイデアを押さえておくことが肝要だろう。
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2. |
長鎖シークエンサーを用いたヒト疾患解析
(尾堀佐知子・三橋里美・松本直通) |
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近年,解析技術が著しく発展してきている長鎖シークエンサーは,様々な解析手法やソフトウエアが開発され,現在では短鎖シークエンサーの短所を補いうる技術となりつつある。臨床診断への応用に向けて,検査精度や出力データの処理,検査結果の解釈や,検査にかかるコストなどの課題はあるが,バイオインフォマティクス技術の発展と相まって,新たな疾患解明が行われている。本稿では,疾患解析における長鎖シークエンサーの有効な解析事例を,疾患原因や解析領域の特徴ごとに自件例を交え概説する。
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3. |
スプライシングアイソフォームと修飾塩基の解析
(韓 ヨ・川田健太郎・山田俊理・谷上賢瑞・秋光信佳) |
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今世紀における次世代シーケンサーの急速な発展は,遺伝子発現の機構に関する理解を飛躍的に向上させた。しかし,これまで主流であったshort read sequencing法は,アセンブリ推定に伴う定量の不正確さが生じるという課題があった。特に選択的スプライシングにより生じたアイソフォームは,互いに共通の配列をもつため,short read sequencingにより各アイソフォームの発現量を正確に推定することは困難である。そこで現在,これらの問題を解消する有効な手段として,nanopore long read sequencingは注目されている。本稿では,nanopore long read sequenceを用いた選択的スプライシングの解析および修飾塩基解析について概説し,一例として本研究室で行ったアイソフォーム解析について述べる。
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4. |
集団特異的基準ゲノムの構築と日本人基準ゲノム配列 JG1
(髙山 順・勝岡史城) |
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ヒトゲノム計画の成果に由来する国際ヒト基準ゲノム配列は,ゲノム医学分野において,遺伝子アノテーションの共通座標系や次世代シークエンス解析の参照配列として広く利用されている。しかし近年,国際ヒト基準ゲノム配列に,その構築の経緯に起因する複数の問題点が指摘され,それを克服する試みが世界各国で活発化している。ここでは,これら各国の試みと用いられたDNA解析技術を概観する。また,長鎖リードシークエンス技術を活用し,東北メディカル・メガバンク計画で構築された日本人基準ゲノム配列JG1の構築方法とその特徴を紹介する。
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5. |
がんゲノムのロングリード解析
(坂本祥駿・許 柳・岡 実穂・関 真秀・鈴木絢子) |
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これまで,がんゲノム解析は,いわゆる次世代シークエンサーから出力されるショートリードデータを活用して,進められてきた。その結果,点変異や染色体転座といった変異ががん遺伝子において同定され,分子標的薬の開発に大きく寄与している。一方,がんゲノムには,様々な規模での複雑な構造異常も存在している。また,トランスクリプトームレベルにおいても,遺伝子発現量の増減だけでなく,スプライスパターンなど,転写産物の全長構造に異常が生ずることがある。これらの変異はショートリードデータでは正確に検出することが困難であるため,最新のロングリード技術を駆使した解析が進められている。本稿では,がん研究に活用されているロングリード技術と,その応用例を概説する
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6. |
ナノポアシークエンサーを用いたエピゲノム解析
(関 真秀・金子慶也・三宅修平・鈴木 穣) |
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1分子シークエンス技術であるナノポアシークエンスやSMRTシークエンスでは核酸の修飾塩基の検出を行うことができる。また,既存の方法をナノポアシークエンスに応用することにより,ロングリードを用いたクロマチン構造解析も可能である。その長鎖シークエンス性を活かすことで,ショートリードでは難しかった解析が可能となってきている。本稿では,主にナノポアシークエンス技術を用いたエピゲノム解析技術について概説する。
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7. |
がんゲノムロングリードシークエンスデータからの 後天的変異の検出について
(白石友一・千葉健一) |
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近年ロングリードシークエンス技術の革新がめざましく,これまでにショートリードではアラインメントが十分にできない領域など,これまでの技術では検出できなかった新しいクラスの変異の検出の可能性に期待が高まってきている。一方で,ロングリードシークエンスはエラー率が高く,一塩基置換や短い挿入・欠失の検出には向いていないという議論が一般的である。本解説においては,特にがんゲノムにおける後天的一塩基置換の検出についてのロングリードデータの有用性について,これまでにショートリードの変異検出において用いられていた様々なフィルタリング方法を適用しつつ検証した結果の紹介を行う。
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8. |
ロングリードシークエンサーを用いたゲノムアセンブル
(梶谷 嶺・伊藤武彦) |
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ロングリードはゲノムアセンブリ結果の長さ,網羅性を大きく向上させてきた。シークエンシングコストの急激な減少に加えて,最近はヒトゲノムのアセンブリを1日以内に終えるソフトウェアも複数発表されており,各研究者が容易に試行可能になりつつある。従来の個人間ゲノム比較は参照ゲノムに強く依存していたが,アセンブリの活用により構造変異や繰り返し配列に関する新知見獲得が期待される。本稿では,DNAシークエンサーの特徴,アセンブリ用ソフトウェア,ベンチマーク結果を紹介する。また,リードの正確性を大きく高める技術「HiFi」も取り上げる。
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9. |
長鎖シークエンス技術を用いたヒトゲノム解析
(藤本明洋) |
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次世代シークエンサーが遺伝学研究に導入され,約10年が経過した。次世代シークエンサーの活用により,ヒトゲノムの解析に革命的進歩がもたらされ,人類遺伝学は大きく前進している。一方で,次世代シークエンサーの短い読み取り長や情報解析手法の限界などにより,解決されていない問題も存在している。長鎖シークエンス技術は,短鎖技術が見逃している遺伝的多様性や変異の検出に大きな威力を発揮すると期待される。本稿では,解決すべき課題および長鎖シークエンス技術の有用性について述べる。
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胎児治療の最前線
(左合治彦) |
子宮内の胎児に対して治療行為を行う胎児治療は,出生前診断の進歩により可能となった。胎児のみならず母体にも侵襲が及ぶ新しい治療であり,実験的治療の側面がある。双胎間輸血症候群に対する胎児鏡下レーザー凝固術,胎児胸水に対する胸腔・羊水腔シャント術,無心体双胎に対するラジオ波凝固術は臨床研究の成果により保険収載され,標準的治療となった。先天性横隔膜ヘルニアに対する胎児鏡下気管閉塞術は現在,国際共同試験中である。重症大動脈弁狭窄,脊髄髄膜瘤,胎児下部尿路閉塞に対する新しい胎児治療も日本で始まろうとしている。日本における胎児治療は,臨床研究を行いながら着実に進んでいる。
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反復配列のエピジェネティック制御
(新田洋久・一柳健司) |
ヒトゲノムの約半分は,セントロメアやテロメアなどのヘテロクロマチン構造を構成するタンデム反復配列と,ゲノム中にコピーを増やしていくトランスポゾン(散在性の反復配列)が占めている。ヘテロクロマチン構造を安定させて染色体の複製・分配を正しく行い,トランスポゾンの転移・増殖を抑制してゲノム情報を安定させるためには,エピジェネティックな制御機構が用いられている。本稿では,DNAメチル化,ヒストン修飾,小分子RNAを介した反復配列のエピジェネティック制御について紹介する。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
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てんかん
(石井敦士) |
てんかんは,外傷,脳血管異常,脳腫瘍,低酸素性虚血性脳症といった周産期異常,一部の代謝性疾患を除いて遺伝子の異常による。てんかんの遺伝子研究は次世代シークエンサーにより革新的に進歩した。特に,病因遺伝子の同定が困難であった孤発発症の発達性てんかん性脳症でのde novo 病的バリアントによる遺伝子の同定に著しい成果を生み出している。現在では,いくつかのてんかんでは,遺伝子異常に基づく治療薬の選択が可能となっただけでなく,原因となる遺伝子が同定され病態研究が進むにつれて特異的治療法の開発研究が進行している。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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シュワルツ・ヤンペル症候群
(平澤(有川)恵理・山下由莉) |
シュワルツ・ヤンペル(Schwartz-Jampel)症候群(SJS)は乳幼児期に発症し,ミオトニアと骨軟骨病変を併せもつ遺伝性疾患として難病に登録されている。臨床的にSJS1型と分類される患者において,基底膜型ヘパラン硫酸プロテオグリカンであるパールカンの遺伝子変異が同定され,病態解明が可能になった。しかし,同一遺伝子の欠損による周産期致死性の軟骨異形成症(Silverman-Handmaker型 dyssegmental dysplasia:DDSH)に近い重症例も散見され,その疾患スペクトラムの広がりが注目される。
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ACMGガイドライン
(岡崎哲也・難波栄二) |
膨大なゲノム情報から,疾患の診断や治療に必要な情報のみを抽出することはゲノム医療には重要な課題になっている。2015年に米国の臨床遺伝・ゲノム学会(American College of Medical Genetics and Genomics:ACMG)および米国分子病理学会(Association for Molecular Pathology:AMP)においてガイドライン(ACMGガイドライン)が策定された。日本においても,このACMGガイドラインを参考にゲノム情報の解釈を行うことが多い。本稿では,このACMGガイドラインを解説し,その後の取り組みなどについても紹介する。今後,日本においても,同様のゲノム医療に貢献するガイドラインを発出してゆくことが望まれる
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● Lecture
〈臨床遺伝学・人類遺伝学誌上講義〉 |
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ゲノム多様性と医療への応用
(尾内善広) |
ヒトゲノム解読とバリアント解析技術の進歩により,近年疾患や薬剤への反応性の遺伝背景が急速に解明されつつある。これにより,単一遺伝子疾患の診断や再発リスクの予測が幅広い疾患でより正確に行えるようになったことに加え,バリアントが遺伝子産物の機能を修飾する機序に則した治療薬開発,個人の遺伝型情報に基づく重篤な副反応回避や有効性が見込める薬剤の選択といった精密医療,生活習慣病の早期介入・予防への応用に期待が集まるポリジェニックスコアを活用した多因子疾患の高発症リスク保有者の推定など,遺伝医療に新たな展開がもたらされている。
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メチローム解析技術の最近の動向
(三浦史仁) |
シークエンシングコストの低下により,ようやくwhole-genome bisulfite sequencing(WGBS)がヒト・マウスのメチローム解析に一般的に用いられるようになってきた。WGBSのライブラリー調製にはpost-bisulfite adaptor tagging(PBAT)法が有効だが,ランダムプライミング反応に依存したPBATのプロトコールには問題点も多く,それらを改善する技術の開発が進んでいる。最近になって酵素的にバイサルファイト(BS)処理と同等の効果を得ることが可能なEnzymatic Methyl-Seq(EM-Seq)法が登場した。EM-Seqはライブラリー収率が高く,キット化されているためメチローム解析の敷居を低くしてくれることだろう。ロングリードシークエンサーによるシトシンの5-メチル化の直接検出は,ここ数年のソフトウエアの進化で計測の信頼性が高まり,その有用性を示すデータが発表されはじめている。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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周産期遺伝カウンセリングの実践
(廣瀬達子・関沢明彦) |
周産期の遺伝カウンセリングには様々なケースが存在する。妊婦健診中に実施される超音波検査やその他の出生前遺伝学的検査によって胎児に所見が見つかった場合の結果やその後の選択肢についての遺伝カウンセリングもあれば,家系に特定の疾患をもつ方がいる場合の疾患の特徴や遺伝性の有無などについての遺伝カウンセリングなどもある。妊婦が胎児や次子について,どのような疾患を想定しているかによって,疾患が見つかったときの印象も異なる可能性がある。ここではいくつか症例を示しながら,実際の遺伝カウンセリングにおける対応を考えていくこととする。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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認定遺伝カウンセラー®の可能性を信じてもがく日々
(高谷明秀) |
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特定非営利活動法人クラヴィスアルクス
遺伝性乳癌卵巣癌(Hereditary Breast and/or Ovarian Cancer:
HBOC)当事者会
(太宰牧子) |
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● Statistical Genetics
〈遺伝統計学の基礎〉 (8) |
シリーズ企画 |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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ゲノム情報を用いた発生過程の進化研究
(工藤栄大・阿部玄武・田村宏治) |
生物は様々な形態をもっている。形態はその生物の環境適応や生存戦略をよく表している。形態の進化は古生物学や比較形態学といった視点に加え,進化発生学的観点からも研究されてきた。形態の進化とは,実際にはその形態が作られる発生過程の進化に他ならないからだ。さらに,様々な動物種のゲノム情報の解読や遺伝子発現の網羅的解析が進み,遺伝情報の解析を通した形態進化研究も行うことができるようになった。本稿では,ゲノムの変化と形態の進化の関係を示した例や,ゲノム情報の比較と発生生物学的な手法を組み合わせた研究の実例を紹介することで,ゲノム情報を用いた発生過程の進化研究について概説する。
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フィンランドにおけるゲノム情報・医療情報の利活用のための基盤整備
(中田はる佳・平沢 晃) |
日本では,次世代医療基盤法の施行や,医療分野のデータベース整備など医療情報の二次利用促進が期待される。これらの運用に際して,海外の先進的な取り組みが参考になる。フィンランドでは,個人の情報は電子化され,これらを二次利用する法整備が進んでいる。一つはゲノム法案で,公的ゲノム情報データベースの構築が予定されている。もう一つは社会健康情報の二次利用に関する法律で,本人の再同意なく各データベースの情報を連結して二次利用できる。日本でも,市民・患者の理解を得ながら医療情報の二次利用と同意のあり方を検討していく必要がある。
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● 編集後記 |
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