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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−耳鼻科編 3 |
シリーズ企画 |
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POU3F4 変異(X連鎖性非症候群性遺伝性難聴DFNX 2)の内耳奇形
(岡野高之) |
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巻頭言:遺伝性疾患治療の最前線
(戸田達史) |
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1. |
酵素補充療法の現状と今後の展望
(奥山虎之) |
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酵素補充療法は,ライソゾーム病の標準的治療法の一つである。わが国では現在8種類の疾患に対して10種類の酵素製剤が利用可能である。酵素補充療法の問題点は,静脈内に投与した酵素製剤が脳内に移行せず,多くのライソゾーム病にみられる中枢神経障害に対しての効果が期待できないことである。この問題を解決するために,酵素製剤の脳室内投与などの投与経路の変更や,血液脳関門を通過できる酵素の開発が進んでいる。
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2. |
球脊髄性筋萎縮症
(橋詰 淳・勝野雅央) |
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球脊髄性筋萎縮症(spinal and bulbar muscular atrophy:SBMA)は,アンドロゲン受容体遺伝子上のCAG繰り返し配列の異常延長を特徴とするポリグルタミン病である。異常アンドロゲン受容体タンパク質が運動ニューロンの細胞核へ蓄積することで,緩徐な運動ニューロンの神経変性を生じる。テストステロン依存性の変異タンパク質の核内移行がSBMAの病態の本幹であると考えられており,テストステロンの抑制をすることがSBMAの治療につながることが動物モデルに対する基礎的研究で明らかになった。これらの基礎研究結果に基づき医師主導型の医薬品開発臨床試験を実施した結果,2017年8月にLH-RHアナログであるリュープロレリン酢酸塩の効能に「球脊髄性筋萎縮症の進行抑制」が追加された。現在は,真のエンドポイント(死亡や死亡関連イベント)に関する十分なエビデンスを構築するため,疾患登録システム(患者レジストリ)にデータの蓄積を開始している。また,さらなる基礎的検討の結果,核内に集積した変異ARがDNMT1の発現を誘導し,Hes5などの遺伝子のDNAメチル化を亢進させることでニューロン変性を惹起すること,変異ARがSrcの活性化を介して神経・筋システム変性を惹起すること,など新たな知見も集積されつつあり,新規治療開発も期待されている。
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3. |
シャペロン療法
(檜垣克美・難波栄二) |
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ライソゾーム病に対するシャペロン療法(または薬理シャペロン療法)は,日本で最初に開発された新規治療法である。この方法では,細胞内で標的タンパク質にシャペロン化合物を作用させ構造的に不安定な変異酵素タンパク質を安定化することにより,変異酵素活性を復元し治療効果を発揮する。また,低分子化合物であるシャペロン化合物は広範な組織で効果があり,中枢神経症状の改善が期待できる。本稿では,ライソゾーム内の加水分解酵素を標的としたシャペロン療法について,基礎開発から臨床応用まで最新の知見を紹介する。
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4. |
AADC欠損症・パーキンソン病
(村松慎一) |
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L-dopaをドパミンに変換する芳香族アミノ酸脱炭酸酵素(aromatic L-amino acid decarboxylase:AADC)のcDNAを搭載したアデノ随伴ウイルス(adeno-associated
virus:AAV)ベクターを被殻に注入する遺伝子治療が,AADC欠損症とパーキンソン病に対して実施され,運動機能の著明な改善効果が得られている。パーキンソン病では,AADCに加えL-dopaの合成に必要な2種類の酵素遺伝子も導入し,ドパミンを持続的に供給する遺伝子治療の治験が予定されている。
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5. |
脊髄性筋萎縮症
(齋藤加代子) |
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脊髄性筋萎縮症(SMA)において,機能性の全長SMNタンパク質はSMN2 遺伝子にて産生されるわずかなものだけである。エクソンインクルージョンを機序とする核酸医薬品ヌシネルセン(スピンラザ®)が製造販売承認を取得した。運動ニューロン病SMAの治療に加えて発症予防の可能性が拡がり,大きなブレイクスルーとなった。さらに,低分子医薬品の経口投与の治験,AAVベクターによるSMN 遺伝子静脈内投与の治験と発展している。病態修飾治療として症状固定前,さらには発症前に投与することで,症状の発現を抑え,軽減化もしくは無症状化することが期待される。
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6. |
Duchenne型筋ジストロフィーの治療研究のUPDATES
(鈴木友子・武田伸一) |
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現在,Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)の治療法開発は,アンチセンスオリゴヌクレオチドを用いたエクソンスキッピングを中心に進められており,エクソン51を標的としたeteplirsenはすでにアメリカ食品医薬品局(Food
& Drug Administration:FDA)に条件付きで承認されている。51以外のエクソン(53,45など)を標的とする核酸医薬品のほか,短縮型ジストロフィン遺伝子を搭載したAAVベクターについても,現在3種類が臨床試験中である。AAVベクターとCRISPR/Cas9システムを用いたDMD遺伝子のゲノム編集は,動物実験では有効性を示している。病態に基づく薬剤についても進展がみられる。
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7. |
進行性骨化性線維異形成症(FOP)
(戸口田淳也・日野恭介・池谷 真) |
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進行性骨化性線維異形成症(FOP)は,全身性に異所性骨化が発生する遺伝性疾患であり,BMP受容体の変異を原因とする。FOP患者由来のiPS細胞を活用した解析によって,本来のリガンドではないアクチビンAが発症因子であることが明らかになり,アクチビンAからのシグナルを指標とした探索により,mTOR阻害剤であるシロリムスが治療薬候補として同定され,医師主導治験が開始されている。その他にも複数の治験が進行中であり,永く対症療法しかない希少難治性疾患であったFOPに対する治療は新しい局面を迎えつつある。
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8. |
福山型筋ジストロフィー
(戸田達史) |
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福山型先天性筋ジストロフィー(FCMD)は,わが国の小児期筋ジストロフィーではデュシャンヌ型の次に多い常染色体劣性遺伝疾患で,重度の筋ジストロフィー病変とともに,多小脳回を基本とする脳形成障害が共存する。ほとんどのFCMD患者は,フクチン遺伝子の3'非翻訳領域に「動く遺伝子」である約3kbのSVA型レトロトランスポゾンの挿入型変異を認める。レトロトランスポゾンのスプライシング異常により発症し,是正するアンチセンス核酸治療が動物実験で成功しており,分子標的治療に道がひらかれつつある。ジストログリカンの糖鎖にリビトールリン酸が発見され,フクチン,FKRP,ISPDなどジストログリカン異常症はリビトールリン酸を合成・転移する酵素の欠損である。ここでは福山型筋ジストロフィーを含めた糖鎖合成異常症の系統的な解明と治療について述べる。
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9. |
副腎白質ジストロフィー
(松川敬志) |
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副腎白質ジストロフィー(adrenoleukodystrophy:ALD)はABCD1 を原因遺伝子とするX連鎖性遺伝性疾患である。全身の組織に極長鎖飽和脂肪酸の蓄積を認める。多彩な臨床病型を示すのが特徴であり,大脳型ALDは予後不良である。発症早期の小児大脳型ALDに対して造血幹細胞移植が症状の進行停止に有効であり,成人大脳型ALDにも適応が広がりつつある。ドナーの見つからなかった小児大脳型ALDに対しては自己造血幹細胞に正常ABCD1 遺伝子を導入して体内に戻す遺伝子治療の治験が行われている。
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10. |
遺伝性ATTRアミロイドーシス
(関島良樹) |
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遺伝性ATTRアミロイドーシスに対しては,肝移植の有効性が以前から確立していたが,侵襲性や移植後の症状の進行などの問題があった。TTR 遺伝子変異に起因するTTR四量体の不安定化が本症の主要な病態であることから,TTR四量体安定化薬であるタファミジスが開発され,ランダム化比較試験で本症に対する有効性が証明された。この結果を受け,タファミジスは2013年に本邦で本症治療薬として認可された。さらに,RNA干渉の原理を用いた遺伝子治療薬であるパチシランの本症に対する有効性も証明され,世界初のsiRNA医薬品として2019年に本邦で認可された。
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11. |
ゲノム編集で挑む新時代の遺伝子治療研究
(渡邉 啓・北 悠人・奥嵜雄也・堀田秋津) |
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ゲノム編集は狙った遺伝子部位に結合したり,DNA修復機構を誘導したりすることのできる技術である。近年,ZFNやTALENといった第一,第二世代のゲノム編集技術が遺伝子治療の臨床試験で成果をあげる中,より簡便に構築が行え汎用性の高い第三世代のCRISPR-Cas9の登場によってますます臨床応用への動きが加速している。本稿では主にCRISPR-Cas9システムについて詳しく解説し,治験レベルの治療応用においては,これに加えて先行する研究が多いZFNやTALENの例も交えてゲノム編集遺伝子治療について包括的に述べる。さらには,CRISPR-Cas9システムを応用した次世代編集技術を用いた治療研究についても紹介する。
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iPS細胞を使用した創薬研究:軟骨疾患への応用
(妻木範行) |
人工多能性幹細胞(iPS細胞)は体細胞である皮膚細胞や血液細胞を初期化することで作られる細胞で,ほぼ無限に増やすことができ,かつ体のあらゆる組織の細胞に分化できる。この二つの性質によりiPS細胞技術は,種々の組織・臓器の疾患に対して再生治療方法の開発とともに疾患モデル研究の分野で貢献することが期待されている。骨系統疾患の中で成長軟骨異常が原因である軟骨形成異常症に対しては,患者の皮膚細胞や血液細胞からiPS細胞を作り,それを軟骨細胞へ分化誘導することで,患者の病的軟骨に相当する組織を培養皿上に作ることができる。これを材料に病態解析や創薬研究が行われている。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
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難聴
(西尾信哉・宇佐美真一) |
先天性難聴は,新出生児1000人に1〜2人に認められる比較的頻度の高い疾患である。早期に難聴を発見し適切な介入を行うことで,その後のコミュニケーション障害を予防できるため,早期発見,早期診断,早期治療開始が特に重要な疾患である。先天性難聴あるいは小児期発症の難聴児の60〜70%に遺伝子が関与することが推測されており,先天性難聴あるいは小児期発症の難聴の原因として最も可能性が高いのが遺伝性難聴であると考え診療にあたることが重要である。また,遅発性難聴の原因にも遺伝子が関与する例が知られており,40歳未満で発症した遅発性の進行性難聴で,なおかつ遺伝学的検査により原因遺伝子変異が同定されたものが「若年発症型両側性感音難聴」として難病指定されるなど,遺伝学的検査の適応の範囲が広がっている。難聴の遺伝学的検査は2012年に保険収載されて以来,一般の診療で用いられるツールとして広く活用されている。遺伝学的検査を行い難聴の原因を明らかにすることで,難聴のタイプや重症度,予後の予測,随伴症状の予測など有用な情報が得られるため,難聴の個別化医療の実現に欠かすことのできない検査となってきている。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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マルファン症候群
(森崎裕子) |
マルファン症候群は,FBN1 遺伝子の異常により発症する単一遺伝子疾患で,心血管,眼,骨,関節,皮膚,肺を含む全身の結合組織において広範かつ多彩な表現型を呈する。このうち,生命予後を左右する大動脈合併症については,早期の治療介入により予後改善が期待できることから,早期診断を目的とした遺伝学的検査が推奨されていたが,本邦でも2016年4月からマルファン症候群の遺伝学的検査が保険適応となり,現在では衛生検査所等による外注検査として検査可能となっている。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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クラインフェルター症候群
(岡本新悟・佐藤勝紀) |
クラインフェルター症候群は性染色体の数的バリアントに起因する疾患で,Y染色体を有する表現型男性で過剰X染色体により精巣性性腺機能低下症と男性不妊を主徴とする疾患である。染色体異常を引き起こす機序については染色体不分離で説明されているが,その原因は不明である。クラインフェルター症候群については,むしろ臨床における未解決の問題が残されており,本邦では多くの患者が未発見のまま治療を受けられていないのが現状である。ここでは早期診断の必要性と適切な治療のあり方について私の40例近い症例の経験を含めて解説する。
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エクソーム解析におけるバリアントの絞り込みとコピー数解析
(宮本祥子・才津浩智) |
次世代シークエンサーの普及により,単一遺伝性疾患の責任遺伝子が次々に同定されている。網羅的遺伝子解析において,バイオインフォマティクスの果たしている役割は大きい。次世代シークエンサーより得られた情報からどの遺伝子にどのような変化が起きているか,その変化が有害かどうか,といった分析をする際に,必要となるバイオインフォマティクスについて紹介する。
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● Lecture
〈臨床遺伝学・人類遺伝学誌上講義〉 |
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腫瘍遺伝学と遺伝性腫瘍の基礎
(井本逸勢・高磯伸枝) |
がんは本質的に遺伝子異常に起因する疾患である。先天的に生殖細胞系列に存在する1から多数の様々な寄与度を示す遺伝的要因によって確率的に決定される罹病性を基盤に,体の一部の細胞(体細胞)に後天的に生じた遺伝子変異(体細胞変異)の蓄積により発生,進展する。本講義では,がんの遺伝学的理解に役立つ基礎知識をまとめるとともに,遺伝性腫瘍の特徴や診療上の課題に関して概説する。
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エピゲノムワイド関連解析
(小巻翔平・清水厚志) |
大規模なゲノム解析により,遺伝情報を用いた疾患発症リスク因子の解明が全世界的に進んでいる。しかし,ゲノム配列情報は基本的に生涯にわたり変動しないため,生まれ持った疾患リスクは推定できるが,進行している疾患のリスクあるいは発症前の隠れた進行(未病)を捉えることはできない。そこで,様々なオミックス情報が利用されつつあるが,本稿ではDNAメチル化をマーカーとして捉えるためのエピゲノムワイド関連解析(EWAS)について紹介する。
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ロングリードでわかること
(森下真一) |
ヒトゲノムの中に疾患関連変異を探索する際に理想的な手段は,個人ゲノム内の相同染色体を端から端まで誤りなく解読できることであろう。もしこの理想が現在実現されていれば,個人間で共有している部分配列,異なる配列を網羅的に分析できる。さらに疾患情報と付き合わせることで,疾患関連変異の探索感度は飛躍的に高まる。残念ながら,本稿を書いている2019年秋,このような理想的技術をわれわれはまだ手に入れていない。近似的手法を上手く使って,疾患への関連性を描出する努力を継続している。ロングリード(1万塩基以上の長いDNA断片を配列決定したリード)を使う動機は,個人ゲノムの解読精度を高めながら,理想的な疾患変異探索を実現することにある。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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遺伝カウンセリングのコツ:遺伝の視点をもつ
ジェネラリストというスペシャリストとして
(佐藤智佳・玉置知子・岡田英孝) |
遺伝カウンセリングは,遺伝的な視点をもって医療を横断的に捉えるという「ジェネラリストである」ことに専門性をおく。四つの遺伝性腫瘍症候群の事例(①医療の進歩に伴い診療体制が変化した事例,②診断に多科診療を必要とした事例,③浸透率がはっきりないAYA世代の発症前診断の事例,④ありふれた疾病の治療のため先天的な全身疾患の情報共有が必要であった事例)から横断的対応を検討した。遺伝部門は,「患者と医療者をつなぐ」,「医療者と医療者をつなぐ」,「患者と情報をつなぐ」,「医療の場面をつなぐ」役割があると考える。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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企業における認定遺伝カウンセラー®の働き方 −製薬企業編−
(土屋実央) |
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● Statistical Genetics
〈遺伝統計学の基礎〉 (7) |
シリーズ企画 |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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マラリア原虫の遺伝子転写制御
(西 翔・岩永史朗) |
マラリア原虫は脊椎動物および蚊を宿主とする寄生虫である。この原虫は生活環の中での多彩な形態変化を伴って分化し,さらには相互排他的転写制御による宿主免疫の回避など複雑な細胞機能を示す。しかし,そのような複雑な細胞機能とは対照的に,マラリア原虫のもつ転写因子ApiAP2の数は極めて少なく,その遺伝子転写制御は真核生物において最も単純である。マラリア原虫はApiAP2による単純な制御とエピジェネティックな因子による制御によって遺伝子の転写を統括し,複雑な生活環を成立させている。
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● 編集後記 |
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