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内容目次 |
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● 目で見てわかる遺伝病
−眼科編 3 |
シリーズ企画 |
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巻頭言:出生前遺伝学的検査の進歩を
どう一般臨床に還元するか
(関沢明彦) |
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1. |
出生前遺伝学的検査の目的と倫理社会的な側面
(澤井英明) |
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出生前遺伝学的検査を含む出生前診断の基本的な理念・目的は,対象となる妊娠が順調に経過して分娩に至るように管理し,児の健康の向上や適切な養育環境を提供することである。胎児の疾患が適切に診断されて,有効な治療に結びつけば,これは本質的な医療の目的にかなうものである。しかし,胎児の診断された疾患が重篤であり,かつ一定週数より早い場合には妊娠継続をしないという選択がなされる可能性がある。そして日本では,母体保護法による人工妊娠中絶は胎児に異常があるという理由では認められていないこと,胎児に疾患・障害があれば妊娠継続をあきらめるという選択的中絶の妥当性など,様々な課題がある。
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2. |
母体年齢の高年化が先天異常の発症頻度に及ぼす影響
(柴田有花・山田崇弘) |
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晩婚化が叫ばれる時代となり,高年妊娠の割合が増加している。母体年齢が高年化すると妊娠・出産時の母体へのリスクが上昇するのみならず,染色体疾患などといった先天異常の発生頻度が増加する。染色体の数的バリアントは,母体年齢が上昇するにつれ卵子の形成過程において染色体不分離が起こりやすくなることが原因とされている。本稿では,染色体不分離が起こる過程について整理したうえで,染色体疾患以外の先天異常と高年妊娠との関係についても検討する。
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3. |
先天異常と遺伝子・染色体異常−先天異常の種類・頻度と
遺伝子染色体異常の全体像について
(三宅秀彦) |
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先天異常は,出生前から出生の段階までで生じた形態的もしくは機能的な異常を指す。出生児の3?5%に認められ,その原因として染色体異常,単一遺伝性疾患,外的要因などがあるが,最も大きい割合を占めるのが多因子形質である。遺伝情報の解析は,何らかの症状を呈する新生児の診断において重要な位置を占めてきている。その一方,遺伝情報を利用して出生前診断を行う場合,遺伝型と表現型の相関,疾患の浸透率,同じバリアントにおける表現型の差異について十分に検討する必要がある。
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4. |
流死産や胎児異常を繰り返す家系の病因同定に向けた
遺伝学的アプローチ
(岸本洋子・秦 健一郎) |
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原因不明疾患の病因解明に,網羅的な遺伝学的解析法が臨床でも応用されつつある。特に,従来は遺伝学的解析が難しかった習慣流産や先天異常を繰り返す家系に対しては,これらの手法は良い適応である。しかし解析にあたっては,周産期の特殊な胎児環境や母体・胎児側要因など様々な状況を考慮して解析法を選択する必要がある。本稿では,解析法の選択にあたり,様々な例を紹介するとともに,新たな遺伝学的解析を利用した周産期に関連する疾患についての知見を紹介する。個々の様々な背景に応じた遺伝学的解析を用いることで,病態解明,治療や診断に結びついていくことが期待される。
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5. |
胎児異常に対する遺伝学的アプローチ
(宮井俊輔・鈴木史彦・加藤武馬・西澤春紀・倉橋浩樹) |
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超音波検査の進歩により胎児異常がみつかるケースが増加し,予後判定や対処法の選択のために染色体・遺伝子診断が重要となる。胎児染色体検査に関しては,従来はG分染法が主流であったが,近年,感度の高い網羅的検査であるマイクロアレイ法が普及し,欧米ではその有用性が確立している。さらには,次世代シーケンスの普及に伴い単一遺伝子疾患に関しては全エクソーム解析が可能となり,定量性もあるため,マイクロアレイに置き換わろうとしている。これらの技術革新の一方で,不確定所見の扱い,二次的所見の扱い,また倫理的問題など未解決の課題も多い。
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6. |
マイクロアレイを用いた出生前遺伝学的検査の結果開示の問題点とその具体的な対応−異常所見やVUSが出現した場合の遺伝カウンセリングでの対応法−
(佐々木愛子・左合治彦) |
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出生前マイクロアレイ染色体検査は,従来の分染法では知り得なかった微細なコピー数バリアントを検出することができる新しい方法であり,海外では侵襲的検査時に分染法にかわり実施されることが多くなってきた。コピー数バリアントが原因の疾患は先天性疾患のうち約10%を占める。その他,de
novo の染色体構造異常症例や分染法に必要な生存細胞が得られない症例にも応用される。しかし,現在の日本における実施には,検査前後の高度な遺伝カウンセリングに加え検査結果の解釈や対応を含め分子遺伝学の専門的な知識を要することから,対応可能な施設に限って実施すべき検査であると考えられる。
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7. |
母体血漿中cell-free DNAを用いた胎児遺伝学的検査の結果の現状とその発展性
(佐村 修) |
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非侵襲的出生前遺伝学的検査(non-invasive prenatal genetic testing:NIPT)とは,母体血液中のcell-free DNAの測定を行い,胎児が主に21トリソミー(ダウン症候群),18トリソミー,13トリソミーに罹患している可能性を推定する非確定的検査方法である。日本では2013年4月より臨床研究としてNIPTが開始され,すでに6年近く経過している。臨床研究の結果は他国の大規模研究の報告と比較しても,感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率など同レベルであった。世界においてNIPT検査数は増加しており,他の染色体疾患を対象とした検査も行われている。現状におけるNIPTの問題点と発展性について報告する。
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8. |
母体血漿中cell-free DNAを用いた全ゲノム解析の活用に向けての課題
(鈴森伸宏) |
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無侵襲的出生前検査(NIPT)は母体血漿中cell-free DNAを用いた胎児染色体検査で,国内で2013年以降に5万件以上実施され,21・18・13トリソミーで陰性的中率は99.99%以上である。NIPTは,3つの胎児常染色体数的異常に関する検査以外に,性染色体,染色体微小欠失・重複,単一遺伝子疾患などに広く応用されており,2015年から米国では胎児全染色体領域ゲノム解析が始まっている。母体血cell-free DNAを用いた胎児全染色体ゲノム解析では,適応について胎児超音波所見と組み合わせることで陽性率を高くすることができ,陽性のときは羊水または絨毛細胞でマイクロアレイ法による確定検査が必要となる。今回,母体血漿中cell-free DNAを用いた胎児全染色体ゲノム,すなわち全染色体領域ゲノム量的検査の活用に向けての課題について述べる。
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9. |
母体血漿中cell-free DNAを用いた単一遺伝子病診断の現状と課題
(室月 淳) |
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次世代シークエンシング(NGS)に代表される新しいゲノム技術は,母体血を用いて胎児の染色体数的異常を評価する非侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)を可能としたが,最近ではNIPTと同様のDNA解析技術を使用した胎児の単一遺伝子病を調べる検査が欧米で実用化されている。本稿では,母体血漿中の胎児由来の細胞フリーDNAを分析して単一遺伝子の変異を調べる原理や,実際に検査の対象となっている単一遺伝子病についての解説,および検査にあたっての遺伝カウンセリングの重要性をあらためて説明し,検査についての今後の展望について簡単にまとめる。
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10. |
わが国における理想的な出生前遺伝学的検査体制について
(左合治彦) |
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学会の見解に沿ってNIPTが導入され,周産期遺伝カウンセリングを行う専門施設の整備が促進されたが,無認可施設によるNIPTの実施が大きな問題となっている。出生前遺伝学的検査を希望する妊婦は年々著明に増加しており,出生前遺伝学的検査における遺伝カウンセリングを提供する体制の構築が急務である。1次対応は産科外来,2次対応は高年妊娠などの遺伝カウンセリング,3次対応は遺伝性疾患や染色体疾患などの遺伝カウンセリングとし,2次対応は一定の研修終了者,3次対応は臨床遺伝専門医が担う。そして出生前遺伝学的検査は遺伝カウンセリングを行う専門外来のある2次,3次施設で行うことが望まれる。2次対応できる人材を育成して2次施設を増やすことが理想的な出生前遺伝学的検査体制の構築の鍵になる。2次対応できる人材の育成制度と出生前遺伝学的検査を行う施設と提供する検査会社の登録制度が理想的な出生前遺伝学的検査体制には求められる。
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ヒト羊膜由来間葉系幹細胞を用いた再生医療研究
(山本幸司・大西俊介) |
間葉系幹細胞は,出産後に廃棄される胎児付属組織にも存在し,侵襲を伴わず大量の細胞を得られるため,新しい細胞ソースとして期待されている。また,間葉系幹細胞からは抗炎症作用や組織修復に寄与する多くの液性因子が分泌されるが,その細胞が疾患に対して治療効果を発揮するかの詳細は不明であった。近年われわれは,ヒト羊膜由来間葉系幹細胞を用いて炎症性腸疾患や肝硬変などの消化器疾患において治療効果を発揮することを動物実験において明らかにし,実際にクローン病を対象にしたfirst-in-human臨床試験を開始している。
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生殖細胞系列の分化メカニズム解明をめざした再構成的アプローチ
(村瀬佑介・斎藤通紀) |
精子や卵子,あるいはその前駆細胞を含む生殖細胞系列は遺伝情報を伝達する役割をもつ唯一の細胞種である。それらは胚発生のごく初期に形成される始原生殖細胞(primordial germ cells:PGCs)に由来する。本稿ではマウス,ヒトそして霊長類モデル動物であるカニクイザルの生殖細胞発生機構に関する最新の知見を紹介するとともに,多能性幹細胞を用いた試験管内再構成系による取り組みについて解説する。
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● Learning①
〈遺伝性疾患(遺伝病)を学ぶ〉 |
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ミトコンドリア病
(村山 圭) |
ミトコンドリア病は核DNAまたはミトコンドリアDNAの異常により起こるエネルギー産生系の疾患である。エクソーム解析の普及により,多くの核の病因遺伝子が見つかり病態解明研究が進んでいる。Leigh脳症において本邦の遺伝子診断率は5割を超えている。尿中有機酸分析や呼吸鎖酵素活性などの結果は原因遺伝子の同定に重要な情報を与えてくれる。原因遺伝子が同定されれば治療可能なものもあり,迅速な遺伝子診断も重要である。本邦ではタウリンや5-アミノレブリン酸などの臨床試験が積極的に行われており,診断から治療まで,遺伝カウンセリングを含むきめの細かい対応がますます求められてくる。
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● Learning②
〈難治性疾患(難病)を学ぶ〉 |
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結節性硬化症
(金田眞理) |
結節性硬化症(TSC)は,TSC1,TSC2 遺伝子の異常の結果,それぞれの遺伝子産物hamartinとtuberinに異常を生じ,下流のmTORC1が恒常的に活性化するために起こる常染色体優性遺伝性の疾患である。mTORC1はS6Kの促進を介した細胞の増殖や,ULK1の抑制によるオートファジーの抑制など様々な作用を有しているため,本症では全身の過誤腫と同時に精神神経症状や白斑を生じる。その遺伝子型と表現型の関連および病態,さらに全身に及ぶ多様な症状とその治療についてmTORC1の阻害薬による治療も含めて説明する。
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単一遺伝子病の情報検索と解析結果の表記法について
(足立香織) |
単一遺伝子病の遺伝学的検査では,検査を実施する前の情報検索ならびに検査を実施した後の情報検索がそれぞれ必要となる。目的に沿ったウェブサイトやデータベースを使用することで,必要な情報を得ることができる。解析結果の表記は,Human Genome Variation Society(HGVS)が推奨する記載方法に準拠して行われる。表記方法が標準化されることにより,バリアントの情報を正確に共有することができる。
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● Lecture
〈臨床遺伝学・人類遺伝学誌上講義〉 |
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家系図の作成とリスク評価の考え方
(吉橋博史) |
家系図は,診断や家系内における遺伝的リスクの推定,発症の予測や予防などに役立てられ,遺伝医療における有用な診療ツールである。家系情報を正しく共有できるよう,既存の記載法に準拠して記載される必要がある。家系内の特異情報の確認と,遺伝形式を想定した問診を中心に聴取するが,機微情報の収集では特段の配慮も求められる。正確な家系図から得られた遺伝情報や診断をもとに,理論的あるいは経験的再発率が推定され,エビデンスに基づいた遺伝カウンセリングが可能となる。
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エピゲノミクス研究
(秦 健一郎) |
エピゲノム(エピジェネティックな修飾情報)は,個体を構成する細胞が同じ遺伝情報をもつにもかかわらず多様に分化し,かつその状態を長く維持し続けるために必要な遺伝子機能制御機構である。エピゲノムは正常な発生・分化に必須であると同時に,その破綻は様々な疾患を引き起こす。近年の分子生物学的解析技術の進歩により,網羅的にエピゲノム情報を取得することが可能となりつつある。本稿では,解析対象となるエピゲノムの背景と解析手法について概説する。
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次世代シークエンサー
(才津浩智) |
次世代シークエンサーは,シークエンス長が数百塩基程度のショートリードシークエンサーと10キロ塩基を超えるロングリードシークエンサーに大きく分けられる。ショートリードシークエンサーは,高い正確性と低いコストで幅広いアプリケーションに対応し,遺伝子医学の発展に大きく貢献している。一方,シークエンスのエラー率は高いものの,de
novo アッセンブリによるドラフトゲノム作成や複雑なゲノム構造の決定,完全長cDNAのシークエンスによる遺伝子構造の決定において,ロングリードシークエンサーは有用であり,今後の発展が期待される。
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● Genetic Counseling
〈実践に学ぶ
遺伝カウンセリングのコツ〉 |
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X連鎖性劣性遺伝性疾患
(西川智子) |
遺伝カウンセリングでは,遺伝性疾患患者もしくはその家族の「なぜ,遺伝性疾患になったのか?」と「なぜ,私(私の子ども)が遺伝性疾患になったのか?」という二つの問いに向き合うことが求められる。心理社会的支援は,遺伝性疾患患者・家族が変わることのない事象を引き受けていくプロセスへの支援である。このプロセスを共に考え,支援し,それぞれの家族のプロセスを共にたどることは,遺伝医療に携わるものの重要な役割である。今回,X連鎖性劣性遺伝性疾患患者・家族への遺伝カウンセリングを通して,この課題について考えたい。
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● CGC Diary
〈私の遺伝カウンセリング日記〉 |
リレー執筆 |
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大学病院での遺伝カウンセリング
〜多科連携による多様な症例への対応〜
(甲畑宏子) |
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● Statistical Genetics
〈遺伝統計学の基礎〉 (3) |
シリーズ企画 |
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ポリジェニックモデル② 多バリアントの表現と遺伝率
(鎌谷洋一郎) |
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● NEXUS
〈ヒト以外の遺伝子に
関連する研究〉 |
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哺乳類の転移因子とゲノム進化研究
(西原秀典) |
われわれヒトのゲノム中には大量の反復配列が存在することが知られている。その大部分は転移因子と呼ばれる散在性反復配列であり,ヒトゲノムの約半分を占めている。一般的に転移因子は生物の生存に必須な機能をもたず,時には有害な変異原となることもある。しかしながら哺乳類全体で転移因子を比較すると,それがいかに哺乳類ゲノムの多様性に寄与してきたのかがわかる。さらに近年はヒトやマウスにおいて転移因子の一部が重要な機能を果たしていることも明らかになってきた。本稿では転移因子がもたらした哺乳類ゲノムの多様性と機能進化について,近年の研究を紹介しながら考察したい。
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● 編集後記 |
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